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その男の宇宙

年齢25歳、独身。

年収350万、職業不動産営業、正直やってられないと思う。

朝から晩までひたすら営業電話。何を俺はやっているのかわからなくなる

この広い東京の街で俺はまだ生きていますか?


朝起きるとそこにはいつもの男が立っていた、髭面で。

「おはようございます」

鏡に向かって一礼。これが俺の日課。

「さてやるか。」

そして机に向かって仕事の一時間前まで勉強する。

会社指定の教材を一通り目を通す。


朝4時起き。

帰宅は12時を過ぎる。


そんな生活を三年やっていると感覚が完全にまひしてくる

俺の人生ってこんなのでいいの?


よめなしこなし。貯金なし。


くだらないことにお金も使ってしまう。

一ヶ月の給料のほとんどをキャバクラで巻散らかす生活

正直自分が嫌になる。


でも辞めれない、止まらない。

助けてくれ。


このルツボから俺は…。

逃げ出したいのか?

それすら決めることのできないクソ野郎。


会社までの道のり、JRは使わない主義である。

だから少し家賃が高い会社から徒歩20分圏内に家を借りた。


そのおかげで会社→飲み屋→家のループ生活になっている。

たらたら歩いているうちにオフィスにつく。


オフィスはビルの4階、社員数は50人前後の会社である。

「おはようございます。」

俺がそういうと、ご熱心に仕事を朝からしている方がウッスと挨拶をする。

男職場なのだ。


ちなみに俺は営業部。


「おはよう」

隣に座る同僚に挨拶する。

ウッスそう返事が帰ってくる。

そして体育会系の職場なのだ。

「どう見込み客の追客は?」

「だめーっすね、電話出てくれませんわ」

「そっか。俺もやるかな」

「ウッス」


そんな会話と朝駆けのテレコールをやっているうちに

朝礼が始まった。


「あーとおはようございます。」

社長が毎朝朝礼する、正直面倒くさい、考えてスピーチするならまだしも毎日怒声が飛ぶ。

晒し上げも毎日行われる。

こんなんじゃモチベーションなんて上がらない。

「営業部!なんで数字とれてねぇんだ!おい山田!言ってみろ」

社内でも一番か二番に気の弱い山田君は今にも泣きそうだ。

この会社の人事大丈夫かと思うが人事は社長がすべてやっているからしかたがない。

「は、はい、え、あ、頑張ります。」

山田はどうやらデスフレーズを吐いてしまったらしい。

「具体的に?何をどうやるんだ?今のままの状態でうまく行ってないんだろ?は?」

朝礼は延長された。

俺も売れない営業マンのため毎朝この時間は憂鬱を感じる。



うちの会社は9:00就業開始で19:30まで仕事となっているがまぁ体面上ではだ。

営業部に定時はない。まぁどこもそんなもんだろうと諦めているが。

そのまま仕事に俺は入った。

事が起こったのは昼過ぎだった。


一つの電話がこの後の俺の行動をこんなにも左右するなんて思いもしなかった。

携帯電話の着信音が昼休み誰もいないオフィスに鳴り響いた

もちろん俺の携帯だ。昼飯はカロリーメイトそしてその後は直ぐに昼寝と決めている。

なんだよ、寝ているのに何やと思いながら携帯に出た。


「はい、たじまです。」

「たじま・ゆうやさんですね。」

「そうですが、えーとどちら様でしょうか?」

「今晩24時にお迎えに上がりますので宜しくお願いします。」

「はい?」

何かのいたずらか?

「ですからお迎えに上がります。申し遅れましたが私リュウヤと申します。」

「はぁ、営業か何かですか?要件は?」

「今日の24時に貴方と世界は、お亡くなりになります。」

「は?すみません忙しいのでそういのは」

そう俺は言うと電話を切った。

ふざけるな…悪戯電話なんかで貴重な昼休みを、まったく、こっちは月末の追い込みだっつーの。

俺はまだ眠り出した。そうしているうちに昼の就業が開始された。


結局今日はアポがないから一日テレアポしていた。おれはアポインターか…。

21時以降にかける夜打ちも行ってみたが今日は全くダメだった。

気がつけば時刻は22時を過ぎようとしていた。

今日はそろそろ上がるか。と周りをみるとまだ数人が明日のプレゼン資料づくりなどをしていた。俺は小さな声で「お先失礼しマース。」とつぶやきオフィスを出た。

歩いて20分の道のりをだらだら30分かけて歩く。途中コンビニにもよったから50分ぐらいかかった。

家についた頃には23時を少し回った頃だった。

「あー疲れた。」最近は意識しなくてもこの言葉が飛び出す。完全にマイナスの口癖。

わかっているが止められない。

ベットに荷物を置き、狭いワンルームの台所でコーヒーを入れた。机に座り一息つくと

、携帯がメールを受信いていることに気がついた。

「騙されるな。」

その一文が携帯に届いていた、宛先は知らないアドレスだった。

なんだよ、ふざけやがって。

そう思った瞬間昼の電話の話が頭をよぎった。たしか24時に迎えにくるとか。なんだか俺は気持ち悪くなり、玄関ドアのカギと窓の鍵をかけなおした。

そしてテレビの音量をできるだけ大きくあげて深夜のバラエティ番組をかけた。

24時まであと10分。


別に怖いわけじゃない。


ちょうど24時を部屋の時計が指した。


「ふぅ。」別に何も起こらない。

なんだよ、何びびってたんだよ。はぁ、しんじらんねぇ。もう寝よう。

くだらないと思って布団に入って電気を消した瞬間そいつはやってきた。


がががgぁgぁgぁっぁがあglがlgぁlがががg

突然視界が二つに揺らいだと思った瞬間、俺の体が揺れ出した。ありえない揺れそして苦しい。なんだこれ、痙攣!?でも体がいうことを聞かない。

あうぁあふぁふぁdふぁdふぁ

叫びたいが声にならない、ただ痙攣と共に視界が崩れていった。

そして直ぐに真っ黒に俺は包まれた。


痙攣も感じない。

真っ暗闇に俺はポツリと立っている。

いや、立っていない。足元を見ても足がない、そもそも手も身体も確認できない。視界だけある感じ。

なんなんだこれは。



「お迎えに上がりました。」

「お前は。」

目の前には、黒いスーツに身を包んだ青年が立っていた。

「お昼過ぎにお電話させていただいたと思うのですが、お忘れですか?」

「ああ、覚えてる、あんた何者だ?そしてここはどこなんだ?」

「混乱なされているご様子。わかりました、ひとつずつお答えしましょう。」

青年は、一息ついて話し始めた。

「まず私は、リュウヤと申します。一言で言えば案内人です。」

案内人?

「そしてこの場所は、現実世界です。」

現実世界?この真っ黒な空間が?

「ちょっとまて現実だ?案内人だ?どういうことだ?」

「ですから貴方はいま現実に戻ったんです。そして貴方の案内人が私」

「は?これが現実?」

夢だ、これはきっと夢なのだ。

「はい。現実です。」

「何も、何もないじゃないか。」

「はい、何もございません。」

「はいじゃない。どういうことか説明しろ。」

「貴方がお作りになる世界ですから、まだ何もございません。」

「は?」

青年は困惑する俺を横目に続けた。

「貴方は望みました。だから現実になった。それだけです。」

「望んだって?俺がいつそんなことを望ん…」

そこまで言いかけて俺は言葉を飲んだ。閉塞感。ループに飽き飽きしていた自分。毎日変わらないループ生活、そしてうまくいかない現実に感じていた諦め。生きてるのか死んでるのかそれすら分らない生活。

「おい、俺がこの世界の神ってことか?」

「そのとおりです。私は貴方が望んだから生まれた者です。貴方は望めばどんなものでも生み出すことが出来る。」

おい、まじかよ。

「はは…」勝手に笑いが溢れていた。

「って事は望む通りの世界を作れるわけだ。」

「その通りです。」

「じゃあどうすればいい、まずはどうすればいい。」

「それは貴方が考えることです。なんでも、どんなことでも貴方は創造することができるのですから。」

そういうと青年は消えた。

黒い空間でひとり俺だけが残された。


なんだって作れる、俺の世界。なんだよこれ、すげーじゃねぇか。なんだって出来る。俺は神なんだ。はははは。そしたら宮殿に女囲って世界一の金持ちとか、飛行機なんだも所有したり、星だって自分の物に出来たりするんじゃね。すげぇ。

よし、そしたら手始めに宮殿をつくろう。

俺は宮殿をイメージした。すると目の前に宮殿のような物体が現れた。そして一瞬でバラバラに崩壊した。何度も挑戦したが結果は同じ、一瞬でバラバラに細かい粒子になって消えた。人間の女をつくろうとしたときも、肉っぽいベージュの塊が現れすぐに粒子になって四散した。お金、車、飛行機も全て同じ結果になった。

そして全てそれっぽいものが現れて粒子になった。何度も同じような結果を繰り返し俺は理解した。この黒い空間には空気もなければ重力も俺がしっているような物理の法則、時間すら存在してないのではという仮説。

まず空気を作らなくちゃいけないのか。空気ってどんなものだ?元素記号?吸えるもの?何からできてどんな形状で?あれ?わからない。二酸化炭素って何?人間ってどうできてるの?地球ってどうつくるの?宇宙って何でできてるの?

そんな問答を繰り返しているうちに、もしかして自分は一番小さな箱に意識だけ監禁されているような事態なのではと考え始めた。俺に今できることって人間っぽいもの建物っぽいものを生み出すことしかできないのではないか?あれ、そういえば俺の父親とか母親はどうなったのだ?前の世界ってじゃあなんだったの?え?あれ?おかしい。

もう、会えないってこと?その問いに答えてくれる人間はもう俺の周りにはいなかった。

なんだよこれ、こんなのってありかよ。涙が溢れる感覚。でも涙を流す体は俺は持ち合わせていなかった。

もう、だれにも会えない。あのうるさい社長も、同僚も、父親も母親も、友達も全て消滅してしまった。俺が望んでしまったばっかりに。うそだろ?うそだよな。誰も声をかけてくれないから自分を自分で承認する。アホか。俺はひたすら問答を繰り返した。


この黒い空間に入ってどれぐらいの時間がたったのだろう。そもそも時間という概念はこの空間では崩壊してるから意味はないか。なんども同じ考えを巡らせ。一通り絶望した。

そして一つの答えに巡りついた。

空間をパンクさせる。

この空間どれぐらい広いのか狭いのかわからないけど、俺は一定の重さもった物質を生み出し続ける事が出来る。この無から生み出すよくわからない物質を作りまくってこの空間を埋めてどこかをパンクさせれば外にでれるかもしれない。やらないよりも今の問答を繰り返すより生産的だ。そして案内人が一体何者なのか、俺のイメージで人間は作れないことはわかったし肉体をこの空間で維持することはできないはずなのに案内人は存在できていた。これはもしかすると、案内人はこの空間に存在する別の意識のイメージなのかもしれない。少なくとも俺の意識のなかにあの青年のイメージはなかったとおもうし。

なにより誰かほかにいると思うと俺の気持ちが少し楽になった。

パンク作戦を俺は開始した。


前の世界で言うとどれぐらいの時間が経っただろう、もうそんなの分らないし論じるだけ無駄である、そもそもの前提が違う。巨大な物体を生み出し続け機械的にループを続けた、変化の起こることのなかった世界に変化が起きた。

俺がいつもどおり巨大な構造体を生み出した瞬間、真っ黒な世界が突然白く輝きだし巨大な爆発が起きた。世界が白く包まれる、そして高温になるのが伝わった。

そして俺の時間が動き出した。その後、たくさん爆発が起きた。たくさんの物質、ガスが生み出され、拡張と爆発を繰り返した。昔NHKの宇宙の起源を紹介したテレビで見たことのある光景だった。

結局外は見えなかった、でも俺がこの世界に降り立って初めてまともなものを作れた瞬間だった、それはまだ小さいが昔人類というものが存在した世界で言われている宇宙だった。


また時間がしばらくたった。どれぐらいだろう明らかに前の世界で俺が過ごした25年という時間よりもはるかに多くの時間をこの世界で過ごしている。

そもそも俺は、意識だけの存在であるかして。人間と同じ時間の感覚を有しているわけでないから分らないというのが正確なところだろう。

ここのところ俺の宇宙は穏やかに銀河らしいものを形成している。この無数になる星たちのどこかに地球のような環境が生まれていてもおかしくはない。人類と同じ容姿をした生物が生まれる可能性も少なからずあるだろう。

しかし、前の世界と同様の国や街はありえないだろうな。もう会うこともない父親や母親を数億時間ぶりに思い出す。言葉にならない胸が熱くなる。胸なんてないが。

そもそも、既におれは人間ではないのだから。では何者だろう。ずっと考えてきた。前の世界で人間だったおれが願い、そして世界は失われ再度構築された。案内人とは何者だったのか、そもそもあの世界は誰の意思によって作られたのか。

覚えていないだけで俺は何度もこの作業を繰り返していのだろうか。それは、恐ろしいことだ。辛いことだ。忘れたいことだ。

だから忘れたのか。自分が構築した世界で生きることを決めたのに、結局不満足でまた壊してしまった。まるで子供のブロック遊び。


まぁこんなこと自分に問いかけても答えなんて出ないだろうが。


また億の日数と時間がすぎた。

このころには、色々な銀河を巡るのが趣味になっていた。生物が育まれ、ものすごい勢いで進化しそして廃れて行った。多くの文明が生まれ、そして戦いが起こった。

見るのは楽しかった箱庭のゲームをやっている気分だった。色々なものを真似して作っているうちに天候をいじったり素材を作ったりということはできるようになった。


おおくの知的生命体が生まれ星だけでなく宇宙、惑星間移動、さらには重力操作、宇宙空間に穴を開ける移動方法。様々な技術を観てきた。

ただ人間と同じ容姿をした生命体にはまだ会うことはなかった。


さらに数億という時間が過ぎた頃。私は生命体の創造にも成功した。懐かしい人類の創造に成功したのだ。何度も何度も失敗を繰り返し人類を作った。色々な星から生命体を集めそれをベースとして脳や内蔵をカスタマイズしてようやく出来上がった、生殖機能を持つ新人類。


常軌を逸する時間を過ごした私のは無意識に地球を求め人類を求めていた。

そうしてようやく私は作り出すことができた。地球をプレゼントした。動植物、水資源に溢れた温暖な星である。


私は懐かしい日々を思い出す。

故郷で生まれ、強い想いを抱き上京したまでは良かったが数年のうちに熱意も情熱も失われループする生活。普通に暮らし、そして普通に死んでいったであろう過去の自分の思い出。


やり直したかったのかもしれない。


その後、私の作った地球、人類は進化を遂げた。そして私が地形を作り、文明にも介入した。面白いように人類は地球の資源を食い散らかした。この宇宙で私が観てきた生物のなかでも雑食性、生存本能、そして我欲にあふれる人類が宇宙に進出するまで万の年月もかからなかった。


哲学、貨幣経済の発展、共産主義、民主主義、自由経済の発展、物理学、化学、それらが生まれ発展していった。まるで過去の世界を見ているようだった。


そして観察しているうちに耐え切れなくなった。




目の前に案内人のリュウヤが現れた。

「ご無沙汰しております。」

「お、おまえは…」

「よくここまで構築してくださいました。」

「おまえは誰なんだ?」

「私は案内人、あなたの道を示すもの、そして貴方によって造られたもの。」

「今日は、貴方に機会を与えにきました。今なら、貴方は前の世界にもどることが出来る。」

なにを、言っているのか理解できなかった。

でも次に出ていた言葉は。

「おれが元の世界を選んだらどうなるんだ?」

「貴方は、何も変わることなく次の朝起床することができます。」

「もどることができるだと?なんで今更。こちらが本当の現実なんだろ?」

「いえ、こちらも現実です。」

「どういうことだ」

「現実とは貴方の認識する世界のこと。あなたの主観ではどちらも現実です。」

「ではなぜお前は、また私を迎えに来た?」

「それは貴方が望んだことだから。」

「私が望んだことだと?」

「貴方は願った、元の地球に戻りたいと、両親や友人、あなたを取り巻くすべての者ともう一度会いたいと。そして作り上げた、貴方が望む地球の姿を。」

「っ…。」

確かに私は創り出した。新たな地球をそして人類を。

そして望んでいた。願わくはもう一度逢いたいと。





「はぁはぁ…」

目を開けると俺はいつものベットの上だった、ものすごい寝汗。

な、なんだったんだあの夢は…。悪夢を見てしまったようだ。

それにしてもリアルだった。


俺は携帯で時刻を確認する、AM4:00、携帯に新着メールがきている。

アドレスは見たことのないアドレスだ。

「なんだこれ?」

メールを開くと、一文だけメッセージが書かれていた。

「昨日は楽しかったね、また行こうね」

アドレスにはミユキと表示されていた、覚えていない、キャバクラの女だろうか。

俺は髭面の自分を確認するといつもどおり会社の教材に目を通し始めた。

そうして時間になったので、だらだらと家を出かけた。

会社につくと、既に何人かが朝からテレコールしていた。月末だ、目標数値間に合わせようと皆さん必死。俺はやってるふりだけは昔から得意だった。

「おはよう、どうさ今日は?」

「だめっすねー、捕まらないっす。」

お前の口調じゃ一生きまんねーよ。そう心で思いながら「頑張りますか」と声を発する。

そうするとそいつはウッスと俺に返した。マジでウッスじゃねぇよ。

そうしているうちに朝礼が始まった。

社長の怒声が飛ぶ、今日はいつもより酷い、気の弱い山田への集中攻撃が始まっている。クラスター爆弾なみに痛い、人格否定も入ってるからなお痛い。

「だからできないんだろ?昔から見ていてイライラするんだ、ふざけるな!数字を出せない営業なら生きてる価値なんてねぇんだよ、わかるだろオイ、てめぇに言ってるんだよおい山田、わかるならハイとかイイエとかいえよ。ウジウジしってから売れねぇんだよゴミが」今日のはいつもの数倍ひどいことになっている。

俺にいつ飛び火するかとビクビクしながら朝礼は終わった。

ここから業務開始。一応19:30定時になっているが、正直そんなのあまり関係無い。というか殆どない。営業部に提示という概念はないのだ、まぁこれはどこもそんなもんだと諦めている。そうしているうちにテレコールが始まった。

ようやくお昼休み、いつもカロリーメイトを食べ直ぐに昼寝に入る。

誰もいないオフィスはとても居心地が良い。そんな俺の眠りを妨げるように鳴り響く不協和音、俺の携帯から着信音が…。くそーと思いながら携帯に出た。

「もしもし」

「覚えていますか?」

「は?」

「先日お話させていただいたものなのですが。」

「はい?えーとお名前を頂いても?」

「失礼しました、リュウヤと申します。」

「はて?リュウヤ?」

「いえ、覚えておられないなら結構です。失礼たします。」

そういって電話は切れた。

まじで勘弁、寝せてくれ。

午後からのテレコールでアポが数件とれた、俺にしては珍しい、普通俺のペースだと二週に1件とかなのに、今日はラッキーだった。しかし今月もまだ契約なし。

このままだと給料が危ない。

気がつくと時刻は22:00を回っていた。とりあえず今日中にこのアポイント分の資料を作っておこう。と久し振りにパソコンのキーボードを叩く。

終わった頃には24:00を回っていた。

「あー終わった。」この時間になるとさすがにオフィスには誰もいない。この時間まで解放しているオフィスのほうが珍しいぐらいだ。

帰るか…、その前に明日の予定をボードに書かないと…と俺がボードに近づいた時、ありないものが見えた。

今月目標300%達成者たじま・ゆうや

「は???」ナニコレ?どういうこと?俺は表をよく見る、確かに今月の成果のところに今までで見たことのない契約数が入っている。どういうことだ?と前月とその前の月の数字を見ると営業部の中で俺の数字だけ 200%300%オーバーで表彰されていた。なにこれ。どうなっているの?俺はだって、全然ダメダメの営業で…あれ?

そんなときに携帯から着信があった。

表示、ミユキ

「はい」

「ゆうくん?」

まるみのかかった猫っぽい声の女の声が聞こえる。

「え?」

「みゆきもうでるから~、ごはんつくっといたから食べてね、これから仕事いってくるね」

なんのことだ?

「お、おう。」

「ん?どうしたの?なにかあった?」

「いや。」

「うん、そしたら、いってきます。」

「お、おう」

と、いって電話が切れた。

誰???というか何???家???混乱状態の俺。

自分の椅子に座り、少し考える。昨日と状況が違う事は確かだ。財布を漁る、保険証には俺の生年月日、住所がかかれていた。いや、変わらない。日付も普通だ。ATMの領収書がはいっていた。俺は残高をみてゾッとした。銀行残高4000万円…。

どうなっている、年収350万、預金なし、の俺がどうなっている。

ちょっとまてよ、メールの履歴を確認する。ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、そのメールの内容に俺は驚愕した。

どうやら俺とミユキは1ヶ月前から付き合っており、一週間まえから俺のうちで同棲生活を始めたらしい。ミユキは夜の仕事のため、昼間あの家を使い夜には出ていく。だから俺と被らない、そして仕事をやめたがっていて、休日や早上がりの時を狙って二人でデートを…そして昨日もデート…。


俺にはそんな付き合った記憶もデートした記憶もない。だって昨日は、山田が朝の朝礼であげられて、普通に寝て悪夢をみて…。あ。

なんだこれ何かひっかかる。わからない。

そうして俺は、家路についた、ついた頃にはすでに深夜2時を回っていた。俺はそのまま布団の上にダイブした。


そうして光に包まれた。

「どうでしたか?昔の生活は、可愛らしい彼女、余裕ある大金、稼ぐ為の技術、貴方はあの地球で全てを手に入れることが出来る。両親、大切な人、それを貴方は守り生きていくことが出来る。」

「私が創ったこの世界はどうなるのだ?」

「この世界は私が責任を持って管理しましょう。」

「そんな事が可能なのか?」

「可能です。」

「じゃあなぜ最初の宇宙創世前にお前は俺を戻さなかったんだ。」

「その時点では貴方の願いの濃度が薄かった、この億という時間を経験し貴方は地球を創り出した、この執念が私をいまここに再び呼び出した。」

「そんな…。私は…もどりた…」

そこまで言って私は言葉を詰まらせた。もどることが出来る。もどることが出来る。でも戻ればこの億という年月で得た新しい私のアイデンティティは失われてしまうのか?

「この億という記憶は失われるのか?」

「はい、失われます。人間の脳の情報量を遥かに超える情報量が今のあなたには有りますので、そのまま人間に移した場合壊れてしまいますから。」

「そうか。」

心の中でそれだけが少し悔しかった。色々な銀河の生命体の営みを観てきた。そしてそこから多くのことを学んだ、世界の仕組み、構築の仕方、元に戻れば知る事が叶わない知識。

でも同時に私は知らないことの幸せというものも学習している。逢いたい。逢いたい人がいる、過ごしたい世界がある。

「わかった。戻してくれ。」

俺はそう、青年に言っていた。青年はゆっくり頷いた。そしてあたりが真っ白く…。



ピピピピピピピ…。

俺はアラームで起こされた。ふざけんな。眠い!昨日は二時に帰ってきてリアルで二時間しか寝てない。今日ぐらいいいや…。また布団に入ろうとすると、きゃという声ではっとする、布団の中には女性がいた。

「ごめんミユキ起こしちゃったか。」

「ううん、大丈夫、ふぁぁ、おやすみ」

「おう」

今日は帰りが早かったっぽいな。さて勉強でも始めるか、みゆきが昨日の晩ご飯用に作ってくれたサンドイッチを方張りながら会社指定の教材に目を通し始める。

あーくそ眠い。



「あはは」

「バカな奴。」

「箱庭で永遠の奴隷になるが良い。」

「数億年かけて作り上げたこの宇宙にどれだけの価値があるかの判断もつかないで平穏な生活選んだ若者よ。」

「その平穏な日常は果たして君の元の世界かも既に資格を失った君には気がつくことすらできない。」

「あはは」

そういって黒い服の青年は笑った。その笑い顔はなぜだか少し寂しげであった。

笑いながら青年は頭を抱える。そして耐えきれず涙した。


それからどれぐらいの時間がたっただろうか。

ユウヤは、不動産会社の取締役まで上り詰めていた。

ユウヤ65歳、引退。

大きく日経新聞の一面に取り沙汰された。不動産グループの代表取締役社長引退、会長職、相談役として今後はサポートしていく。

ミユキは元気な子供を三人産み、そして子供を立派に育て上げ去年の末になくなった、ユウヤは引退し、軽井沢の別荘に移り住み、ひとり毎日悠々自適な生活をしていた。

たまにやってくる孫と、月に数回東京での会議に参加するのが楽しみであった。

引退から数年してユウヤは、あることを思い出した。

それは25歳の時の不思議な経験である。あの当時は変な夢をたくさん見ていた気がする、そして生きてきた中で一番濃い時間を過ごしたように感じる。その理由は分らない。ちょうどミユキと出会い、成績も乗ってきた頃だったからかもしれない。

覚えてはいない人生の分岐点というのがあったのかもしれない。ただ彼女との出会いで私の人生は豊かになったのは確かだし、無駄なことなど一つもなかったと今ではそう思う。

この広い世界で、私はちっぽけな存在かもしれないが、私は良い人生を生きた。

そう考えながらユウヤは大きな暖炉の前のソファーで目を閉じた。

そうして彼は誰に見とれられることもなく、その数億年という生涯に幕を閉じた。




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