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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

今日も親友

掲載日:2011/09/17

夏休みがもうすぐ終わる。

アブラゼミたちの求愛が耳から離れない。


最初は偶然だった。

夏休みの部活。

何時もより少し遅れた時間に家を出て学校に向かう。

原因は私だ。

設定していたアラームを寝惚けて止めてしまった。

顧問に怒られるのは目に見えていた。

内心諦めていた私は長い信号を待つ。

この信号に引っかかると中々先に進めない。

これを言い訳にしようかと考えていると、後ろから自転車の走る音。

ありふれた音だ。

丁度信号が変わったのでペダルを踏み出す。

顧問への言い訳はもう決まっていた。


「黒田さん!」


背後から私を呼ぶ声がした。

よく耳にする声。

振り返る前に車が私の横を通り過ぎる。


「…気のせいか。」


きっと幻聴だ。

私の耳が勘違いしたんだ。

親友のはずがない。

この時間にはもう部室に着いている。

振り返るのを止めて、少しだけペダルをこぐ力を強める。

この気持ちを振り払うように。


「黒田さんっ!」


また、聞こえた。

確実にあの子の声。

気のせいじゃない。

慌てて振り返る前に、隣に並ぶ自転車が一台。

驚いた顔でその人物を確認すると、疲れた顔をした親友だった。

眠たいのか小さく欠伸を漏らした。

…白昼夢かと思った。

私の願望が魅せた幻だと。

「…おはよ。」

「おはよー。いやぁ、寝坊した。」

お前もか。

同じ遅刻理由を伝えるとケラケラと笑う。

私も笑った。

笑ったけれど、顔が引きつっていないか心配だった。

同じ制服を着た親友。

同じスピードで高校に向かう。

無言を嫌うように私は馬鹿みたいに終始笑っていた。

これがきっかけ。


次の日。

今度は何時も通りの時間に家を出た。

余裕はある。

ぼけっとした表情で、昨日親友と出くわした時間がかかる信号が緑色に変わるのを待つ。

昨日のは偶々だったんだ。

残念な気持ちを紛らわすようにため息を吐いた。

しかし、違う場所で親友と出くわす。

高校の敷地内にあるコンクリートで造られた長くて凸凹な坂。

そこに親友はいた。

数メートル先で自転車を押している。

一目で彼女だとわかった。

確証はないけれど絶対そうだと直感した。

その瞬間、だらしなく頬が緩む。

もう足が動いていた。

走りづらい坂を立ちこぎで駆け上がる。

親友に追いつくために。

運動部のような体力は持ち合わせて無いけれど、息苦しさは感じなかった。

ただ、視界には親友だけ。

追い付く一歩手前、『もし別人だったらどうしよう』という不安が過る。

ほんの後一歩なのに、人見知りの私が邪魔をする。

五秒だけ悩んだ。

確信は心にある。

思い切って名前をよんだ。


「〇〇!」


私だけが呼ぶ愛称。

振り返る親友。

とぼけた顔が可愛い。

ほっと胸を撫で下ろした。

自転車を下りて隣に並ぶ。

今までの疲れが体に戻ってきた。

体温があがる。

顔が特に熱い。

汗が止まらない。

胸の鼓動が、やけに早い。

何も知らない親友の笑顔を前に、心臓がズキンと痛んだ。

それに気づかれないようにまた、私は明るく笑い続けた。


それから、朝に親友と鉢合わせすることが続いた。

土日を跨いでも親友に声をかけたり、逆にかけられたり。

大嫌いな神様からの日頃の褒美だと思ったこともある。

馬鹿なことを考えるまでに私は浮かれていた。

だって、嬉しかったんだ。

凄く幸せだったんだ。

…けれど、この気持ちを相手に表現することはなかった。

バレてしまうのが死ぬほど怖かったんだ。



親友に片思いし始めたのは高校二年生の春。

大分最近だ。

好きだったのはきっともっと昔。

自覚したと同時に片思いを始めた。

正直に言うと初恋だ。

今までこんなに誰かのことを思った経験はない。

同性愛者は世間には受け入れられない。

いや、私はバイだな。

細かいことはどうでもいいか。

初めての恋は怖かった。

どんどん嫌な自分になっていくのがわかる。

だから体や頭が暴走しないよう、理性で心をがんじがらめに縛って抑えていた。

アイツには嫌われたくはない。

ただそれだけだった。



夏休みが終わる三日前の今日。

私は賭けにでた。

何時もよりも十分早く家を飛び出した。


これで、親友と出会ったら告白しよう。


急かす足を宥めながら、なるべくゆっくり走る。

可能性は残したい。

汗ばむ額をタオルで拭い何度も後ろを確認する。

早く来ないかな。

来ないでくれ。

会いたいな。

会いたくない。

…今日は記念日になるのか。

最悪の日になるに決まってる。

真反対の気持ちが二つ。

呟くモノと責めるように叫ぶモノが私に言う。

願望と現実。

どちらが正論かは親友次第。

高校の敷地内の一歩手前。

通い慣れた凸凹道に足を踏み入れた。

親友の名前を頭の中で何度も何度も繰り返しながら自転車を押す。


この坂を上り終われば、親友のことは諦める。


これはケジメ。

ハッキリさせないと、優柔不断な私は死ぬまで片思いの一方通行を背負って生きていく。

今日は足が重い。

何時もより何倍も遅い。

振り返るのはこれで何回目だっけ。

坂の終着点が見えてきた時、最後の確認をした。

親友がいれば、告白。

いなければ、片思いを終わる。

勢いよく振り向いた。

「……だよね。」

人生、そんな簡単に上手くいくわけがない。

弱音や言い訳を引きずる前に自転車に跨がり、残りの坂を全速力で駆け上った。


部室に到着。

一年生に挨拶しながら椅子に座る。

数分後に部長さんが現れた。

定位置の私の前の席に鞄を置いて話し掛けてくる。

呑気なものだ。

俯いている私を気にもとめずに喋り続ける。

ボソッと、呟いた。

「今日、賭けをしたんですよ。」

「うん?」

「賭けをしたんですが、全敗です。負けちゃいました。」

運命に。

顔を上げて苦笑する。

何も知らない部長さんはよくわからないといった表情で適当に頷く。

そして自分の話に戻った。

私はずっと聞き流していた。


アイツが現れたのは部活の開始時間ギリギリ。

後ろ頭をポリポリ掻きながらの登場。

私に向けられたその顔が、心底憎たらしい。

ムカついたから挨拶と共に嫌味を一つ。

上手く笑えてたかな。


「おはよう。お前おせーよ。」


これからもお前の親友でいさせて。



残暑が続く今日も、私はアイツの親友でいる。

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