連載になるかもしれない、ネタ。4
第四弾。
もう、何も言うまい・・・。
月明かりの差し込むだけの薄暗い部屋。
広いその部屋の中央に置かれる、豪奢なベッド。
「陛下がお越しになるのでは?」
一人で眠るには広すぎるそのベッドに。
今宵は一人、招き入れた。
「心配か?」
薄い夜着のリボンを解きながら言う男に、クスリと笑う。
「唯一、貴女様に許可無く触れることのできる方ですから」
まるで、それが不快だと言わぬばかりの口調の男。
わたくしから離れた視線のその先を追えば、そこは、隣室に繋がる扉。
今は閉ざされたその扉の先は、わたくしが『夫』と呼ぶ男の部屋。
もちろん鍵など存在しない扉だが、そこが開かれることなど、ありはしない。
「本日、陛下は本宮へはお戻りになられないでしょう」
いつまでも視線を戻さない男の頬に触れ、少し、力を込める。
一瞬で戻された視線に、淡く微笑んだ。
少しだけ開けられた窓から、清涼な風が入り込み、天蓋をふわりと揺らした。
「・・・・本日は、新しく迎えられた側室様の所でしたか・・・」
体のラインにそって触れる男の手によって、肌蹴られた夜着が滑り落ちる。
「そう・・・ あの子が嫌悪した、あの姫のトコロ・・・」
先日迎えた、新しい側室。
取るに足らない小国の出だが、それでも、一国の王女。
歓迎の宴の折に見たその王女の瞳には、ありありと野心が見て取れた。
陛下の隣。
一段高い王座に座るわたくしに向けられたその瞳に、愛しい我が子の顔色が変わった。
それに気付いたのは、わたくしと、この男だけ。
「翌日、陛下に直談判されておいででした」
首筋に下りてきた、男の唇。
そこから発せられた、少しくぐもった声に、クスクスと笑う。
「困った子・・・ あの姫の野心など、叶うことなどありはしないのに・・・」
既に王太子の決まった国に、何も持たぬ、ただの側室として嫁してきた王女。
そんな王女の持つ野心など、考えるまでもない。
「殿下は、母上のお気持ちを考えろ、と陛下に仰っておいででした」
スルスルと体中を這う唇と手の、緩い刺激に身をよじる。
「此度の側室も、許可したのはわたくし・・・」
ながきにわたり、子のいなかった陛下。
数多の側室の、誰の腹にも宿らなかった子が、王妃となった女の腹には宿った。
待ち望んだ子。
生まれたのは、王子。
王妃腹の第一子は、何の縛りもなく王太子となる。
「殿下は、母君の身を案じておいででした・・・」
それに、色めき立った、後宮の女たち。
子を望み、陛下に縋る、毒花たち。
「子を宿したその時から、危険は承知・・・」
男子を生み、王太子に据えるという野心を持つ毒花は。
それが、叶わぬ野心と知らない毒花たちは。
あの手この手で、陛下を誘う。
これ以上、王妃に子を生ませぬために。
あわよくば、自分の腹に、子を宿すために。
陛下を、後宮に引き留める。
「わたしが、お守りいたします」
取られた右手の指先に、降ってくる口づけ。
何度目かわからないほどに受けた、忠誠の証。
今、ここで受けるそれに、忍び笑う。
指先で男の唇をなぞれば、その口内に迎え入れられた。
熱い舌が、指先に絡む。
その、直接的な刺激に、知らず、口角が上がる。
「今宵の毒花も、陛下を放しはしないでしょう。己の野心のために、何としてでも子を宿したいはず・・・」
出来るはずのない子だと、知っているのは、いかほどか。
後宮から出られぬ側室には、絶対に子は宿らぬと、承知しているのは、幾人か。
これからも、子は、わたくしの腹にだけ。