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第23話 甘いものが食べたい夕暮れ

「「まったく、おもしれー女!」」


 双子特有の綺麗なハモリに、その場にいる全員――メイドや執事まで笑い出す。私以外。あのポチでさえ、柔らかい表情をしている。

 

「まーたそれなのぉっ!?!?」


 なんでいつも『おもしれー女』になっちゃうんだ。

 原作ではそんな単語一切出てこなかったよ? 


 私はそんな笑い声に包まれながら、夕焼け空を見上げた。地面に大の字になるのはこれで今日2度目だ。暮れてきた陽があたたかい。


「――お嬢様」

「なによぅ。今傷心中なの、もうしばらくこうさせてよ」


 覗き込んできたじいやから、ぷいっと顔をそむける。まだちょっと立ち上がる元気はない。


「いえ、感謝を申し上げたく」

「感謝?」

「ええ」


 ぷいっとそむけていた顔を戻すと、じいやは優しい顔をしていた。


「ユリウス様もアレクシス様も、あれでいてとっても悩んでおられたのです」

「…………?」

「双子だからと個々で見られることが少なかったのですよ」

「あんなに個性豊かなのに?」


 「あなたのそういうところに、彼らは救われたのでしょうな」とじいやが言う。視線の先の兄達は何だか吹っ切れた顔をして笑っていた。


 そっか。そうだった。

 私は体を起こしながら、原作のストーリーを思い出していた。

 

 双子ルートでは彼等がヒロインに「どちらがどちらでしょう?」と問題を出す。見事答えてみせたヒロインに彼等はどんどん惹かれていく。

 周囲の人間が思う”双子の片割れである自分”と”個としての自分”の狭間でずっと苦悩してきた彼等の心を、ヒロインが解いていくストーリーだった。


「だから、私からもありがとうございます、お嬢様」

「……そっか、そっかあ」

 

 たしかに私はこの世界に来た時から、兄達は特別な存在だと認識していた。

 それだけじゃない。何年もここで一緒に過ごして、喧嘩したり仲直りをしたり、背中を押してもらったりして今では心の底から大好きになっていた。

 彼等の心が軽くなったなら、私も素直に嬉しい。


「ヴィオレッタ」

「ん?」


 嬉しそうに笑いあう兄達を眺めていると、ポチが隣にしゃがみ込んできた。

 

 いつの間にマロン君を解放したんだろう?


 周囲を見渡してみると、兄達のもとに走っていくマロン君の後ろ姿が見えた。


「どうかした?」

「……いや、その」


 ポチにしては珍しく歯切れが悪い。視線も合わない気がする。

 

「何か、話したいことでもあるの?」

「俺、前に――「おい!ヴィオレッタ!」


 振り返ると、アレクシスが夕日を背に私を手招いていた。ユリウスもマロン君も傍にいる。

 「はーい! ちょっとまって!」と大きな声で返して、ポチに向き直った。


「えっと、何だっけ?」

「……いや、いい。またの機会に話す」

「ん? そ、そう?」


 なんだか悪いタイミングで話を途切れさせてしまった。

 話したそうにしてたのに大丈夫かな。

 

 ポチの顔を見ながら、どうしようかなと考えていると、またアレクシスがこちらを呼ぶ声がした。


「んー、行ってくるね。またあとで話聞かせて!」

「……ああ」


 立ち上がると、傍にいたじいやがスカートについた土を払ってくれる。

 ポチのことが少し気がかりだったけれど、そのモヤモヤを振り払うようにして兄達のもとへと駆け出した。



 ◇◇◇


 

「遅いぞ!」

「ごめんって! で、どうしたの?」

「オルフェリウスと夕飯を一緒にどうかって思ってさ」

「え? 別にいいけど?」


 私が決めることじゃないし、と返事をする。なぜかマロン君は「よっしゃァ!」とガッツポーズを決めていた。

 そんなに嬉しいんだろうか。さっきは伯爵家のシェフは~と散々こき下ろしていたのに。――まさか、おいしかったのに見栄張ってたの?


「オルフェリウス、あんまり調子に乗らないで」

「ちょ、こ、このくらいは、いいんじゃな……いかなあ、なんて思いますがね!?」


 ユリウスにぴしゃりと言い捨てられて、目に見えるほどにうろたえるマロン君。力関係がはっきりしていて大変わかりやすい。


 あー。そういえば、唐突に甘い物食べたくなってきたかもしれない。

 それもこれもマロン君があんなに目の前で甘いものを食べていたからだ!

 

 あれだ、あれが食べたい。甘くておいしいあの――。


 いっそリクエストしちゃおうと振り返ると、じいやはポチと何かを話している最中だった。

 遠くて何を話しているのかは全然分からないけれど、じいやの言葉にどんどんポチの顔は赤くなっていく。

 ポチがバッと振り返って何かを言い、それに悠然と笑うじいや。ポチの顔はもう茹でダコみたいに真っ赤になっている。


 んー? 何話してるんだろ? さっき私に話したかったことかな?

 じいやに聞いてもらえたなら、もう私の出番はないかもしれない。あの人聞き上手だし。


 私の視線に気が付いたじいやが顔をあげる。何か御用ですか、と言った様子で首を傾げた。

 じいやに声が届くように私は叫んだ。

 

「じいや! 私今日、モンブラン食べたーい!」

「かしこまりました!」


 笑顔で片手を胸に当てて答えてくれる彼に、笑顔を返す。


「ね、あなたも食べるでしょ? モンブラン」

「えっ……あ、その……」


 マロン君に問いかけると、なんだかはっきりしない態度。

 てっきり食べたーいって食いついてくると思ったのに。だって、ケーキ食べたいってさっき言ってたよね?


「え、オルフェリウスは食べないでしょ? さっきの決意はどうしたの」

「まあまあ、いいんじゃないか。今日くらいは食べても」

「ああ、うう……モン、ブランッ!」


 見たことがある。これは前世で見たことがある!

 食べるか、食べないか。天使と悪魔の声に悩むその姿は、前世でダイエットに勤しんでた私そのものっ!

 

 わかる、わかるよーっ!

 私は心の中でマロン君と固く握手をした。ぜひとも彼を応援したい!


「ごめんね、マロン君。私ったら気が利かなくて……じいやっ! モンブラン1個キャンセルで、ゼリー作って!」

「かしこまりました!」

「……あ、ああっ」


 がっかりと肩を落としたマロン君を、アレクシスがぽんぽん叩いて慰めている。ユリウスは「自業自得だよ、まあ頑張れ」なんて言っていた。

 

 私も精いっぱい応援させてもらうね、マロン君。

 もうめったに会うことはないかな、と思うけど、遠い地から君の頑張りを応援しております!


 あれ、何でマロン君急にダイエットしようと思ったんだ? んー、まあ、いっか!



 

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