表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/32

第32話 たぶん、2番目の恋

「ポチがいなくなったのを知った日もね、こんな風に綺麗な星の見える夜だったの」


 あの日のことを口にするのは、初めてのことだった。

 すぐそばにいる兄達は、何も反応しなかったけれど、私は誰に聞かせるわけでもなく、話し続ける。


「すごく体調を崩して、3日寝込んだ後の夜だった。ユリウス兄さまの言う通り。私、ポチがいなくなったって聞いても、ちっとも泣けなかった」

 

 悲しくなかったわけじゃない。

 ポチのこと、すごく大切だと思っていたし、彼が私から離れていった事実に、”裏切られた”とさえ思った。


「すごく悲しかったけど、どこかでわかっていたのかも。ポチから好きだって言われて、舞い上がって、私、ポチのことちゃんと見て、なかった……っ。話したいって言ってくれてた、のに」


 生前も、ヴィオレッタになってからも、あんなにまっすぐに好意をぶつけられたのは、初めてのことだった。

 振り返ったらいつも傍にいてくれたのに、その安心感に甘えてた。

 

 喉の奥がぎゅうっと熱く、苦しくなってくる。

 綺麗な星空がまるで水中に沈んでしまったみたいに、にじんで見えた。


「ポチがね、言ってた。ポチには私しかいないのに、私はポチだけじゃない。それがつらかったんだって。私が、欲張りだったからっ。だから、いなくなっちゃったのかな」


 彼と2人きりで生きても、きっと私は幸せだった。

 寂しいなんて思うこともない、そんな幸せな人生になったのかもしれない。

 私にとって、彼は確かにポチ――愛しい人だった。

 

 ついには涙がぼろぼろと流れ出して、私は隠すように両手で顔を覆った。

 この話をしたのは、決して泣きたかったわけじゃないのに、一度流れた涙はなかなか止まらない。

 

「兄さま達が好きだよ。でも、ポチのことも、私、大好きだった。もっと、一緒にいた、かったの」

 

 隣にいる兄達が動く気配がする。

 顔を覆った両手を、そっと外すように握られる。


 こんな涙でぐちゃぐちゃな顔、見られたくない。

 そう思ったのに、いとも簡単に両手を外されてしまった。

 

「俺は、ヴィーのことも、ヴィオレッタのことも、同じくらい大切に思ってる」

「僕も。僕が君をどれだけ好きか、分かってくれてるよね?」


 アレクシスとユリウスが、私の頬に流れた涙をすくうように撫でた。

 私がずずっと鼻をすすると、2人がおかしそうに笑う。


「大丈夫、これから君が大切だと思える人にたくさん出会えるよ」

「ほんと?」

「うん、約束する。……ちゃんと泣けて偉かったね」


 夜空に明るく輝く月を背にして、2人は微笑んだ。

 彼等よりもずっと長く生きてきたはずなのに、なんだか2人の前だといつまでたっても妹になってしまう。


 でも、それが、うれしい。

 甘えさせてくれる。話を聞いて、背中を押す一言をくれる兄達に私はずっと支えられている。

 

 大好きな2人に、恩返しをしたい。――喜んでほしい。

 

 私は起き上がると、久しぶりに手のひらへ魔力を集めた。じきに指輪が光りだす。


「――うっ」

「ヴィオレッタ!? 大丈夫か――」

「アレク、止めないで」


 吐き気に襲われて顔を歪ませた私の肩を、アレクシスが抑えようとして、それをユリウスは押しとどめた。

 

 私は久しぶりに、夢で見た緑の髪の少女を抱き上げるように、魔力を練り上げる。


 ――エマちゃん。少しだけ、力を貸してね。兄さまたちに贈り物がしたいの。

 

 心の中でそう呟いたとき、体内をめぐる魔力を乗せた回路が、急に開く感覚がした。

 せき止められていた水路が開いたように、巡る魔力が増える。


 ふふ、ありがとう、エマちゃん。あなたも、お兄ちゃんが大好きだもんね。


 エマの協力を得て、手のひらに集まった魔力が花の形に変わっていく。

 兄達の瞳の色。小さな黄色いバラが2本、現れた。


「けほっ、兄さま達に、っプレゼント」


 2人は呆然とした表情でその花を受け取ると、驚愕の瞳でしげしげと眺める。


「――ヴィー、おめでとう!」

「うわぁっ」


 ユリウスが思い切り抱き着いてきて、私ともども芝生に沈む。

 彼がこんな大胆に触れてくるのは初めてだ。原作での潔癖って設定はどこに行ったんだか。


「これで学園でも一緒にいられるよ、ヴィー。……君がさみしいなんて思う暇もないくらい、構い倒してあげるからね」

「ふふ、なにそれ!」

 

 聞こえた言葉に、私は思わず笑ってしまう。ユリウスの笑い声が耳のすぐ近くからして、くすぐったい。

 でも、やっぱり嬉しくて、私も少し勇気を出して彼の背に手を回した。


「……っヴィー!」

「うっ、くるし!」

「はい、そこまでー」


 ぎゅうっと力が込められて、思わずうめくと、アレクシスがユリウスを引きはがしてくれた。

 唇を尖らせるアレクシスの差し伸べてくれた手をとって、私も起き上がる。


「なんでアイツはいいんだ?」

「え、なんのこと?」

「お前が言ったんだろ!? 俺に! 触るなって!」

「あはは! 妬いてるの!? アレクシスが!?」


 私から視線を外したアレクシスは「うるさい」と言って腕を組むと、片頬を膨らませた。

 

 たしかにこの世界に来た頃、そんなことを言ってケンカをした覚えがある。

 その一言をずっと引きずっていたらしい。


 ということは、アレクシスも私とぎゅってしたいっていうこと?


 たしかにさっきユリウスに抱きしめられた時は、驚いたけど嫌な気持ちはしなかったし、ちょっとドキドキしただけだった。

 ずっと私が魔法を使えるように応援してくれてたし、抱きしめられても喜んでくれたことがうれしかったくらい。


 私が単純に近い距離に慣れてきたのかもしれない。

 なのに、何でアレクシスだとこんなにドキドキするんだろう。


 でもここで拒否したら、変な誤解をされそうな気がする。


 私は、できる限り平静を装うと、アレクシスに向かって両手を広げた。


「兄さま、あの時はひどいこと言ってごめんね?」


 そっぽ向いていたアレクシスが、ちらっとこちらに視線を向ける。

 「ほら、アレク」とユリウスが小突いた。


 観念したのか、赤い顔のままそっと私を抱きしめる。私も彼の背に手を回した。


「おめでとう、自慢の妹だ。……学園で待ってる」

「ふふ、ありがとう、兄さま」


 そっと離れると、アレクシスはいつも通りの笑顔だった。


「さて、帰ろうか」

「……うん! あ、わわっ!」


 立ち上がりかけて、途端にバランスを崩してしまう。

 あの日ほどではないとはいえ、魔法を使った副作用で立ち上がることができなくなっていた。


「おい、大丈夫か!?」

「ご、ごめ、魔法使うといつもこうなの」

「……手、貸せ」


 手を差し出すと、アレクシスが軽々とおんぶしてくれた。

 アレクシスの中ではまだ小さな妹なのかもしれないけれど、もう立派に成長した13歳の身体は相応の重さになっている。

 簡単に運べるような重さじゃない。


「ちょ、ちょっと! お、重いよ!?」

「重くないよね、アレク」

「もちろん。……半端な鍛え方してないからな」

「……うっ、あ、後から重かったとか言わないでよね!」

「ははっ、言わねえって」


 部屋までの道のりを、ずっとアレクシスの背に乗せられて、その間ユリウスはずっと私に話しかけ続けてくれた。


 この身体を得てから早3年と少し。

 ヴィオレッタの、私の人生はまだ、始まったばかり。


 ポチとも、きっといつか街のどこかで、会える気がする。その頃にはきっとおばあちゃんになっているかもしれないけど。

 もし出会えたなら、笑って言いたい――言えるような人生を送りたい。


「ひさしぶり、ポチ」って。

 



ここまで読んでいただきありがとうございました!

第一部 幼少期編 これで完結となります。


明日からは引き続き第二部 学園編(不定期更新:週2~3回予定)が始まりますので、ブックマークをしてお待ちいただければ嬉しいです。


もし少しでも『面白い!』と感じていただけましたら、↓の『☆☆☆☆☆』を

タップして評価をおねがいします。

☆1つでも構いません。皆さまの反応が、これからの執筆の原動力になります!


引き続き、完結までどうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ