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その2 殺人事件とうなぎ



雑談をしながら美里のアパートに戻る途中、美里が異変に気づいた。

「あれ?」

「どうした?」

「なんかうちのほうが騒がしい・・・。あ、ほら人が集まってる。」

確かに角を曲がるとそこにはこの寒い中たくさんの人が美里のアパートの周りに集まっていた。しかもその人ごみの真ん中には「KEEP OUT 立ち入り禁止」の黄色いテープとパトカーがとまっている。

「な、なんだろ。訊いてみようか。」

そう言うと茜はパトカーのそばにいる警察官のところに人ごみを掻き分けていった。こういうとき、あいつはなかなかにたくましい。というか好奇心で気持ちがいっぱいなだけなのだろうけど。

「すいませーん。なにかあったんですかー。」

物怖じすることなく茜はテープをくぐって警察官に近づいていった。しかたない。おれたちも行くしかないか。美里とテープをくぐる。

「こらこらこらこら君たち、何のためにそのテープがあると思っているんだ。早く出て行きなさい!」

と警察官。まあ、当然の反応。

「なによ。こっちはこのアパートに住んでるのよ?入って何が悪いのよ。」

と茜。まあ、予想はしてたけど警察官にくってかかる。ちなみに住んでるのは茜ではなく美里だけどな。

「え?ここに住んでいるのかい?ちょ、ちょっと待ってくれ。」

警察官は無線でなにやら話し出した。

「あ、はい、わかりました。はい。・・・・ちょっと君たち、こっちに来て。」

「はいはーい。」

警察官につれられてアパートの一階の部屋に入っていった。美里いわく一階には大家さんが住んでいるらしい。茜はこんな体験めったに出来ないのよとうれしそうにしている。

 部屋に入ると茶色いジャケットを着た40代ぐらいの男が大家さんらしい人と話していた。刑事かなにかだろうか。その横にはもうちょっと若そうな男がふたり、メモを取っている。

「これって、あれだよね?事情聴取!うわぁ、初めて見た。」

茜が本当にうれしそうに話しかけてくる。いい根性してんなまったく。見ると美里のほうは意外と落ち着いている。

「美里はえらい落ち着いてるな。」

「え、ああ、まあ、へたに慌てたり動揺してたりすると疑われるかなぁって思って。平常心平常心。」

・・・こいつも微妙にずれてる気がする。なにを疑われるってんだ?

「ええっと、あなた達がここの住人さんですか?」

大家さんは他の二人に任せて刑事風の男がなんだか柔らかい声でこっちに訊いてきた。

「そうです。」

茜が答える。

「そうですか。何号室です?」

「え、美里、何号室?」

「204だよ。」

「204号室です。」

「204・・・。お隣さんですか。」

お隣さん?美里の部屋は角部屋だからお隣さんは203号室しかない。さっき怒鳴り声が聞こえた部屋か。

「立川さんがなにか?」

美里が尋ねる。やはり本当の住人が答えるべきだろう。茜を刑事風の男から引っ張り寄せる。茜は不満そうだけど。

「まあ、立って話すのもなんですから、座りましょう。ね?」

座布団が4枚。大家さんは退室。刑事風の男はメモを片手に質問を始めた。

「私は原田といいます。西平署の刑事です。よろしく。出来ればあなた方の名前も教えてもらえますか?」

「はい。朱宮美里です。アカは朱色の朱って書きます。」

「アカミヤミサト・・・はい。そっちのお嬢さんは?」

「茶ヶ谷茜です。はい。」

「チャガヤアカネさん。はい、そっちのお兄さん。」

「白城タツミです。タツミは片仮名で。」

「シラギさん・・・。はいどうも。みなさん学生さんですか。」

「はい。大学2年です。ちなみにみんな19歳です。」

「どうもどうも。いいですなあ。若いと楽しいでしょう。私も若い頃はいろいろとねぇ。うふふふふ。」

「はあ。」

なんか関係あるのか?それ。

「ああっとぉ。すいません。横道に逸れてしまいました。癖なんですよね。

で、そう、立川さん。立川澄子さん。203号室のね。まあ、簡潔に言ってしまえばその、殺されてしまったわけです。」

「殺された!?いつですか。1時間ちょっと前にはまだ声が聞こえていましたよ!」

美里が驚いた風に訊く。ちらと見ると茜はかなり動揺しているようだ。無理もない。おれもちょっと声が出てこない。美里の冷静さには驚くな。

「そうなんですよ。12時5分には立川さんの声を大家さんが聞いています。あなた達も聞いたんですね?」

「はい。誰か男の人と言い争ってました。」

「そ、そうそう!『金返せやこらぁ!殺すでぼけぇ!』『やかましねぇ!金なんかあらへんんってゆうとるやろぉ!』って言ってるのを聞きました!間違いありません!」

茜がいきなりの発言。なんか台詞にかなりの脚色が入っているが、いいのか?

「この声に驚いた大家さんが警察に通報、で、部屋に入ってみたら立川さんが南無阿弥陀仏だったわけですな。はい。首をばっさりですよ?いやですねぇ、そういう死に方。私はできれば布団の上で苦しまないで大往生したいもんですなぁ。家族に看取られてね。皆さんもそう思いません?」

「は、まあ。」

「はい!あたしもそう思います!」

茜が暴走しそうなので黙れと言っておいた。美里が目で「グッジョブ」って言ってるのがわかる。

「ですよねぇ。あ、また話が脱線しました。で、お隣さんならなにか知っているんじゃないですか?なんでも良いんで情報をくれませんかね?」

 その後、美里があらかた説明をし、おれ達は部屋に戻れることになった。茜が「お酒を飲んでたんでよく覚えてません!」などと言ったのが心配だ。刑事さん、19歳って言ったのを忘れてるといいけどなぁ。


 さっきまでここにいたというのに、なんだか別の部屋に入ったような感じがする。まあ、隣の部屋で人が殺されたんだから当然と言えば当然か。

「美里、大丈夫?」

「あ、うん。多分。」

大丈夫!って元気に答えて欲しいところだがそうはいかないか。

「美里、おれの部屋に来るか?」

「え?」

「この部屋で寝泊りはしたくないだろ?おれの部屋に来てもいいぞ。」

ここは彼氏の偉大さをわからせる重要なポイントである。

「いいの?」

「やったじゃん、美里。同居だよ?ど・う・きょ!」

「ど、どおきょ・・・。」

「今日と大して変わんないだろ。逆になっただけだ。」

「いやいや、邪魔者のワタシがいないから思う存分・・・むふふ。」

なんか美里が真に受けちゃってるようなので無視しておこう。顔が真っ赤だ。

「あ、いやなら全然かまわないぞ。おれより立川さん(だっけ?)の幽霊といっしょに暮らしたいと言うならお好きにどうぞ。」

「いや!おとまりさせて下さい!」

「おう。じゃ、早く準備しろよ。実を言うとおれもあんまりこの部屋には居たくないって言うか・・・。」

「わかった。じゃ、ちょっと待ってて。すぐすませるよ。」

美里がぱたぱたと荷造りをはじめる。

「ふっふーん。いやに優しいじゃない。」

耳もとで茜がにたにた笑ってる。・・・このやろう。

「とうぜんだろ?おれは優しいもん。慶二ほどではないけどな。」

「だよねー。慶二は優しい!」

と、適当に慶二の話でも織り交ぜておけば大抵茜は引っ込んでくれる。

「タツミー?石鹸とかは持っていかなくてもいいよね?」

「多分いらない。」

「わかったー。」

 5分くらいで美里は準備を終わらせた。よくわからないけど、女の子の荷作りにしては相当速いんじゃないか?

 外に出るとさっきまでの人ごみは半分程度に減っていった。でもさっき刑事さんがマスコミに連絡を入れた、といっていたからあまりゆっくりはしていられないかもしれない。

「行こう。」


おれの住んでいるアパートは美里の住んでいるアパートから駅ひとつ分離れている。美里のアパートが閑静な住宅街なのに対してこっちは車の通りの多い道路に面しているやや騒がしいところにある。美里が遊びに来たことはあるが泊めるのは初めてなので、正直ちょっと緊張している。茜はにやにや笑いながら用事があるとか言って帰った。なにを想像してたんだか。

 アパートに着くと美里が「家事は全部やります!」と言った。これでも2年間一人暮らしをしているんだからおれも家事ぐらいできるけど、宿泊代の代わりだそうなのでお言葉に甘えることにしよう。断っておくが、本当に家事ぐらい出来る。

 と言うわけで美里は今、買い物に行くために買うもののリストを作っている。

「タツミ、石鹸ないよ?」

「え、あ、そうか?ごめんあると思ってた。」

「ふーん。じゃ、買い物に行こう?」

え、「買い物くらい一人で十分」って言ってた気が・・・。

「え、さっき一人で行くって言ってたのは誰?」

「それはさっきまでのあたし。」

「今の美里は誰?」

「この家の深刻な状況に直面したあたし。石鹸も歯磨き粉もないしシャンプーも無いし、冷蔵庫の中はお弁当についてるマヨネーズしか入ってないし。」

「そうだっけ?」

「そうでした。というわけで急きょ荷物持ちさんが必要になったので、一緒に行こ?」

なにも言い返すことが出来ない・・・。仕方ない。荷物持ちさんに変身!

 コンビニではだめらしいからちょっと遠いスーパーまで行くことになった。

 食品、生活用品と物色していたらいつの間にかかごにはすごい量の物が入っていた。

「いままでどうやって生活していたの?」

ううむ。確かにティッシュも何も無い状況でよく生活してたな。すごいぞおれ。

家に帰る頃には日も落ちて5時半。

「夕食はあたしが作ります。」

「お願いします。」

ぱたぱたと美里はキッチンに入って夕食の用意を始めた。あれ?美里って料理できたっけ?それにしても我が彼女ながらエプロン姿、かわいいなぁ。あはははは。

 エプロンに見とれること約5分。はっ。こんなことしていてはいけないっ。部屋の掃除でもしようじゃないか!エプロンなんかこれからいつでも見れる!いいなあ同居って。とりあえずテーブルの上にちらかった雑誌とかごみを片付ける。次にさっさと床に転がってるごみとかを片付ける。狭いアパートの数少ない利点に掃除が楽、と言うのがある。あっという間に掃除は終わってしまって暇になってしまう。なにか他にすることはないかと部屋の中を見回してみる。本棚、押入れ、トランク、ゴミ箱・・・。トランク?美里が持ってきたやつ?

「っ!」

そのとき、おれをなにか得体の知れない力が支配したっ!

「な、なんだ!?体が!勝手にトランクのほうに!ああっ!ダメだって!いくらなんでも人のトランクを勝手に開けるなんてっ。」

しかしその力はおれの意思など関係ないとばかりにトランクをばっと開く!綺麗に小分けされ、袋に入れられた衣類や生活用品。とてもあの短い時間で用意したとは思えない。

「ん?袋になんか書いてあるな?・・・あ、分かりやすくしてあるのか。」

袋には『Tシャツ』とか『くつした』とか『ズボン』とかぱっと見てわかるように字が書いてある。それらをいくつか見ているうちにおれの体は雷に打たれ、この体を支配している力の正体を知ることになった!

『下着』

「うわああ・・・。ダメだって!見ちゃダメだって!」

しかし、エロという名の力に支配されたおれはもう止まらない!しょうがないさっ。だって、男の子だもん!OPEN!まばゆい光が下着の袋からあふれ出し、おれを天国へといざなう。あはははは。

 どのくらいの時間が経ったのだろう。その光はおれの脳を優しく包み込み、あははははしか考えられなくなっていた。あはははは。願わくば時よ永遠なれ!あはははは。もう死んでもいいー。

「タツミーそろそろごはんできるからねー。」

「うわあああああああああああああああああああっ!!」

は、はやくしまわないと!よし、後はトランクを閉めて・・・・バタン!めりっ。

「ぐああああっ!」

ゆ、指が!人差し指がトランクに食われたっ。

「タツミ?どうしたの?」

美里が不思議そうな顔でこっちを見ている。

「な、なんでもないさっ!」

「?そう?もうすぐで出来るよ。」

「・・・わかった。」

至福の時間と引き換えの地獄の痛みに涙目になりながらなんとか返事をした。今度は美里のいないときにじっくり見させてもらおうかな。あはははは。


 今日のメインディッシュはコロッケ!さっきスーパーで買ったやつをレンジでチンしただけ。やっぱり美里は料理が下手だったか。でもごはんはちゃんと炊けているし、漬物もちゃんと(?)切ってある。しかし、問題は・・・。

「美里、なんだこれ?」

「え、ちょっとがんばって味噌汁作ってみたんだけど、どうかな?」

み、味噌汁?なにやら生臭いのは気のせいか?美里がこっちを見ているので一口飲んでみる。・・・・ぶっ!こ、これはぁ・・・。生臭い。なめこか何か入っているのか、ぬるぬるしている。

「・・・これ、どうやって作った?」

「えっと、まずだしをとろうと思ってさっき買ったうなぎを・・・。」

「うなぎ!?ああ、さっき丸ごと一匹買ったな。」

「うん。味噌汁って魚でだしをとるんだよね?」

うん、そうだな。・・・そんなわけあるかっ。

「・・・にぼしの間違いじゃないのか?あとは昆布とかかつお節とか。」

「そ、そうなの?そうかあ・・・。」

まあ、悪気は無いようなので許してやるか。

「まあ、うなぎでもいいだしが出るかも知れないしな!あ、ちゃんと洗ったよな?」

「え、あ、洗うの?うなぎ?」

なにぃっ洗ってないうなぎをそのまま茹でたのか!?

「洗ってない?」

「う、ん。だってぬるぬるして気持ち悪かったし・・・。」

そのぬめぬめをとるために洗うの!そうか、この生臭さとぬるぬる感はうなぎか・・・。

「あ、でも、お豆腐とか味噌はちゃんと入ってるし!」

豆腐・・・?まさかこのピンク色した立方体は豆腐か?

「豆腐なんかちゃんと手の上で切ったんだよ?」

「ほほう。手は痛くなかったか?」

「うん。ちょっと・・・。」

みると美里の左手は絆創膏だらけだ。するとこのピンクは美里の血かあ!?

「味見はした?」

「うん。作ってるときに。」

「・・・感想は?」

「・・・・・・。」

ふっ。無言か。 

「いやいや。なんとも神秘的な味でいいんじゃないか?この味噌汁は。うん。うなぎなんて贅沢だなぁ。あはははは。」

ぶるぶる震えながら二度と美里に食事は作らせまいと誓った夜だった。


どんなものでもいいので評価をくれると非常にうれしいです。



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