第21話 兄達の葛藤
っんだぁぁぁぁ! 何でこうなるんだ!
超絶火力の斜め上パンチで反撃を食らった私は、思わずその場に崩れ落ちていた。
お作法はカンペキにマスターしていたはずなのに、なぜか今、私は大の字で寝転がっている。
マロン君が「おもしれー女」といった声が頭から離れない。
そんな彼はいまだに鼻をこすりながら「へへっ」と言っている。いつまでこすってんだ、鼻なくなるよ。
「な、なにしてるんだ」
太陽を遮るようにポチがのぞき込んでいた。
あ、ポチ。訓練終わりかな? お疲れ様。
「今日もバチクソにかっこいいね」
「……な、なにを言ってるんだ?」
いけない、つい本音がダダもれになっちゃった。
ポチこういうこと言われるの好きそうじゃないのに――あれ、ちょっと嬉しそう?
ポチはこの3年で、ぐんと背が伸びた。毎日の訓練のお陰か、元々細かった体格にも筋肉がついた。
差し伸ばされた手を取ると、いとも簡単に引き上げてくれる。
「ねえ、オルフェリウス。来てたんなら言ってくれればいいのに」
「ゲッ! ユリウス!」
ユリウスも訓練終わりで一緒だったらしい。水の精霊の力を借りたのか、ポチに比べて汗もかいてないし爽やかな雰囲気だ。
親しそうに微笑んでいるけれど、どうにもオルフェ――マロン君の方は顔が青ざめている。
「まさかとは思うけど、ウチの可愛い妹泣かせてないよね?」
「い、いや……むしろボクの方が怒られていたと言いますか……っ」
「ふうん?」
なんだ、ユリウスの知り合いなら、お相手は私じゃない方が良かったじゃん。
そう思いながらじいやを睨むと「申し訳ありません、ヴァルディシア卿の仰せでして」と申し訳なさそうに耳打ちしてきた。
いまだに顔を青くして、引きつった笑顔を浮かべているマロン君。
彼と私をつなげたい理由はいったい何だろう。
――ま、まさか許嫁とか!?
「い、いやすぎるっ!」
「お前が嫌なら追い払おう」
「あ、ちょっと、待って、大丈夫! 大丈夫だから」
私の言葉を聞いてポチが剣の柄に手をかける。
思わず声に出してしまった私が悪いのだけれども、侯爵令息に乱暴したらどんな処罰を受けるか分かったものじゃない。
抜かれかけた剣をどうにか戻す。
この数年でずいぶんポチは性格が丸くなってきたと思うのだけど、たまに暴走するのが見ていてハラハラする。
そんなやり取りをしていると、見慣れない執事がやってきてマロン君に何か耳打ちをした。
きっとモブ侯爵家の執事だ。当主間の会談が終わったのかもしれない。
執事との短い会話が終わると、こちらを向き直る。
「おい、ヴィオレッタとか言ったな?」
「え、なに? なんか馴れ馴れしいね」
「ヴィ、ヴィオレッタ、さん」
マロン君から「おい」と声をかけられてびっくりしていると、すかさずユリウスが腕を組みつつ釘を刺した。笑顔が怖い。いったい2人はどういう関係なんだか。
ポチも反応して剣の柄に手をかけると、マロン君を睨む。こらこら、やめなさいって。
「――また、ボクとお茶を飲んでくれますかッ!?」
「いやです」
まず私あなたと一緒にお茶なんて1滴も飲んでないし。
きっぱり断るとマロン君は「ガーン」と肩を落とした。口で言ってた。ガーンって。
それを見て、なんだかちょっと笑えてしまった。
すっごく嫌な奴だけど、悪い人ではないのかも。言えば分かってくれそうな雰囲気がする。ポチとは別の意味で犬っぽい。
「あ? 来てたのか。えっと……誰だっけか」
「オルフェリウスだッ!! いつも覚えてただろうが!」
相当賑やかだったのか、屋敷から顔を出したアレクシスがこちらへやってくる。
やっぱり当主間の会談は無事に終わったらしい。
アレクシスが名前を忘れているのを見て、私は首を傾げた。
なーんかおかしい。違和感でしかない。




