第1話 紅血の魔王ヴォロスVS純白の聖女ノエル
おぱようございます!(≧∇≦)b
「貴方の悪行もここまでよっ!紅血の魔王ヴォロスっ!貴方は私が倒すっ!」
「面白いっ!やってみろ!純白の聖女ノエルっ!」
深紅のドラゴンが口腔を開き、肉体を構成する血液を魔力へ相転移する。
その過程で発生する熱量に指向性を持たせ、疑似的なドラゴンブレスを再現する。
「我が身を守れっ!聖鎧よっ!」
灼熱のドラゴンブレスが純白の聖女に襲いかかるが、白銀の鎧に防がれる。
具体的には彼女の目の前で二つに分かれ、攻撃が到達する事も無い。
鎧の上から、湯気の様な陽炎の様な不可視のオーラが纏われており、それにより守護されている。
コレは鎧の効果ではなく、装備者本来の力である。
聖鎧には装備者の能力を底上げするバフ効果は有るものの、そこまで万能ではない。
白銀の鎧よりも美しい銀髪を靡かせ、金の瞳で魔王を睨む猛き聖女。
魔王ヴォロスの二十分の一も生きていない聖女ノエルが堂々と言い放つ。
「私はクルースニクよ。吸血鬼の王である貴方への特攻カード。私は今日この日の為に産み落とされ育てられた。貴方を倒す為に生きて来た。諦めなさい」
「そこまでやるか、人間め。幼気な少女に重荷を背負わせるとは。⋯哀れな」
ヴォロスが敵意に満ちた瞳で吐き捨てる。
その嫌悪の矛先は、十代の少女を戦場に送り込み安全な後方でふんぞり返る為政者達へと向けられていた。
「笑わせるなっ!多くの無辜の民を家畜同然に扱う吸血鬼なんかに同情される謂れは無いっ!」
純白の聖女ノエルが激昂し吠える。
全身を覆っていたオーラが両手に握る聖剣に集中していく。
勝負をかける気だろう。
(どうもおかしいと思えばこの娘、クルースニクか。些か不味いな⋯)
太陽を克服した吸血鬼、紅血の魔王ヴォロス。
そんな彼にも弱点は多い。
中でもクルースニクとの相性は最悪だ。
クルースニクは吸血鬼の天敵として産まれて来る、人類の特異点の一つである。
退魔全般の能力は有るが、特に吸血鬼に対して鬼の様に強いカード。
正に鬼札、正しく切り札である。
純白の聖女ノエルの噂はヴォロスの耳にも一応入ってはいたが、まさかクルースニクであり、自分への切り札とは予想もしていなかった。
(殊更人間主義に傾倒はしていないが、他の魔王達に比べて私はかなり友好的な筈だったのだが⋯)
人間の領域に、とある魔王の治める土地が有る。
人間の列強国に囲まれ、隣接する魔の領域からモンスターも攻めて来る。
正に魔境との境目、地獄の一丁目である。
しかし絶妙な政治と軍事のバランスで、半永久的な平和が保たれていた。
その名も紅血魔王領ブルートヘイム。
六芒魔王陣の一角、紅血の魔王ヴォロスの治める国である。
民は税金の代わりに血を納める。
魔王は眷属を従え、野良モンスターや他国からの脅威を防ぐ。
そうして領主たる魔王は領民である人間達を庇護下に置いていた。
しかし其処は今現在、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
古来より肥沃な大地は豊穣を齎し、ほぼ無税で平穏に暮らせる人々。
人間の国々は長年、そんなブルートヘイムを狙ってはいたが、強大な魔王の存在に手をこまねいていた。
だがじわじわと退魔信仰が広まり反魔王の思想が領民に浸透する。
魔王は殺されない限り不老不死である為、危機感が薄れていた。
そこを突かれたと云って良い。
最強魔王の一角である彼の敗因は、人間の欲深さを理解していなかった事だ。
人間を襲う好戦的な魔王ではなく、富と豊穣の約束された土地を持つ友好的な魔王を討つ選択をする等、人間ではない彼には死ぬまで理解出来ない事であった。
(国境に派遣した筈の眷属達も守りに付く前にどんどん減っている。亡命する者達の護衛に付けた眷属も同じく、だ。あちらの聖人も純白と同等の戦力であるか)
人間の国々は同盟を組み、七ヶ国共同で超常の力を持つ七人の聖人聖女を生み出し、創り上げた。
退魔滅殺七聖人。
不老不死の魔王達には無い人間だけの力。
寿命も短く百年も生きられない弱き者。
その真価は進化の速度。
魔王ヴォロスは五百年を生きる超越者ではあるが、生ける伝承である彼は研究し放題。
ブルートヘイムは他の魔王領と違い人間の土地と地続きの為、諜報も忍び込み放題。
基本無垢だった領民も、潜入者達の洗脳扇動にコロリと騙され、支配者である魔王を悪と思い込まされていった。
そう云った裏切り者達は魔王から解放される事を夢見て外患誘致し、真っ先に殺された。
ブルートヘイムを攻める末端の兵士達にも、魔王こそ悪でありその国民は悪の手先であると浸透させてあったからだ。
「ヴォロス様っ!お助け下さ―――ぎゃあああっ!?」
「悪魔に魂を売った下衆共めっ!死で贖えっ!」
(また民が殺された。すまぬ――)
ヴォロスの魔力感知が及ぶ領都内のあちこちで、人間の兵士が人間を襲い女を犯し子供を殺している。
裏切りに加担した一部の人間以外は何も知らない者達が大半だった。
「眷属だっ!眷属が出たぁっ!?」
「吸血鬼の眷属がまた来たぞっ!だが昼間だから弱体化してるっ!殺せ殺せぇっ!」
「早く聖水持って来いっ!」
虐殺される民を助けに入るのは魔王の眷属だ。
血と魔力で作られた狼や蝙蝠、熊等の動物型の眷属が人間を助ける為に人間と戦っている。
そんなちくはぐな惨状が広がる地獄絵図。
(何故人は人同士で争うのか?我等魔王が殺した人間の数より、同族同士で殺し合った数の方が多いだろうに)
他国が悪疫や凶作に見舞われる中、健康に恵まれ作物も豊富な魔王の治める国。
周辺国は自国の不作や流行り病は魔王の呪いの所為だと騙り、ブルートヘイムの国民が自分達の恩恵を奪っているのだと喧伝した。
ヴォロスの眷属は彼の意思を反映してオートで動くゴーレムの様な存在。
実際に国を運営していた中枢の人間達は金や権力や女、時には家族への脅しに屈し、唯一の王を裏切る事となった。
何年もかけて少しずつ少しずつ魔王の包囲網は狭められていったのだ。
そして遂に投入された人間兵器。
「民を操り抵抗させるのは止めてっ!やっぱり国民を操っているのねっ!?人間同士で殺し合わせるなんてっ!この卑怯者めっ!」
「お前⋯本気で言っているのか?」
通信魔法か通信魔道具で連絡を受けているのだろう。
純白の聖女ノエルがヴォロスを睨む。
彼女の瞳は正義に燃えていた。
「?惚けるつもり?この悪魔めっ!」
「いや、もういい」
やや鈍いヴォロスも流石に理解した。
今目の前の聖女の耳には、魔王に操られた国民が抵抗しており、それを致し方無く殺しているとの連絡が入っているのだろう。
純白の聖女にはそう知らせる様に仕組まれているのだ。
真実を告げても魔王の言葉に耳を貸す筈等が無い。
「これも策の内か、人間め⋯」
ヴォロスの戦意が急激に削がれていく。
クルースニクである彼女を殺す気が起きない。
ただ利用されているだけの少女を殺せない。
(まさか⋯知っている、のか?)
此処数十年の研究で生み出された魔王特攻の聖人聖女達。
今回出撃したのは、三人。
その内一人は、未だに魔王に忠誠を誓う国民を反人類勢力として嬉々として殺戮している。
(コイツは知ってる側、黒だな)
もう一人はヴォロスの眷属を破壊して回り、戦力を削る事に専念している。
逃げる国民を見かけてもスルーだ。
(コイツは我が眷属のみで人間は殺していない。グレーではあるか)
ヴォロスは強者としての余裕が有ったが、それが裏目に出ていた。
国外脱出する者や、逃げ遅れ助けを求める民を救う為に眷属を新たに生み出し続け、弱体化し続けている。
同時に攻め込んで来た列強国に対応する為、眷属を生み出し続けてもいる。
可能な限り国民を守り一人でも多く助けようと、残り少ないリソースを割いているのだ。
(見事に嵌められたな。忌々しくはあるが天晴な采配よ)
退魔滅殺七聖人はそれぞれ癖が強く、とても連携等出来ない。
魔王討伐パーティーを結成するのでなく、三点同時攻撃し魔王の力を分散させる作戦が功を奏していたのは偶々だ。
いくら魔王と云えど魔力は無限ではないのだ。
勿論、宣戦布告が行われたのは日光が燦々と降り注ぐ晴天吉日。
日光を克服した吸血鬼の王であっても、ヴォロスにとっては不利な時間帯である。
そうして本来の全力の半分以下の能力にまで下げられた状態で、送り込まれて来たのがノエルだ。
後手後手に回った紅血の魔王ヴォロスに挑む、退魔滅殺七聖人、最強の呼び声高き者。
世界最強の聖剣を持つ、純白の聖女ノエル。
威力を上げた火炎放射も物ともせず、鎧には焦げ跡一つ付いていない。
「何度繰り返しても無駄よっ!お前の攻撃なんか効かないっ!」
(やはりドラゴンブレスでは無理か)
ヴォロスは厳密にはドラゴンに変身している訳ではない。
国民から長年集めた血税は魔力に一度変換して溜め込んでいた。
それを解放し血へと戻し、その血液で擬似的な肉体を形成してドラゴンに擬態しているのだ。
擬態しているとは云え、内臓や筋肉や装甲は実際のドラゴンかそれ以上の強度を持つ。
何より血液、流動体であるので普通の攻撃は無効化出来る。
本来ならばどんな物理攻撃も効かない筈であった。
しかし―――
「ハァァァァァッ!」
純白の聖女が操る聖剣が深紅のドラゴンの後ろ脚を斬り飛ばす。
「グルォォォォォォォォォォォォォッ!?」
(!?再生出来んっ!)
斬り飛ばされた後ろ脚は空気中に霧散し塵となり、断面は焼き切られた様に焦げ付き固まる。
(いかんっ!)
ドラゴンの体が倒れ行く先には街並みが有る。
逃げ遅れた領民がまだ居る。
ブルートヘイムを囲む軍勢は国民を中に押し留める策を講じていた。
これも人間同盟国の策である。
足手纏いを大量に残してあるのだ。
魔王ヴォロスは領民を大切にしている。
その情報に基づいた作戦だろう。
ヴォロス本人は実はそこまで人間主義ではない。
魔の者の中には人間を真に愛する者も居る。
ヴォロスも人間の妻を何人か娶った事も有る。
子供も何人か成した。
孤児が居れば食料を与えた。
領民が困っていれば助けた。
しかしそれは王として当たり前の事。
ニュアンスは少し違うが、人間が家畜やペット、奴隷を大切にする様な感覚に近い。
罪人にも甘い事で有名だった。
人間同士の犯罪にもあまりピンと来ないヴォロスは犯罪者を死罪にする事も無かった。
戦争で人間を殺す事はあっても、自国民の犯罪者に与えるのはせいぜい長期無償労働だ。
衛兵代わりの彼の眷属が治安維持を二十四時間守っており、そこらの国よりも犯罪率は低い。
血を操る魔王の能力は治癒能力に通じており、下手な神官よりも人間を助けられる。
突発的な喧嘩や事故での死者もほぼ出ない。
健康な肉体から得られる血こそ上等であるから、国民の健康管理にも気を配っていた。
それらが彼の破滅に繋がったのは皮肉にも程が有るだろう。
税金はほぼ無く犯罪率も低く、病や怪我や争いで死ぬ事もほぼ無い。
貧しくても食料を得る代わりに血を差し出せば暮らしていける。
人の為に尽くしてるつもりも無かったが、彼の統治する国は他の人間の国と比べても遥かに楽園であった。
魔王ヴォロスは人間の常識に疎い為にやり過ぎたのだ。
人間は豊かな他人が居ればそれを妬み、奪い踏み躙る生き物なのだから。
「グオオオオオオオオッ!」
ヴォロスはドラゴンの肉体を一度分解する。
このままでは領民を建物ごと押し潰してしまうからだ。
彼は、この時点でもまだ余裕が有った。
もしも彼が自国民の犠牲も無視して戦えば結果は違ったかも知れない。
国境を攻めて来る人間同盟の相手をしてる眷属を分解し、その血液と魔力を此処に集めれば戦況を覆せたかも知れない。
しかし彼は吸血鬼であり魔王であり、人間達の主であった。
吸血鬼として生きて五百年。
人間の妻を娶り人を襲い殺すのを極力避ける様になる。
そんな彼の元に人が集まり、村と成り、町と成り、都市と成り、国と成った。
襲い来る魔王を返り討ちにしたら後釜の魔王と成った。
魔の者の王であり人間の王でもあった事が、彼の生涯最大最期の失敗であった。
「うわあああああああああああああっ!」
「ぬっ!?」
ドラゴンの巨体が無数の血の雫と成り空気中に霧散する。
雫と化した血液もそれ一粒で強大な魔力を持つ弾丸だ。
つまりドラゴンの擬態を解除しても弾幕は維持されている筈であった。
相手が、クルースニクでなければ、純白の聖女でなければ。
「ぐはっ―――」
「殺った―――」
聖女の持つ聖剣がヴォロスの心臓を一突きする。
(―――――体が、変身出来ないっ!?)
蝙蝠にも狼にも熊にもドラゴンにも、単なる霧にする事も出来ない。
「滅べ、悪の魔王」
「ノ、エル―――」
ノエルが残りの力を全て聖剣に込めてヴォロスの身体を両断する。
その瞬間、魔王の魔力と聖女の力が対消滅爆発を起こす。
すでに半壊していた魔王城を爆心地とし、ブルートヘイムが消し飛ぶ程の大爆発が観測された。
六芒魔王陣の一角が崩された。
平和に暮らす魔王を平和を願う聖女が倒したこの大事件により、世界は魔王と聖人の全面戦争へと突入するのであった。
(*´ω`*)おっぱーい!




