キサラギ・アルトア
ようやく、主人公の名前がわかりましたね。
数時間前――――
遠のいていた意識が目覚め、誰かの呼び声によって目を覚ます。ラスティアは、何者かの手によって、どこかの駐車場に連れ込まれたようだ。
それも、婚約者であるロイと共に。
「ティア! 無事か!?」
「ロイ!? ここは、どこなの?」
「わからない。どうやら、誘拐されたみたいだ」
「誘拐!? でも、私たち、レストランから帰ってた最中だったよね?」
「あぁ、その時に、さらわれたみたいだ。くそ! 俺にもっと力があれば、こんなことには」
ロイは、ラスティア共々何者かにさらわれたことに、自身を卑下にする。父親に助けを呼ぼうにも、手が拘束されており、連絡することすらできない状態だ。そうしていると、遠くから誰かが現れる。
「よう。起きたか?」
「お、お前は、ルーカス!?」
「おいおい、学院のよしみだろう? そう警戒すんなよ」
「だ、誰がお前なんかと!!」
不良の学院生、ルーカスが駐車場の奥から現れた。どうやら、彼がラスティア達を誘拐したらしい。ロイは、彼を見て臨戦体制を取る。
「一体、何でこんなことを!?」
「そりゃ、決まってんだろ? お前がただ単に気にいらねぇんだよ? お前が如月のお嬢さんとつるんでいることがな!?」
ルーカスは、勢い良くロイの腹を蹴る。すると、腹に一撃が入り、ロイの口から、多量の唾液が吐き出される。
「ガハッ!!」
「ロイ!! やめて!! 彼はまだ何もしてないの!?」
「そう言うなよ。こいつがくたばったら、遊んでやるかなよ」
ルーカスは仲間達と共に、ロイをリンチする。激しい暴行により、ロイの体は打撲などの殴られた跡が浮かび上がったくる。
「ひ、卑怯だぞ!! 魔術師なら、魔術を使え!!」
「ほう? まだ余裕そうだな。なら、望み通り魔術を使ってやるよ!」
重傷を負い、それでも立ち上がるロイ。しかし、ルーカスの放つ魔術によって、さらに体に負荷を負う。
「うあああああああああ!!」
「ロイ!! もうやめて!! これ以上やったら、ロイが死んでしまう!!」
「はぁ! お望み通り、魔術を使ってやったぜ? どうだ? 自分が使ってきた魔術で、苦しむ感じは?」
「ふぜけるな……! この程度で、倒れるわけには……」
あれだけの攻撃を受けても尚、ロイは倒れようとはしない。大事にしているラスティアの前で、倒れるわけにはいかないのだ。自分が倒れたら、ラスティアがルーカス達に陵辱される。そうさせないためにも、ロイは気力を保ちながら、立ち続けている。
だが、あれだけの攻撃を受けては、ロイの体は瀕死に近い状態だ。次に魔術を受ければ、今度こそ体が持たない。しかし、それを見逃すほど、ルーカスは優しくないのだ。
「あぁもううざって!! 今度こそ死にやがれ!!」
ルーカスの渾身の魔術によって、ロイは甚大なダメージを負う。そして、ロイは意識が朦朧としている状態となった。
「は、大口叩いてた割りには、中々タフだったな」
「そ、そんな……。ロイ! ロイ!!」
「さぁ、次はお前だ。どれどれ、中々いい体じゃねぇか」
「やめて! 触らないで!!」
ルーカスは、乱暴にラスティアの体を触る。そして、彼女が着ていた上着を乱暴に脱がす。
「安心しろ。お前を傷つけるわけじゃない。あいつの目の前で、お前の純潔を奪うだけだ」
「やめて! 来ないで!!」
ルーカスは、ラスティアの胸を乱暴に触る。彼女の瞳には、自然と涙が溢れていた。
(助けて……。お父様、お母様……。義姉さん……)
ルーカスがラスティアを陵辱し始める。その時だった。爆発音と共に、部下が、吹き飛んできた。
「な、なんだ!?」
爆風の中には、銀色の髪を間引かせた、一人の魔術師が現れた。そして、髪の奥から輝き出す真紅の目で、ルーカスを睨むと、ロイの元に駆け寄る。
「よくやったよ。こうなるまでに、よく耐えた。後は私に任せてくれ」
「あ、あなたは……。なぜ、ここに……?」
「話は後だ。まずは」
彼女は、ラスティアの元に寄る。そして、倒れているラスティアに抱きついた。
「ごめんよ、遅れてしまった。だからもう、大丈夫だ」
「義姉さん、どうしてここに?」
「話は後だ。悪いが少し、眠ってくれ」
彼女は、ラスティアのうなじに噛み付く。すると、ラスティアは、自分の血が吸われている感覚を感じる。
「義姉さん……なに……を?」
「許してくれとは言わない。でも、少しの間、眠ってくれ」
ラスティアは、血を吸われた衝動により、意識が朦朧としていく。そして、うっすらと義姉の髪が伸びるのを見ながら、ラスティアは眠るのだった。
――――――――――――――――――
アルトア視点――――――
「着いたわ。ここに、あなたの義妹が囚われているわ」
『仮面の魔女』の案内で、亜空間からラスティアが囚われている廃れた駐車場に着く。ロンドンでの公共で使う駐車場として利用されてきたが、知らず知らずと使われなくなり、今じゃもう誰も使っていないみたいだ。どうやら、犯人はラスティアと婚約者のロイを誘拐し、ここで身柄を拘束しているらしい。それに、私にはラスティアが必要なので、助ける他にないのだ。
「意外と大きいな」
「多目的に使われることを想定して作られたんでしょうね。でも、今じゃ誰も使われていないそうよ?」
「無駄な金だったってわけか。では、行くとしようか。『仮面の魔女』。バックアップを頼んだ」
私の声に、『仮面の魔女』は立ち止まる。
「『ジャンヌ』って呼んでいいわ。あなただったら、呼んで構わないわ」
「わかった。『仮面の魔女』、バックアップを頼む」
「ごめんなさい。あなたと並んでは戦えないわ。その代わり、ここから念話で状況を伝えるわ」
「あぁ、では、始めるとしよう」
「えぇ、初陣、しかと見届けてあげる。存分に暴れなさい。アル」
私は、駐車場に入っていく。駐車場に入ると、不良の学院生が、私の前に立ちはだかる。
「あぁ? なんのようだ?」
睨みつけてきた不良に、私は魔術を使う。すると、握っていたガラス瓶が、コルクに火がついたことで、爆発をする。
「ゲホ、ゲホ。テメェ! なにしやがる!!」
「いいのか? 私に喧嘩を売ると言うことは、お前、死ぬことになるぞ?」
「はぁ? そんな口を叩くなんざ、生意気なんだよ!!」
不良の学院生が、魔術を唱える。だが、私は無詠唱で、火球を学院生に向けて飛ばす。
「ゴフッ!! な、なんだよそれ!? 詠唱を唱えずに、このスピードかよ!?」
「教えろ。お前達の親玉はどこだ? 死にたくなければ、さっさと教えることだな?」
「ル、ルーカスさんは、この駐車場の上にいる。た、頼むから、命だけは取らないでくれ」
「なるほどな。では、お前達は用済みということだ」
私の言葉に、彼らは死を覚悟する。だが、私はあえてそうせず、先に進む。
駐車場を登って行き、とうとう目的の屋上に辿り着く。すると、誰かが私の脳裏に話しかけてきた。
『アル。聞こえる?』
「『仮面の魔女』か? 外はどうだ?」
『義妹君を探していた連中が、こっちに来たわ。やるなら、即急に片をつけた方が良さそうね』
「なるほど。なら、早めにしたほうがいいな」
『えぇ。気をつけて、情報によれば、不良グループのリーダー格は、親が『元老院』と関係があるそうよ。後から気をつけた方が良さそうね』
「用心するさ。では、行こうか」
左腕に、魔力を集中させる。すると、火球が徐々に大きくなり、そしてそれを放つ。爆風と共に、門が粉々になると、そこにはラスティアが、哀れもない姿でその場にいた。
「よくやったよ。こうなるまでに、よく耐えた。後は私に任せてくれ」
「あ、あなたは……。なぜ、ここに……?」
「話は後だ。まずは」
ボロボロになったロイが、私に問いかける。だが、私は彼に目もくれず、ラスティアの方に駆け寄った。
「ごめんよ、遅れてしまった。だからもう、大丈夫だ」
「義姉さん、どうしてここに?」
「話は後だ。悪いが少し、眠ってくれ」
私は、ラスティアのうなじを噛み、彼女の血を吸う。そして、血を吸われた感覚により、ラスティアは眠りについた。
ラスティアの血を吸ったその時、私の体に奇妙な感覚が流れる。今まで封じ込まれていた魔力が、解放される感覚と、奴から受け継いだ記憶がフラッシュバックされてきている。
それと同時に、私の髪が一気に伸び、魔力も飛躍的に上昇してくる。
「なんだ、この感じは? あぁ、もうこれでは人間じゃないな」
「な、なんだこの感じは、魔力が、この女に来ているのか?」
「そうだったな。妹が世話になったのだったな。なら、存分に礼をしないとな」
右手に魔力を込める。すると、黒い小杖のようなものが、右手に召喚された。
「テメェも、あいつみたいにしてやるよ!!」
不良グループのリーダーは、私に向かって殴りかかる。だが、単純な身体強化の魔術だけでは、私に当たりはしない。
「なんだ? その動きは? 単純な身体強化の魔術では、私に一発も当たらんぞ?」
「くそ!! なら、こいつはどうだ!?」
彼は再び、魔術を唱える。すると、憔悴しきっていたロイが、私に忠告する。
「気をつけろ! ルーカスの魔術は、強力だ! 無闇に当たると、一溜まりもない!!」
「一溜まりもないっか。さて、どんなものか楽しみだ」
ルーカスの魔術は詠唱を終え、その魔術を私に向けて放つ。彼の渾身の魔術は私に直撃し、周りからは私が死んだと推測された。
「み、みやがら!! 俺に逆らおうとしたのが、お前の運の尽きだ!! さて、次はお前を殺して――――――」
「なんだ、その程度か?」
「な、何故だ!! 俺が誇る、渾身の魔術だぞ!? なのに、何故!?」
「その程度では、私の魔術の前では意味を持たさない。お前の魔術は、『変換』させてもらったからな」
「へ、変換? なんだよそれは、はったりか?」
ルーカスは同様もしつつ、私の魔術を見る。左腕の刻印を見て、ルーカスは唖然とした。
「本来、『無色』は『白』と『黒』でその性質を対比される。『白』は『原色』の効力を打ち消し、『黒』は『原色』を蝕む。それもあってか、元来、『無色』を扱う魔術師は、それによって迫害されてきた。だが、私の持つ『無色』は違う。それは『変換』と『捕食』だ。『白』は魔術を書き換え、『黒』は魔力ごと喰らう。要は、お前程度の魔術師じゃ、私は倒せないというわけだ。自分の魔術は全て、書き換えられるか食われるか。どうだ? 今の自分が、なにもできない状態は?」
「く、くそ!! そんなのハッタリだ!! 俺はお爺様達に許されたエリートなんだ!! お前のような、魔術も使えないやつに、言われる筋合いはねぇ!!」
「そうだな。私は魔術を使えなかった。それも昔の話だ。今の私は、魔術を使える。このようにな」
私は、ルーカスが使っていた魔術をそのまま行使すると。すると、彼の魔術はそっくりそのまま自分に向けて放たれる。
「返すぞ」っと、一言と共に、魔術を放つ。ルーカスが渾身に唱えた魔術は、私の火球として、自分に返ってきた。
「あ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
爆発と共に、ルーカスの体は焼け焦げる。だが、多少は加減をしたため、命に別状はなかった。
「それと、その人物はもういない。私の名は、『キサラギ・アルトナ』だ」
「な、なんて魔力だ。ルーカスは生きているのか?」
「命に別状はないが、もう普通の生活は送れないだろう。生きているだけマシだろう。だが、死んで楽になるとしか思えない人生しか歩めないだろうさ」
「そ、そうか。でも、それでいいのか? 彼は俺たちにここまでしたが、そこまでやる必要は?」
「綺麗事なんて、御託を並べても意味がない。奴は、私との殺し合いに負けた。ただそれだけだ。魔術師同士に殺し合いは、どちらかの死によって勝敗は決まる。誰がどう言おうと、それは変わらんさ」
ロイと私が会話していると、ラスティアが目覚める。だが、彼女はその惨状に絶句をしていた。それを見た私は、ロイの後のことを託す。
「後は頼んだよ」
「待ってくれ! あなたはどこへ行く気だ!?」
「さぁね。君らには関係のないことだ。では、生きていたらまた会おう」
そう言い、私はその場から立ち去る。最下層まで降りると、『仮面の魔女』が出迎えてくれた。
「よかったの?」
「あぁ、彼女の人生に、私は不要だ。行こう」
私の後を、渋々と彼女は着いていく。私が去ろうとした時、その後ろには、ラスティアが立っていたのだった。
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