第81話 戦地
楼汰が居ない間、何が起きていたのか。
「総員、発射開始!」
掛け声と共に一斉発射が始まる。
まるで何が始まったかを理解できない和磨達。
これは、政府の行動であった。
政府が非常事態だと判断し、急遽自衛隊を現場へ向かわせたのだった。
武装も解禁こそしたものの、日本の自衛隊は攻めより守りが高いモノが多くあまり期待は出来なかった。
何より、それは日本の自衛隊員たちが一番感じていたことだった。
果たして自分たちは役に立つのか。
ここで時間稼ぎをしたところで意味はあるのか。
自分たちがやらなくても...とまでは行かなくとも、少なからずこの問題を深刻な問題だと思っていた。
自衛隊員たちは国民の為、国の為に命をかけて戦う覚悟を持っている。
例えその過程で命を落とす危険性があっても、人々の為に戦うヒーローである。
だが、その力はあくまでも対人間や生物・あるいは戦争や震災などに使うモノ。
彼らもまさか自分たちが巨大なマシンに挑む羽目になるとは思っていなかった。
まともな装備も無く、勝てる筈はなかった。
きっと隊員たちは誰もがこれは負け戦だと、そう感じているだろう。
だが、それでも誇りだけは捨てない。
きっと希望はある、或いは希望につなげると信じその場の最善を目指す。
ミリタリー魂を燃やし、日本を守る為に立ち上がった。
政府は、岩動楼汰をそこそこではあるが褒める人間が多かった。
それは、報酬こそ貰っているものの野心が有る訳でもなく、必死に戦闘に挑み国民を守る。
本人も一国民でありながら、国の為に命を燃やしているのだ。
それを評価し、また更にいい待遇にと思っていた人間も居た。
だがその一方で楼汰のあの状態はまぐれだと未だに喚く人間も居た。
国民にも居るのだから当然だとは思うが、そういった彼らは未だに楼汰を信じられず批判を続けていた。
そんな中でその云わば守護者であった楼汰の付き人となっていたカーㇴが攫われてしまった。
その会議で話が白熱している中、勝手に公安の若きリーダーが許可を出してしまったことにより楼汰はまだ決まっていない対応を無視してその国へと向かった。
当然今まで疑っていた議員たちは激怒。
更に、評価していた人間も苦い顔をするのだった。
玲子たちは説得を試みたが、残念ながら楼汰の評価は覆る。
更に玲子たちも責任を追及されてしまう事になるのであった。
その追及をなんとか逃れた玲子たちが、今こんな状態となっていた。
そこに現れた自衛隊に、望みをかける以外にはなかった。
自衛隊は3つの部隊に分かれた。
地上部隊、機械部隊、救助部隊である。
救助部隊はその名の通り逃げ遅れた人々を救うために手を貸し、肩を貸し、脚を貸す。
和磨たちも当然のように救われ、なんとかその場から離脱できそうになっていた。
それぞれ各地方にいる自衛隊がそれぞれ異偶のいる場所へと向かい、そしてそこの人々を救出していた。
涙を流し感謝する人々。
また家族や恋人、友人を失い号泣・絶望する人も居た。
コンクリートの堅い地面を腕でたたき、血で手を染めながら必死で懺悔する人を目にした和磨は、思わず目を背けた。
「......自分たちの判断は、間違っていたんでしょうか。こうなるなら、楼汰さんを待たせた方が良かったんじゃないでしょうか。」
思わず、そう言わざるを得ない。
この状況になったのはきっと、誰もせいでもない。
だがこの状況になった後のことならば誰かの責任に出来た。
被害を済ませていたのはいつだって楼汰だった。
ならば今この状況になってしまった以上、後先考えずに出て行った楼汰にヘイトが集まるのは当然だった。
だが、玲子はそれを一蹴する。
「貴方ね、いい加減になさい!本来私たちが守るべき国でもあるのよ!彼は確かに行ってしまったけど、事情もあったし何より行かせたのは私たちなのよ!...言いたくないけれど、私たちの責任だわ。」
その正論は、深く和磨たちに突き刺さった。
「...そう、ですね。自分、色々あり過ぎておかしくなってたみたいっす。すみません、玲子さん。今できるのはしょげている事じゃなく、ここから楼汰さんが帰ってくるまでどれだけカバーできるかっすね!!」
そしてその正論が1人、また1人と公安のメンバーを動かしていく。
「このままだと他の国による牽制もありますし、どうやって迅速に解決できるかを考えた方が良いですね。」
それはとあるメンバーからの発言だった。
確かに、このまま行けば日本はきっと滅んでしまう。
だがその後、もし日本から出た異偶達が他国を襲ったら?
そうなると推測できた瞬間、きっと他国は日本ごと破壊しにかかるだろう。
そうなればもうおしまいだ。
かといって、今彼らに出来る事など何もないに等しかった。
そして楼汰は帰っては来ない。
隊員たちは、それぞれで意見を出し合う事にした。
「今出来るのは自衛隊に混じって人々を助けつつこの状態を引き起こした奴を探すのがいいんじゃないか」
「下手に動いて自衛隊の邪魔になるのはマズい、今は動かない方が良い」
「犯人捜しとは言ったがその犯人の姿はどうするんだ?確か攫われた少女が見た目を知っていた筈だが...。」
「そもそも犯人も何も我々にどうにか出来るのか?」
と、意見は割れに割れた。
まとまらない話の中、少し離れたところでは炎が上がる。
そして建物が倒壊していくのが肉眼で確認できる。
つまり、ここももう安全ではないのだ。
と、一人の隊員が言った。
「あの、今言うべきじゃないかもしれないんですけど、私、こう思うんです......。図られたんじゃないかって。」
「図られた...?一体、どういう事だ?」
頑固そうな隊員が腕を組み、その女性隊員に向けて難しい顔で問う。
「いや、岩動さんが旅立つようあの女の子を攫い、そして私たちと彼を分断した、みたいな。」
それに対し女性隊員はだんだんその頑固隊員の視線が怖くなり下を向きつつ答える。
「?それが、一体なんだ?」
「......そういう事っすか。つまりは、最初から日本が目的でこういう事をしている、と。」
「ええ、私はどうも今回の状況があまりにも向こうにとって都合が良すぎる気がして...。」
「確かに、そうね。でもあのマシンを作れるような異世界の人間が今更日本に対してこんな事をするかしら。」
玲子の言う通り、今更日本を攻めたところで何もメリットは無いように思えた。
「リーダー、そもそもアイツらはメリットがあってこんな事してるんですかね?あのバケモノはただ人間を苦しめてるだけに思えますよ。」
少々乱暴そうないかつく若い男がそう返す。
「......それもそうね。異偶、でしたっけ。確かにアイツらはただ人を啄んでいたわ。そこに理由も何もなかった。メリットが無く、ただ苦しめたいからやっている可能性もあるわね。」
玲子たちにしてみれば、伝説の獣のカケラの話までは聞いていないため何か目的があるということしか分からない。
だが、そもそも目的があるとしても異偶の行動理由が分からず首を傾げるばかりであった。
「と、とにかくですね、何か陰謀を感じます。この国を確実に消す為にも岩動さんの方にも何か行動を起こしている可能性があります。今のうちに連絡を取ってみては。」
「確かに、少々何か意思が絡んでる気がするわね。途方もないような闇があるのかも。でも、私たちには分からないしとりあえず考えてるより先に移動するわよ。ここはもう危険だわ。」
「了解っす。...すぅ、皆さーーーーーーーん!!!!!!!!自分たちが誘導するので、落ち着いて避難してくださいっす!!!!!!!!!!!!」
和磨は大きく息を吸い、大声で人々に呼びかける。
それを見て呆れたように笑う玲子だったが、すぐに表情を切り替え人の為に動き出す。
しかし、まずは行動を起こすべきだったと後悔する羽目になる事を、まだ彼らは知らない。
その場から離れ、安全そうな場所を目指す。
近くの建物は既に壊れており、いつ倒壊するかもわからない為迂闊に近寄ることすら出来ない。
それでも必死に逃げる。
彼らにとって、止まることは死を意味していた。
逃げる彼らを何故か追わない異偶達。
それもその筈であった。
異偶4体はそれぞれ破壊を繰り返しながら、ここを目指していたのである。
つまり.........
「うっ、嘘だろ!?あそこに、猫みたいなバケモノが居るぞ!!!!」
「おいおいおいおい!!!こっちからはアザラシみてえな奴が来とる!!!!!!!」
「あっちには鹿のような怪物も見えますね.........。私たち、どうなっちゃうんでしょう...。」
「これは、かなりマズいわね。救いとは言えないけど、私たちの前に居た兎型はまだ来ては居ないようね。」
他の地域の人々は。
自衛隊の隊員たちは。
どうなったのかを誰も知らぬまま、囲まれた状況でどうにか逃げる作戦を練る。
だが、どう足掻いても逃げる事を許さないような状況に絶望するほかなかった。
あぁ、あの時、すぐ行動し逃げていればここで止まることは無かったんじゃないのか。
あの時の話し合いはここでも出来た筈だと、玲子たちは自分を責めた。
しかし責めた所でもはやどうにもならない。
徐々に迫ってくる異偶たちを見ながら、どうするか悩んでいた。
一人の男は、諦めたように笑うと銃を手放した。
あたりには血が落ち、あちこちに肉片が散らばっている。
それもその筈、彼は自衛隊員だった。
救助部隊が逃がすのを見ながら、機械部隊が戦車で、地上部隊は銃と誘導弾を使おうとしていた。
しかし、人間の常識など最初から通用するはずも無かった。
襲われていた人々を救うため誘導弾でなんとかしようと試みるも、襲われていた人々を殺した後に襲われてしまった。
ただいたずらに自分の場所を明かしただけであった。
それどころか逆に自分の近くにいる人間までバラしてしまう始末となってしまっていた。
圧倒的な力を持つ異偶にとって、人間など取るに足らない生き物。
数人を殺した後に別の数人を殺すことなど造作も無かった。
ハンドガンやライフル、機関銃や小銃など様々な銃で撃つが効果は無く、これもまた自分たちがただ場所を明かしただけとなってしまう。
戦車となると流石にダメージは通るものの、その後インターバルや死角がある為一機の戦車で一回分の活躍が主だった。
しかも普通のビル街で戦闘になった為に逃げ場を失い、踏みつぶされていった。
こうして、どんどん彼らは追い詰められていった。
戦闘機が現れ、砲弾を撃ち込むも跳ばれては意味が無かった。
そのまま上から落ちてくる兎の脚に巻き込まれて落ちていった。
ヘリコプターも物資を持って辺りに待機していたが、物資を渡す前に兎型に破壊された。
気づけば男以外に戦っている人間は居らず、男は理解した。
ただひたすらに死を待つだけだと。
もはや諦める他ない状況で、彼はポケットから写真を取り出す。
それは彼の家族、娘と妻の写真だった。
このまま死ぬわけにはいかない。
その思いが、彼を震え上がらせ、戦地へと戻そうと燃え上がっていた。
彼は再び銃を持ち、そしてビルの隙間から飛び出そうと脚を踏み出した。
...飛び出した先には。
「グェョギィ?」
死が、顔を出して待っていた。
呆然と立ち尽くす男の顔には涙が浮かぶ。
そのまま屠られた男の死骸から、写真が落ちていく。
娘と妻の顔には血が塗られていた。
こうしてここの自衛隊は壊滅した。
兎型異偶は満足げに見下ろすと、あたかも最初から分かっていたかのように玲子たちが逃げた方向へと向かいだす。
それぞれ戦地となっていた日本で、異偶たちは突如として一つの点を探すように中心へと向かう。
その中心には、青い仮面の男がニヒルな笑みと共に立っていた。
腕に起動装置のようなものを掲げて。
まだ青いマシンが出ていませんね。
一体どうなる事やら。
和磨視点はあと1話だけ続きます。




