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適合者はこの俺!!!!  作者: こしあん大福
第1章 真紅の雨
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第82話 地獄絵図

今回結構嫌な描写あるかもしれないんで嫌な方は非推奨です。

和磨達はもはや逃げ場などないと悟り、沈黙した。


「......私たち、ここで死んじゃうの?」


希望に縋りつくような声で、小さな命が尋ねる。


誰も答えない中、和磨だけが動けていた。


「大丈夫っす。...きっと、彼が来てくれる。自分たちにとって今一番大事なのは、どうやって犠牲者を出さず逃げるかです。皆さんにも力を借りたいっす!」


和磨にとって、たとえ絶望的な状況でも楼汰ならばなんとかしてくれるだろうという望みがあった。


そして和磨は楼汰が決して逃げない事を知っていた。


しかし、国民たちにとってはそうとはいかなかった。


「彼って、まさかあの虐待野郎の事か?!子供を殴って泣かせるような奴が信用できるか!!ふざけるな!!!大体、あんな変なモノなど頼らんとどうしようも出来ない時点でお終いじゃ!!!」


「そうよそうよ!!」


「言ってやれ!!!!!」


急に地獄に叩き落され、絶望しきっていた国民にとってそれはサンドバッグにするネタにしかならなかった。


実際この国民たちは特に理由など無くこんな状況にされている。


文句の一つも言いたくなるものだ。


大人の大きく酷い罵声を近くで聞いた子供は泣き出し、釣られて赤ん坊が泣き始める。


和磨は慌てたように、


「いや、あの動画は、偽物なんすよ!皆さんは騙されているんす!!!実際は、あんな人じゃ......。」


と付け加えたが、時すでに遅し。


和磨の声はほぼかき消され、救助民の罵声の中に消えた。


「大体あんなマシンのやつ、最初から信用できなかったんだ!」


「そもそもこんな事になってんのがソイツのせいなんじゃないのか!?」


「岩動とか言ってたよな!!大体今ソイツは何してんだよ!!!何でここに居ねえんだ!!!」


「お前らなんか知ってんだよな!?言えや!!!そのマシンの奴の居場所を!!!」


恐慌し、絶望に染まった人々はもはや誰かに恨みをぶつける事で鬱憤を晴らすくらいしか感情の整理が出来なかった。


家や勤務先が破壊された人々。


友人や家族、ペットを失い絶望に暮れる人々。


自分の大切なモノやお金、あるいは景色が崩壊していくサマを無感情で見る人。


皆諦めかけていたのだ。


「大体よ、俺たちが何やったってアイツらはすぐそこまで来てんじゃん。死ぬしかなくねえか?」


と一人が言った事で更に現場は混乱。


まだ状況が呑み込めていなかった後ろの人々まで文句を言いだし、誰も意見など口にはしなかった。


思いついていないだとかそういう訳では無く、もうそんな余裕すら無かったのだ。


「何をやっても無駄だ。.........おいおいおい、待ってくれよ!!!そんな、本当に無駄じゃねえか............。」


諦めた台詞を口にした奴が、本当に絶望したかのように呟く。


そこには、口と脚に血をびっしりと付けた兎型の異偶が立っていた。


それは自衛隊の敗北を意味していた。


あまりにも、敗北と八方塞がりを示すのにはいい材料であった。


「......終わったぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!11」


「どうして、どうしてぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」


「チックショォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!1」


皆口々に叫ぶ中、流石に玲子率いる公安の面々も絶望を抱える他なかった。


まさに四面楚歌、どこを向いても残虐が牙を剥いていた。


そして徐々に近づく異偶達は、それぞれが獲物に対し嘲笑と共に殺害を始めてしまった。






















まさに地獄絵図。


まさに阿鼻叫喚。


そんな言葉すら生ぬるいような、人々の泣き叫ぶ声。


アザラシ型の異偶は、寝転がりながらどんどん廃屋となっていく瓦礫の山を更に砕き、その過程で瓦礫に挟まれた人々や逃げ遅れを潰していった。


生きてきた事すら後悔させるような苦しみが地面を伝う。


猫型はその爪と口が武器であった。


身軽さを生かしもはや統率すら取れない救助者チームを殺していく。


迷彩すら役に立たず救助者を助けていた自衛隊員たちが次々と爪で抉られ死んでいった。


そしてその過程で助けられた救助者たちも多く屠られた。


噛まれ腕が損失した男を必死で抱き起し逃げようとする女性。


その女性の襟元を咥えた猫はニヤリと嗤う。


「辞めてくれ......。辞めてくれーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」


叫ぶも意味など無く、女性は一気に口内へと押し込まれ、鈍い音が響く。


噛み砕かれたと知った男が無き腕を伸ばし必死で猫を睨みつけていると、猫が何かを吐き出した。


それは女性の頭だった。


脳天が割られた女性の生首を抱え、男は泣きながら突っ伏した。


そして猫型は別の人間を狙う。


鹿のような異偶は攻撃という攻撃はしなかったが、謎のエネルギーを発し佇んでいた。


爪で人間を切り裂いた拍子に勢い余ってガラスに手を突っ込んだ猫型。


前足が切り裂かれ痛そうに嘆く。


すると鹿型が人鳴きし、エネルギーが飛んでいく。


そのエネルギーは猫型に飛ぶと腕を回復させ、元通りにした。


ヒーラーのようであった。


兎型は相変わらず飛び跳ね続ける。


勿論脚で逃げ回る人々を潰しながら。


こんな状況で生き残れる人間など一握り中の一握り。


死んでいった人間の死を嘆きながらもなんとか十数人だけが脱出した。


その中に、和磨も居たのだった。


玲子、和磨、そして先ほどの女性隊員といかつい男隊員だけが公安のメンバーで生き残っていた。


その他あと数人は居たと思われる公安部隊だが、混乱の最中で死んでしまったようだ。


あるいはまだ混乱の中に居ると思われるが、もはや助ける事は不可能だった。


非情と知りながらも彼らはもうそこに戻ることは無かった。


そしてその混乱からはずっと泣き叫ぶ声が響く。


愛する恋人を失い嘆きながら怒る女性。


母親を泣きながら探す子供の声。


我先にと逃げようとし逃げられず互いにいがみ合いながら死に行く老人たち。


どうしてこんな事にと、誰しもが思った事だろう。


そしてその叫びは、残念ながら朝まで途切れることは無かった。



















なんとかその場から抜けた十数人は異偶から隠れるべくそれぞれ歩いていた。


合流しなんとかいい場所を探して練り歩く。


しかし、あんな量の異偶が獲物をわざわざ逃すだろうか。


命を頂く訳でも無く、いたずらに命を減らす奴らが。


と、そこに突如落下音が響く。


ヒュゥゥゥウウン、ドオオオオオオオオオオオン!!!!!という音と共に十数人の少し前にとあるマシンが現れる。


リーパーの映像をまともに見た事のない人々は歓声を上げた。


あれは英雄の象徴だと。


だが、和磨たちはより絶望するしかなかった。


それはリーパーでは無く、あの時の資料にあったデッドリーと同じ色の構成をしていたからだった。


青と黒でボーダーのようになっている、マンモス型のマシン。


それが音の正体だった。


そしてそれがリーパーで無いことに話を聞かない国民たちが気づくまでそう時間はかからなかった。


何故なら、自分たちを襲ってきたからである。












突進でほぼ全員が死んだ。


その中には、いかつい男の隊員もいた。


ビルの破片に突き刺さり、死んでしまった。


更に女性隊員は腕を負傷し、玲子もまた頭を打って血を流す。


運よく回避できたのは和磨とその隣に居た子供だけだった。


マンモス型のマシンは動き出した。


頭に着いた鼻型の刃を回転させると、それがとんでもない速さで回る。


扇風機の羽のように回転する刃がそこで動けない老人を切り殺した。


声も出ず、ただ打ちひしがれる人々。


残りは和磨、女性隊員、玲子、子供、そして大人二人のみ。


負傷していないのは子供だけで、他の面々は何処かしらにダメージを受けていた。


和磨もまた、先ほどの衝撃でガラスが腕に突き刺さっていた。


と、彼のスマートフォンに着信がかかる。


こんな状況の時に本来ならば出ない和磨。


だが、命を失うという事実を目前にし誰かと話したくなった。


画面には、菜那と刻まれている。


思わず手に取り、通話ボタンを押す。


マンモス型が迫る中、彼はもしもしと必死に叫ぶ。


声が遠い。


スマートフォンも壊れてしまったのだと思いながら必死で呼びかける。


「菜那!菜那!!!大丈夫なんすか!!!なあ、菜那!!!!返事してほしいっすよ!!!!!」


その声に、弱弱しい菜那の声が入る。


「...............ありがとう、和磨くん............。」


弱々しく、そして悲しみに溢れた声に思わず身構えながら和磨は続ける。


「大丈夫っすか!?なんで、今お礼を言ってくるんすか!?今そっちの状況は!?」


慌てて問う和磨に、菜那は笑って返す。


「...和磨くん、ありがとう。.........っ、私、本当に幸せだった。束の間の、息を吐けるところだった。和磨君は私にとっての英雄、かな。プログラマーも頑張ってね。」


和磨は公安である。


その為、彼女である菜那ですらその職業を知らなかった。


「プログラマー、じゃないんす。自分はぁっ、自分はァっ!!」


「......その先は言わないで。分かってるよ、大丈夫。......私は、もうダメだから。最期に、お願いを聞いてくれる?」


「...ダメって、ダメって何なんすか!?ダメって、一体何がダメなんすか!?」


分かっている筈の答えだが、和磨とて納得は行かなかった。


菜那が今どんな状況なのか。


詳しくは分からないが、きっともうどうする事も出来ない状態にあると推測できる。


だが、和磨は推測したくなかった。


このままでは、菜那を失うと理解したから。


少しでも時間の流れに抵抗したかった。


廃墟と化していくビルから漏れた光が和磨を照らし、そして陰らせる。


「......挟まれてるの。...腕は折れてさ、もう感覚が無いんだ......。脚は挟まれてて、そしてさっきね、化け物に片方齧られちゃった。もう、私は今ギリギリなんだよ.........っ、だからせめてお願いを聞いて。」


「...嫌っす。聞きたくないっす。そんな、そんな悲しい事なんて聞きたく......。」


「そう、だよね。でも、私は聞いて欲しいよ。......私だって辛いよ、こんな場所で、こんな姿で、一人で......死にたくないよ!!!!」


溢れた思いが言葉となる。


彼女は泣いていた。


その涙が言葉に代わり、そして和磨の心を曇らせる。


「感覚は無いけれど、さっきまで痛かった!!ずっと、ずっと一人で辛かった!!!!何で来てくれないの!!!......私が、苦しんでるのに、どうして.........。」


その言葉に和磨の心は締め付けられる。


思わず、涙が流れそうになるのを堪えながら、和磨も答える。


「ごめん、ごめんなさい、菜那さん......。自分......ッ、俺ェっ!!」


「......こっちこそ、ごめんね。こんな事、いうつもり無かったのに。和磨君に言ったって、苦しめるだけだってわかってたのに。」


「そんな事無いっす。...自分が、自分が君の所に居れば、その痛みも、辛さも、きっと軽減できた。ごめんなさい......ごめんなさい...。」


辛そうな声で謝る和磨を、菜那は思わず止める。


「......あんな事言ったけど、大丈夫だよ。もう、覚悟はできた。...ありがとね、色々と。じゃあお願い言うね。」


そのお願いがなんであろうと和磨は聞こうとした。


「......みんなを、守って。............絶対に。」


まるで和磨の正体を見透かしたかのような一言に和磨は思わず息を呑む。


だが、その瞳には決意が燃えた。


「...分かったっす。あとは、任せてくれっす。」


「......。...最後に、変な事任せてごめん。でも、和磨君にお願いしたいんだ。無理だとしても、私の無念を晴らしてほしいんだ。」


「大丈夫っす。.........後は、後はゆっくり眠ってください。おやすみなさい、菜那さん。」


「うん..................お休み。.........さよなら。」


通話が切れた。


和磨は、泣きながらスマホを手に抱える。


切れたのか切ったのか、その真意を不明にしながら、和磨は立ち上がる。


青黒のマンモス型は、もはや目の前だった。


と、異偶たちが片付け終えたのか近寄ってくる。


ふらふらしながら立ち上がる和磨。


と、アザラシ型が誤って転がりそのまま壊れかけの建物を破壊する。


その瓦礫が、玲子を、女性隊員を、大人たちを埋め尽くしていく。


そんな中、和磨はやりきれない思いで胸を一杯にしながらふと近くを見る。


そこには、怯えと涙で動けなくなっていた子供がいた。


そしてその上には瓦礫が迫っていた。


ここでこの少女を助けてもどうにもならないことなど分かり切っていた。


だが、ここで救わなければ菜那の希望を砕くことになる。


何より、その少女の瞳から零れ落ちる涙が、菜那の声色と重なった。


気づけば和磨は少女を庇い、突き飛ばしていた。


そのまま重い衝撃と共に和磨は倒れた。


肩と背中、それに腰と脚に鈍痛が広がり、徐々に鋭い痛みが襲い来る。


それを受けた和磨は、普段戦っている楼汰がどれだけ痛みと戦っているかを理解した。


そして菜那がどれだけ苦しんだかを理解した。


ズボンが液体に浸される。


それが自分の血液だと気づくのに時間がかかった。


脳に血液が到達しない。


もう、終わりだった。


和磨にとって、命なんてもうどうでもよかった。


ただ、菜那との約束を守れない事だけが気がかりだった。


だが、どうも出来ない。


今使えるのはかろうじて動かせる腕と、顔だけだった。


唯一の救いは、突き飛ばした少女が穴に落ち、その穴がそこまで深くはないが見えづらかったため、少女を救ったと認識出来たところくらいだろうか。


と、その時は痛みで気づかなかったが、手の先にトランシーバーのようなモノが落ちている。


それは海外に居ても電波が届く、楼汰に持たせた通信機材だった。


少しずつ薄れていく意識と戦いながら、和磨は起動し叫ぶ。


「岩動さんっ、楼汰さん、ヤバいっす!!!!


 突然現れた、青いマシンのせいで国が滅んでしまうっす!!!!


 早くしないと、早くしないと、菜那が、玲子さんが、国民達がみんあ殺されてしまうっす!!!


 バケモノも大量に出現していて、もはや何処にも誰にでも逃げ場なんて無いっすう!!!!!


 なるべく、なるべく早く帰ってきてくださいっす、楼汰さん!!!!!!!!!」


その叫び声が、途切れながらも通信機材に録音される。


そしてそれは海の上を通り電波となって彼の元へと届く。


そんな事を願いながら、和磨は気絶した。





















4体の異偶と青と黒のマンモス型マシンは壊れていく日本の大地を闊歩しながら歩いていく。


その足元には、大量の死骸が転がっていた。


命は、簡単に失われる。


それは、とある兄妹たちにも影響を及ぼしていた。

という事で日本が滅んでいきます。

果たして救いはここからあるのか?



次回はあの兄妹、稔と魅羽編です。お楽しみに。

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