その14 終わりの音(後) 完
もう4分の3ほど登っただろうか。というかそれくらい登っていなくては困る。
「あと、どのくらい、かな!」
舗装された道とはいえ、美里にもさすがに疲れが見えてきた。道路の脇の林で拾った木の棒を杖がわりにして一歩一歩歩いている。
「そうだな・・・。あと20分ぐらいかな、と。」
地図によるとそんなもんだ。日はまだ暮れてはいないが、すこし暗くはなってきている。
「ちょっとペース上げられるか?」
「・・・どうしても?」
「まっくらな道を歩きたくなければ。」
まあ、一応街灯はついてるけど。
「わりましたぁ。がんばりますぅ!」
半ばやけになった感じで美里はおれの前をぐんぐん歩いていく。
「ほら見ろ、あれ。」
そらが赤く染まってきたころ、見えてきたのは矢上山展望台の看板。いつのまにかおれの後ろを無言で歩いている美里に教えてやる。
「もう、すこしなの?」
「あと100メートルって書いてあるな。がんばれ。1キロの10分の1だ。」
「・・・・・・。」
もう返事をするのもだるいのか、無言でうなずいている。そんなにきつい山じゃないんだけどなぁ。ま、しばらく引きこもってたからしょうがないか。
美里の手をとってたどり着いたそこは崖になっていて、下が見渡せるようになっていた。他に人は見当たらなく、2人の貸しきり状態。
「ふわぁ・・・。」
頂上から見えるのは夕日に赤く染まった森林。まぶしさをこらえて見る景色はぼやけて、どこか幻想的だった。
「すごい、な。」
「うん。」
ふと横を見ると、そこにはやっぱり夕日に染まった美里が目を細めている。
「・・・よくがんばったな。」
ねぎらいの言葉をかけてやる。もちろん、今日のことだけではなく、全部をだ。
「うん。大変だった。ありがとね、タツミ。」
「ああ。お互い様な。」
笑いかけてまた夕日を眺める。
真っ赤に統一された森林。・・・夕日はすべてを平等に染めてくれるのに。
美里は、何か別の色に染められてしまった。でも、染められる前は、染められた皮膚の内側は、間違いなく、ふつうの、緑の葉と茶色い樹皮があるのに。それはただの美里なのに。
「あたしね、タツミ。」
見とれるくらい綺麗な顔で美里はおれにささやいてくれた。
「 だよ?」
「・・・そうか。」
その言葉は間違いなくおれの心を解きほぐしてくれた。・・・今度は、おれが解きほぐしてやろう。じっくり時間をかけて。
「もう、日が暮れちまうな。野宿したくなければ急ぐぞ!」
「そうだね。せっかく予約したんだしね。」
絶景に後ろ髪を引かれながらも、さっき来た道と逆方向に並んで歩き出す。2人手をつないで、ちょっとゆっくりめに。
*
道路から少し外れて広めの駐車場を通り、小さな川を渡ると、白い壁に黒い瓦。ちょっとしたスーパーなんかよりも広い2階建。温泉宿「矢上」は予想よりきれいな建物だった。
「もうちょっとさびれた感じの宿かと思ってたのにな。」
もうほとんど日が落ちているから分からないが、明日明るくなってから見るときっともっと綺麗なんだだろう。
「あ、やっぱり?あたしも崩壊寸前の古民家みたいなのを想像してた。」
だよなぁ。
自動ドアを通ってカウンターにいるおじさんに声をかける。
「あの、予約した白城です。」
「ああはいはいはい!ちょっとお待ちくださいねぇ。今お部屋までお連れいたしますから!」
ちょっと髪がさみしいおじさんは慣れた口調で部屋まで案内してくれた。
お食事は5時から7時まで、食堂に来ていただければいつでも。温泉は好きなときに好きなだけお入りください。混浴もありますよ、うふふふふふ。だ、そうだ。
少ない荷物を畳に置く。2人には十分な広さの部屋だ。名前が「ニワトリの間」じゃなきゃ完璧だったのに。あのおっさんの趣味だろうか?
「温泉と食事、どっちにする?個人的には腹が減った。」
「あたしもー。燃料が底を尽きそう・・・。」
というわけで豪華とも貧素ともつかない食事を取った後に、温泉へ向かった。
露天風呂がうりの温泉宿矢上。燃料の補給も済んだことだし、さっそく堪能させていただきましょうか!
「えーと、エントランスの近く?ああ、そういや、のれんがあったような。」
ここの露天風呂は宿泊客以外もOKらしく、エントランスのすぐ横に『男』と『女』と書かれたのれんがある。
「じゃ、あとでね。」
「おう。」
もちろん、ワタクシ達は混浴へ。一応カップルなもんで。
明日が月曜ということもあってか、広めの脱衣所はすっからかんだった。扇風機は誰を乾かすわけでなく首を振り、かごにも脱いだ服は入っていない。ラッキーだけどちょいと気まずいかも。貸切の温泉って逆に寂しさを演出するような気がする。
「ま、いいけど。」
さっそく生まれたままの格好というやつになって、タオルを腰に巻きつける。からからと曇ったサッシをあけると、そこは石のタイルを敷き詰めたやっぱり小奇麗な露天風呂。竹の囲いがしてあって、石庭なんてのもある。そこに雪がつもってまたいい感じ。ちょっと寒いけど。
「タツミ。」
「おう、みさっとぉ!?」
横から声が聞こえたので、方向転換しようと足を動かしたら見事にすべった!ガッと壁につかまり、事なきを得たが美里は笑ってやがる。
「あはははは。タツミ、今の顔面白かったーっ。もう一回やって!」
「・・・冷えるから早く入ろうぜ。」
「あはははは。」
一度笑い出すと止まらないのが美里の欠点だよなぁ。くそぅ。
「おら、いつまでも笑ってないで体流す!」
「はーい。あははは・・・。」
ボタン式のシャワーを浴びる。楽な山といってもやっぱり疲れはたまるもんで、暖かいシャワーは心地よかった。
混浴の浴場はどうもおれ達の貸切らしい。ひろい湯船につかるとさらに体がほぐれていくのが分かる。
「ああ〜。関節が全部外れてくぅ〜。」
「あー。同じくー。」
肩までつかって首を後ろにもたれる。空にはまさに降ってきそうな星空。温泉で満天の星空。いいシュチュエーションですねぇ・・・。となりに座ってる美里も同じ格好で空を見ている。タオルは(残念ながら)巻いているけど、少し痩せたな、美里。個人的にはもう少しふっくらしてくれたほうがいいんだけど・・・。
珍しく美里が黙っているので少し、考え事をしてみる。
美里の力をおれが持っていたら、どうなってただろう。耳鳴りがしてしばらくしたら周りの誰かが死んでいく。恐いんだろうな、やっぱり。まったくの他人だったらまだしも、もしそれが知り合いだったらどうする?本人に教えるわけにもいかないし。どれだけ辛いんだろうか。だんだん大きくなっていく耳鳴り。近づいてくるそのとき。発狂してしまうかもしれないな。実際美里は自閉症に追い込まれてしまったわけだし。
美里の場合、その力について気がつくのがすこし早すぎたのかもしれない。もう少し、せめて中学生のときだったなら、もっと他に方法があったのかもしれない。他にそういう力を持つ人がいないかを調べたり、科学的な検証をしてみたり出来ただろうに。まだ小さかったから、その力を抗いようのないものとして、悪い意味で受け入れてしまった。そこから導ける解決法はなるほど自分を閉ざすしかなかったのかもしれない。
「・・・あれ?」
おもわず声を出してしまった。
「ん?どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない。」
適当にごまかす。いま、ちょっとすごいかもなことを思いついたのだ。
・・・そういえば、考えてなかったな。慶二が耳鳴りの実態について言っていたときになんで思いつかなかったのだろう。『これから死ぬ人がそばにいると耳鳴りがする』というのは状況から美里が判断しただけ。だから他の考え方もできるのだ。例えば、『耳鳴りがしたからその人が死ぬ』とか、『これから死ぬ「確立が非常に高い人」がそばにいると耳鳴りがする』とか。もしそうだとしたら、そうだ、その人を死なさずに済むかもしれない!借金取りが来る前に忠告をしたり、トラックに轢かれる前に呼び止めたり出来るなら、美里は自分を人殺しだなんて思うこともない!もちろんそれは未来は変えられるのか、とか運命は決まっているのか、とかそういう話になってくるが可能性は0じゃない。
横にいる美里を見てみると目を閉じている。
「なあ、美里。起きてる?」
美里はゆっくりと目を開けてこっちを見つめる。
「起きてるよ。」
「おれ、考えたんだけどさ、聞いてくれる?」
「やな予感がするなぁ・・・。いいよ。話して?」
困ったように笑って耳を傾けてくれた。
一通り話し終えると、それまで黙って聞いていた美里が口を開いた。
「人間ってさ、どうやったって自分の不利益になることは出来ないんだよ。やりたくないことをやるとき、必ずその見返りと見比べて見返りのほうが大きくなきゃ何もできないの。タツミに会えないこととタツミから耳鳴りが聞こえること、比べて見たら耳鳴りのほうが重かったからうちに引きこもってたんだもん。で、今あたしが最優先にしたいこと、それは、タツミだから。タツミと一緒にいることだから。」
そう言ってこっちを見つめる美里。
「そうか。わかった。じゃあおれは今まで以上にわがままを言わせてもらおう。」
といって笑いかけたそのとき、なにかが変わった。
「!」
美里の顔はあっという間に青ざめて、小さく震えてこっちを見ている。
「い、い、」
「どうした?」
美里は耳をふさいで叫んだ。
「いやあああああああっ!!!」
「な、美里!?」
突然泣き崩れる美里を支え、あたりを見回した。誰もいない。
耳鳴りが聞こえてくるような人間は、他には誰もいない。
つまりは、・・・おれが耳鳴りの発信源ってことか。
「美里、しっかりしろ!おいっ!」
無理な話だと分かってはいるが、必死で声をかけ、肩を抱く。
「いいチャンスじゃねぇか!簡単な話だ!おれが死ななければ、それで全部解決だろう!?」
美里は自分をぎゅっと抱きしめる。
「・・・・・タツミ。」
震えながら、うつむいて美里はつぶやいた。
「先に、部屋にもどって、お願い。一人に・・・して。」
「・・・わかった。そのかわり、お前も早く戻って来いよ。」
美里から手を放し、湯からあがって脱衣所に向かう。
「安心しろ。おれは、絶対に、死んだりなんかしない。いつでもお前のそばにいる。」
美里は、うなずいてはくれなかった。
部屋にもどってひたすら待つのは辛かった。自分のことはまぁ、死なないように気をつければいいとして、美里が心配でたまらなかった。長いこと家に閉じこもっていた美里のことだ、ひょっとしたら・・・自殺もしかねない。
「くそっ。」
ある意味おれが美里を追い込んだとも言えるから、なおさら落ち着かない。
美里が部屋に帰ってきたのはそうして待つこと30分たった頃だった。
「ごめんね、取り乱しちゃって。」
・・・いろいろな最悪のケースを考えていたから、一瞬唖然とした。泣いて目は腫れてはいるものの、美里は元通りになっていた。
「・・・大丈夫なのか?美里。」
さらに美里はにこっと笑った。
「うん。心配かけてごめん。耳鳴りは、その、気のせいだったの。」
「・・・気のせい?」
とても気のせいであそこまで取り乱すとは思えないが。しかし美里は平然と答えた。
「そう。気のせい!・・・思いっきり泣いちゃったからのど渇いちゃった。なんか買ってくるね。」
「あ、ああ。おれも行く。」
財布をとって廊下にある自販機についていく。ちらと美里を盗み見てみるけど、やっぱり平気そうだ。本当に気のせいだったのか?
「タツミ、なにがいい?」
「・・・え?あ、別に何でも。」
つい返事が遅れる。やっぱり美里は平気そうだ。
「・・・・・・。」
突然顔に冷たいものが押し付けられる。
「わっ、冷たっ。」
「あははははは。ぼーっとしてるんだもん。びっくりした?」
美里がにっこりと缶ジュースをおれの頬に押し付けていた。
「美里・・・。」
美里は俺に背を向けて部屋にもどろうとしている。
「タツミ?」
「ん?」
「本当に、あたしは大丈夫なんだよ?耳鳴りは気のせいだったんだってば。」
「美里、顔を見せないでそんなこと言われても、不安なだけだ。」
美里はちょっと止まり、後ろに手を組んでくるっとこっちを向いた。
「大丈夫だよ!」
晴れた笑顔を見て、ちょっと安心した。
「今夜は同じ布団で寝ていい?」
「おう。いくらでも甘えろ。」
*
翌朝、寝ぼけまなこをこすって食堂に出向く。今日のメニューは・・・鮭の切り身に生卵に海苔に味噌汁におしんこ?パーフェクトじゃないっすか。くそ、眠い。
「起きてる?」
対して美里はもう完全に目が覚めているみたい。
「・・・いや。夢の中で朝飯食ってる。」
「それ、現実だから安心して。」
「わかった。」
ちょっとしょっぱい味噌汁で少し目は覚めた。
平和だなぁ・・・。ずず・・・。
別に急ぐ必要はないのだが、出発間際にどたばたするのは嫌だからすっかり身支度を済ませてしまう。
「今日は、昨日来たルートを逆走してうちにもどります。よろしい?」
そなえつけの日本茶などすすりつつ、確認する。
「よろしいです。あ、このお茶菓子おいしい。」
「え、どれ・・・・。うん?そうか?」
「おいしいよ。」
なんて、昨日のことはどこへやらの会話を楽しむ。あっという間に時刻は10時ちょっと前。
「そろそろチェックアウトの時間だな。行こう。」
「はーい。」
カウンターのおっちゃんに声をかけて宿を後にする。思ったとおり、明るくなってから見るこの宿はなかなかに綺麗だった。
「またこようね。」
「ああ。またいつかな。」
2人はまた山を登り始める。
「なんだかさ、昨日通った道なのに始めてみたいに感じるね。」
「たしかに。こんなところに看板あったっけ?みたいなのがあるな。」
うんうんとうなずきあう。
「あ、ほら、フキノトウ。」
美里は道路から少し外れたところにうずくまる。そこには確かに小さな黄緑色がころころと雪から顔を出していた。大変に風情がありますな。
「あ、ほんとだ。これも昨日は気がつかなかったな。でも時期が少し早くないか?」
「そうなの?てんぷらにすると美味しいんだよね。」
ああ、そんなことを聞いたことあるな。苦いらしいけど。
「なんかかわいいなぁ。ちいさくて。」
指でフキノトウをつつく美里さん。でも、すぐに腰を上げてまた歩き出した。
「行こうタツミ?」
おれはちょっと拍子抜けしてしまった。
「・・・てっきり摘んでいこうって言うのかと思った。」
美里らしくないな。まあ、いつもおれがダメって言うんだけど。
「あははは。はずれたね。」
おれを置いてさっさと歩いていく美里。
「ちょっと待てって。」
あわてて追いかける。
美里、今日はえらく元気だ。おれも真面目に歩かないと置いていかれそうなぐらい。上り坂だって言うのに昨日よりペースが速くないか?
「あ、ほら!着いた!」
当然10分ちょっとで頂上に着いてしまった。
今日は月曜日ということでやっぱり人は少ない。2、3人写真をとっている人はいるけど。
昨日と同じ場所、崖の上に立つ。落下防止の柵が朝露で湿っている。
「うわあ、昨日とはまた違うな。」
「うん。なんか魔界って感じ。」
例えはよろしくないが、いい得て妙かもしれない。昨日真っ赤に染まっていた森林が今日は霧でかすんで見える。雲の上にいるみたいだ。
「ね、写真とろう。」
美里はカメラ付きの携帯を取り出す。そういえば、あんまりとってなかったな。美里はへばってたし。近くにいたおじさんに撮ってもらうことになった。携帯の使い方を覚えてもらうのにちょっと時間がかかった。
「はい、チーズ。」
パシャ。古典的な掛け声とともににっこりと笑う。
「ありがとうございましたー。」
みてみると、うん、よく取れてる。
「さ、降りるか。」
「うん。」
美里が手をつないできたので並んでまた歩き出す。
*
20分くらい歩いて、もう3分の1ぐらい進んだころ、美里が立ち止まった。顔は少し青い。
「どうした?急に疲れたのか?」
「・・・うん。」
そう言って美里はガードレールに寄りかかる。下はかなり急な坂になっていて、崖とも言える。落ちそうで恐いけど美里の横で同じく寄りかかる。
「あのね、タツミ。」
「何だよ。」
「昨日、人間はわがままだって言ったじゃない。」
まあ、言い方はちがうけど。
「言ったな。損になることはしないって。」
「うん。だから許して欲しいんだけど。実はね、今、耳鳴りがね、限界に来てるんだ。嘘ついてごめん。」
「なっ・・・。」
そのとき、美里の寄りかかっていたガードレールが、地面ごと崩れた。
「美里っ!!」
とっさに美里の手をつかんだ。美里はぶら下がっているが、手を離せば転がり落ちてしまう。
「た、タツミ、あのね、」
「いいからあがって来い!」
「あのね、温泉で本当に耳鳴りがしたんだけど、」
「美里っ!」
「タツミが部屋にもどった後も耳鳴りは続いてたんだ。」
またさらに崖の土が崩れる。
「いいよ、手を離して。耳鳴りの発信源は、タツミじゃなくてあたしだったんだもん。」
美里の顔は悲しそうに笑っている。タツミが死ぬんじゃなくて良かったって顔してやがる。
「・・・っ」
なんだこいつ。ふざけやがって。人権侵害だ。人を何だと思ってやがる。
「ふざけんなっ!いいから上がって来いって言ってんだろっ!!」
「タツミ、放してってば!耳鳴りはあたしからしかしてないんだから!このままじゃタツミまで死んじゃうかもしれないじゃないっ!そんなのあたし耐えられないって言ったでしょう!?」
ああっもう、いらいらするっ!
「馬鹿やろっ!おれだって死にたかねぇよ!!」
「だったら放してよっ!!」
あああああ、もう、コイツは、
「人権侵害だ、馬鹿!おれだって人間なんだから、わがままなんだよぉっ!!」
火事場の馬鹿力。いっきに美里を引っ張りあげる。ちょっとアスファルトに腹をこすって痛そうだけど、おれを人間扱いしなかった罰だ罰。
「うらぁっ!」
完全に美里を道路の上に引っ張りあげた。
「はあ、はあ、は。」
美里は道路にへばって震えている。おれだって腰が抜けそうだけど、美里の顔をぐいっとこっちに向かせた。
「・・・だづみぃ。」
涙でぐしゃぐしゃになった美里の顔。たまらなくかわいくて、またキスをした。
「耳鳴りは?止んだか?」
美里は小さくうなずいた。
「・・・っく・・・ぐす。」
美里はおれの胸の中で泣いている。
「なんだ、お前の耳鳴りもあんまり当てになんないな。」
「・・・・・うん。」
ぐずぐずと泣きながら、うなずく美里。
「やっぱり、お前の力はなんとでもなるな。」
「・・・・・うん。」
「じゃあ、これからはすぐ諦めんなよ?あんな早く諦めるとは思わなかったぜ。まったく。」
「・・・・・うん。」
「一緒にいたいのは、お前だけじゃなくておれもだからな。ちゃんと覚えとけよ。」
「・・・・・うん。」
「・・・ほら、ウチに帰るぞ。まだ駅まで歩くんだから。」
そう言うと、美里は涙を拭きながらがんばって笑ってこう言った。
「おんぶ。」
冬風火花完
長い話を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
出てきた言葉の羅列に近いので、お見苦しいところも多々あったかと思いますが、ストーリーを楽しんでいただけたら幸いです。
どんなものでもいいので、評価をいただけるとうれしいです。




