第84話 気づき
稔編2話目です。どうぞ。
稔たちの元に現れたのは、えげつないデカさの猫の異偶だった。
人々は当然大パニックとなり、街は大混乱。
稔も魅羽、ユウと共に逃げる事になる。
そんな中破壊されていく街でどんどん建物が壊されていく。
街灯は折れ、樹木は倒れ、車は横転する。
あちこちに人のグロテスクな死骸があり、そしてその前で佇む人がいる。
「おいおい、なんか凄えな!!終末っぽくね???これこそSNSに載せたら最高にバズりそうだな!!!」
とスマホのカメラを向けるユウ。
「...それは辞めておいた方がいいと思います。流石にそれはいくら何でも不愉快です。それに、僕らの目的はあのおに......マシンの人であり、ここらの人は関係ないはずです。」
しっかりと注意する稔だったが、ユウには効かなかった。
「不愉快?関係が無い?...ははっ、それこそ俺には関係ない!お前らだけだ、アイツだけに復讐したいのは。俺はアイツにも、そして俺を炎上させたこの国の野郎どもも全員纏めてぶち壊したいだけだ!!」
そう言いつつユウは既に死体や町にフォーカスを当てている。
しかし、それはまだ稔にとって想像の範囲内であった。
このユウという人間はハナから腐っているのだから。
だが、納得できないものがある。
魅羽も何故か嬉しそうなのだ。
「魅羽、流石にお前までこれをバズるとか言わないよな?......俺らだってこうなったんだぞ。この人らの事をネタになんて出来ないよな?」
「......当然でしょ。お兄ちゃんだって分かってる筈。私たちはあくまでもあのマシンの奴とバケモノにのみ憎悪してるって。許せないのはアイツらで、ここの人たちはどうでもいいの。」
「どうでもいい、か。」
明らかに魅羽もまた、何か思いついた事があったようだ。
それが何かは分からないが、死体を見てニヤついているようではいい事では無いだろう。
魅羽は確かにうるさい妹だったが、こんな事を言うような子では無いと楼汰は記憶していた。
どうして、こうなったのだろうか。
全てはタイミングとしか言いようがないのだろうが、まさか楼汰とてこんな性格になってしまうのは想像できなかった。
もはや別人とも取れる魅羽と、不謹慎極まりない写真を撮りたまに倒れている死体から財布を取ったりしているユウを冷めた目で見つつ稔も同行する。
いくら壊れた人たちだからって、一人きりで行動するよりかは云千倍もマシだ。
一人きりだなんて、もはやこんな状況じゃ自殺行為だ。
猫の異偶が反対を向いた隙に3人で逃げる。
これを繰り返し、とりあえず避難地点へと辿り着いた。
しかし、避難地点であった筈の場所にどうやらバケモノ達が一斉に流れ込んできている話を聞いてしまうのであった。
とはいえずっと逃げてきたため疲労も溜まっていた。
ひとまずここで休憩することに決める面々。
ユウが避難地点でタダメシだと喜んで配給を貰いに行き、魅羽は興味なさげにしていたが、兄が何処かへ行こうとしているのを見て着いてきた。
その兄である稔は近くを歩いていた。
前回のように、避難所の近くでバケモノが出る可能性も否定はできない。
そうなった時、逃げる場所や最悪隠れられる場所だけでも調べておきたかったのだ。
もしここで魅羽まで失ったらと思うと、とても落ち着いて休めるような事は無かった。
用心にこした事は無いと周りでそれらしい場所を見て回る稔。
魅羽はつまんなさそうにそれを見ていた。
戻ってきた稔に対し心配しすぎだと笑うユウを見た稔は、こう言う人が災害を舐めて後悔するんだよなと少しだけ思った。
避難地点で和磨達が話をしていたとき、民間人もまた危機意識が薄れ話に笑いが生まれていた。
勿論警戒していた者たちも居たには居たがごく少数であった。
稔は常に警戒しており、魅羽ですら少しは警戒している模様。
ユウだけが緩み切っていて、いつかの黄色のマシンの時の二の舞をしそうなほど浮かれていた。
どうも、今回の映像を様々なメディアで流して大バズりの計画で皮算用しているらしい。
夢を見るのは勝手だが、どうしてそれでウケると思うのか稔には分からなかった。
と、稔たちやそれ以外の所謂一般人たちが駄弁っている所に一人の男の声が入ってくる。
「皆さーーーーーーーん!!!!!!!!自分たちが誘導するので、落ち着いて避難してくださいっす!!!!!!!!!!」
それは和磨の声であった。
魅羽も稔も和磨とは面識がある。
お兄ちゃんと仲の良い青年である和磨が声を張り上げる事態。
それがどれほど重いのか、稔には想像がつかなかったが、兎に角早く逃げなければ取り返しがつかないと気づいた。
皆、流れるように動き出す。
しかし、それこそが地獄の幕開けだった。
建物が崩壊し、街が壊れていく中。
ひたすら歩き続ける者たち。
異偶とも遭遇しない為、ひとまず逃げ切ったのかと安心する者が居た。
或いは自衛隊が時間稼ぎ出来ていると喜ぶ者も居た。
だからこそ、まさか東西南北から異偶が現れるとは思っても居なかっただろう。
稔もかつて自分たちが壊れた時、2体の化け物とお兄ちゃんが戦っているのを見た。
その時、苦戦しつつ何とか技や特殊能力のようなモノを使いギリギリで主人公が倒しているのを知っていた稔はかなりマズい事態であると察した。
アザラシ型、鹿型、そして稔たちを追ってきたのであろう猫型。
更に兎型なんてのも遠くには居るらしい。
思わず絶望し、自分たちはここで死ぬのかと和磨達に問う少女まで現れた。
和磨は楼汰が来てくれるという希望的観測を話した。
子供相手ならばそれで良かったかもしれない。
だが、ここに居る大半が大人であった。
当然そんな事が信じられるわけも無く、酷い罵詈雑言を送る者たちでここはむせかえっていた。
何でここに居ないのかという問いが途中で挟まれたが、一番皆が感じているのはそこだろう。
もし本当にみんなを救う気なら、何があったのかは知らないがここに救いに来るだろう。
なのに来ないのだ。
稔は、とある考えがあった。
だがそれを言いたくは無かった。
これ以上何も背負いたくは無かった。
きっとこうなのだろうという想像であるが、当たっているだろう。
お兄ちゃんはきっと選んでしまったのだ、自分のせいで。
そうこうしているうちにいつの間にやら兎型も合流してしまった。
きっとここで無駄に話していたからなんだろう。
大人ってのはいつもそうだと、稔は呆れつつひとまず魅羽、ユウと共に一足先に逃げる事を決意。
こういう所で一番先に逃げるのは返って逆効果だが、そこはそれ。
一番最初には出ず、誰かが出ていくのを待ってから逃げ出した。
案の定、自分が一番乗りだと慌てて逃げ出す奴らがかなりいた。
もう逃げられないと絶望しへなへなと座り込む奴らより先に死んでいった。
その混乱に乗じて、稔たちはその場から姿を消した。
暫く歩き、気づけば大分離れていた。
ここは恐らく兎型が来ていた跡地。
最早元々の街など無かったかのように破壊されていて、あちこちに血飛沫や血痕、更に死体が見える。
あまりの惨状に目を背けそうになる稔。
いくら親が亡くなって以降多少大人びたとはいえ、まだ小学5年の男の子だった。
グロテスクすぎる状態に嫌そうになるべく見ず歩く。
と、かなり先だが人が集まっているところがあった。
ひょっとしたら匿ってもらえるかもしれんと一目散にユウが走っていく。
本当に奴は大人かと疑いながらも着いていく。
本来ならばここでそのままユウと魅羽と一緒に走っていた。
だが、それは出来なかった。
「お父ぉぉぉおおおさぁあああああああああん!!!!!!何処ぉぉぉおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」
必死で叫ぶ少年が居た。
否、少年というサイズではない。
まだ幼児、幼稚園児位だ。
必死に叫んでいる。
その子の近くには人の死体が大分転がっていたが、酷い潰れ方であった。
そしてその幼児は倒れる人に手を添えていた。
その倒れている人は女性で、顔色こそ悪いがまだ生きていそうだった。
片方の腕が潰れてしまっていて、左脚もあらぬ方向に折れている。
腕や脚以外に折れていそうなところが無いのが何とも奇跡といったレベルの身体だ。
幼児の心を折るには分かりやすく残酷な仕掛けだった。
稔は彼にも気の毒に思いながら、魅羽と通り抜けようとした。
「お母ぁぁぁぁああああさあああああああああああん!!!!!!!死んじゃ嫌だァァァァぁあああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
その声に反応した稔は、すぐに振り返った。
思わず見つめたその先には、その幼児は居なかった。
代わりに居たのは、自分だった。
まだ幸せだったころの自分。
両親が生きていた頃の自分。
脚を潰された母親に対し、泣きながら懺悔する自分の姿がそこにくっきりと映し出された。
まるで蜃気楼を見ているようだった。
無いようであるその光景に思わず声を詰まらせる。
あの時稔は最低だった。
そんな最低な稔を、親としての責任と愛情で庇ってくれたのだ。
自分の命を持って。
死ぬべき人なんていない。
稔は、いい子だもの。
貴方は死ぬべき人なんかじゃない。
魅羽を、宜しくね。
そんな大事な言葉が走馬灯のように思い出させる。
その幼児と自分が、重なったかのように感じた。
フラッシュバックした記憶が、必死で忘れようと頭痛を始めた。
しかし今更忘れられなかった。
俺は、最低だ。
そう思う稔は力なく蹲る。
本当に「良い子」で、「死ぬべき人でない」のなら、魅羽に復讐の運命を押し付けたりしない。
そもそも、母親も父親も失わせたりしない。
魅羽に、酷い事を言ったりしない。
今までお兄ちゃんや化け物、或いは環境のせいにして逃げてきた。
妹を傷つけない為だと、そう言って。
でも本当は、これ以上自分が傷つかない為にそうしていたんじゃないのか。
二度とトラウマを呼ばない為に、造らない為に利己的にしていたんじゃあないのか。
改めて自分を最低だと思う稔。
魅羽には確かに現実を伝えた筈だが、彼女は当初認める事が出来ず、彼女を壊さない為に吐いた嘘だった。
だが、今の魅羽ならばきっと理解できる筈だ。
理解できない訳が無い。
俺よりしっかりしていて、口うるさかったあの妹が、壊れそうになったのには驚いたが、俺と違って既に理解しているんじゃないか。
むしろ俺の方こそ、魅羽を傷つけない為だと体のいい言い訳をして自分がただ怖かったのをごまかしていたんじゃないのか。
俺が壊れない為に、言い訳をして魅羽が壊れないようにと予防線を張っていただけじゃないのだろうか。
そう稔は静かにそう察した。
全て、自分から始まった物語だったと。
ふとあの幼児の事が見えてくる。
その幼児は自分よりもずっと小さいのにも関わらず、泣きじゃくりながら必死で母親を呼んでいる。
あれくらいの歳だったら何もできず詰んでた可能性を稔は考えた。
彼は凄いと素直に思う稔。
そして、あの幼児の事情までは分からないが、ひょっとしたら何か怒られた後とかだったかもしれない。
稔のようになってほしくないと考えた彼は、ゆっくりと近づく。
もし何もしていない、ただ巻き込まれた家族というだけなら尚更だ。
稔と違い、何か罪が有る訳でも無い。
そんなこの子が、自分と同じ未来を辿るなんて考えたくなかった。
だから思わず、気が付いたら走り出していた。
その幼児が泣きながら、お母さん、お母さんと呼びかけ、怖いようと口にした。
今は母親は相手に出来ないから。
俺が代わりにと動いたのだった。
気が付けば彼は幼児の頭に手を置き、そのままゆっくりと抱き締めた。
「大丈夫だから。」
と。
あと2か3はかかるかな~。




