グリモワル真書
再び目を覚ます。目覚めると、そこは病院ではなかったようだ。
どうやら、数日ほど寝ていたらしい。あのあと、私が倒れてからここへ運ばれたらしく、そこから数えて数日だろう。だが、相変わらず目の疼き的なものは、変わらずある。記憶が依然として混同としているせいか、どれが元の記憶なのかが分からない。
不思議なことに、食欲は湧いてこない。それどころか、あの時枯渇していた私の魔力が、回復していたようだ。そのせいもあり、体が驚くほどに快調しているみたいだ。
横を見ると、誰かが私が寝ていたベッドの横で蹲って寝ていた。どうやら、この子は私の看病をしてくれていたみたいだ。自分の手を見ると、黒い包帯で巻かれていた。動かして見ると、問題なく動かせられようだ。
「ん……」
そうこうしていると、彼女が起きてきたらしい。ぼんやりとしている目を擦っていると、私が起きたことに驚いたみたいだ。
「義姉さん……。義姉さん、起きたのね!?」
「あ、あぁ。君は、一体? 君が私を看ていたのか?」
「そう、だけど? 義姉さん、病院があの有り様になったにも関わらず、エントランス付近で倒れていたのを、お父様が見つけたの。それから数日も寝たっきりで、私、もう……心配で……。まさか、あの大事故で酷い状態だったのに、回復するなんて……」
「事故? 一体何を?」
私の問いに、彼女は頭を横に傾ける。彼女言う事実と、私の記憶が食い違っているせいか、話が噛み合っていないみたいだ。
「どうかしたの?」
「……うまく、思い出せないんだ。なんだその、頭の中が混同としていてね。それに、君は一体誰で、ここは何処なんだ?」
私のその言葉を聞いて、彼女はショックを受ける。どうやら、私が記憶を失っていると思ったらしく、その影響で、ショックを受けたのだろう。
「嘘……。義姉さん、まさか、記憶が……」
「……そうかもしれない」
「そ、そうだもんね。あんなに辛いことばかりじゃ、思い出したくもないもんね」
彼女は、安堵したような寂しそうな曖昧な顔をする。今の私には知らない、かつての私の辛い事をはっきりと記憶しているみたいだ。
だが、現実として私はそれを覚えていない。現に今、私の記憶は混同としていて、どれが自分の記憶なのかが分からないのだから。
「義姉さん。何か欲しいものはある?」
「……なんでもいい。食事以外なら」
私がそういうと、彼女はすぐに部屋を後にする。一人でいると、目が疼き出す。視界には、身に覚えのない並べられた文字と、記憶が写り出される。余りにも突然なことに、目を押さえながらもがき始める。
片目を押さえながら、多量の汗を流し、過呼吸をしながらベッドに倒れる。恐らくは、この目には何かがあるに違いない。そう考えていると、さっきの彼女が戻ってきた。
「義姉さん、大丈夫?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。少し、めまいが酷かっただけ」
「本当? 目覚めてから、ずっとおかしいよ?」
彼女は、私の様子を伺っている。私が起きてからの様子が明らかにおかしいっと感じたようだ。私は、彼女が持ってきたものを手に掴む。掴んだものは、水が入ったペットボトルで、キャップを開けてそれを飲む。
「お母様だ。義姉さん、ここで待ってね」
そう言い、彼女は私の元を離れる。この間といい、私の頭の中は酷く混同としているようだ。
ベッドから起き上がり、廊下に出る。今はメイド達も出払ったらしく、この階には誰もいないようだ。しばらく歩いていると、書庫らしき部屋にたどり着く。扉を開けると、部屋を覆い尽くすほどの書物が溢れかえっていた。
「また、だ。目の奥から文字が浮かび上がる……」
私は衝動的に書物を読み漁り出した。これらは全て、魔術に関する物だった。どうやら、この家系は魔術師の家系らしい。それもかなりの地位にいる家柄のようで、この量の書物があることに納得がいく。
読み調べているうちに、魔術について色々とわかってきた。
魔術とは、星の神秘を具現化する為に行為であり、人はそれを魔術として、星の神秘を行使することができるらしい。魔術には必要なものが2つある。それは、魔術を使うために必要な魔力の元になる『魔素』と、魔術を行使するために必要な色となる『色素』だ。
『色素』にはニ種類あり、『赤、青、黄、緑、橙、藍、紫』からなる『原色』と、『白、黒、灰』からなる『無色』の二種類となる。
基本的には、この『原色』が広く浸透していて、多くの魔術師はこれは行使することが多いらしい。対して、『無色』は、迫害されてきた歴史が多いようだ。
ともあれ、書庫の中になる書籍を読み進めていく。そして、その度に私の目の奥の文字が、私自身でも読めるようになっていく。だが、それでも有益な情報はなく、このまま読み進める。すると、書庫の奥から丁重に保管されている書籍を見つける。私はそれに向かって手を差し伸べ、本を開く。
「――――――!!」
目の奥から強い感覚が流れてくる。目に映るヴィジョンから、私ではない記憶が流れていく。私ではない誰かの記憶を見せられている。これは間違えなく私の記憶ではない。それと同時に、膨大な知識が、頭に流れてきた。
『目覚めよ。我が器よ。我が受肉体よ。我は汝、汝こそ、我が転生体。さぁ、今こそ目覚めよ』
「誰だ……。私を呼ぶのは……?」
『その書物は『グリモワル真書』と言うものだ。我が記憶を記されたもの。お前に使命は、それを全て集めること。だが、その為には、我が記したものを探せ。それが出来るのも汝が勤めよ』
「何が……言いたい……?」
『いずれ分かることだ。まずは、邪魔する者を始末せよ。それが終われば、我が従者に会うがいい。奴ならば、我が真実を知れるだろう』
そう言い残し、謎の声は消えていった。私は立ち上がると、目を開ける。そして、自身の魔術適正を調べる。魔力は高いようで、並の魔術ならば、詠唱なくても行使することができるみたいだ。そして、問題の適正色は、『赤、白、黒』のようだ。
それも、炎を用いることに適しているみたいだ。それだけじゃなく、『造形』に関することに特化しているらしい。だが、まだうまくコントロールはできないらしい。それまでには、少し時間がかかるようで、それは追々と修練しよう。
「義姉さん? こんなところにいたの?」
白と黒の炎を展開していると、先ほどの彼女が書庫に来た。すると、私の両腕の炎を見て驚愕していた。
「義姉さん!? まさか、魔術を!?」
「そう、だけど?」
「そんな……。義姉さんが、魔術を使えるように……?」
「何を言ってるんだ? ここにあるのを読んだら、誰だって使えるだろう?」
「ううん、義姉さんは、魔術が使えないの。やっぱり、あの事故で魔術を使えるようになったのかな?」
彼女が言うことに、私の認識と相違が生じる。彼女の知っている私は、どうやら魔術を使えない人間だったらしい。そのせいで周りから酷いいじめに遭っていたのも頷ける。彼女は、その露払いをしていたみたいだ。
『さぁ、怒れ。その怒りを糧に、己が使命を理解せよ』
その声が、頭の奥から聞こえてくる。それほどまでに、胸糞の悪い感情が芽生える。私は、彼女を苦しませないと感じ、かつての自分の事を調べることにする。
こうして、私は、彼女と共に食事をする場に向かうのだった。
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