魔女の目覚め
新作です! 『魔女が住まう街にて』と同じ世界観の物語になります。
黒い空間。蹲りながら深淵の中に落ちていく。どうやら、私の魂は消えかけ、死を迎えようとしているらしい。暗い。ただ暗いだけの空間で、静かに魂の灯火は消えようとした。
あぁそうか、もう死ぬんだなっと、内心思いながら消えるのを待つ。そうしている内に、深淵の奥から、誰かの呼び声が微かに聞こえる。深淵の中を徐々に落ちていると、次第に声が聞こえて来る。
『……めよ』
「誰?」
私の問いかけに、その声は応じて来ない。だが、声は徐々に聞けるようになる。
『目……よ。我が……よ』
深淵に落ちるたびに、声は次第にはっきりと聞こえてくる。そして、声の主が私の目の前に現れる。薄れていく意識の中、目の前には銀色の髪をした女性の姿をしたものだった。
『目覚めよ。我が器よ。お前は死してはならぬ。我が宿命を成すまでは死ぬことは許さぬぞ』
「……誰? あなたは……、誰?」
『我は汝。我は星の理。汝、消えゆく魂よ。我と同化し、現世へと帰るが良い』
私はその言葉に、わけも分からず混乱する。ただ、1つの思いが、私をそれと同化することを望んでいる。
――――死にたくない。その想いだけが、私とそれの同化を無意識に求めた。
「お願い……。死にたくないの」
『……いいだろう。力を求めし時、再び我の元に来るがいい』
魂の同化が始まる。そして、深淵だった空間は次第に白く。眩い光と共に、私の意識が戻っていくのを感じたのだった。
――――――――――――――――――――――――――
目が覚める。
目が覚めると、私の視界は真っ黒だった。目が包帯にでも巻かれてしまっているらしい。それに、体が思うように動かないようだ。体が動かないと考えると、何日も眠っていたらしい。耳を澄ますと、心電図のようなバイタルを示す音が鳴り響いている。
どうやら、ここは病院らしい。私は、何かしらの大きい事故に巻き込まれてしまったらしく、ここに運ばれたようだ。だが、誰一人として私のお見舞いには来ない。相当嫌われているのか否か、私には分からない。それまでの記憶がないのだ。いや、違う。今の私は記憶が混沌としているみたいだ。
一体、誰の記憶で、どれが私の本来の記憶なのかは分からない。だが、それとは別にはっきりとわかる物がある。何かが、私を呼んでいるのかがわかる。それと同時に、何かの塊がこっちに来ているのも感じ取れる。これは何だ? 魔力か何かが? それを感じ取っていると、誰かの声が聞こえる。
『お目覚めになったのね。だけど、今はゆっくりと話している時間はないわ。貴女を殺すための者が、この病院に入っているわ。今は私の言葉を信じなさい。そうでなければ、死ぬしかないわ』
「誰?」
『今は有緒に話している時間はないわ。貴女を狙おうとしている連中が、今そこまで来ている。貴女の目なら分かるはずよ』
言われたように、目に神経を注ぐ。すると、封じられている目越しに、2つの魔力が、人の姿をして私の近くの来ていた。
それだけじゃない。道行く患者や、医者達も容赦なく殺しまわっているのが分かる。どうやら、しらみ潰しに私の病室を見て回っては私でない患者を殺しているようだ。
「これは!? まさか、私を!?」
『どうやら、近くまで来ているみたいね。そうなると、あそこから飛び降りる以外に、手段はないわ』
「そのようだ。なら、行くしかない!!」
起きたばかりで融通が効かない体を無理やり起こし、病室の窓を突き破る。窓ガラスが破れる音がなり響いたのか、私を狙った刺客達はその音を聞いて私の病室に駆け寄る。
倒れながら、地面に着地し、病院のエントランスまで走る。だが、いきなり激しい動きをした体は、言うことを聞かず、私はその場に倒れ込み。
しかし、不思議な感じだ。目隠しをされているにも関わらず、はっきりと視界が見える。どうも、私の目は魔力を可視化しているみたいだ。その影響もあり、色が反転したかのような風景に、サーモグラフィーのような人型の魔力が、映り出されている。すると、後ろから人型の魔力が私を追ってきたらしい。
『そのままエントランスに向かいなさい。そこを抜けて歩道に出るのよ』
「わかっている。そもそも、お前は誰だ? なぜ、私に語りかけて来る?」
『二百年、貴女の目覚めを待っていたわ。私はそう命じられたの。貴女を導く為に』
「言ってることがさっぱり分からん。自分でさえ、そこの誰かも知らないのに、理解しろと? ふざけるな! 腑抜けたことを言う暇があるなら、手伝え!」
私の怒号に、その声は静まり返る。すると、遠くから私を狙っていた刺客達が、私の前に現れた。
「ようやく見つけたぞ。お前を見つけるために、どれだけの患者共を殺して来たことか」
「左様。貴様のその命、我らが手にし、元老院の方々に差し出せば、あの方々もさぞ喜ぶであろう」
どうやら、私の前に現れた刺客達は心底欲に溺れたクソ野郎らしい。彼らは、私が病床に身からすぐに起き上がってきたばかりなのをいいことに、たかを括っているようだ。
『なら、1つ手を貸してあげましょう。さぁ、その身に感じなさい。貴女の魔力を。貴女の力を』
彼女に言うように、魔力を集中させる。すると、『赤』と『黒』と『白』の魔力を感じ取り、それを体に注ぎ込む。
『いいわよ。そして、それを具現化させなさい。ただし、具現化させるのは『赤』の方だけ。残りの2つはその後よ』
「集中させ、『赤』だけを具現化させる」
声に言われたように魔力を込める。すると、私の体に『赤』の魔力が流れ込み、同時にそれを具現化させる。そして、具現化した炎を刺客達の前に向けて放つ。
ドガァァァァン!!
炎が刺客達の後ろで爆発する。どうやら、加減が出来ずに病院に直撃し、それに伴ってアルコールに引火してしまったので爆発が起きたらしい。
それを回避した刺客達は、驚きを隠せなかったようだ。
「ば、馬鹿な!! 奴の養子は魔術が使えないはずだ!!」
「だが、たかがこれしき。どうと言うことは――――――」
刺客の一人が、私の魔術を見て余裕を見せるが、次に繰り出された魔術によって、頭部を吹き飛ばされる。どうやら、加減を間違えてしまい、結果として殺害をしてしまったみたいだ。もう一人の刺客は、同胞の無惨な死を見て激昂する。
「貴様ァァァァァァ!! 許さんぞ!!」
刺客は、私に向けて強力な魔術を放つ。その魔力量は、目隠し越しにでも把握できるくらい、強力なものだ。だが、不思議と罪悪感は湧かない。なぜなら、彼らは私の命を奪おうとして、関係のない人達を殺し回ったのだから。
そして、私は巻かれている包帯に手を置く、その瞬間、視覚から放たれた魔術が、私の頭部に直撃する。
「邪魔だ! ――――――どけ!」
私の一言と共に、刺客が放った魔術は消滅する。すると、包帯に巻かれた私の素顔が解放された。
吸血鬼のような真紅の眼光を刺客に向ける。それを見た彼は、あまりの事態に逃げる準備をする。だが、私は気安くと逃すわけにはいかない。
「都合のいい奴だ。だが、赦しをこう必要もない。無関係な人達を殺した罪悪感を抱きながら、死ね」
もう一人の刺客の死体を触りながら、血を手に付ける。それと同時に、一本の血で出来た釘を逃げている刺客に向けて放つ。すると、燃える病院から、人の声が聞こえた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! 痛い!! 痛みが拡がっていく!!」
蹌踉めく体を動かしながら、刺客の元に向かう。そして、彼の体に刺さっている血で出来た釘を足で踏みつける。
「痛い? それは痛いだろう? だが、貴様が殺した連中は、さぞ痛かっただろうな。耐えられんほどにな。急所に当たらなかった事を幸運に思うがいい。貴様に痛みなくして死なれるには、死んだ者達に顔向けできん」
「くそ……、くそがぁ!! 私は元老院の命により、貴様は抹殺するよう命じられたのだ!! こ、こんなことが許されるとでも思って――――――」
私は、あまりにも忠誠心により、強い哀れみを感じる。どうやら、これ以上の慈悲は必要ないようだ。
「そうか。なら、その忠誠心を胸に抱いたまま、逝け」
私は、血で出来た剣を刺客の首に振るう。すると、彼の首が落ち、大動脈から多量の血が噴出し、私の身体にかかる。身体にかかった血を舐める。そして、私はふと自分が人ではなくなっている事を自覚する。
「不味い。欲望と堕落に満ちたドブの味がする。あぁ、そうか。私は人ではないんだな」
『起きたてには上出来ね。でも、もう疲れ切ったようね』
声が言うように、私はもう限界が来ていており、倒れる。そして、意識が薄れているのを感じそのまま眠りにつく。
誰かが来る声と共に、私は眠りにつくのだった。
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