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第16話 水の精霊

「――は、はじめまして、お兄さま。わたし、あなたが大好きです」


 その言葉を聞いたアレクシスは、照れくさそうに笑って体を起こした。

 立ち上がって薪を数本ストーブへくべると、部屋の隅にあった椅子に腰を下ろす。

 

「ヴィーの顔で言われるとなんだか照れるな。ヴィーはよく甘えてきたけど、そういうことは全然言わなかったし」

「……ヴィオレッタはアレクシスのこと、大好きで仕方ないって思ってたよ」

 

 ごしごしと頬に残った涙の跡を拭う。

 泣きすぎてなんだか頭がぼんやりとしていた。


「本当かぁ?」

「ほんと。だから私もどこか甘えちゃったりしたんだよね。でも、距離感バグってるのはマジで勘弁してほしかった」

「バグ……? ああ、それは、その、す、すまん」


 ふと気が付くと、雨で濡れていた髪も服も乾いていた。それどころか、服はあんなに泥まみれだったのに屋敷を出た時みたいに綺麗になっている。

 

 なんで? と首をかしげていると、アレクシスは足を組み替えておもむろに問いかけてきた。


「……お前は?」

「なに?」

「さっきの”大好き”は、お前の言葉だったか?」


 足の上で手を組みながら、さらりとそんなことを言う。

 なんてやつだ! うら若き乙女にそんな恥ずかしい質問をするなんて。言語道断だ。言語道断チョップだ。けしからんよ。


「……そういうところ、どうかと思う」

「恥ずかしがるなって」


 なんだか急にユリウスみたいなことを言う。

 アレクシスには原作でもわりと人情に篤くてまっすぐなイメージしかなかった。こういうからかいはどちらかというとユリウスの立ち回りだ。なんでだろう。


 私がヴィオレッタじゃないから?


「でも納得した。急に俺から離れていった理由も、ユリウスのところに入り浸ってた理由もな」

「それはっ」

「わーかってる。こういう話は俺よりアイツが適任ってことくらい。ちょっと寂しいけどな」

「ご、ごめんなさい……」

「まあ、これからは俺のことも、もう少し信じてくれ」


 そう言うと、また笑ってくれる。

 きっと、彼なりに私の気持ちをほぐそうとしてくれたのだとわかって、胸の奥がほんのり温かくなった。



 ◇◇◇


  

 アレクシスと話していると、ふと彼の頭上をふわふわと飛ぶ青い光が見えた。


 なんだろう……?


「兄さま、それ、なに? 青いの飛んでる」

「お、見えるか?」


 椅子から立ち上がると、青い光に手をかざす。光は鳥のようにアレクシスの手にとまった。

 こちらに歩み寄ると、そっと光を見せてくれた。


「見えるってことは、ヴィオレッタにも魔法の才能があるかも――」

「ほんと!?」


 食い気味に声をあげた私に、アレクシスは目を丸くすると声をあげて笑った。


「ああ、さっき契約した俺の精霊だ。水を操る力がある」

「ふ、ふわぁああぁあ! これが精霊!?」


 差し出された光をそうっと包み込むようにすると、チカチカと光が瞬く。

 原作では、ヒロインには唯一、精霊を人型として認識して、会話できる能力があったから知らなかった。

 力のない他のキャラクターには、精霊は光として見えているらしい。


 原作でのアレクシスの精霊を思い出す。彼に似ずおっとりとした性格の優しい精霊だった。


「ヴィオレッタのことが気に入ったんだな。力を見せてくれるってさ」


 アレクシスの言葉を合図に、青い光が空中に舞い上がって強く瞬いた。

 青い光から水があふれだし、シャボン玉のようにぷかぷか浮かぶ。


「飲んでみて、だってさ」

「え、いいの?」


 肯定するようにまた光が瞬く。

 小さな水の玉を選んで、ぱくっとくわえてみると、ひんやりとした水が喉を通っていった。

 

 久しぶりに水を飲んだからか、生き返る心地だった。

 手を開いたり握ったりしてみると、疲れ切った体がどこか軽くなった気がする。

 泣きすぎてぼんやりした頭もどこかスッキリした。

 

「お、おいしい! あなたすごいのね!」

「ははっ! 嬉しいってよ」

「すごいすごい! かわいい! きれい! 兄さますごい!」


 嬉しいと言うように、青い光は小屋中を飛び回っている。


「どうやったの、兄さま! 教えて!」

「お? 知りたいか?」


 うんうん、と勢い良くうなずくと、気をよくしたのかアレクシスは腕を組んだ。


「そうだなあ、素晴らしく偉大なお兄さまに懇願するのであれば――「そういうのいいから」


 にべもなく遮られて肩を落としたアレクシスがおかしくて、私も声をあげて笑った。

 そんな私を見てアレクシスは呆れたような笑みを浮かべる。


「崖から落ちていくとき、思ったんだ。こんなところで死にたくないなって。川に落ちてもがいているうち、声が聞こえた」

「声?」

「そう、声。その声に従って契約したら、気が付くと川岸にいた」


 以前屋敷の書庫で読んだ本の内容と合致する。本には、感情の流れが重要だと書いてあった。

 

 ――死にたくない、変わりたい、助けたい。

 そういったある種の感情が昂ったときに使用者の相性の合った精霊から声を掛けられるんだという。


「もしかして、服を綺麗にしてくれたのもこの子?」

「そうだ。服の繊維に水を流して汚れを取って、染み込んだ水分まで吸い取って乾かしてくれた」


 なんてお利口さんなの!?


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