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「さいってい!」
「いってーなー」
そういって俺の頬をびんたして走ってどこかに行ってしまった。
「チっ今日の遊び相手もういないじゃん……はあ、どうするかな」
遊び相手に逃げられこれからどうしようかと悩んでいると一つの輪ができていた。
「なんだあれ」
恐らくナンパだ。
「ナンパされるってことは可愛いってことだろ……これは俺がいただくしかないな」
俺はナンパをしている男たちに声をかけるため近づいた。
「お前らなにしてんの?」
「お前誰だよ! ぶっとばすぞ⁉ 今ナンパ中なんだよ! お前みたいなイケメンは他の女のところに行け」
「俺は警察だ」
そういって自分の警察手帳を突き出す。
「チっサツか……覚えてろよ」
そんな小物臭漂うセリフを吐き捨て逃げて行った。
「君、大丈夫?」
そう優しく聞きながらナンパされていた女の顔を見るすると……そこには信じられないほどの美女がいた。淡い緑のルーズサイドテールに、160にも満たない身長、スプリンググリーン色の瞳は宝石のように輝いていた。それは神々しさすら感じられるほどに。
「あの……ありがとうございます」
「あ、ああ警察だからな。当り前のことをしたまでだ」
ヤバいなんだこいつ俺のドストライク過ぎる。これは……俺が汚していいのか?
「君家は? 送っていくよ」
「家は……その、ありません。親に売られそうになったのを逃げてきました……」
「そっか……じゃあ俺の家に来なよ! 無駄に部屋が多いからさ」
あくまで優しく警戒心を抱かせないために。
「いいんですか?……では、お願いします」
「ああ、ついてきなよ!」
そこから数10分歩き俺の家に着いた。その間俺はずっと考えていた。汚れがないこの子を美しく神々しさすら感じるこの子を俺が汚していいのかを。
「ここだよ、入って」
「ではお邪魔します」
まだ警戒心は解けてないな……それもそうか、どうしようかな。
「適当に座って」
「わあ……広いです」
「俺は料理をするから座っていていいから」
これは警戒心を解くためにする。まずは胃袋を捕まえないとな。
「私がしますよ! 私、料理好きなんです!」
「奇遇だね俺も料理が好きなんだ……だから今日は俺が作るよ、明日以降もいるならローテーションしていこう」
「そういうことなら……わかりました」
そこから数分俺は軽い料理を作り、テーブルに並べる。
「すごいです! おいしそうです!」
「気に入ってくれたのなら良かったよ……食べよっか」
『いただきます』
合唱をしてからご飯を食べ始める。彼女の顔を見てみると美味しそうに食べている。良かった。少しは警戒心を解いてくれたかな? 今しかタイミングはないな。
「そういえば君の名前は?」
「まだでしたね私の名前は天野江花です! よろしくお願いします……あなたは?」
「あ、俺もまだだったな。俺は津雲春馬よろしく」
そこから花の過去のことを聞いた。それはひどいものだった。親がギャンブルに明け暮れ、金がなくなったら娘を売る。最悪な親だ。その話を聞いて俺は決意する。この子を守ろう。汚していい存在じゃない。俺が女遊びをやめて真面目に働いてこの子を守っていこう。
「そっか……大変だったんだね」
「はい……話を聞いてくれてありがとうございます」
「いいよ、これくらい……じゃあ」
『ごちそうさまでした』
再び合唱をしてご飯を食べ終えた。洗い物は花が率先してやってくれたので俺は先に風呂に入ることにした。
「あがったよ、次花入っていいよ」
「はい、では」
そういって風呂の方に行く花を見届けテレビをつける。
「今日はいい出会いがあったし久しぶりにワインでも飲むか」
棚から年代物のワインとグラスを取り出し注ぎ入れる。
「これ結構……度数高いな……」
度数高いとわかっていながら飲み進める。ちらりと時計を見るともう0時を回っていた。その記憶を最後に俺は朝を迎えた。
「ん、あ、さか? 昨日は久しぶりに飲んで……クソっ記憶がねえ」
「ん~」
横からそんな声が聞こえて恐る恐る横を見る。するとそこには……裸の花がいた。
「おい! 俺! 何してんだよ! 流石に見境なさすぎだろ! 見守っていくって決めたのに!」
自分の見境のなさに呆れる。
「ふぁ~あ、春馬君? おはようございます」
「ああ、おはよう……じゃなくて! どういう状況だこれ⁉」
「覚えてないんですか? 昨日私がお風呂から上がったとき春馬君が寝室までひぱってきて、そのまま押し倒してきたじゃないですか」
恥ずかしそうに花が毛布を顔半分まで持ってきて自分の顔を隠す。
「それにしても、ふふ……やっぱりそっちが素でしたか」
「ああ? ……幻滅したか?」
「いえ、むしろそっちのほうが可愛らしいです。最初は怖かったですけど、よほど愛に飢えていたんですかね? あなたの目がとても寂しそうで……私も愛情が欲しかったのでしちゃいました」
……そうか、そうだったな。こいつは親に売られそうになったんだよな。
「俺は昔から一人で育った。物心ついた時には親はいなくて、金だけ送られてくる生活……誕生日を祝ってほしくて電話したらアイツ、忙しいとか言ってすぐに電話切ったんだ。後ろで女の声がしていて何が忙しいんだろうな、そこから馬鹿らしくなってどんどん荒れてったんだ」
「そんなことが……ふふ、私たち似た物同士ですね」
「そうだな」
……プルプル。その時電話が鳴った。
「はい、こちら津雲」
「津雲先輩! 今何時かわかってますか?」
電話越しにやかましい声が聞こえる。
「ああ? 知るかよ、今忙しいんだ切るぞ」
「待ってください! 早く来てくださいよ! あなたのせいで怒られるの嫌なんですよ!」
「気が向いたらな」
そういって電話を切る。めんどくさい、せっかく花といい雰囲気だったのに邪魔された。最悪だ。アイツ消そうかな。
「悪い花、仕事に行ってくる」
「はい、わかりました。いってらっしゃい」
「……いってきます」
そんなあいさつに恥ずかしさを覚えながら身支度を整え家を出る。徒歩十分で職場の警察署に着く。
「ちーっす」
「なんだその挨拶は! 遅刻してきた分際で!」
「は? 何か文句ある? 俺の親知ってるよな? お前消すよ?」
「ぐっ」
めんどくさい上司を親の権力で黙らせた。実際は親の名前を使っているだけで親は何も知らない。面接の時も「あの津雲議員の息子さんでしたか!」とか言って最初から巡査長になれたし。親らしいこと何もしてくれなかったんだし文句ないだろ。
「津雲先輩!」
「あ?」
振り向くとそこには後輩の東雲絢香がいた。
「早く見回りに行きますよ!」
「はあ、……わかった」
返事をし着替えて署をでる。そこからニ十分ほど巡回をしていると高校生ぐらいの男たち十人ぐらいが喧嘩をしていた。
「何してるの⁉」
東雲が勢いよくいく。俺もそれに続くようにしてついていった。
「げ、サツかよって、お前なんだよその恰好、ほんとに警察か? そんな髪も金髪に染めて、ピアスもして、とても警察とはおもえないなあ!」
「あ? お前喧嘩売ってんのか? ボコすぞ? 一人で生きてけない分際であまり調子に乗んなよ三下」
「うっ」
俺の迫力に押されたのか男たちは一歩後ずさる。
「ちっ、邪魔が入ったか……いくぞお前ら!」
そういって半分の男たちが去っていった。
「あの、ありがとうございます」
「いいのよ、気にしなくて」
残りの男たちがお礼を言ってきた。が、周りは助けたとは思ってくれなかったらしい。
「見た? 今の」
「ええ、とても警察とは思えないわ」
「やーね怖くて」
「っ先輩は助けようと!」
「やめろ、東雲、もう慣れた……いくぞ」
言われなれた言葉を聞き流し再び巡回に戻った。そこからは平和だった。特に何もなく今日の仕事は終わった。
「ふう、今日も疲れたな」
そんなことを思い靴を脱ぐと一つの声が聞こえてきた。
「おかえりなさい! 料理はできてます。あ、すみません勝手に冷蔵庫の中あさってしまって……」
「いや、それは良いけどよ」
そういえば花がいたな。帰ってくるまで忘れていた。そして、自分がやった過ちが再び頭の中を巡る。
「クソっ」
「どうかしましたか?」
「なんでもねえよ……飯食うぞ」
食卓に向かい花が作ってくれたご飯を食べる。
「驚いた……どれもうまい」
「本当ですか! 嬉しいです」
「お前はいいのか? 俺と関係を持って……」
「そうですね、最初は出て行こうかと思いましたけど、あなたの目を思い出すと少し悲しい気持ちになるので、あと住む場所がないので」
「最後のが本音だろ……別に好きなだけ居たらいい」
そこで会話は途切れてしまうが、不思議と気まずさはない。今まで一人だったから花がいるという事実が心地いいんだと思う。
花がうちに来て三か月が経った。そして、俺も嘘かのように変わった。女遊びをやめ、仕事を真面目にするようになり、親の権力を使うこともなくなった。
視野を広げてみてわかった。俺は人間関係に恵まれているんだと。そんな変わった俺だが悩んでることがある。それは花の誕生日だ。直接聞いたところ今日と言うことがわかり、急いでプレゼントを買いに来た。
「クソ、女って何プレゼントしたら喜ぶんだ? 高級なものか……いや、ここで高級なものに逃げるのは駄目だ! しっかり選ばないとな」
そこから数時間吟味し続けていた時、一つのアクセサリーが目にとどまった。
「これだ……これなら……」
その品を買って家に帰る。どんな反応をするか今から楽しみだ。花のことだから嫌な顔はしないだろ。
「帰ったぞ」
「おかえりなさい。ご飯できてますよ」
「わかった」
……盲点だったな。どこで渡せばいいんだコレ。
そこからご飯を食べ終わって、風呂を上がっても渡せなかった。
「これは……俺が男を見せるしかないな……花! ちょっと来てくれ」
「はい」
「……お前にこれやるよ……誕生日プレゼントだ」
そういって手渡すとなぜか花は泣き出してしまった。
「な、なんで泣くんだよ」
「だって……嬉しくて……誕生日……祝ってもらったことないから……開けてもいいですか?」
「……好きにしろ」
びっくりした。まさか泣き出すとは思わなかった。気の利いた言葉を言えなかったことに少しムカつきを覚えながら、恐る恐る花の反応を見る。
「これは……ひまわりの髪飾り?」
「そうだ、悪いかよ」
「いえ、素直じゃないあなたらしいです……本当にありがとうございます!」
ひまわりの花言葉は『あなただけを見つめる』これが伝わってるかわかんない。
「花、伝えたいことがあるんだ……聞いてくれるか?」
「はい」
「俺さ、ずっとろくでもない生き方してきたんだよ。金だけはあったからさ、何でもできて高校の時とかは何もしなくても人が寄ってきて。でもそれじゃあ満たされなくなって喧嘩に明け暮れて、そのまま卒業して、そこから酒と女に溺れる毎日。」
こんなことを聞いても不快なはずなのに花は何も言わずに聞いてくれる。俺はその優しさが心地よくて……
「通報しようとした奴は権力と金で黙らせて、そんな生活が二年続いた。そんな時にお前と出会ったんだ。お前のことをずっと見守っていきたい、そう思っていたんだけどな、俺は強欲らしい。それだけじゃ物足りなくなった」
「はい」
「花、俺と……」
ピンポーンそこまでいうと家のチャイムが鳴った。
「なんだよこんな時に」
ムカつきながら誰が推したか見る。するとそこには……
「! 親父」
「へ?」
出るかどうか迷ったが出ることにした。
「なんの用だ今更」
「何をそんなに怒っている? 忙しい中来てやったのに……まあ、中に入れてくれ、積もる話もあるだろう?」
「嫌だね、帰れ!」
そこで画面を切った。はずだった。
ガチャ。そんな音とともに親父が入ってくる。ボディーガードをつけて、偉そうに。
「久しいな春馬……ふむ、やはりか」
「なんだよいきなり来て! 帰れ!」
俺の言葉を無視して花に話しかける。
「そこの娘、名は何という?」
「? 天野江花です」
「やはりか」
俺には何も用がないのか親父の顔は終始花の方へ向いていた。それがたまらなくムカついた。
「お前わしの愛人にしてやる」
「は?」
その言葉を理解するのに数秒かかった。
「嫌です。私は春馬君と一緒にいるんです」
「お前に拒否権はない。なぜなら……お前を買ったのはわしだから」
旋律が走る。この男がここまでクズだとは思わなかった。
「それでも嫌です」
「……そうか、やれ」
そういった直後にボディーガードが花めがけて地を蹴った。守ろうとするには遅すぎた。。一瞬で花を捕まえ親父の方へ連れて行く。
「いや! はなして!」
「てめえ!」
俺はとびかかる。しかし……
「やれ」
「はっ」
「ぐほあ⁉」
俺は一瞬で無力化された。
「まてよ……離せよ……クソ、殺すぞ……お前ら」
「……うるさいな、痛めつけろ……それにしてもお前、花と言ったか、本当に美しいな。だが、なんだこの安物の髪飾りは」
「っ返して!」
「ふん、そんなに大事なのか……そうか」
にちゃっと笑うと花から髪飾りを取り上げ踏みつぶした。俺はその時点でもう脳がはち切れそうなくらいキレていた。
「ぐ! ごは! う!」
痛々しい打撃音とともに俺の声が響く。
「いやああああああ! もうやめて! わかった、あなたについていくから、だからもうやめて!」
「フハハハハハハハそうか! そうか! ……おい、もういいぞ」
「は」
そういって花を連れ帰ろうとする。いいのか俺? ここでうずくまってたら大事なもんがなくなってしまうぞ!
「ま……て……絶対にコロス」
「……ありがとう春馬くん、あなたと出会えて、あなたと一緒に居れて私は幸せだった……大好き」
その言葉を最後に俺は気を失った。
「んあ……花!」
最愛の人の名前を呼ぶ。しかし、どこにもいない。
「クソ、クソ、クソ、クソガあああああああ」
親父を呪った。無力な自分を呪った。
「絶対にあきらめない! 必ず花を連れ帰る!」
そう心に誓い作戦を考える。
「待ってろ花、必ず助ける」