魔術学院
翌日。私は彼女と共に、学校に向かった。私の体は良好だったようで、そのまま復学することが決まったそうだ。事故当時、私は私服で出掛けていたので、制服は無事だったので、そのまま制服を着られたのだ。
しかしまぁ、立派な建物だ。ロンドンの中心部に、こんな建物があったとは、思いはしないだろう。
私は、彼女こと、ラスティアに導かれるように、教室に入る。すると、周りの生徒達は、私を見ては、驚きを隠せなかった。どうやら、私の髪色が違うことに驚いているみたいだ。しかし、奇妙なものだ。他者よりも伸びやすいのか、短かった髪も首の辺りまで伸びたようだ。
こうして、ラスティアと共に授業を受ける。しかし、授業の内容が本で読んだものと一緒で、正直退屈であった。ただ窓の風景を眺めながら、授業を聞いているだけでは、時間も簡単には過ぎてこない。そう思い、目に魔力を送る。すると、目の奥から不快な文字が浮かび上がる。おそらく、この目も何かの魔術に類いだろう。それも、常時発動型のものになる。私の意思とは反対に、勝手に周囲の人間の魔力を可視化しており、その人間の『魔素』と『色素』も、見えているみたいだ。この間の病院での出来事も、これのおかげで乗り越えられたと言っていいだろう。そうでなければ、今頃死んでもおかしくないのだから。
ここは魔術院という組織の中の施設の一環である『魔術学院』と呼ばれる所らしい。ラスティアが言うに、多くの魔術師はここで魔術を学び、ここで得た知識を持って、将来的には魔術師として活動していくそうだ。
学院の任期は五年。その五年間で、魔術師としての技術を身につけ、卒業に必要な論文を書き上げ、多くの魔術師に認められれば卒業だそうだ。
そんなこんなで時間が過ぎ、昼食の時間になったようだ。ラスティアは周りの生徒達に囲まれながら、私と共に中庭に向かう。
中庭に着くと、召使いたちが昼食の用意をしていた。
「義姉さん。今日はサンドウィッチなんだって。食べる?」
「いや、それはラスティアと他の人たちで食べてくれ。どうも、食欲がないんだ」
ラスティアは、残念そうにサンドウィッチをみんなで食べる。注がれた紅茶を飲みながら、私は自分の手を見る。一体、私の魔術とは何か、あれから自問自答が続いている。私の魔術を知るには、まだかかりそうだ。
「ごめん。義姉さん、少し離れるね」
ラスティアは、誰かに呼ばれたので中庭を離れる。私は、召使いに紅茶のおかわりをもらいながら、借りてきた本を読む。本の内容は、『赤の魔術』に関するものだ。まぁ、これ読んだところで、何も変わらないが。
「あら、あなた一人でして?」
本を読んでいると、面倒そうなお嬢さまの学院生が来たみたいだ。
「えぇ、そうですが?」
「あら? この間とは違いますわね? 何か、お変わりでも?」
「いや、あまり変わったところはないので、ご心配なく」
彼女は心配を他所に、私は本を読み進めていく。
「無礼な! お嬢さまが話しかけていると言うのに、なんたる態度!!」
「そうです!! 非凡な分際で、何を生意気な!!」
「よしなさい。彼女は今忙しいのです。ですので、これ以上はいいのです」
彼女は、私を他所に従者達をおさめる。
「まぁ、彼女にそれを読んだとこで、何も得られませんがね」
「その通りです! 彼女はいわば落第生。魔術もろくに使えない魔術学院随一の恥です!!」
「ごもっとも! こんな本、これには贅沢品ですわ!」
彼女達は三人で、私を卑下するように笑い出す。なるほど、こいつらは私を怒らせる天才らしい。
「それに、あなたには、これで十分でしょう? 日陰にいるくらいがあなたにはお似合い」
「無様ですわね。紅茶がかかってしまうなんて」
「本当ですわ。これもあなたには不要でしょう」
三人のうち、一人が私の読んでいた本を取り上げ、地面に落とす。そして、靴でそれを踏みつけた。
「では、これにて失礼するわ。またお話ししましょう?」
彼女達は、上機嫌にこの場を去る。なるほどな。これが私が受けていたいじめというやつか。
だが、やられてばかりでは気がすまない。仕返しをしなければ、私の怒りは収まりそうにないようだ。
『くくく……。悔しいか? 悔しかろうに、奴らはああして弱きものは卑下して快楽を得る凡愚よ。少し懲らしめておかんと、またやるだろう』
「そうだな。では、どうすればいい?」
『簡単な話よ。お前の力を見せつければいい。さすれば、奴らも絶望するであろう』
「なるほど。悪い話ではないな」
『なら、早くするといい。やるなら徹底的にな』
奴の声に惹かれるように、あの三人の背後に立つ。そして、右手を彼女達に向けるようにし、魔術を放った。
「!?」
「どうしました?」
「何ですの……これ? 体が動かな……」
「お嬢様!? 待ってください!! 今、解きま――――」
「何、これ? 体が……縛られて……」
彼女達は、自分たちの体が縛られていることに驚愕する。それもそうだ。縄で縛れているわけでもなく、紐で縛られているわけでもない。
「私が何だって? もう少し詳しく聞こうじゃないか?」
「こ、これは、一体……?」
「お前達の体を縛らせてもらった。どうだ? 自分たちの影を縛られている感じは?」
「影……? なぜ……あなたが? こんなことをして……良いと思って……?」
「いいだろうよ? お前も私にそうしたんだ。私がしないじゃ、不平等であろう?」
彼女達は、私が魔術を使えている事に驚きを隠せていないらしい。しかも、自分達が知らない魔術を使っていることにも、驚いているようだ。
「くっ……!! この、今すぐ離しなさい!!」
「黙っていろ、腰巾着が。でなければ先にお前を殺すぞ?」
「――――――!!」
明確な殺意を向けられ、三人の内の一人が黙る。もう一人の方は、私の殺意に圧倒されたのか、あまりにもの恐怖で失禁したようだ。
「さて、お前には苦痛を与えてやろう。その綺麗な肌と髪が、人目に出られないほどに惨めなものにしてやる」
「いや……。来ないで!!」
「その肌を傷だらけにし、熱した湯と炎でボロボロにし、最後にはこの髪も二度と伸びる事にないほど、根本から燃やし尽くしてやろう。ついでに、そのうるさい口も、発せれんほどに切り刻んでもいいだろう」
彼女は、私が言ったことを想像し、多量の冷やせと恐怖心から失禁をし始める。
「や、やめて……」
「お前に拒否権があるとでも? それとも、命乞いか? 安心しろ、死より苦痛な日々を死ぬまで過ごすだけだ」
「い、いや!!」
私が、魔術で彼女の髪を燃やそうとした、その時だった。席を外していたラスティアが、私も元に戻ってきた。
「義姉さん!?」
ラスティアは、戻ってくるや否や、あまりにもの光景に驚く。
「何してるの!?」
「いや、ただ楽しく話をしていただけだよ」
「そう? それならいいんだけど……。それより、早く行きましょう?」
ラスティアに導かれるように、私は中庭を後にする。拘束を解かれた三人に向かって私は囁いた。
「金輪際、私に関わるな。関わらなければ、命まで取らないでおいてやろう」
「は、はい。是非……そうさせてもらいます」
「もし、今日のような真似をすれば、今度こそ殺す」
「あっ……。あぁ……。」
「わかったか?」
私は、三人組の一人に最後通牒の如く脅しをし、ラスティアの後を追う。次の授業の教室に入ると私は窓を見つめた。
「なるほど、これが力か。でも、足りない。私の力にはもっと強い何かがあるはず」
右手を握り、私は考える。私の中にいる奴と、この力について。
そう考えながら、私は授業を受けるのだった。
――――――――――――――――――――
一方、その頃。
「――――――」
学院内の庭園内で、一人先の一部始終を眺めていたものがいた。彼女は、先の少女の力に見惚れたのか、その光景をただ眺めていただけだった。
「この魔力……。やはり、お戻りになられましたのね」
彼女は、かつて自身が使えていた主が、転生したことを確信したのか、少女の使う魔術にただ見惚れていた。
「あぁ……なんとお美しい……。姿は違えど、戻っておいででしたのね……」
彼女はただ、少女から出る殺意に見惚れ、あまつさえ懐かしみを感じていた。
「でも、貴方様はまだご自覚がない。あの時、あの病院での一件から、貴方様は目覚めたのです。さぁ、今晩貴方様にお会いいたしましょう。偉大なる我が主、貴方様の目覚めを祝して」
彼女は、震えた手で紅茶を飲み、亜空間を用いてその場を去る。
こうして、一人の魔女はある計画を、画策するのであった。
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