第80話 序の口
ということで遂に80話です、お楽しみに。
和磨は、頭を思わず抱えてしまった。
よりによって楼汰の居ないこの時に異偶が4体も現れたと聞いたからだ。
聞けば、その異偶達はそれぞれが別の場所に出現しておりその個体ごとに行動を起こしているらしい。
残りの3体の居場所は分からないが、少なくとも1体は今この場に居た。
兎の様な長い耳を持ち、脚がホッピングのようになっている異偶。
それが和磨の視線の先、いわば街を見下ろしていた。
その兎のような異偶は嗤っている。
獲物を捕捉したとでも言わんばかりに嘲笑していた。
そしてその瞳には残虐性と、加害性が牙を剥いているかのように血走りランランと輝いている。
兎異偶は出現したビルの上から高らかに跳ぶと、そのまま急降下。
ビルが立ち並ぶ都会の街のど真ん中に落下した。
その一つの衝撃だけで近くにあった工事車両などは吹き飛び、木々が倒れ電線が千切れる。
和磨自身、立っていたビルが相当揺れている事に気づき慌てて柵を掴む。
と、
「え9うdjfぁんvkdじゃふぉdjふぃあdfなdkf鍵鵜家Fじじぇお⒥おfじぇFじぇおじゃ偈ーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
という形容しがたい叫び声が轟く。
それはまさに、今からここが戦場になると告げる開戦の狼煙だった。
そしてそれは地獄が顔を出したことを表現していた。
和磨はすぐに下の職場に戻る。
同僚や部下、玲子などは忙しそうに動き回りつつ、何かあったらすぐ逃げられるよう準備も進めていた。
外では大きな叫び声が多数響いていた。
それもその筈、昼時の都会では多数のサラリーマンや観光客でにぎわっていたからである。
かなりの量の人間が転び踏まれ叫びながら必死で逃げていた。
しかし、その懸命な努力は実を結ばず兎異偶の跳躍によって踏み潰されてしまった。
その一回の踏みだけで恐らく何十から百何十もの命が消えているだろう。
それだけではない。
兎異偶が飛び回った事であちこちで交通事故や車が踏みつぶされる事故も発生。
ビルの横を蹴り飛ばしてジャンプする事もあった為ビルが倒壊していった。
倒壊するビルに巻き込まれそうな子供を親が抱え込み、そして共々潰されていった。
そんな光景に和磨は思わず歯噛みした。
自分は何をやっているのかと。
楼汰に頼るな、自分は何が出来ると。
すぐに政府に連絡しつつ対応に追われる。
公安とて普通の人間である。
しかも、基本的には正体を明かせない為武器も持たない。
一般人を装う事が多いのだ。
普通の警察官は既に出動済みで、今も市民の避難を行っている。
そんな警察官ですら何もできず踏みつぶされるのを和磨は幾度となくさっきから目撃している。
自分たちが如何にあのマシンに頼っていたのかを痛感し、思わず自分に苛つく。
と、どうやら玲子達のやるべきタスクも済んだらしく、みんなで避難をしようと準備したモノを持っていこうとする。
そこで和磨は気づいた。
残りの場所は此処では無く別の場所、それは和磨の彼女である菜那にとってもマズい話であると。
和磨はすぐに電話を掛けた。
だが、残念ながら菜那は出なかった。
無事でいてくれと祈る他ない和磨はすぐにビルから出ようと部屋を抜ける。
他の面々も同じように抜け、そのままエレベーターまで向かうがとても待っていられるような状態ではない。
階段に続き皆で駆け降りる。
しかし、その直後鈍い衝撃と共に全員が階段から突き飛ばされる。
転げ合ったメンバーで何事かと見回すと、さっきまで無かった穴が開いているではないか。
まさか、まさかそんなと、恐る恐る覗きこむ一人。
しかしなにも居なかったようで、こちらに笑顔を向ける。
「あのバケモノが投げた石かなんかが当たったんだろ。それより急............。」
言い終われなかった。
誰かが叫んでいた気はするが、それよりも衝撃的なその光景に皆息を呑む。
彼の背後に兎異偶の頭があった。
そしてその頭は口を開いており、中には兎には本来ないであろう鋭利な歯が多く存在している。
そのまま開いた口で確認した男を咥える。
咥えられた男は意味が分からず後ろを振り返り絶叫。
慌てて解こうと藻掻くがどうする事も出来ず頭が穴を抜けていった。
その光景にすぐに穴を覗きこもうとするメンバーを制す玲子だったが残念ながら皆死への恐怖でそれどころでは無い。
和磨も確認の為と穴を覗きこむ。
流石に高いビルではあったが、それより少し低いくらいの異偶がさっきのメンバーの1人を咥えていた。
だが既に彼は虫の息であった。
よく見れば歯で咥えられた腰には血がべったりと付着しており、彼自身も体のバランスがおかしい。
つまり腰から泣き別れにされかけていた。
人間の身体はもろいが、もろいだけでは無い。
しっかりと以外と筋のある部分もあるのだ。
変に噛み千切られなかったせいで意識がまだ有るであろう男が絶叫している。
「あがあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
仲間のそんな姿を目撃した一般の人々や仲間たちはそれぞれ嘔吐したり泣き出したりした。
和磨も、またそんな光景に怒りを募らせる。
.........どうして、こんなに惨い事が出来るのか。
異偶というのは人間に対し容赦が一切ないというのは楼汰からの情報や実際に見た経験で理解している。
だが面と向かってみるのはこれが初だったのだ。
和磨は、もう死んだと言ってもいい状態である嚙み切られかけた仲間の虚ろな顔をみる。
流石に吐くことこそ無いモノの、その表情は正義感の高い和磨の心を深く抉り、彼自身もその場に立ち尽くす。
一方、リーダーだからなのか、それともこういう死体を見てきているのか落ち着いている玲子は声を張り上げる。
「ほら、落ち込んでいる暇があるならさっさとここから出ろ!!!お前も衛のようになりたいのか!?」
と、必死で叫んでいる。
衛というのが先ほどの仲間である。
玲子は絶望し打ちひしがれる仲間に対し声を張り上げて叱る。
「死者を労わるのは後でも出来る。だが命を守るのは今しかできないんだ!お前たちだって公安の、国を守る立場の人間であれば理解してきただろ!?私情は捨てろ!今は逃げるんだ!!」
その言葉は確かに仲間たちに響き、届いた。
一人、また一人とのろのろとではあるが逃げようとする面々が増えてきていた。
どうせ逃げる場所など無いのである。
ならば少しでも寿命を延ばし、今いる人々を守ろうと思えるのが彼らにとっての普通だった。
彼らは死んだ仲間を想いつつ逃げる。
勿論そうでないものも居たが、あえて無理やり着いてこさせるなんて事はしなかった。
と、ビルにあた一段と衝撃が伝わる。
既に外に出ていた数人の隊員が自分たちのいたビルを確認するとそこには先ほどの衛が埋まっていた。
壁にめり込み、完全に上半身と下半身が千切れた状態の衛が死んでいた。
やり切れず思わず目を背ける。
和磨はそれを確認し、少しの間だけ黙祷を捧げた。
逃げる事は出来ないと悟り隠れながらどう移動するか考える面々。
車は吹き飛ばされ、生身であれば蹴られるか踏まれるか食われるかだ。
どうすればここを突破し本部まで付けるか、それを考えているとそこに一発の発射音が聞こえた。
観ればそこには.........。
戦車が数台、更にヘリコプターが数台飛んでおり、その後ろには更にヘリコプターが飛んでいる。
そして迷彩のようなデザインの車から降りた同じく迷彩柄の服を着た人々が誘導弾の準備や銃を装備していた。
そう、そこに来たのは。
紛れもない自衛隊であった。
楼汰が居ない事により、異偶の大侵攻が始まりました。
まだまだ血みどろの劇は続きます。




