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第3話 エリザヴェータ処女懐胎

(*´ω`*)おぱようございます。

「御父様っ!ああっ!消えるっ!消えてしまうっ!」

 

 エリザヴェータが焦る。

 紅血の魔王ヴォロスの娘として産まれて五十年余り、ここまで追い込まれた父の姿は見た事が無かった。


「血をっ!私の血を吸って下さいっ!」


 エリザヴェータはドレスの上半身を引き千切り、伸ばした爪で首筋から乳房までを一気に引き裂く。

 溢れ出る血潮にヴォロスの魂を押し当てる。

 魂だけとなっていても、魔力が豊富な血液なら吸収出来る筈⋯だったのだが⋯


「くっ!駄目っ!なんでっ!?」


 せめて血の一滴でも有ればそれを蛭に変えて己の血を吸わせ回復させられた。


(良い⋯もう良い⋯)

「御父様っ!?」

 

 肌を触れ合わせた魂から、魔力の振動によりヴォロスの意識が流れて来る。


(それにコレは聖女の呪いか聖剣の効果か⋯血を吸えぬ様だ)

「吸血が、封印⋯そんな―――」


 ヴォロスも最初から諦め自暴自棄になった訳ではない。

 雲散霧消する血の一滴に乗り移り、蛭に変化し死体の血を吸う。

 脳味噌も心臓も失った状態でも、吸血鬼の本能でそこまでの行程は自動で行っていた。

 しかし、出来なかった。

 吸血行為は人間への攻撃とされるのか、死体ですら血を吸えない。

 今愛娘の素肌に触れても吸血行為が行えない。

 吸血鬼にとって吸血は食事と同義。

 自然の摂理。

 殺し合いも自然の摂理。

 神聖魔法には罪人に殺人や傷害を禁じる封印魔法も有る。

 此れはその類だろう。

 此れは正に聖女の封印だろう。

 自分達のルールを強制的に押し付ける。

 

(いや、正確にはクルースニクとしての力か)


 聖女として育てられたらしいノエルの、元来備わっていた特異点としての力だろう。

 吸血鬼特攻のクルースニクの力。

 魔王特攻の聖女の力。

 それが合わさった故の封印。

 

(血を吸えぬ。此れは確かにどんな破壊力の有る魔法より強力だな)


 先程自身の肉体と自国領を吹き飛ばした対消滅爆発もヴォロスの魂までは滅ぼせなかった。

 もしもアレ以上の破壊力の有る魔法でも同じ。

 勿論、ただ産まれただけのクルースニクにここまで追い込まれはしない。

 吸血鬼であり魔王でもあったヴォロスへの、正に特攻。

 完全敗北である。


(他者から奪うだけの私の生涯、お前を遺せた事だけは誇りだ。エリザヴェータ)

「嫌っ!嫌です御父様っ!」


 エリザヴェータが泣き叫ぶ。

 彼女が今居る空間は影を通してやって来た彼女だけの世界。

 影血迷宮ドゥンケルハイト。

 影を渡ってワープする能力も有るが、更にそれを発展させた業。

 隠れ里、術者固有の結界である。

 ここなら彼女は無敵である。

 どんな事も思いのまま。

 肉体の傷も瞬時に再生出来る。

 通常空間では出来ない変身能力も使える。

 しかし、その彼女の能力でも今の父を助ける事が出来ない。

 

「絶対に、死なせないっ!」


 優しかった父。

 尊敬する父。

 好戦的な魔王達には日和見と揶揄され人間主義と忌み嫌われ様と、愚かで無垢な人間達を庇護していた。

 エリザヴェータの母の死後は妻を娶る事無く、父娘二人だけの穏やかな日々を送っていただけなのに。


「許せぬ」


 自分達を裏切った人間達への憎悪が燃えかけるが今は抑える。


「転生魔法を行います」

(それは、禁術だ)

「解っています」

(止せ、お前も死ぬかも―――)

「パパの居ない世界なんて嫌なのっ!」

(エリザヴェータ⋯)


 エリザヴェータは父の言葉を無視し、彼の魂を己の下腹部に押し当てる。


「吸収⋯同化」

(!?自分を素体にするつもりか!?止せ、愛娘を犠牲にしてまで黄泉帰るつもり等――)

「素体ではなく、母体にします」

(なに?)


 ヴォロスはエリザヴェータが、自分の肉体に己を憑依させるのかと思った。

 魂を定着させると、その肉体はその魂を主と誤認する。

 しばしば起こる現象だ。

 死んだ肉体に違う魂が宿る。

 もしも人間で起こればそれは単なるアンデッドの出来上がり。

 しかし力有る魔族の者が行えば、魂の形に引っ張られ肉体が変化する。

 ヴォロスの魂はエリザヴェータの魂を養分にし、肉体の遺伝情報をも書き換えてしまう。

 それを危惧したが、どうやらそうではないらしい。  


「御父様、貴方を、産み直します―――」

(なん、だ、と―――)


 ヴォロスの意識が遠退く。

 エリザヴェータの胎内、子宮に有る卵子に憑依させられたからだ。

 勿論卵子だけでは受精出来ない。


「私の血を媒介とする」


 実父の遺伝情報を己の血で補完する。

 卵子の素となる原始卵胞は、女性が胎児の時に一生分作られる。

 つまり、彼女の卵子は彼女の母の肉体の一部とも云える。


「術式の解釈を拡大します」


 自身の卵子を死んだ母と同一存在とし、自身に流れる血を父と同一存在と仮定する。

 己の胎内を更に一つの世界と仮定し、其処で術式を編み直す。


「此処は私の世界。私の望む結果を―――出すっ!」


 母と父と娘、短かったが楽しかった家族団欒の想い出を呼び水にヴォロスの魂を定着させる。

 先ずは死にたがる父の考えを改めさせる。


「御父様っ!私の中に帰って来てっ!御父様―――パパっ!」

 

 エリザヴェータは変身能力が無い。

 霧にも成れなければ動物にも成れない。

 しかし自分だけの領域、この暗黒の影の世界、影血迷宮ドゥンケルハイトならば話が違う。

 此処でなら通常空間の物理法則を、魔法的制約すら無効化して思い通りの結果を導き出せる。


 ドクンッ!


 エリザヴェータの腹が脈打つ。

 受精は成功。

 細胞分裂が始まる。


「ぐおおおっ!?」


 エリザヴェータが苦悶の声を上げる。

 処女懐胎である。

 人間からの求愛も無くは無かったが、敬愛する偉大な父と比べてしまい、どんな男とも恋仲になる事は無かった。

 ヴォロスもまぁ百年ぐらいは独り身でも良いだろうと気にも留めてなかった。

 それがこの土壇場で活きる。

 神殿の教えで神聖視される処女懐胎。

 その認識が純白の聖女、クルースニクノエルの封印の穴を突いた。

 此れは吸血鬼の復活ではなく、法側の神の御業、神聖な行いとして抑制対象から除外される。

 しかし―――


「成長、加速⋯細胞分裂⋯加速⋯ぐぐっ⋯成、功」


 エリザヴェータの肉体がどんどん痩せ細っていく。

 いくら自由自在に事象を支配出来る己だけの空間とは云え、処女懐胎して父親を産み直す等前代未聞である。


「はぁ、はぁ、はぁ⋯このままでは御父様を産み落とす前に、私が死んでしまう⋯」


 死ぬのは怖くない。

 しかしそれでは父を無事に産み直せない。


「⋯仕方無い⋯」


 エリザヴェータが胸に手を当てる。

 すると、豊満だった胸が小さくなっていく。

 手も足も縮み、背丈も縮む。


「おっぱい出ると良いけど⋯」

(私も最初は母乳だったらしいけど⋯御父様はどうなのかしら?)


 半吸血鬼であるエリザヴェータ。

 彼女の母は産んで暫くは母乳でエリザヴェータを育てていた。

 牙が生え揃って来て乳房に噛み付かれても、頑固に母乳を上げ続けたらしい。


「ふふ、私の性格は母似か」


 長命種らしく何処かぼんやり天然気味の父と違い、人間であった母親はとてもシャキシャキしていた。

 貴族ではなく平民だった。

 今際の際でも吸血鬼化を拒み、人間として死んだ。


『パパをお願いね。この人、結構寂しがり屋だから。じゃなきゃわざわざ人間を守る魔王なんてやってないもの』

 

 そう言って笑いながら死んだ母を、エリザヴェータは父同様尊敬していた。

 そんなエリザヴェータの十代ぐらいだった肉体の見た目が、一桁年齢まで下がる。

 質量保存の法則⋯とはまた違うが、魂の総量の調節だ。

 父を受肉させる為に、魔力のリソースをほとんど回す。


「良かった。成功した」


 真っ平らのぺったんこになった乳房とは対照的に、下腹部が膨らんでいく。


「ぐぅぅうううううっ!?」


 破水する。

 もうすぐ出産。

 新たなる魔王の誕生だ。

 正に自然の摂理に反する蛮行。

 そもそも余り長い時間を掛けて産む事は出来ない。

 倒したと思った紅血の魔王が生きていたと知られたら、直ぐ様追撃の手が迫るだろう。

 身重の自分が逃げ切れるとも思えない。

 他の魔王達の動向も気になる。

 不死身や不老不死同士であるし、縄張りも違うので争いにならなかっただけだ。

 ブルートヘイムへ侵攻して来てもおかしくない。


「本当に⋯愚か者共め⋯父の努力を、無にして⋯許せぬ」


 家畜やペットへの情愛に近かったが、父は間違い無く人間を愛していた。

 本人は否定するだろうが。

 ただ現実として、紅血魔王領ブルートヘイムが有ったからこそ、人間と魔族との均衡は保たれていた。

 人間の国々を攻めるには先ずはブルートヘイムを落とすしかない。

 魔族の領域を攻めるには先ずはブルートヘイムを潰すしかない。


「まさか、魔王の誰かの陰謀?いや、それは無いか⋯」


 魔王それぞれが人間の軍隊一つと同等以上の能力を持つ。

 変な陰謀を巡らす連中ではない。

 邪魔なら直接殴り込んで来るし実際そうして来た。

 今回の件は完全に人間の欲望の暴走だ。


「己の欲望で滅べ、愚か者共が」


 憎々しげに虚空を睨みながらエリザヴェータが吐き捨てる。

 そんな彼女の大きな腹が蠢く。


「おっと。ふふ、待ってて下さい御父様。直ぐに産み直してあげますから」

 

 まるで神殿のステンドグラスに描かれた聖母の様に慈愛に満ちた笑顔を浮かべ、己の腹を撫でる魔王の母。


 ⋯トプン⋯


「きゃああああああああああっ!?」


 影血迷宮ドゥンケルハイトの天井から、女騎士が一人落下して来た。


「ぐはっ!?な、なんだ此処はっ!?」


 まだ十代の乙女と思わしき女騎士が剣を引き抜き警戒する。


「吸血の制約が有るのは御父様に対してだけの筈⋯」


 深紅の瞳で食料を見つめる半吸血鬼。

 お腹が減っている。

 それはそうだろう。

 彼女は今敬愛する父を、愛する我が子を胎内で育て上げ、産み落とす寸前なのだから。


「血が、血が足りないの」

「ひっ!?きゅ、吸血鬼っ!?い、生き残りが居たのかっ!?だ、誰かっ!支援をっ!なんだっ!?魔法がっ!身体強化が出来な―――」

「我が血、我が糧となる事を光栄に思いなさい。人間」

「ひっ!?来るなっ!来ないでっ!嫌っ!誰かっ!誰かぁああああああああああっ!」


 哀れな女騎士の悲鳴が、影血迷宮ドゥンケルハイト内に響き渡った。

(*´ω`*)おっぱー!

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