第19話 チート技ですか?
あの日湖で襲撃してきたのは、犯罪組織の構成員じゃないか、と現場を捜索したお父様はそう言った。
ポチが所属していた犯罪組織だ。
そのことに責任を感じたポチがこの屋敷を出て行こうとしたけれど、意外にも引き留めたのはアレクシスだった。
以前の彼なら「すぐに出ていけ」とでも言いそうなほど、らポチとの仲は険悪だったのに。どういう風の吹き回しだろう?
それからというもの、毎日ポチは騎士団の稽古に連れ出されている。へとへとになりながらも、なんだか毎日楽しそうだった。
半人前とはいえ、騎士として正式に認められた彼は、もう侍従として働くことはない。
けれど、今でも空き時間には私の傍で過ごしてくれている。
「寂しい思いはさせない」あの日湖畔で私に言った言葉を出来る限りで守ってくれているみたい。
あの日から今まで、結局告白してくれたことについてポチとは話せないままだった。
そこに無理に踏み込むと、ポチとの微妙なバランスの関係が崩れちゃいそうで怖かったのもある。ポチも決して返事を急かしたりはしなかった。
あと、あの日はアレクシスだけじゃなく、ユリウスも精霊と契約していたらしい。
双子だからかな。原作通りユリウスも水の精霊だった。
帰り道話してくれたところによると、あの日屋敷に帰ってきたポチから事情を聞き騎士を派遣したはいいけれど、私達の居場所がわからなかったらしい。
アレクシスとヴィオレッタの無事を案じていた時、精霊こ声が聞こえたんだそう。
雨が降った翌朝は霧が出ていて、水の精霊の力で私たちの居場所を把握したんだとか。
多分だけど、ユリウスが契約するきっかけになった感情は「助けたい」だったんだと思う。
水の精霊と契約できたことについてユリウス本人は「これでいつでも手が洗えるんだ! 最高っ!」と私にこっそり言っていた。
それはもう大変上機嫌なご様子でした。いやあ、さすが。ぶれない。
――結局、アレクシスもユリウスも精霊と契約できたのに、私だけ何もできなかった。
年齢的にはもう契約できてもおかしくなかったのに。
感情はもうジェットコースターか? というくらいぐわんぐわん揺れていたはず。
10年分くらいは泣いた気がする。
まだ契約のトリガーになる感情に出会えてないってことかもしれない。
そんなこんなで日々は過ぎ、何も成果のないまま、あの日から3年の月日が過ぎていった。
◇◇◇
「どうしたの、浮かない顔をして」
書庫で本とにらめっこをしていると、ユリウスがのぞき込んできた。
この3年でもともと大人っぽかった彼は、さらに顔つきが端正になってきている。背も伸びたみたいだ。
相変わらず距離は保たれたままだけど、たまには頭を撫でてくれたりするようになっていた。
「んんっと、焦って、ます」
「――なあに、もうすぐだからってさみしいの?」
半年後にはユリウスもアレクシスも学園へ入学してしまう。
全寮制だから屋敷に帰ってくるのは長期休みがせいぜいだろう。
「言ったでしょ? ヴィーが学園に行かないなら僕も行かないって」
「まーたそんなこと言って……。私まだ契約期限の15歳まで2年もあるんだよ。それまで結果はわからないじゃん」
「正解。まだ諦めるどころか、悩む必要さえないと思わない?」
そう言うと、向かい側の椅子を引いて腰掛けた。
「先に学園に行って待ってるよ。今は僕がいなくてもポチ君が傍にいてくれるだろうしね。ヴィーが入学試験に落ちたら戻ってくるから。――そうだ、これあげる」
「なにこれ、本? 学術書?」
「昔、王都へ行った時ヴィーにあげようって思って買っておいたんだけど、帰ったらポチ君がいたり、慌ただしくってずっと忘れてたんだ」
差し出された本には『魔法における魔素の転換と精霊の存在意義 第二版』と書かれている。
以前、この初版を読んでいたことがある。確か、精霊と契約せずに魔法を扱う研究についてまとめられていた本だ。
「読んでみて。著者のヴァルトハイム氏は実際、精霊と契約せずに魔法を扱っているらしいよ」
「……そうなの!?」
「学園の入学試験は”精霊と契約しているかどうか”じゃなくて、”魔法を扱えるかどうか”で入学が判断されると思うんだ。こっちの道も探してみたら?」
契約できないのなら、しなくてもいい方法を探す。視野が狭まっていた私にとって、それは目から鱗だった。
「ありがとう、兄さま」
「うんうん、頑張って。兄さまはいつまでも応援しているから」
小さい頃から変わらない笑顔でユリウスはこちらを見つめる。
彼に比べたらずっと未熟な私だけど、彼はこんなにも協力してくれている。
それだけで、私が頑張っている意味がある。
ユリウスにもらった本を1ページ開く。
学術書はそもそも読み解くのが難しい。私の知らない魔法の概念ならなおさら。
これは時間がかかりそうだ、と私は気合を入れ直した。




