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第24話 静かになった屋敷

 マロン君との邂逅から半年。兄さま達は学園へ通うため王都に旅立っていった。

 学園寮で暮らす彼等と、夏の休暇までもう会えない。


 屋敷は急に静かになった。

 いや、お父様もいるし第一騎士団の皆さんもポチもいるから、屋敷の中はあまり変わらないと言ったら変わらないのだけど。

 でも、私の周りは確実に寂しくなった。


 私は何も変わらず、ユリウスのいない書庫で本を読んでいる。

 手元で開いているのは『魔法における魔素の転換と精霊の存在意義 第二版』ユリウスがくれた本だ。もう何度も読み返したもの。

 一人きりの部屋で、ページをめくり続ける。


 初版との違いは、精霊と契約せずに魔法を使う具体的な方法が載っていること。

 第二版の刊行日は三年前。どうやらごく最近確立された方法のようだった。

 

「といっても、難しくて全然理解できた気がしないのよね……」


 本によると、この世界に生まれる人間は、みんな魔力を持って生まれる。

 精霊と契約を交わすと、精霊を介して練り上げた魔力を使って魔法を発動できる、という仕組みらしい。

 

 魔法使いの作った便利なからくり――『魔道具』は、精霊の役割の一部を道具に込め、魔法使い以外にも簡単に魔法が使えるようにしたものだ。


 ただ、魔道具はとても数が少なくて、ウチの領地まで普及するのはまだ先のことだと思う。

 原作の舞台である王都では、裕福な商人が所有していたっけ。


 どうやら精霊と契約しない魔法というのは、魔道具を応用した方法で、精霊の役割全てを果たすための”アーティファクト”と呼ばれる何かが必要なようだ。

 本では、それを著者のヴァルトハイム氏が制作したとされている。


「直接会いに行ければ早いんだけどなあ……」

「おや、どこかへお出かけですか?」


 ぽつりとこぼした一言を拾ったのは、部屋に入ってきたじいやだった。

 紅茶を乗せたワゴンを押している。ノックをしてくれたんだろうに、集中していて全然気が付かなった。

 

「ううん、魔法を使えるようになるには、アーティファクトって呼ばれるものが必要だってこの本に書かれていたの」

「ほう。……会いたいとおっしゃられている方は、この本の著者、ヴァルトハイム氏ですか?」


 じいやは器用に紅茶を淹れながら、ちらっと本を見る。


「ヴァルトハイム、と言えば魔法の祖と呼ばれるお方、ひいては学者を輩出している名門の一族だと記憶しております。隣国の生まれだそうですが、先の戦争により一家は断絶寸前なのだとか」

「……よく知ってるわね?」

「私の一族は世界各地で執事業を生業としておりまして。ヴァルトハイム家は有名な一族でございますから、仕えていた者も親族におるのです」


 すんごい情報を軽々と開示するじいや。それ、紅茶を淹れながら話せる内容の濃さじゃない。まるでゲームの進行のように都合のいい展開。

 ともあれ、ヴァルトハイム家とのつながりが少し見えてきた。


「じゃ、じゃあ、会えたりする!?」

「……残念ながら。私の親類が仕えていた分家は戦争に巻き込まれて断絶してしまいました。本家が細々と続いているようですが、今はどこにおられるのか……」

「そっか……。本家も行方が分からないのね」

「ええ、大変優秀な一族ですから、色々と危険な目にあうことも多いのでしょう。今は名を変えて隠れていると聞いております」


 それじゃ探し出すのは難しい。

 問題が振出しに戻ったどころか、むしろ後退した気がする。


 明らかにがっかりとした私を見て、じいやは苦笑いを浮かべた。


「……そう気を落とされないでください、お嬢様。もうすぐ祭りの季節ですから、きっと何かいい出会いがあるかもしれません」

「お祭り? もうそんな季節?」

「ええ、王都から商人も参ります。今年は今までにないほど賑やかになりそうですよ」


 フィオレンツァ領のお祭り。私も毎年遊びに行っていた。

 いつもの街のあちこちが花で飾られて、1週間ずっと人で賑わう。国の中枢を担う第一騎士団の武功を祝い、無事を祈るお祭りだ。

 商人たちが大通りに所狭しと店を張って珍しい品を売り、祭りの期間中は屋敷も開放されて剣術試合が行われる。


「ポチは剣術試合出るのかな」

「出場するでしょうな。未成年の部門にエントリーしたようです。リストに名前がありました」

「……ポチって?」

「ええ、ポチと」

 

 そういえば、兄さま達を見送ってからポチとあまり顔を合わせていない気がする。

 マロン君と会った日、途中になっていた話の続きを聞こうとしたけれど「もう大丈夫だ」と言って聞かせてくれなかった。

 やっぱりあの日思ったみたいに、じいやがポチの話を聞いてくれたのかもしれない。


 私の視線に気が付いたじいやが首をかしげる。

 ポチがなんて言ってたか聞いてみたいと一瞬思ったけれど、やめておくことにした。

 なんだか、勝手に聞くのはダメな気がする。やっぱりポチの口からききたい。

 

「ねえ、じいや。ポチ、今どこにいると思う?」

「今なら、そうですね。訓練場で自主練習に励んでいる頃でしょうか」


 ダメもとで聞いてみたけど、難なく答えが返ってくる。

 じいやに聞けば大抵のことはわかる。いやはや大変便利。

 

 私はじいやが淹れてくれた紅茶を飲むと、勢いよく立ち上がり宣言した。


 「わたし、ポチに会ってくる!」

 

 

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