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適合者はこの俺!!!!  作者: こしあん大福
第1章 真紅の雨
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第87話 ユウの悪意

稔編クライマックスです。

稔の大声に思わず大人たちの喧噪が止まる。


皆、扉の近くにいる二人の子供に注目する。


その中にはユウが居た。


ユウは、また何か考えたのかとにやりとしたが、その後の発言を聞いて目を見開くのだった。


「「.........騙していてごめんなさい.........。あの動画は、あの動画はぁっ、............」」


あの動画...?となる面々の中で、何人かは理解したかのようにそちらを見る。


また、最初から動画を否定していた面々も余計な茶々は入れず黙って見守る。


そしてユウは、最悪の状況を想像し思わず叫ぶ。


「おい。おいおいおいおい、動画っておま......。お前らまさか!!おいっ、辞めろっ、辞めとけぇ!!!!!!!!!」


急にうるさくなったユウに対し周りが止めようとする中、彼らは宣言する。


「「あの動画は、僕たちとそこのユウさんの作ったフェイク動画なんです!!!!!!!!!」」


その言葉はその部屋を突き抜け、そこに居た全員に衝撃をもたらした。


少なくとも、あの動画を信じていた大人にとっては衝撃の事実だった。


逆に元々疑っていた人々は「やはりか」と言わんばかりの表情で見つめた。


ユウは必死で止めようと動き出すが、そんな事はさせないとばかりに周りの大人が囲み拘束する。


稔はそのまま話し出す。


「あの動画の本物がこれです。彼は何も悪い事はしていない。むしろ悪いのは僕たちなんです!!!」


稔は元々自分たちがどういう事になったのか、そしてその結果として彼を恨みだした事を正直に語った。


そこに居た大人の中には、先ほどまで互いにいがみ合っていた大人も居た。


だが、その少年たちの話を聞きながら、どうしようも無い怒りに身を震わせるもの。


どうする事も出来ない不条理に共感し涙を流す母親。


何より子供が親をどちらも失うという悲しみに思わず同情する者たちであふれた。


恨み彼を脅した事。


彼のフェイク動画を作った事。


そしてその嘘を事実と話しながら歩いたこと。


その全てに、謝りながら涙を流していた。


そんな稔たちを責めるものなど居らず、ただただ自分たちの身勝手な価値観を責めるだけであった。


稔たちが話し終えた後、国民達は素直に思った。


彼らもまた被害者であるが、同じように楼汰という男もまた被害者だったと。


そして彼はこの子たちの事を本気で救おうとしているのだと行動も理解した。


拗ねて何処かへ逃亡するというのは大人のやるべき事では無いが、少なくともそうなっても誰も責められないという事も理解し、諦める他無い事を察した。


稔たちのフェイクと脅し、国民の不信に加え、国民達は知らないが外国からの攻撃や勧誘、更には監視と普通の人であれば確実に救うのをやめようと思える事態を受けていた楼汰。


彼らは、ここで心を痛めているだけでは何も繋がらない事を感じた。


少しでも行動を起こそうとするものは多かった。


命がかかった状況では皆が心を一つにしなければ助からないと思ったのだ。


稔たちは、怒られることは無かった。


だが、注意は受けた。


いくら自分たちが不幸にあったからと言って、誰かにその怒りをぶつけた事。


嘘の情報を作って国民を混乱させたこと。


優しい人を利用して自分たちの復讐を果たそうと画策したこと。


子供だからと言って区別される事も無く、しっかりと絞られた。


その上で謝られた。


気づいてあげられなくてごめんと。


その言葉で決壊し、稔も魅羽も大声で泣いた。


誰にも頼れないと思っていた彼らは、ようやく誰かに頼ることが出来た。


涙する彼らを、避難所にいた女性たちが受け止める。


男たちはSNSを利用し今回のフェイクを嘘だったと大々的に報告していった。


この中には万を超えるフォロワーを持つ男もおり、それぞれが彼らの謝罪と嘘を伝えていった。


千嵜兄妹は目を腫らす程泣いた。


稔も魅羽も、本当は悪い事だと怒られたかった。


絞られ、叱られた事で彼らは少しだけ元に戻れたような気がした。


彼らもまたSNS用に動画を撮り、謝罪動画を投稿していった。


そんな彼らは泣き腫らした顔だったが、その表情は満足げだった。
















彼らが真実を告げ始めた時から、ユウはこっそり逃げようとしていた。


だが、それを他の面々に見つかり拘束されてしまった。


稔たちにこいつは何なんだと尋ねる男に対し今までのユウの行動を素直に話した。


それを聞いた大人たちは呆れた。


ユウの行動は紛れもない悪だった。


自分と一回りも違うような子供の憎悪に対し、受け入れる事も注意する事もせず増長させた。


挙句、その悪意を連鎖させ今の事態を引き起こした。


大人ならば子供の行動に対し監督し道を間違えた時には戻ってこれるよう教えなければならない。


だがユウはそれをしなかった。


あろうことか自分の利益だけを重視し最初からそれ目的で彼らへと近づいたのだ。


ユウは認めなかったものの、彼の行動だけでそれは見抜かれた。


そしてそれは、彼にとって触れられたくない過去まで掘り返した。


ふと近くに居た男は彼の顔を見てとある事に気づいてしまった。


「お前、よく見たらあの時炎上した奴じゃね??助けて貰っといて晒したカス。」


「そうだよ、コイツはあの黒機械晒し野郎だ!!!」


最初からユウはそれを公言していて、更にそれに気づかなかった者たちも最悪のタイミングで気づいてしまった。


再びユウはそれを糾弾される。


お前、岩動って人の事ばらした張本人じゃねえかと。


あまりにも最低最悪の性格をしたユウ。


大人たちは呆れてモノも言えなくなった。


と、ユウが口を開く。


「.........あーあー、つまんねえな。折角俺が楽しませてやったってのに、何だお前らその態度。ざけてんのかよ!!!」


その言葉に憤る周りの大人たち。


「お前、反省してないのか?!つまんないって、お前な!!」


「楽しませただと!?この状況を引き起こしておいてお前!!!そもそも、態度はお前のせいだろうが!!」


「ふざけてんのはお前だよいい加減にしろ!」


と周りが騒がしくなるがどこ吹く風。


むしろ嬉しがるように反応する。


「でもよー、お前らだって悪いじゃねえか?俺はただ拡散しただけだぜ?俺はあのマシンの男だって。お前ら、あの時こんな奴がだとか弱そうだとか散々虐めてたよな?俺はそこまでしてないぜ?」


ユウの話した事は実際事実だった。


ユウは今回こそ悪意を持って傷つけようとしたものの、前回ではただ正体をバラしただけである。


その時も悪意はあったものの、楼汰に対して傷つけてはいない。


その際叩いたのはその動画を見た者たちであった。


そしてユウの言葉に図星だった者たちは、より怒ってしまう。


「な!?......俺は関係ない!!!俺はそんな動画見ていない!!!!」


「お前が言えた事じゃないだろ!!そもそも動画を公開しなければそんな事にはならねえんだから!!!」


「大体お前その時拡散しただけと言ったがな、動画の中の話し方は随分と傷つけようとしてたぞ!!!」


とそれぞれが責任を押し付け合う。


数人の本当に言っていない者たちは本心から呆れ、他のそもそもその動画を知らない者たちはそんな事をしている場合では無いと言うのだった。


実際のところユウも楼汰の正体をバラそうとしたところを止めてきた者達には堂々と暴言をぶつけているのでそこまで変わらないのだが。


稔はユウの事を初手から信頼していなかったが、これでより信用できなくなった。


稔にとっては魅羽が最優先だった為協力しただけで、ユウ自体に興味など無かった。


ユウは全て利益だけを求めて行動していたが、稔はそのユウにだけ利益を求めていたというあまりに皮肉な状態となってしまった。


魅羽もまた、自分は愚かだったのかもしれないと再確認した。


こんな奴の言いなりになって、悪意のある動画であのお兄さんを苦しめていた。


その事実が魅羽の喉元に突き付けられていた。


魅羽も兄同様もうユウとは関係を切ろうと思った。


他の罪が無いか大人たちは入念にチェックすると、途中で亡くなっていた人々の財布やら貴重品やらをとっている事が判明し人でなしと罵られていた。


流石にこれには誰も庇う事は出来ず、またユウ自身も見つかるとマズいとは思っていたのか暴れて回収させないようにするがあっさりと鎮圧され、全てバレてしまった。


ユウは全て失ったようなものだった。


バズも人気も金も失い、もはやユウには何も残ってはいなかった。


しかし、こういうタイプが全て失うと自暴自棄になる事を分かっていた面々はユウを捕らえた上で条件付きで食わしてやる事が決まった。
















稔は魅羽と避難所内を探索しては、楼汰の事を勘違いしている人を見かけては謝った。


「今更そんなこと言われてもねえ?...いくら子供のいう事とは言え、ちょっとその人は信用できないねえ。大体ぃ、弁解もしないような腰抜けに何が守れるのかねえ?」


「それは違います!お兄さんは腰抜けなんかじゃありません!!!あの人は凄い人なんです!!!僕らがやっておいてなんですが、どうか誤解しないでください!!」


必死で彼の事を思いやる子供たちに動かされる人も出てきた中。













「ぐぅが0づお有⒥度青f⒥ドアfxjgear小田斧dヴァ時dんヴぉあヴァ―ーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」














叫び声と共に避難所の壁が突き破られた。


そこに居たのは、兎型と猫型の異偶だった。


兎は脚で建物を破壊し、そこに猫型が我先にと駆けてきたのだった。


その後ろからマンモス型のマシンが、更には鹿型とアザラシ型が現れる。


すぐに避難が開始される。


破壊された地点に居た人々はなすすべも無く異偶に命を奪われていった。


そしてその話は、丁度そこの部屋から遠い位置にいた稔たちにも入る。


大人たちと稔、魅羽、更に他の話に入っていなかった人々はそれぞれ慌てて避難を始める。


逃げ惑いあちらこちらで叫び声が聞こえる。


稔は魅羽と手を繋ぎながら隠れられる場所を探す。


何処に逃げても無駄と判断し、だったらと方向性を変えたのだった。


しかし、いくら成長期といえ大人の背丈にはかなわず背丈が足りない為急いでいる大人たちになど認識されず蹴飛ばされ転がり魅羽とはぐれてしまう。


「あっ、く、クソッ!!!みぃ.........魅羽ゥーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


叫ぶと微かだが東の方からお兄ちゃんと呼ぶ声が聞こえた気がした。


人の山に埋もれながら必死でその付近を目指す。




















【魅羽視点】


兄がいなくなってしまった。


私たちはその場に居なかったので知らなかったけれど、どうも怪物が一番遠い部屋を突き破って出てきたらしい。


兄は私の手を握り、逃げる場所を探してくれた。


もし一つしか無ければお前が使えともいわれた。


兄は、ひょっとしたらまだ私を家族と思ってくれているのかもしれない。


分からないけど、そうだと思いたい。


兄の手には汗が滲んでいて、私が恐れないように、怖がらないように言わないでいてくれるのだと思った。


きっと本当は怖いはずだ。


兄はホラーが苦手だった。


私がホラー系の番組を点けていると怖がってる事もあったし。


今はそんなレベルの話じゃない事は分かってるし、私は実際怖い。


だけど、兄は私を怖がらせないよう我慢してくれていると思うと恐怖は引っ込んだ。


なんだか、嬉しかった。


だから私もなんとか急いでいる兄の手を強く握り走った。


しかし、大人たちにぶつかり、ぶつかられ、逃げる道がなくなった。


こうなったら逃げるのではなく隠れようと兄は踵を返し走り出した。


暫く走っていると兄が誰かとまたぶつかった。


その時、勢い余った彼の手は私を放した。


そのまま私は人の波に流され、あっという間に兄が分からなくなってしまった。


なんとか波からは出たものの、兄が居た方には人が集まり確認できない。


かといってこちらは本来怪物が居た方で、なんだったら逃げた方が良い所だった。


どうにかしないと、今度こそ兄に見捨てられると思った。


兄の今の状態が気まぐれなのか私の勘違いなのか分からなかった。


だからなんとかして戻らなきゃと思ったんだ。


そう思っていたからこそ、兄の声が聞こえた時は泣きそうになった。


兄の叫び声が聞こえる。


私を呼ぶ声がする。


助けて欲しい。


兄の私への諦めは、きっと私の勘違いだった。


だってもし私への気遣いが気まぐれなら、あんな必死になって探したりしてくれない。


兄は、あの時荒んでいた。


私を傷つける事に一切の躊躇は無く、ただ私に対する反論としてお母さんまで死ななくてよかったななんて言葉を口にした。


あの時の兄は最低だったかもしれない。


でも、間違いなく今私を必死で探してくれている兄は、私のお兄ちゃんだ。


お兄ちゃんが帰ってきてくれた。


その事実が嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。


もっと叫べるはずなのに、しょっぱい水を飲んでしまったから声が出ない。


かろうじて届くくらいの量の声で返事を返す。


ごった返しのこの喧噪の中で、私たちの声だけがはっきりと聞こえるくらいの感覚があった。


もう兄の声も姿も見えないが、きっと来てくれているのだろう。


私も合流しなくちゃと、人混みに入る。


と、突然後ろから何かが壊れる音がした。


振り返るとそこにあった筈の壁が無くて、代わりに開けた街並みが広がっていた。


瓦礫が大量に落ちていて、そのまま視線を上げれば猫型の化け物が嗤っていた。


にゃおと猫の鳴き声を汚くしたような声で異偶が鳴く。


と同時にこちらへと向かってくる。


咄嗟に屈むと、そのまま猫型は上を飛び越しその際人混みから何人かの人を脚で切り裂いた。


血が降り注ぎ、悲痛な叫び声が木霊する。


そのまま人混みの奥の方に着地した猫型。


まるで獲物を選ぶように舌なめずりをしている。


そのこちらを嘲笑うかのような表情に思わずゾッとする。


このまま行ったら、きっとみんな死んじゃう。


そう思うと怖くて動けなかった。


震えて動けない。


それでも何とか近くの壁に寄りかかり、立ち上がる。


みんな先ほどまで化け物がいたらしい方角へと逆戻りしていく。


動けない私はみんなが移動した後、なんとか動き出した。


走れないから歩きながら、なんとかお兄ちゃんと合流したかった。


そのまま最後尾を着いていく。


その時。


突如、私は前から突き飛ばされた。


明らかに腕が見え、その腕に肩を押されて勢いよく飛んだ。


衝撃に備える時間も無く、尻もちを搗きながら上を見上げる。


視点の先では、あの男。


そう、ユウがこちらを見て笑っていた。


嬉しそうに。


ユウの腕は、先ほど私を突き飛ばした腕と一致した。


彼はこちらを見て、口パクで何かを言っていた。


ざ、ま、あ、み、ろ、く、そ、が、き。


そう口は動いていた。


あの男が小さい奴とは散々さっき大人が言っていた。


私は、良い事では無かったけれどあの人に動画のやり方などを教えて貰った。


だからお兄ちゃんや大人が言う程彼は悪い人じゃないと思っていた。


イケナイ事を思い、みんなに悪意を振るうけど、きっと何処かに優しさがあるのだと。


だけど違った。


私は普通に突き飛ばされ、言ってしまえば囮にされた。


みんなの言う通りだった。


彼は悪い人だった。


さっきお兄ちゃんと私が動画をフェイクだと明かした事を根に持ち、ここで返してきた。


ふと振り返れば、ゆっくりと猫型が迫ってきていて。


その顔はごちそうを待つ子供のようだった。


怖さとか、後悔なんてものは浮かばなかった。


浮かんだのは折角本心で仲直りが出来そうだったのに、もう二度と会う事すら出来なくなりそうなお兄ちゃんだけだった。


.........ごめんね、お兄ちゃん。


私がずっと振り回してしまって。


ずっと辛かったよね?


私がやってきたものも全て受け入れようとしてくれて。


お兄ちゃんのあの時の謝罪は、心からだったんだね。


言い訳じゃなくて、素直な気持ちだったんだね。


本当にごめんね。


......あの時、やり直せないなんて思ってごめん。


もう、引き返せないのに。


ごめんね。


酷い妹で。


再び振り返ると、目と鼻の先に猫型の顔があった。


私は食べられるのだろうか。


怖い。


でも、もうどうしようもなかった。


せめて、少しでも痛くない事を祈って目を閉じた。



















「魅羽ッ!!!!!!!!!」


向こうでお兄ちゃんの、鬼気迫る声が聞こえた気がした。




















私は恐怖のあまり気絶してしまって気づかなかった。


紅い光が、その猫型の化け物を切り裂いて現れたことに。

という事で次回からは再び楼汰側に視点が戻ります。

果たして日本に起きた大事件を解決することは出来るのでしょうか。

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