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第60話: 失われた名前が復活

雪がしんしんと降り続けている。


白い小さな結晶が、アクアリスの外に広がる広大な大地を吹き抜ける冷たい風に舞っている。


空は鈍い青みがかった灰色をしている。


太陽はまだ高い位置にあるものの、北部のこの地から寒さが完全に去ることはない。


四人の人影が一面の雪原の上を歩いていた。


そしてその雰囲気は……


ここ数日と比べると、ずっと穏やかで軽やかなものだった。


セイラ・ルーンが先頭を歩いている。


時折後ろを振り返り、


リオラ・ライゼンに向かって不満げな視線を送る。


「……何の連絡もよこさないなんて」


リオラは眉を上げる。


「……忙しかったんだ」


「……嘘つけ」


「……」


カエリスがすかさず口を挟む。


「……こいつ、怒りっぱなしで忙しかったんだよ」


「……おいっ」


「……事実だ」


「……ヴェイラめ」


カエリスはくすりと笑った。


本当に久しぶりだ……


随分と長い間、


こんな風に話すこともなかった。


五年前、彼らは共に戦い、


五年前、共に仲間を失い、


五年前、魔王を倒した。


そしてその後……


彼らは別々の道を歩むことになった。


だが不思議なことに……


今こうして集まると、何も変わっていないように感じられる。


……


ただ一人を除いては。


セイラはちらりと後ろを見た。


黒いローブをまとった男の方へ。


アキラ。


少なくとも、


自分が知っている名前はそれだった。


彼女はいくつかの点に気づいていた。


歩き方、


周囲を見る目つき、


黙っているときの雰囲気。


どこか違和感がある。


とても奇妙だ。


「……」


彼女はまた、そしてまた彼の方を見た。


何度も、何度も。


そんな様子に気づいたリオラが横目で見る。


「……どうしたの?」


セイラは少し驚いた様子で答える。


「……え?」


「……ずっとアキラのことを見てるじゃないか」


「……見てないわよ」


「……嘘つけ」


「……見てないってば!」


アキハラはまるで何も聞こえていないかのように、落ち着いて歩き続けていた。


だが実際には……


彼は全て気づいていた。


数時間後、


一行はようやくアクアリスの領域に到着した。


青い川の上には、大きな氷の橋がかかっているのが見える。


その下を流れる水は柔らかな光を放ちながらゆっくりと流れている。


遠くには水晶でできた荘厳な建物々が立ち並んでいる。


雪は静かに舞い続け、


その光景は……


息をのむほど美しかった。


カエリスが辺りを見回しながら言う。


「……ここは昔と変わらないな」


リオラも小さく頷く。


「……ああ」


セイラはわずかに笑みを浮かべた。


「……おかえりなさい」


彼らは王国の領内へと足を踏み入れる。


何人かの住民が彼らに視線を向け、


セイラに向かって柔らかく微笑んだ。


その様子を見たアキハラは黙ったまま、


少しの間セイラの姿を見つめ、


次にカエリスの方へと視線を移した。


ほんのわずかな動きだったが、


カエリスはそれを見逃さなかった。


「……?」


アキハラは小さくため息をつき、


目配せで合図を送る。


カエリスは一瞬きょとんとする。


「……え?」


だが数秒後、


彼の瞳が大きく見開かれた。


「……ああ、なるほど」


小さく笑みを浮かべる。


やがて一行は、小さな泉の庭のそばで足を止めた。


風がゆっくりと流れ、


辺りは静かで穏やかな雰囲気に包まれている。


カエリスが声をかける。


「……セイラ」


「……何?」


「……話しておきたいことがあるんだ」


セイラが振り返る。


「……何の話?」


カエリスはアキハラの方を指し示した。


「……このアキラという男は……」


一瞬の静寂。


雪が静かに舞い落ちる。


「……アキハラなんだ」


再び沈黙が辺りを包む。


まるで時間が止まったかのような静けさ。


そよ風さえも、その流れを止めたように感じられた。


セイラは一度、二度、三度と瞬きをする。


「……は?」


カエリスはもう一度指し示す。


「……これがアキハラだ」


「……は?」


さらに近くを指して言う。


「……この人だよ」


「……アキハラだ」


「……は?」


ゆっくりと、


セイラはアキハラの方を向き、


次にリオラを見て、


またアキハラに戻り、


そしてまたリオラを見た。


彼女の瞳が次第に震え始める。


「……」


「……」


「……」


「……はあっ?!」


リオラは慌てて耳を塞ぐ。


「……うるさいな」


セイラはゆっくりとアキハラに近づき、


手をわずかに震わせながら問いかける。


「……アキハラ……なの?」


アキハラは数秒黙った後、


顔の覆いを少しだけ下げ、


柔らかく笑みを浮かべた。


「……久しぶりだ」


静寂が流れる。


五秒、


十秒、


十五秒。


そして次の瞬間――


ドサッ。


セイラがその場に倒れ込んだ。


気絶してしまったのだ。


「……」


「……」


「……」


リオラ:


「セイラーッ!」


カエリス:


「まじか、本当に気絶しやがった!」


アキハラ:


「……そこまで驚くことか?」


数分後、


城の休憩室に移されたセイラは、ゆっくりと目を開けた。


「……」


まずは天井を見つめ、


次に右側を向くと、


リオラとカエリスの姿が見えた。


そして……


アキハラ。


再び言葉を失う。


「……生きていたの?」


アキハラはわずかに笑みを浮かべる。


「……一応な」


セイラの瞳がゆっくりと大きく見開かれ、


次の瞬間、


その目に涙が浮かんできた。


「……バカ……」


「……なぜ黙っていたの……」


「……」


「……みんな、お前は死んだと思っていたのに……」


部屋に重い沈黙が流れる。


アキハラはただ黙っていた。


なぜなら時には……


五年もの空白を埋めるには、謝罪の言葉だけでは足りないからだ。


夜が訪れ、


四人のグランドマスターがテーブルを囲んで腰を下ろした。


部屋の中央には小さな火が灯されている。


カエリスは腕を組んで言った。


「……後はガルドロスだけだな」


リオラも頷く。


「……あの頑固者か」


アキハラは炎を見つめながら口を開く。


「……彼なら何か感じ取っているはずだ」


やがて話題は再び深刻なものへと戻った。


アキハラが状況を説明する。


魔王が復活したこと、


アルギエルが再び姿を現したこと、


レイラーという存在がいること、


七つの大罪と呼ばれる者たちがいること――


セイラは驚きを隠せない様子で言う。


「……待って」


「……魔王に……」


「……妻がいるの?」


リオラは頷く。


「……俺たちも最初は信じられなかった」


カエリスが続ける。


「……それどころか、どうやら妻の方が彼を支配しているらしい」


「……」


「……」


「……えっ?」


遥か彼方――


限りなく遠い場所。


雲の上、


星々のさらに上、


どの世界からも届かないような高み。


果てしなく広がる白い空間が広がり、


四人の人影が静かに立っていた。


オリン、


ヴァエル、


ライラ、


エリス。


彼らは下に広がる世界を見下ろしている。


ヴァエルが低い声で語る。


「……魔王の力の成長速度が速すぎる」


オリンは目を閉じて答える。


「……アルギエルは以前とは違う存在になっている」


ライラは自分の手のひらに浮かぶ小さな星を見つめながら言う。


「……それにレイラーという女が現れたことで……」


「……多くの歯車が狂い始めている」


沈黙が流れる。


それまで黙っていたエリスがゆっくりと瞳を開けた。


「……あの子のことだ」


他の三人が一斉に彼女の方を向く。


ヴァエルが目を細める。


「……ノアのことか?」


エリスは小さく頷く。


「……運命の道筋が動き始めている」


沈黙が再び空間を包む。


そしてはるか下の世界では――


何も知らないまま、


時が流れ続けていた。


頭上から注がれる視線にも気づかずに。

「次回更新: 6月 6日 21:00」

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