仮面の魔女
物語は複雑に絡み合って行く。
それから数時間後、私は一人で館に戻った。ラスティアは男の学院生と共にどこかへ行き、私は一人館に戻る。戻るや否いや、食事ができていたが、私は食力がないので、そのまま自室に入った。
書庫から持ってきた本を読み漁っているが、どれも私自身に関連しているとは情報としては乏しい。これだけの本を読んでも出てこないということは、恐らくはいくら読んでも無意味と言うことだろう。
「効率的に『赤の魔術』を使うには、発火性の強いものがいいか。となれば、粉を密封した瓶か、アルコールを染み込ませた布か。いずれにせよ、すぐに使える物がなければ、先にやられるだけか」
魔術に必要な触媒を用意する。今の私では、魔術をすぐに使えるような道具を生成しなければ、私のような平凡な魔術師はすぐに実践では死んでしまうのだ。
そう考えていると、時刻は夜の七時になっている。しかし、ラスティアはまだ帰ってきていない。
おかしい。彼女なら、用が済ませたらすぐに帰ってくるだろうに、今日はやけに遅い。一体何か起きてるのだろう。しかし、誰として教えてくれないので、連絡は来ていないようだ。
「ラスティア……、まだ帰って来ていないな。何かあったのかな?」
ラスティアのことを心配しながら、ベッドに倒れる。瞼を閉じ、何か考え事をする。すると、明るかったはずの部屋の電気が消え、辺りは真っ暗になる。
人の気配を感じ、急いで血のナイフを生成する。そのすぐ後に、誰かが私の部屋に押しかけてきた。
「誰だ!?」っと私は呼びかけるが、押しかけた人物は反応がなく、そのまま私を襲いかかる。
「こいつ、学院にいた講師か?」
虚な眼差しを向けながら、講師は私を殺しにかかる彼が殺そうとした時だった。月の光によってできた影によって、彼の動きを封じる。講師はもがいているが、彼がもがく度に、彼の体はダメージを負っていく。
「人の寝込みを襲うとはいい度胸だな。それとも、誰かに唆されたのか?」
彼に尋問をするが、何も応答をしない。
「沈黙か。いいだろう、望み通りに殺してやる」
彼の持っていた剣を持って、心臓の部分の突き刺す。すると、彼から血が吹き出しことはなく、仮面だけがその場に落ちるように肉体が消滅した。
「これは? 魔術の類か?」
講師が消えた場所から仮面をとる。変わった素材でできた材質なのか、普通の仮面よりも固く感じられる。
仮面を眺めていると、私の部屋にメイドが入ってきた。彼女も刺客なのかっと身構えをし警戒する。すると、彼女は私に抱きつき始めた。
「ようやく……、お会いできましたね。偉大なる我が主。この時を、長らくお待ちしておりました……」
「我が主? 一体、なんの話だ?」
「あぁ……、なんとお美しい……。その体、そのお瞳……、まさに受肉されたのですね」
「おい! 一体、なんのつもりだ?」
私は執拗に抱くメイドを引き剥がす。すると、彼女は何かを思い出したかのように我に戻る。
「……そうだったわ。彼女はまだ、自分が何者なのかを理解していなかったわ」
「何を言っているんだ?」
「少し気が早かったわね。まずは彼女に、自分が何者かを教えておかなければ」
「さっきから何を言ってるんだ!? 答えろ、何が言いたいんだ」
彼女は自身の手に触れる。すると、さっきの講師と同様、仮面が顔から取れる。
「ごめんなさい。自分の気持ちが先導していたわ」
「仮面が取れた? まさか、それが魔術なのか?」
「えぇ、そうよ。待っていたわ。あなたの誕生を。そして、あなたの転生を」
「転生?」
仮面が取れ、黒いドレスが靡くように現れた。言葉にするなら、淑女であり、時代遅れの令嬢でもあった。
「いいわ、せっかくだし自己紹介をしましょう。私は、『仮面の魔女』。『魔女』の序列『Ⅲ位』に着くものよ。そして、我らが主たる『虹の魔女』により、あなたを導くよう命じられたものでもあるわ」
「『虹の、魔女』? 『魔女』とは一体?」
「無理もないわ。今のあなたは、何も知らない。いいや、かつての自分と、あの方の記憶が混同している状態。身に覚えのない記憶が見えてしまっているのもその為よ。私は『魔女』の中でも、あの方に命じられたわ。蘇った我が主を導くようにね」
「それが、私? 私が、『魔女』の転生者?」
「そう。あなたは『魔女の転生者』として蘇生された。あなたには『魔女の血』が多量に含まれた。それが何らかの影響により覚醒し、あなた自身が『魔女』として第二の生を受けた。だが、目覚めたばかりのあなたはかつての自分の記憶と、あの方の知恵が入り乱れており、錯乱状態に至っている状況よ。その為に、しかるべき時にあなたを導くよう私は使命を授かったわ」
「今が、その時だと言うのか? それにしては随分と遅かったじゃないか」
「そうね。本来であれば、あの病院に私が赴くべきだったわ。でも、あなたのことを良く思わない連中の介入で、ことが遅れてしまった。それはお詫びさせて頂戴」
彼女こと『仮面の魔女』は、私を導く為に来たと伝える。いきなり自分が『魔女』と言われていても、理解が難しい。
「私のことを良く思わない連中ってどいつだ? それに、『魔女』とはなんだ?」
「まずは、『魔女』について説明するわね。『魔女』とは、伝説を言われた最古の魔術師、『虹の魔女』の血を分け与えられた七人の俗称よ。私たちはそれぞれ序列を設けることで、それぞれに分け与えられた使命を全うするべく活動しているわ。私の使命は、あなたを導くこと。そして、あなたの為の兵を創ることを命じられたわ。あなたが目覚めた際、大いなる戦いが起きてもいいようにね」
「それがお前の使命か? それで? 私に信じろと? 私がその『虹の魔女』とやらの転生者だと」
「そうね。今のあなたにはそう信じてもらうしないわね。出なければ、今のその状態が続くだけよ?」
「――――――あぁ、そうだな。ならどうしたらいい? お前なら、それがわかるだろう?」
『仮面の魔女』は、私の近くによる。すると、彼女は私の頭に触れると、魔術を唱えた。
「あなたがあの方のいるところに赴く必要があるわ。その為の術式を私が構築してあげる。後を準備が出来次第、術式を唱えればいいだけよ」
「わかった。その前に、君の生い立ちを教えてくれないか?」
彼女は、悲しそうな顔をしながら、自身の生い立ちを語りだす。
「千年も前、私はフランス軍の将兵として、国の為に戦ったわ。全ては神の導きによって、私はイングランドとの戦いで疲弊した国を助ける為に、私は武器を取ったわ。でも、次第に私を良く思わない連中に、私は危うく殺されるところだった。いや、歴史上で私は処刑されたのだから、殺されたのも同然ね。牢屋にいた頃までは、そうだったわ」
「千年戦争か。それに、救国の聖女のことなら聞いたことはある。まさか、君があの?」
「『ジャンヌ・ダルク』。人としてのかつての名前よ。かつての私は、これも神から授かった宿命だと思ったわ。でも、獄中であの方にあってから、私の全ては変わった。それからは、火刑にされるまでは、あの方の血を啜りながら、その時までの時を過ごしたわ。気がついたら、私は信じた神よりも、あの方を崇拝するようになったかしらね。そして、後はあなたの知っているように、火刑によって死んだ。でも、その後は、あの方の血によって蘇生したわ。もう千年も生き続けて今に至るわ。この顔も、ずっと隠し続けていた。だから私は、『仮面の魔女』と自らを名乗ることにし、あの方に尽くしたわ。二百年と長かったけど、あなたに尽くせられるわ」
「全ては、『虹の魔女』に忠を尽くす為か。国も神も捨ててまで、『虹の魔女』に尽くす為に」
「そうね。その為には、あなたを覚醒させること。あなたに『魔女』としての宿命を継承させるしかない。さぁ、術式は構築できたわ。後はあなたの覚悟次第」
『仮面の魔女』は、術式の準備を整えた。残るは、私の覚悟次第らしい。だが、不思議と私には迷いはなかった。これで、自分を知れるなら、何だっていいとすら感じた。
「もう覚悟をできている。もう迷いはない」
「そう。なら始めるわよ」
『仮面の魔女』は、私の頭上に魔方陣を展開する。彼女が詠唱を唱えると同時に、私の意識は遠のいていく感じがするのだった。
もしよければ、ブックマークやいいね、評価の程よろしくお願いします!
レビューや感想も是非!!