第43話: 息を止める
雪はまだ降り続いている。
だが今回は、
爆発もなければ、
激しい衝突音もない。
ただ、抑え込まれた足音だけが、
凍てつく森の中に響いていた。
三つの影が、雪に覆われた森を突っ切り、
やがて——
ぴたりと止まった。
「……ここまでだ。」
ケイリス・ヴェイラが手を上げる。
風が一気に広がり、
攻撃のためではなく——
「隠すため」に働いた。
薄い霧が立ち込め、
彼らの足跡を飲み込み、
進行方向を曖昧にし、
呼吸の気配さえも覆い隠す。
沈黙。
数秒が過ぎる。
追跡者の気配はない。
地面の振動もない。
重圧も感じられない。
だが、
誰一人として「安全だ」とは思わなかった。
リオラが木の幹に肩を寄せる。
呼吸はまだ荒く、
彼女の体に宿っていた雷も、ようやくその輝きを弱めた。
「……クソだな……」
彼女はうつむき、
「……あんなの、普通の生き物じゃない……」
昭原は少し離れた場所に立ち、
無言のまま、
ただ後方を見据えていた。
まるで、まだ来ぬ何かを待つように。
ケイリスが呼吸を整える。
ゆっくりと、
少しずつ安定を取り戻す。
そのとき、
彼女はふと横を向いた。
リオラの方へ。
瞳がわずかに細まる。
「……待て。」
一秒。
「……お前は——」
表情がわずかに変わる。
少し……驚いたような色が浮かぶ。
「……リオラか?」
リオラが顔を上げる。
瞳が大きく開かれる。
「……は……?」
彼女はまじまじと相手を見る。
「……お前……ヴェイラ?」
短い沈黙。
雪が二人の間をゆっくりと舞い落ちる。
「……久しぶりだな。」
ケイリスが静かに言う。
声は依然として冷静だったが、
完全に冷たいわけでもなかった。
リオラが小さく息を吐く。
「……マジかよ……」
「……こんな状況で……」
彼女は少しだけ笑った。
「……またお前と会うなんてな。」
ケイリスは答えない。
視線がさらに横へ移る。
もう一人の人物——
不知火昭原。
彼は最初から、
何も言っていなかった。
「……そっちは?」
シンプルな問い。
だが鋭さがあった。
リオラがすぐに答える。
少し、速すぎるくらいに。
「……こいつはアキラ。」
「……私の彼氏。」
沈黙。
ケイリスはただ彼を見つめる。
すぐに信じることはなく、
その瞳はさらに深く、
観察するように彼を捉えていた。
立ち方。
沈黙の保ち方。
視線の向け方。
「……そうか。」
短い返事。
だが思考は止まらない。
アキラ……?
聞いたことのない名前だ。
だがこのオーラは……
彼女はわずかに目を細めたが、
それ以上何も言わなかった。
なぜなら——
今はそんな場合ではないことを、
彼女は知っていたからだ。
「……時間はない。」
声が再び冷たくなる。
「……あの怪物はいつでも戻ってくる。」
昭原がようやく口を開く。
「……奴は必ず戻る。」
平坦な声。
だが確信があった。
ケイリスが彼を見る。
一秒、長く。
「……確信があるのか。」
「……ああ。」
感情のない答え。
だが——
不思議な説得力があった。
リオラが肩をすくめる。
「……まあ、あいつ私たちを追いかける以外、趣味ないみたいだしね。」
誰も反論しない。
再び沈黙。
だが今回は、
混乱からではなく、
思考するための沈黙だった。
「……あの怪物は……」
ケイリスが口を開く。
「……魔力を持っていない。」
「……それなのに、明確な目的を持って動いている。」
昭原が頷く。
「……無差別に攻撃しているわけじゃない。」
「……標的を選んでいる。」
リオラが割り込む。
「……まるでバーゲンセールの最後の商品みたいに、俺たちを狙ってる感じ。」
ケイリスはその言葉を無視する。
「……つまり、制御している存在がいる。」
昭原:
「……あるいは、停止しない命令が刻まれている。」
その結論が、
重く空気の中に浮かぶ。
「……もしそれを見つけなければ……」
ケイリスが続ける。
「……俺たちは永遠に勝てない。」
沈黙。
リオラが地面を見つめ、
小さな声で言う。
「……さっき……」
「……私、死ぬところだった。」
誰も笑わない。
誰も軽んじない。
昭原が短く答える。
「……無茶をするな。」
リオラがすぐに彼を睨む。
「……お前もな。」
二人の視線が交差する。
短い時間。
だが——
十分だった。
ケイリスはそれを見ていた。
無意識のうちに、
彼女は昔の記憶を思い出す。
数年昔。
あの大きな戦い。
すべての大魔術師が集結した戦い。
炎。
水。
雷。
大地。
そして風。
彼女は彼らと共に戦っていた。
その中でも最強の一人とされていた男——
不知火昭原。
そして彼は、
戦死したと言われていた。
「……つまり……」
彼女は再び目の前の男を見る。
「俺はまた、大魔術師と手を組むことになるのか……」
「……それも、俺の知らない一人の男と共に。」
静かな声。
だがその言葉には深い意味が込められていた。
昭原は何も反応しない。
いつものように、
無言のまま。
だからこそ、ケイリスの疑念はさらに深まる。
……この男、
本当は何者なんだ……
だが——
風が変わった。
突然に。
ケイリスが即座に動きを止める。
瞳が細まる。
「……待て。」
リオラが即座に警戒態勢に入る。
「……どうした?」
ケイリスは森の奥を見つめる。
何もない。
だが、
本当に「何もない」わけではなかった。
「……俺たちだけじゃない。」
沈黙。
昭原は動かない。
だが彼のオーラがわずかに変わる。
臨戦態勢。
数秒が過ぎる。
何も起こらない。
動きもない。
音もない。
だがその感覚は、
はっきりと残っていた。
誰かが見ている。
遠くから。
一人の男が立っていた。
はっきりとは見えない。
だがその瞳は、
静かに、
二人を観察していた。
「……なるほど、彼らがか。」
薄い笑みが浮かぶ。
「……面白い。」
その頃。
ケイリスがゆっくりと息を吐く。
「……奴は攻撃してこない。」
昭原:
「……まだな。」
リオラが舌打ちする。
「……最高だ。今度は尾行者までついてきたわけ?」
ケイリスは前を向く。
「……逃げ続けることはできない。」
昭原が頷く。
「……俺たちは、根源を探す。」
リオラが肩を上げる。
「……まあ、三つ首の犬の餌になるよりはマシでしょ。」
このとき初めて、
彼らは「逃げる」ためではなく、
「答えを探す」ために動こうとしていた。
そして彼らの背後では、
何かがなおも見つめていた。
辛抱強く、
待ち続けるように。
「次回更新: 5月 16日 20:20」




