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第12話 新たなる魔王の産声

(*´ω`*)おぱようございます!


「ぐはははははははっ!我こそっ!新たなる魔王であるっ!」


 紅血魔王領ブルートヘイム。

 その国境付近に吸血鬼が現れた。

 目撃情報から討伐クエストが発生。

 派遣された冒険者達が夜明け前の最も昏い時間に遭遇した吸血鬼は、男性型であり唇から血を滴らせていた。

 足元には旅人だろう干乾びた男性の遺体が転がっている。


「強気だな。まだ夜だからな」

「アレが魔王?」

「まさか。聖人が倒した筈だろう」

「新たなって言ってるよ」

「あー⋯出るよな。あー云うの」


 中堅冒険者パーティーが会話をしながら布陣をする。 

 会話は軽い感じだが油断無く構える。

 七ヶ国同盟軍による魔王討伐は聞いている。

 彼等は別に漁夫の利や火事場泥棒を狙っていた訳ではないが、仕事の匂いを感じて国境沿いに構えていた。

 人や物が動く時は金が動く。

 事件が増えて、仕事も増える。

 実際今、吸血鬼が現れた。

 近隣の村の娘や旅人に行方不明者が出ている。

 恐らく犯人は目の前の吸血鬼だろう。

 正義感でなく、自分達で倒せそうだと判断してのクエスト受諾だった。


「そうですね。そこ迄の魔力は感じません。低位の野良吸血鬼かと」

「まぁそーだろぉな」


 鑑定魔法の使い手が前方でふんぞり返っている吸血鬼を鑑定する。

 自分の扱える低精度の鑑定魔法が通る時点で雑魚だ。

 鑑定魔法は魔力に差が有ると跳ね返される。

 更に上位の吸血鬼は災害級と云って良い。

 目を合わせただけで魅了され自ら餌に成りに逝ってしまう。

 軽い魔法耐性のバフは掛けているが、パーティーの誰も魅了を受けた様子は無い。


「紅血の魔王は部下や私兵はほとんど持たず、ほぼ全て自分の眷属で賄っていたらしい。眷属っつーか分身体だな。ガチでバケモンだよ。魔王も、それを倒した聖女も」

「つまりアレは?」

「末端だな。魔王の方針に従順な親人間派の吸血鬼は何匹か居たらしいがほとんど滅ぼされたろ。アレは⋯友好的じゃなさそうだが⋯抑える頭が居なくなってはっちゃけたんだろな」


 パーティーリーダーの読みは概ね合っていた。

 魔王程の大物はそうそう居ないが、例えばある地域のボスモンスターを討伐すると、跡目争いで荒れる。

 今迄大人しくしていた別個体が暴れ出すのだ。

 そう云う流れは人間もモンスターも同じなのだろう。


「アンデッドか。なら頼りにしてるぜ?」

「⋯ああ」


 リーダーが新人の肩を叩く。

 対アンデッドに特化した新人冒険者。

 新人とは云いつつも年齢は二十代半ば程。

 礼儀正しく生真面目でそれなりに戦える。

 訳アリ冒険者と云う奴だ。


「読みが当たった。当たっても嬉しくはないが」


 低位の野良吸血鬼とは云え冒険者には脅威だ。

 ヴォロスの不殺の方針に従う親人間派の吸血鬼は確かに居た。

 彼等は人を襲わず、税として与えられた血を飲むのみ。

 魔王ヴォロスの分身体ではないので陽の光の下は歩けなかったが、夜の住人としてブルートヘイムにて共存していた。

 勿論人間を隣人として愛していたのはそれこそヴォロスぐらいだった。

 傘下に下った吸血鬼達は、神殿の執拗な追跡に疲れ果てていた。

 神殿は悪魔を特に毛嫌いしていたが、教義や儀式で行う悪魔祓いが対吸血鬼用のものも多かったのだ。

 セイン教の布教により、人間から血を吸うのも大変になる。

 そう云った訳で彼等は難民の様なものだった。

 人とは適切な距離を保っていた。

 理性を失い人間を襲えばヴォロスの眷属に捕まる。

 吸血鬼は吸血鬼の殺し方を知っている。

 魔王ヴォロスなら復活出来るが、普通の吸血鬼は灰にされて海に撒かれたら復活出来ない。

 肉片を犬に食われたら復活出来ない。

 保身の為とは云え人間と共存する吸血鬼達が集まっていたのだ。

 そんな平和主義者達にも異端者が混ざる。


「人間を喰って何が悪いっ!」


 その吸血鬼はブルートヘイムの国民を喰い殺した罪で投獄されていた。

 魔王ヴォロスが倒された事で解放されたのだ。

 彼は常々、仲間の親人間派吸血鬼達に愚痴っていた。


「人間等我等の餌、家畜に過ぎぬっ!何故与えられなければならぬ?追い立て弄び恐怖に歪んだ顔を見ながら牙を突き立て血を吸い殺す!それが我等の本懐ならばっ!」


 彼は人間から血を恵んで貰う様なシステムに不満を感じていた。

 しかし、圧倒的な格上であるヴォロスには逆らえない。

 しかし外に行けば冒険者や神殿騎士に狩られる。

 ストレス発散に処女を少々摘み食いしただけだ。

 獲物が追い詰められ恐怖に慄く姿を楽しみながら血を吸い尽くす。

 偶に興が乗れば犯しながら血を吸い殺す。

 週一程度のリフレッシュ生活を続けていたのだが、魔王にバレた。

 殺した人間の数だけ処刑される運びとなる。

 陽の光を浴びて灰になり、復活した頃に再び陽の光で焼き殺される。

 そして刑期が終わる頃に完全に消滅させられる。

 しかし彼にとっての幸運が二つ起こる。

 魔王ヴォロスの敗北と、もう一つは⋯


「夜が明ける」

「なんかずっと喋ってるから」

「死ね。吸血鬼」


 空が白み始めた。

 戦闘が始まる前に終わってしまう。

 朝日を浴びる前に逃亡するかも知れないが、仲間の獣人が匂いを覚えたし、鑑定魔法の使い手が魔力パターンをマーキングした。

 逃げても住処を特定して奇襲を掛ければ良い。


「朝日だ」

「夜が明けたぞ」


 山の稜線から光が差す。

 どんな強力な吸血鬼も一発で死ぬ太陽の光の力。

 冒険者達は吸血鬼の逃亡に備える。

 何日掛けても討伐する覚悟は有るが、短期決戦で済むならそれに越したことは無い。

 だが⋯

 

「ふっふっふっ⋯」

「何っ!?」


 吸血鬼が灰にならない。

 吸血鬼のフリをした変人と云う線も無い。

 攻撃を仕掛けたが霧になって透過した。

 頭へのヘッドショットだった。

 鑑定魔法でも闇の魔力を強く示したのだ。

 此れはいったいどう云う事なのか?


「ぐはははははっ!その顔が見たかったぞっ!人間っ!」


 その吸血鬼にはなんと、陽の光への耐性が出来ていた。

 何度も陽の光で焼き殺されてるうちに身に付いたのだ。

 絶食させられ血抜きをしたのも良い方向に働いた。

 人間の血を吸わない期間の長さが闇の魔力を低くしたらしい。

 偶然の産物で有るが、その事に気付いた吸血鬼は歓喜した。

 あの憎き魔王にすら感謝した。

 魔王ヴォロスは人間の国を治める過程で露呈してしまったが、本来ならこれは伏せておくべき切り札である。

 太陽光は絶体絶命の弱点である。

 この前提が覆される事程恐ろしい事は無い。

 しかし吸血鬼は自己顕示欲が強かった。

 魔王が消えた直後に自分が同じ能力を手に入れたのだ。

 

「我は太陽を克服したっ!無敵の吸血鬼也っ!」


 我慢出来ずに人間を襲う様な者が、これを自慢しない事は無理だった。

 バラしても知った人間を皆殺しにすれば良いと軽く考えていた。

 

(くっふっふ。驚いておる。怯えておる。我こそ真の魔王っ!)


 勿論吸血鬼なので夜の方が強い。

 陽の光を浴びると灰にはならないが当然弱体化する。

 しかしそれ以上に、自分の凄さを見せつけられる事で自己顕示欲が満たされる。

 年若い処女の血を吸うよりも快感だった。

 ヴォロスが死んだ今、恐らく太陽を克服した吸血鬼は自分だけの筈だ。

 確か魔王の娘である半吸血鬼も陽の光の下を歩けたらしいが、純粋な血族でないからカウントされまい。

 彼はもう自由だ。

 太陽を克服した吸血鬼。

 自分こそ新たなる六芒魔王陣に相応しい。


「光魔法だっ!」

「応っ!」


 新人冒険者が剣を構える。

 胸の前で両手で握り、天へ掲げ持つ。


「光よっ!我等に魔を祓う力を与え給えっ!」

 

 光魔法による属性付与である。

 此れにより味方の持つ武器が光の属性を持つ魔剣と魔矢となる。

 弓手が矢を放つ。

 先程牽制で放った時は霧化で回避されたが、今度こそ吸血鬼を貫き灰に変える。 

 吸血鬼は油断も慢心も有ったが戦い慣れてはいた。

 攻撃を受けた瞬間にオートで霧化しダメージをキャンセルする術式は組んでいる。

 それが効かない。


「効いてる効いてるっ!」

「陽の光は駄目でも光魔法ならダメージは通るぞっ!」

「ちっ!小癪なっ!」


 吸血鬼が面白くなさそうに鼻に皺を寄せる。

 直ぐに対応を始めたのが気に入らない。

 こんな展開ではピンチだとは思わないが、立ち直りの早さに苛立つ。

 もっと自分を恐れさせたい。


「やはり狩るなら生娘に限るな」


 女が少ないのもつまらない。

 冒険者のうち女は二人。

 一人は匂いから非処女。

 もう一人は処女だが獣人の娘だ。

 年増臭いし獣臭いが我慢しよう。

 最近は男しか喰ってないので女に飢えていた。

 この際、年齢や種族まで贅沢は言えまい。


「良かろうっ!我が力思い知れっ!」


 吸血鬼が闇の魔力を解放する。

 彼は血だけでなく戦いにも飢えていた。

 家畜に過ぎない人間共が徒党を組んでいたから、仕方無くあのヴォロスの軍門に下っていただけだ。

 光魔法を操るだけで吸血鬼に勝てる等と勘違いし驕り高ぶる馬鹿共を教育する。

 

「来るぞっ!」


 そんな時だった。


「なんだっ!」

「新手かっ!」


 両者の中間地点にナニカが現れた。


「スラ⋯イム?」

「あんな汚いスライムなんて⋯居たっけか?」


 まるで内臓や筋肉で固めた肉塊が蠢いている様だ。

 スライムとしか云い様も無いのだが、スライムにしては半透明ではない。

 見れば見る程不思議で不気味なモンスターである。

 スライムは捕食した物によって属性を変えるタイプも居る。

 臓物のみを喰い漁るスライムが居たら、もしかしたらああ云う姿になるかも知れない。


「魔王と聖女のぶつかり合いで魔力の磁場も乱れてる。突然変異モンスターが産まれてもおかしくない」

「捕獲は無理でも死体で良いから持ち帰ろう」

「あの吸血鬼の眷属?⋯て訳じゃなさそうだな」


 吸血鬼はその肉のスライムを凝視したまま固まっている。

 一応吸血鬼も警戒しつつ、冒険者達はその肉スライムに対処する事にする。

 未知の新種モンスターは登録すると報酬が出るし、光魔法が通じると解った吸血鬼よりも優先度は高い。


「鑑定―――出来ない?なんで?」


 鑑定魔法持ちが戸惑っている。

 鑑定魔法が通らないのは相手に跳ね返す魔法防御力が有るからと、実力差に大きく開きが有る時だ。

 ちなみに今固まってる吸血鬼も、しようと思えば鑑定魔法を跳ね返せたが、自己顕示欲を満たす為に『視』られる事を許可していた。

 吸血鬼が本気で逃げて隠れれば冒険者達に追跡は不可能であった。

 この時点で逃亡すれば吸血鬼は確実に生き残れた。

 しかし、魔王ヴォロスの治める国で無法を働く様な愚か者に、そんな考えは生まれない。


「ば、馬鹿な、有り得ん⋯」


 逃げろと叫ぶ本能を、漸く取り戻した自尊心が抑え込んでいた。


「取り敢えず、撃ってみるか」

 

 弓手が矢を引き絞り、放つ。


 ⋯ぷるんっ⋯


「なにっ!?」

「なん、だと?」


 肉スライムに矢が跳ね返された。

 弾力性が有れば確かに矢は効かない。

 しかし、今の一発は違う意味を持つ。

 

「光魔法が効かない?闇属性じゃない?」 

 

 見るからにアンデッド臭い見た目なのに、違う属性のモンスターなのだろうか? 


「―――いや、闇の眷属だ」


 新人冒険者が断言する。

 彼はバフを掛けた対象の状態をある程度感知出来る。

 鏃に掛けた筈の光属性付与が、確かに消えた。

 あの肉スライムの持つ闇の魔力と反応したとしか思えない。


「なんと邪悪な⋯あの吸血鬼よりも⋯悍ましい邪悪さを感じる」


 単純に強いとか恐ろしいとかではない、なんとも云えぬ不気味さを感じる。


「それは神殿騎士としての勘か?」

「元神殿騎士だ」

 

 元神殿騎士の冒険者が剣を収めると片手を構える。

 掌に光が収束していく。


「光よっ!」


 元神殿騎士の掌から撃ち出された光弾が肉スライムに真っ直ぐに伸び、着弾する。

 しかし⋯


「ば、馬鹿なっ!?吸収したっ!?」


 今度こそハッキリと解った。

 あの肉スライムは―――光の属性を持っている。

 光魔法を無効化したり打ち消したりするアンデッドモンスターは他にも居るが、光の魔力そのものを吸収するアンデッド等見た事も聞いた事も無い。

 相反する属性で相殺させるのとは訳が違う。

 例えば火事を水を掛けて消すのと、火を吸い込んで消してしまうのでは全く違う事と同じだ。


「気を付けろっ!見た目通りの雑魚じゃないっ!」


 下手をすれば吸血鬼以上の存在だ。


「陽の光を受けても平気⋯アンデッドじゃないんじゃ」

「いや、この強烈な闇の魔力⋯あの吸血鬼以上だぞ?」


 鑑定魔法の使い手が弱々しく反論するが元神殿騎士が否定する。

 一度でなく二度も攻撃を受けたからだろうか。

 肉スライムからジワジワと滲み出る様に嫌な気配が広がりつつある。


「ば、馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!」


 肉スライムの出現と同時に静かになったままだった吸血鬼が突然吠える。

 吠えると云うか、悲鳴に近い絶叫だった。


(復活?再生?いや、有り得ぬっ!)

 

 考えられるとしたら―――

 選択肢は限られる。

 従う?

 逃げる?

 戦う?

 逃げるのが最善、しかし三日天下等冗談じゃない。

 それにパワーアップする食料ならすぐそこに有る。


「!?っぎゃあああああ⋯ああ⋯あ⋯」

「!?てめぇっ!」

「くそっ!男の血は不味いっ!」


 吸血鬼は弓手の冒険者の首筋に喰らい付き豪快に血を啜る。

 霧化に依る瞬間移動である。

 陽の光に晒されている分、変身へのタイムラグが大きいが出来なくはない。

 早く人間共の血を吸い尽くし、パワーアップしてからあの―――魔王ヴォロスと同じ魔力を持つ肉塊を滅ぼさねばならない。

 此処で魔王の残骸を倒し、名実共に魔王の後継者となるのだ。


「くそっ!どっちもこの場で討伐するっ!」

「このままで終われるかぁっ!」


 乱戦へと突入する場にて、不動の肉塊が―――


 ⋯ぷるんっ⋯


 と、一震えしたのだった。

(*´ω`*)おぱでーす!

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