表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

その13 終わりの音(前)


じりりりり。

たん。

目覚ましを止める音。

体が揺れる。声が聞こえる。

「タツミ、朝だよぉ。起きてー。」

「・・・・・。美里?」

目を開けると。美里がおれを揺すっている。起こしてくれてたのか。

「・・・くあ。」

大きなあくびをひとつして、美里に声をかける。

「おはよ。」

美里はうれしそうに、返事をしてくれた。

「うん。おはよう、タツミ。」

時計は10時を指し、カーテン越しに見る外はきれいに晴れているようだ。

「朝ごはん、作ってあげるよ。」

「・・・いい。自分で作る。」

何が出るか分かったもんじゃない。うなぎはもう結構だ。

「まあ、そう警戒しないでよ!パンを焼くだけにしとくから。」

まあ、それなら。・・・真っ黒なトーストが出てくる可能性も無くは無いが・・・。

「じゃあ、たのむ。」

そう言いつつも、一応心配なので美里について台所に行く。

「・・・そんなに心配?」

美里が不満そうにこっちを見る。

「いや、ちょっとコーヒーを・・・。」

「あ、あたしも飲む。」

マグカップを2個食器棚から出す。

「美里、ミルクは?」

「多めでお願いします。」

やや小さな声で言ってみたのだが、美里はちゃんと返事をした。耳の調子は良好のようだな。

 もうかなり目は覚めてるけど、刺激が欲しくてコーヒーの粉を多く入れてみた。


出てきたのは程よくこんがりなトースト。それにマーガリン。

「黒コゲなのが出てくるかと思った。」

「ふっふーん。あたしも成長するんだよ?」

どうもそうらしい。

「今日は、日曜日か。」

「そうだね。」

もぐもぐとマーガリン多めのトーストを食べながら美里は答える。

「・・・どっか行くか。」

「え?どっかって?」

「どこでもいい。そうだな、久しぶりのデートだ!行きたいとこを言え!」

「どこでもいいの?」

おれの財布が飢え死にしないところならね。

うーんと美里が考えているうちにおれは着替えを済ませた。

「で、決まったか?」

「・・・どこか、山。」

・・・はい?

「やま?まうんてん?」

「うん。マウンテンに行きたい。」

「・・・おう。」

じゃあ、もうすこし動きやすい服に着替えるか・・・。


     *


結局、日帰りで山に行くには起きる時間が遅すぎたので、奮発して一泊しようということになった。目的地は矢上山とかいうたいして高くない山にある温泉宿。山自体は冬とは言え登るのは注意をすれば大丈夫だろう。一応予約をすませ、出発することにした。

「なんか、久しぶりだね。2人でどっかに行くのって。」

下りの電車に揺られて目的の駅を目指す。

「確かに。茜と慶二が一緒だったからな。」

まったく、変な関係だよなぁ、うちら。

「ねえ、タツミ。」

「やだ。」

「・・・まだなにも言ってないんだけど。」

「そういえばそうだな。言ってみろよ。」

「しりとり・・」

「やだ。」

「む・・・。」

だって、勝てないんだもんよ。美里の語彙はおれの語彙の倍以上あるんじゃないだろうか?

「いいじゃないー。減るもんじゃないでしょ?」

そりゃ減るもんじゃないけどさ・・・。

「ああ、わかったよ。もー、絶対おれが負けるんだ。」

「やった。」

まあ、この旅行ぐらいは美里に優しくしてやってもいいかもしれない。

 と、いうわけで今回は食べ物しりとりになりました。

「じゃあ、あたしから。しりとりのりで、りんご。」

メジャーどころから入る美里。ま、食べ物ならそうそう困らないだろう。

「ごま」

「麻婆豆腐」

「ふ、福神漬け」

「ケーキ」

「きんかん・・・じゃない、きんとき。」

「キャベツ」

「つ、月、月見そば」

「バフンウニ」

「にんにく」

「くさや」

「や、や、や?」

テンポ良く答えていく美里に対して、おれはやっぱり苦戦しそうだ。

「焼き鳥!」


続けることなんと約1時間。おれはもう何度もギブアップしたのだが、そのたびに美里が助け舟を出してくれやがるので、まだ続いている。

「りはもうねぇよぉ・・・。」

「ほらほらー。アフリカの郷土料理にあるじゃない。」

「知らねーよ!」

『屋代―、屋代ー、お降りの方は忘れ物のございませんように・・』

まさに天の助け!福音!ゴスペル!エヴァンゲリオン!・・・ちょっと違うか。

「ほら!もう降りなきゃ!な!?」

「むーう。じゃあ、あたしの勝ちということで。」

「はいはい。」

そんなこと、始める前からわかってたっての。

「お腹すいた。おごって。」

「はいはい。」

山に挑む前に腹ごしらえをすることにしよう。ついでにおやつとかも買い込んどいたほうがいいかも。



     *



おれ達が目指す温泉宿「矢上」は文字通り矢上山の頂上1歩手前のところにある。位置的にはおれ達がいる場所から、山を越した反対側になる。そこでおれたち(というかおれ)の立てたプランはこうだ。

「いまから登り始めれば、多分夕暮れ時に頂上に着き、日が暮れる前に宿につける。そして1泊してまた来た道を戻って帰る。OK?」

「おっけー。」

美里は元気に返事をする。

「ようするにさ、タツミについていけばいいんでしょ?」

「・・・そうだけどさ。うん、まあ、いいや。行こう。」

出鼻をくじかれた気分だけど、とりあえず今いる駅から山のふもとを目指す。時刻は1時。プランどおりに行けそうだ。

 

 駅の周りも民家がぱらぱらと見られる程度だったが、駅を離れるともっと家が減ってくる。畑ばっかりだ。

「あ、見てタツミ。川だよ」

美里が走っていくのを追いかける。橋の上に着くとなるほど川幅20メートルぐらいの川。

「流石にこの季節じゃ誰も泳いでないな。」

「ちょっと降りていい?」

そういうと美里はおれが返事をする前に橋を降りて川岸に行ってしまった。

「おい、置いてくなよ。」

いそいで追いかける。

 川は澄んでいて、小さい魚も泳いでる。

「うわ、すっごい冷たい。」

さっそく水にさわる美里。そりゃ雪解け水は冷たいさ。

「飲めるかな?」

「多分大丈夫だと思うけど?冷たくて腹壊しそうだな。」

「飲んでみてよ。」

またコイツは・・・。

「なんでおれ?」

「毒見毒見。」

「・・・。」

しぶしぶ飲んでみることにした。手を入れた水は本当に冷たくて、口に運ぶと心地良かった。

「うまいぞ?飲んでみろよ。」

「・・・あ、ほんと。」

 そしてまた山のふもとを目指す。


「ねえ、なんか坂がずっと続いてない?」

たしかにさっきから車道は坂ばっかりだ。たいして急ではないけど。

「そうだな。もう山に入ってるのかも。」

看板とかは無いらしい。

「こんな感じの坂が続いていくのかな?」

「わからない。普通、もうちょいきつくなると思うけど。ま、気合をいれていきますか!」

「おーう!」 

この山は頂上まで車道が続いているから歩きやすいといえば歩きやすい。雪もきれいに除雪されていた。個人的にはそれは邪道だと思うんだけど、ほぼ初心者の美里にいいのかもしれない。・・・なぜ山なのか、それを美里に訊きはしないけど、多分他の人の近くにいることが少ないからというのが大きいのだろう。それが理由というのもさびしい気もするけどまあ、山登りというのはお互いの絆を強くするのにいいらしいから、なんの文句もございませんが。美里は今のところ特に疲れた様子もなく快調に歩いている。


杉林の中を歩く。アスファルトには杉の枯れ葉が散らばっていて、さっきの川の源泉をたどっているらしく、川がそばを流れている。

「ほらタツミ。」

横を歩いていた美里が何かを見つけたらしく、道路にしゃがみこんだ。

「なんかあったのか?」

のぞきこむと・・・、ロープ?

「って、蛇!?」

それはなかなかの太さの蛇さんでした。

「動かないけど、死んでるのかな?」

とかいって木の棒でつんつんしてる美里。

「馬鹿っ、冬だから冬眠してるだけだろ!起きたらどうすんだよ!?」

「これ毒蛇みたいだね。頭が三角形の蛇は毒を持ってるんだってよ。」

そう指差す蛇の頭は、確かに三角。

「じゃあ、なおさらじゃんかよっ。」

「おくびょうだなぁ、タツミ。」

つんつんする美里。挙句の果てには蛇を木の棒にぶら下げてるし!

「ほら、起きないよ。」

「うわ、こっちに近づけんなよ!」

「ほらほらー。」

ぼとっ。蛇が木の棒から落ちた。

「って、おい。」

よく見ると、蛇さん動いてらっしゃる。

「シャーッ!」

「「!!」」

思いっきりこっちを威嚇してるっ。

「うわあああっ!だから言ったじゃんかよっ!」

「ごめーん!!」

全力疾走っ!


「は、はあ、びっくりしたぁ。」

そりゃ、こっちのセリフだっての・・・。

「一定のリズムで歩き、無駄な体力を使わない。基本なのになぁ・・・。」

心なしか重くなった足で再び頂上を目指す。


このパートから後編に入ります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ