表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/32

第30話 久しぶり!

「兄さま! おかえりなさい!」

「おう! 元気してたか!?」

 

 エントランスに出て、馬車から降りたばかりの兄達を出迎える。

 アレクシスがこちらに向かって大きく手を振っていた。

 


 ◇◇◇


 

 ポチが屋敷を出て数か月、私は落ち込んでなんていられなかった。

 魔法を使うと体調を崩してしまうのが分かってからは、ひたすら勉強に打ち込んだ。


 魔法理論は特に楽しくて、寝るのも忘れてよくじいやに止められてしまったくらい。

 なんだか最近、じいやは過保護になった気がする。


 いまだに体は重いけれど、なんだかんだ、元気にやっていた。

 

「会いたかったよ、兄さま!」

「おうおう! 愛しの兄様に会えて嬉しいかっ!」

「もちろんっ!」


 私の返答を聞いてアレクシスは、目を丸くして視線を泳がせると、急に頬を赤らめた。

 明後日の方向を向いている。


「お、おう、なんだよ。す、素直じゃん?」

「何やってるの、邪魔だよアレク。……ヴィー、ただいま」

「おかえり、ユリウス兄さま!」


 アレクシスの後ろからひょっこりユリウスが顔を出す。

 

 2人とも少し日に焼けたみたいだけど、屋敷にいた頃と変わらないやり取りにほっと一安心した。

 今日から長期休暇の1か月は屋敷で一緒にいられる。私がどれほど嬉しいか、きっと彼らはまだ知らない。

 


 ◇◇◇



 ユリウスとアレクシスが帰ってきた日。

 日課のマナーレッスンを終えた午後、私は2人の姿を探して、外に面した一階の廊下を歩いていた。

 

 庭園で紅茶を飲んでいる彼らを見つけて、声をかけようとした、その時だった。


「――どういうことだよ、それ!」


 アレクシスの叫び声が庭園に響く。

 傍にいるじいやの胸ぐらをつかみ上げて、前後に大きく揺さぶっている。

 いつもアレクシスを止める役割のユリウスも、腕を組んだまま硬い表情をしていた。


「俺らは、アイツがいるから! すんげぇ不服だったけど、アイツにならヴィオレッタを任せられると思って――」


 ああ、ポチのことだ。

 ポチがいなくなったことを知って、ユリウスもアレクシスもこんなに怒ってくれている。


 でも、私の中でポチがいなくなったことは、もう消化したこと。

 ポチの姿が見えない以上、いつかはその話をしなければならなかったけれど、これから始まる楽しい長期休暇に、そんな暗い話題は似合わない。


 私は努めて明るい顔で、話しかけた。


「兄さま達、お茶をするなら私を呼んでほしかったなあ」

「ヴィオレッタ……」


 私の姿を見つけると、気まずそうにアレクシスは掴んでいたじいやの胸ぐらを放した。

 じいやも無言で乱れた衣服を整える。


「あのね、この前作ってもらったケーキがおいしくてね、今日も用意してもらったの。これなんだけど――」

「ヴィー」


 テーブルに広げられたケーキの1つを指さす私の手を、そっとユリウスがとった。


「大丈夫? 寂しくなかった?」

「……大丈夫だよ。じいやもいたし、一人じゃなかった」

「ちゃんと、泣けた?」


 握られた私の手がぴくりと震えた。


 ポチがいなくなったあの日、涙は一滴も流れなかった。

 彼のこと大好きだったはずなのに、自分はなんて薄情なんだと思いながら、彼を忘れるための日々を過ごしている。

 今だって、ポチのことを考えると胸が苦しくなるけど、ただそれだけだ。


 返事に詰まる私を見て、ユリウスはどこか納得したように息をついた。

 私の手を労わるようにさすってくる。

 

「そっか、きっと感情に身体が追い付いてないんだね」

「え、なに? 大丈夫だよ? ”私”が誰か兄さま達は知ってるでしょ?」

「君が誰でも、悲しいって感情は持ち続けるとつらくなるばかりだよ」


 ユリウスの言葉に、アレクシスやじいやまで頷いている。


 本当に大丈夫なのに。みんな過保護だ。

 私は、前世も合わせると、兄さま達よりそれなりに長い時間を生きている。

 そんなに心配してもらわなくても、大丈夫なのに。


「……それで? ヴィーがおすすめのケーキってどれ?」

「え? ああ、あのね、これ。この前じいやと木苺をたくさんとってね、それをケーキにしてもらったの」

「うへえ、甘そうだな」

「アレクシス兄さまはそう言うと思って、今日のは甘さ控えめでってシェフにお願いしたんだよ」

 

 ユリウスに手をつながれたまま、ケーキを囲んでいつもの会話が戻ってくる。

 

 でも、私の心には、もやがかかっていた。

 ユリウスはいつもそうだ。私の背中を押してくれるようでいて、時々、突き刺さるような言葉を言う。

 私が気づきたくないことを言い当ててくる。


「ん、うまい!」

「でしょ!? ね、摘むの頑張ったんだよね、じいや」 

「ええ、きっとお嬢様が摘んだ木苺だから、こんなにも美味しいのですよ」

「えへへ、そうかなあ?」

 

 あんなに美味しかったケーキの味が、今日はあまりよくわからなかった。


「そういえば、元気にしてたよ」

「……ん、誰のこと?」

「何言ってるの? 決まってるでしょ。ヴィーの初恋のカ・レ!」


 ――んぐっ!?


 私とアレクシスは同時に食べていたケーキをのどに詰まらせた。

 や、やめてよ!その話アレクシス知らないんだから!


「な、何だって!? 俺は聞いてねえぞ!」

「ユリウス兄さま、そ、その話は、えっと!」

「あれ、聞きたくないの?」

「……き、ききたい、です」


 アレクシスの視線が痛い。あの顔は生前見たことがある。チベスナ顔って言われてるあれだ。

 でも、私もうら若き乙女であるからして、恋の1つや2つしても良いお年頃なのです。どうかご理解ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。


「んでぇ? いったい誰なんだよ、ヴィオレッタの好きな奴ってのはよぉ」

「好きっていうか! ただの淡い初恋ってだけで!」


 アレクシスが紅茶を片手に、手をひらひらと振る。

 背もたれに体重をかけて、まるで興味なんてありませんって感じなのに、目はきっちりユリウスを捉えていた。


 めっちゃ聞きたがるじゃん。気になってるじゃん。

 ユリウスがちらっとこちらを見る。「言ってもいい?」と目で問いかけてくるから、私はそれに頷いた。


「ヴィーが好きなのは、王太子――レオナルド殿下でしょ?」

「「――ブッ! はぁっ!?!?」」

「え、何でヴィーまで驚くの?」

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ