第13話 光属肉塊
( ・ิω・ิ)おぱようございます!
「ぬぅぅぅぅぅぅんっ!」
元神殿騎士の冒険者が魔力を全解放する。
「やむを得ん⋯かっ!」
彼は愛する妻と出会い、神よりも家族を愛する事を選び神殿を去った。
つまり異教徒の改宗に赴き失敗し、異教徒の女を愛して子を為してしまった。
神殿騎士としては失格だが、夫として父として守るべき者がまだ在るのだ。
死ぬ訳にはいかない。
いかないが―――それ以上に⋯
(コイツ等を野放しに出来ないっ!)
「ぎゃああああっ⋯あっ⋯あ⋯あ―――」
「じゃるじゅるじゅるっ―――ぷはぁっ!不味いっ!中古の女の血は不味いなぁっ!新品の女は居らんのかっ!」
油断も慢心もしており感情的で精神的に未熟。
されど吸血鬼。
敵は陽の光を克服した吸血鬼だった。
日光で弱体化してる筈なのに圧倒的であった。
「すまん。見誤った。此処は俺が時間を稼ぐ。逃げろ」
「何言ってんですかリーダー。ルーキーに謝るなんてかっこ悪いですよ?」
「お前⋯⋯⋯すまん」
パーティーリーダーが悲壮ながらも顔に笑みを浮かべる。
元神殿騎士も笑顔だ。
神を、教義を否定した訳ではなかった。
神の敵、吸血鬼。
最期の相手として相応しい。
「あっ⋯あうっ⋯ううあっ⋯」
獣人の娘がガタガタと震えている。
失禁している様だが責める気も起きない。
すでに生き残りはこの三人だけなのだから。
(娘は⋯強く育ってくれるだろうか?)
獣人の娘は幼いながらもパーティーを支えてくれた。
女と云うより、子供、マスコットの様に可愛がられていた。
「子供は、守らないと、な」
彼女を見捨ててはまともに娘と顔を合わせられないだろう。
(そのうち紹介して、友達に⋯)
妻子と共に隠れ住む村が直ぐ近くに有る。
「そこの獣。吸ってやるからこっちへ来い」
「ひっ!ひぃっ!うああっ!」
だからこそ、こんな化け物共を放置は出来ない。
(あの肉スライムは動かない、な)
見たところ仲間ではない様だが、逆にそれも厄介だ。
光魔法への耐性を持つモンスターが別ルートから二体も発生したと云う事だ。
あの肉スライムが魔王と聖女の戦闘跡で生まれた突然変異種だった場合、これから大量発生する可能性も有る。
更に成長限界を超えて進化するタイプなら、これから食えば食うだけ質量が増大し災害級のモンスターとなるだろう。
そんな中で仲間を捨て、妻子を連れて逃げる?
何処へ?
はみ出し者の自分達を受け入れてくれた村やパーティーを捨てて、いったい何処に逃げれば良いのか?
「ルーガルーっ!」
「!?」
パーティーリーダーが叫ぶ。
ビクリと飛び上がる獣人少女。
「知らせるんだっ!行けっ!」
「わ、わかったっ!」
太陽を克服した第二の吸血鬼。
謎の肉塊。
自分達の手に負える相手ではなかった。
かと言って他のパーティーでも倒せるかどうか。
しかし被害拡大を食い止める為にはメッセンジャーは必要だった。
「一匹も逃がさんぞ。我が糧となれ」
吸血鬼が霧化する。
ルーガルーを捕食するつもりだ。
「行かせるかよっ!」
リーダーが吸血鬼に剣を突き立てる。
光属性を付与された剣が楔の様に吸血鬼の霧化を防ぎ固定する。
「ぐはっ!邪魔をするなっ!ガブッ!」
「ぐおおおおっ!」
リーダーは吸血鬼に噛み付かれながら雄叫びを上げる。
「俺ごとやれぇっ!」
「ああっ!聖爆っ!」
元神殿騎士が自爆術式を編み、解放する。
大爆発が起こる。
閃光と爆風の乱舞。
その爆発は吸血鬼だけでなく、肉スライムをも飲み込んだ。
「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
まともに受けてしまった吸血鬼が悲鳴を上げる。
「皆っ!ごめんっ!みんなっ!」
ルーガルーは泣きながら走る。
皆の死を無駄に出来ない。
森の中を全力疾走する。
狼系獣人である彼女は速い。
最初は二本足で走っていたがいつの間にか四つ足走行になる。
彼女はまだ幼いながら斥候、索敵等をこなすスカウト役だ。
戦闘能力は低いがこう云う場合、直ぐに助けを呼びに行く段取りになっている。
そうした方がパーティーの生存率を上げるからだ。
勿論、最年少である彼女を生き延びさせる為のパーティーリーダーの采配なのは知らされていない。
だがしかし、それは追っ手を振り切れる事が大前提であるのだが。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!待っててっ!皆っ!今救援を―――」
吸血鬼に襲われた仲間達も死亡を確認した訳ではない。
多額の寄付が必要になるが、神殿なら治してくれるかも知れない。
「ルーが助けるからっ!ぜったいたすけるからっ!」
そんな彼女の影から―――青白く細い美しい手が伸びる。
「えっ!?」
⋯トプン⋯
水音一つ残して狼獣人の少女は消えた。
永遠に。
「うふふ」
半吸血鬼の少女の笑い声が、森の中に響いたのだった。
一方その頃⋯
「卑劣なっ!光魔法が効かないならっ!闇魔法が効くべきだろうっ!」
吸血鬼が見苦しくも吠える。
人間共は始末した。
獣娘は逃がしたが、粗方血を吸ってパワーアップは済んでいる。
自爆に巻き込まれて負ったダメージはあの場で一番強い人間の血を吸って回復した。
黒焦げの死体は不味そうなので吸ってない。
可能な限りの準備をして肉スライムに―――魔王ヴォロスの残骸へと挑んでみた。
手始めに闇魔法の闇弾を撃ってみたがあっさりと吸収された。
光魔法を吸収するのは見ていたが闇魔法も通用しないらしい。
此れは余りにも卑怯過ぎる。
(⋯動きが悪い?もしや、足が遅いのか?)
遠距離から魔法を放っていたが、ふと気付く。
このまま逃げ切れるのではないかと。
しかしその発想は⋯余りにも遅かった。
「ボッ!」
「なっ!?」
光属肉塊が激しく明滅を繰り返したかと思ったら何かを吐き出して来た。
「ぎゃあああああっ!」
受けた腹に大穴が開く。
「こ、こ、これは―――」
先程光属肉塊が吸収した光の攻撃魔法である。
しかも威力が段違いである。
「馬鹿な」
逃げねば。
霧化⋯失敗。
蝙蝠化⋯失敗。
血が、止まらない。
焼け焦げた様な腹の大穴は回復せず、再生はしない癖に血は止まらない。
「光魔法を⋯使っ⋯⋯た―――?」
ドンッ!
更に光属肉塊から光弾が撃ち出される。
吸収した光魔法をただ撃ち出した訳ではない。
解析し学習し、自分でも使用出来る様にチューニングしたのだ。
此れは本人は不本意極まり無いだろうが、母体である神殿騎士ピュティアの光属性の才能の影響である。
未だに快楽に屈しない程闇耐性の有る女だが、故に母体としてとても優秀だった。
「馬鹿な⋯有り得ん」
太陽光に耐性の出来た吸血鬼であっても光魔法のダメージは免れない。
此れは魂から微量に溢れ、体内に流れ続ける魔力が免疫機能の様に光属性への耐性を持ち相殺しているに過ぎないからだ。
降り注ぐ太陽で日向ぼっこをするのと、火の玉を土手っ腹に食らう事は全くの別物なのだ。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
「ぐああああああっ!?」
連続で光弾が撃ち込まれる。
今度は出血すらしない。
彼の肉体は血煙となって朝日に消える。
いくら光属性への耐性が付こうとも、生来の属性は闇。
邪悪なる吸血鬼は穴だらけにされ、千切れた肉片は太陽光で燃やされ灰になる。
「⋯お、のれ、ヴォロ⋯ス―――」
そうして処刑予定だった犯罪吸血鬼の刑が、無事に執行されたのであった。
「―――――――⋯⋯⋯はっ!」
元神殿騎士の冒険者が目を覚ます。
慌てて身体を見回す。
鎧は焼け焦げ服はボロボロ。
火傷も裂傷もまだ有る。
だが生きている。
「お、俺を―――私を、帰してくれる、のか?」
目の前に居た肉スライムに問い掛ける。
彼の身体に触れている肉スライムから、なんと⋯光の治癒魔法の力が流れ込んで来ているからだ。
⋯ぷるんっ⋯
肉スライムは―――ヴォロスの転生体である光属肉塊は『聖爆』をラーニングしようとした。
しかし、一撃食らっただけでは難しかった。
であるならば脳味噌を喰らい、血を啜る事で適応出来た。
しかし聖女の封印で人間を傷付ける事は出来ない。
なのでヴォロスは元神殿騎士を治した。
治し方は思い出しながらやってみた。
生前、治癒魔法を操れる国民から善意で治癒魔法を掛けて貰った事が有るからだ。
その時は正真正銘のアンデッドだったので、受けた部分が壊死して崩れ落ちてしまったのだが。
そうして回復した元神殿騎士の新鮮で健康な脳味噌から出る魔力パターンを解析し、聖爆を完全に学習する事が出来た。
使い所は解らないが覚えておいて損は無いだろう。
自爆してもまた復活出来るのだ。
不死者らしい反則級の戦法が確立出来る。
更に副産物として治癒魔法も学習出来た。
今のヴォロスは本能のままで生きてるだけだが、戦果としては上々だ。
光魔法の光弾、聖爆、治癒をラーニング完了。
朧気な記憶の片隅に有った心残り⋯処刑し損ねていた同族を始末出来た。
ならば多少はお返しをせねばバランスが取れぬ。
「お前が、あの吸血鬼を倒した?のか?」
朦朧とした意識の時、吸血鬼の断末魔を確かに聴いた。
「光魔法の⋯治癒まで操るのか?本当に何者なんだ?」
元神殿騎士の肉スライムに対する嫌悪感は無くなっていた。
しかし戸惑いが大きい。
何故自分を助けたのかが解らない。
「頼む、仲間達を⋯⋯⋯いや、何でも、ない⋯」
自分はきっと運良く生き残っていただけ。
この肉スライムも蘇生魔法までは使えないだろう。
周囲を見回せば仲間達の死体が転がっている。
特に自分の自爆に巻き込んでしまったリーダーの死体の損壊が酷い。
彼等を救うには、直ぐに蘇生魔法の使える大神官の元へ運び、多額の寄付金を収めなければならない。
だが自分は破門された身である。
罪人ではないが、もう二度と神殿には立ち入れない。
様々な理由から彼等を救う術はもう無いのだ。
「皆、すまない⋯」
自分だけ生き残ってしまった事に罪悪感と後ろめたさを感じるが、此ればかりは割り切るしかない。
「ありがとう」
元神殿騎士は去る。
冒険者ギルドに報告しなければならない。
仲間達の死と、吸血鬼の討伐について。
(⋯ルーに追いつけたら、口止め出来るかな?)
モンスターとは云え、命の恩人を売るのは気が引ける。
彼は仲間達の遺品を一部回収すると、足を引き摺りながら帰還していった。
⋯ぷるんっ⋯
魔王ヴォロスの自我はまだ観測されず。
その光属肉塊は何を思うのか?
娘を持つ父親としての同情か?
ただの気紛れか⋯
「御父様」
愛娘の呼び掛けにぴょいんと飛び跳ねながら移動する。
いつの間にかエリザヴェータが側に居た。
「新しい母体を確保しましたわ。早速孕ませましょうね」
幼女にしか見えない半吸血鬼が胸に飛び込んで来た夫を抱き締めトコトコと歩き出す。
直ぐに影に沈んでも良いが、久しぶりに父とこうして歩けるのだ。
もう少し楽しみたい。
「御父様とのお散歩?我が子のお散歩デビュー?夫とのデートかしら?一粒で三度美味しいとは」
エリザヴェータが抱き締めた光属肉塊に口付けする。
「うふふ、どんな御父様がお産まれになるのかしら?」
獣人と吸血鬼の間の子だ。
さぞや強力な個体になるに違いない。
「あら?御父様?大分強くなりましたわね。流石ですわ」
微笑ましく最初のお散歩を見守っていたが、犯罪吸血鬼を始末したり人間を癒したり、生前と変わらない行動にホッコリしたものだ。
その過程で光属肉塊が光魔法を学習したのを確認した。
直に触れてみると魔力もかなり上がっている。
「うふふ、頼もしいですわ。旦那様」
エリザヴェータはコロコロと鈴を鳴らす様に笑うと影に沈み込む。
そしてゆっくりと自が領域へと降り立つ。
「ひっ!ひああっ!?やだやだやだやだぁぁあああっ!」
其処には先程囚えた獣人の娘が、肉塊と触手肉塊に抑え込まれていた。
「あら?同期しているのね?分霊出来てるのかしら?」
産まれは違うが全てヴォロスの転生体だ。
地上での出来事と記憶や経験を共有しているのかも知れない。
新しい母体であるからてっきりもう犯して孕ませているかと思ったが。
「そうですわね。この御父様が一番優秀ですし」
光属肉塊をルーガルーに向けて解き放つ。
「御父様。さぁ、子作りの時間ですわ」
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
影血迷宮ドゥンケルハイトに、ヴォロスの四人目の母親が産まれたのであった。
( ・ิω・ิ)おぱでーす!




