第67話 感謝と救い
さてまた動き始めます。
「辞めるのよ、和磨くん。彼を行かせてあげなさい。」
意外にも玲子はそう言い放った。
「何故っすか!?彼の目を見てください!彼は狂気に憑りつかれているんすよ!今行かせたら大変な事になるっす!!」
和磨はそう返したが、おい今待てなんて言った?
俺が狂気に憑りつかれてるって?
おいおい、そんな訳ないだろ?
俺はただカーㇴを自分たちの欲望の為の材料にした奴らが許せないだけだよ。
「目が据わってますもん!!絶対行かせない方がいいと思うんすけどっ!」
「確かに、今の岩動さんはかなり危ない目をしているわ。
でもね、少なくとも、今の政府に任せるよりはマシだと思うのよ。
政府の人間は、一部を除き恐らく交渉の案をとって行動するわ。
でも向こうはハナから交渉なんて求めていない。
欲しいのは岩動さんの力なんだから。
そうなったら余計足元を見られて面倒なことになるわ。
そうなるならば、その前にこちらから話をつけに行くというのはアリだと思わない?」
おお、分かってくれてんのか玲子。
助かるぜ。
しかし、和磨の反応は以前と変わらず......。
「ナシよりのナシっすよ!アポイントも取らずに行ったらそもそものマナーを諸外国から疑われますし、何よりそこで何か起こしたらシワ寄せは国民に来るかもしれないんすよ!?」
「......和磨くん。確かに君のいう事も一理あるわ。
でもね、私たちは公安。
一番に考えるべきは、どうしたら国が良くなるのかよ。
今一番やるべきことは、岩動さんと行動を共にしつつ彼に不十分なものを補い、そして最も被害が出ない道を選ぶことよ。
諸外国から云々なんてなってから考えればいいわ。
それにね、政府もこうやって動いてこそいるけど、内心ではどう考えているか分からないしね。
...あと、シワ寄せが国民に来るなんて言っているけれど、今まで怪物が侵略してきていたのを守っていたのもまたこの人なのよ。
この人が倒さなければまずこの国は滅んでいたの。
岩動さんには多少の我儘を言う権利はあるわ。
シワ寄せが来る前にこの世界が滅びる可能性があるわけで、そんな中で一々止めていたらその滅びを回避できる人だって何もしてくれなくなるわ。」
おお玲子、かなり分かってるな。
実際、あまり恩着せがましく言う事じゃないが俺はあくまでも知っている人が苦しまず生きられる世界がいいだけだ。
目の前で見ている人とかな。
ぶっちゃけ言えば、全く関係すらしていないのに俺のその力や考えについて言及してくる奴らなんてどうでもいいんだ。
だから、あくまでもついでで世界を救っている。
あの時俺が救っていなければ、あっという間に滅びていた場所だってあっただろう。
勿論そんな事はさせないが、玲子の言う通り少しくらい俺が我儘を出したって問題無いだろう。
シワ寄せなんてこさせない。
もしそんなモンをよこしてくるのなら、俺がその元凶を潰して見せる。
だから、ここは行かせて欲しい。
本当にお願いだ。
和磨はそれでも認めたくないようだ。
変な所で真面目な奴だ。
「それでも、自分はいってはいけないと思うっす。この世界の英雄でいるのなら、そんな事はするべきじゃないっす!!少なくとも、このまま行けば許可なしの上陸で大変なことになりますよ!!」
あー、そういう所も考慮しなきゃならんのか。
だけど今更だ。
俺はカーㇴの英雄なだけだ。
他の英雄になる気なんて元から無い。
カーㇴを見つけ出して、絶対に助ける。
「だったら、私たちでアポイントを今から取ればいいじゃない。動ける人間がここで動くべきよ。」
「それは、そうっすけど.........。」
「...割り切りなさい。貴方は、岩動さんを都合のいい英雄にする気?それだとしたら、英雄は誰に救ってもらうのかしら?」
和磨はその言葉を浴びて、ようやく諦めたようだった。
なんとなくがっかりした感じがあったが、何か憑き物がとれたようなすっきりした顔ものぞかせていた。
「...分かりました。自分、少し熱くなりすぎてたのかもしれないっす。勝手に自分で、英雄とはこうあるべきっていう偶像を作り出していたっす。...駄目っすね、岩動さんの味方ヅラしといていざ事が起きたらこれって。」
「...いや、和磨の気持ちも分からないことは無い。職務として、精一杯やってる姿勢、凄ぇと思うぜ。...ただ、今だけは俺の我儘を聞いて欲しい。俺は、カーㇴを救わなくちゃ駄目なんだ。俺がやらなきゃ。」
「岩動さんは何も悪くないっす。もとはと言えば、自分たちが任務を守れていなかったのが原因すから。人員が足りなかったなんてのは、言い訳でしかないっす。自分では今回なんの役にも立てていないのに、余計な事を......」
「そんなことは無い。お前のお陰で、色々と苦難を乗り越えられたし。もとはといえばお前が海外の贈賄勢からも助けてくれたんだしな。だからお前こそ胸を張るべきだ。俺の方が異端なんだから。」
2人で認め合う。
和磨は喋り方に反してかなり真面目だ。
だからこそ、今回みたいに何かあった時には真っ向から誰かとぶつかる。
だけど、そういう奴が今は必要なんだ。
たまたまタイミングが悪かっただけで、和磨自体に悪意は無く明確な善意の意志があった。
俺のパターンが珍しすぎるだけで、和磨は至って普通に仕事をこなしただけ。
だったら責められるべきは俺だ。
というか責めてくれて構わない。
俺は、カーㇴを救い出した後の事は今、考えていない。
きっと面倒なことになるだろう。
だが、そんな事は今はどうでもいい。
攫って行ったクソ野郎どもをぶっ倒して、カーㇴを奪還する。
絶対に許さない。
「...ほら、そこでイチャついてんだか傷の舐めあいやってんだか知らないけど早く行きなさいな。私たちが一通り報告書なんかは作っておくから。」
「...悪い、恩に着る。」
「恩を返そうと思ってんだったら出来る限り波風を立てない事ね。私たちの後処理が大変になるだけだから。」
「...............善処はする。」
「それは、出来ないって言ってるようなモンじゃない。...はぁ。.........責任は私がとる。貴方はくれぐれも命運をよろしくね。」
玲子は呆れた顔でため息を一つ、その後少し笑って見送ってくれた。
和磨は驚いた顔で玲子を見つめたが、それ以上は何もしなかった。
...責任か。
俺の身勝手な行動にここまで賭けてくれるんだ。
尚更絶対に助け出して、ついでに救わないとな。
そんな和磨はというと...。
「さっきは色々と申し訳なかったっす!!自分に出来る事があったら向こうの国だろうと連絡してくださいっす!!これ、持っといてください。」
渡されたのは海外でも連絡可能な電話だった。
「サンキュー。それじゃ、言ってくるわ。...助かった、ありがとうな、色々と。」
和磨はそれ以上何も言わず、見送ってくれた。
俺はそんな二人に背を向け、走り出した。
久しぶりだな。
外に出て、深呼吸。
誰も居ない、快晴。
さてと......。
始めるか。
【漆黒の死神よ。夜を穿て!!REALIZE REAPER!】
今日はなんだか黒の比率が多いような気がする。
いや、何言ってんだこいつってなるかもしれないがなんだか黒いのだ。
黒が濃いとでも言えばいいのだろうか。
まあ、特に異常はないしいいだろ。
さて、じゃあ飛ばすぜ。
一気にジェット噴射を使い上空へと浮かび上がる。
本気を出せばちょちょいのちょいだ。
一時間近くで行ってやるぜ。
ジェットをどんどん加速させ、俺は日本の街の上空を駆け抜けていった。
しばらくたったかな。
時間にして30分くらい。
絶賛海の上だ。
日本って島国だからさ、基本的に海外に出る為には海を渡るんだよな。
これ、ひょっとしてリーパーの体力が切れたら俺海へ真っ逆さまだよな???
やばい、勢いよく出てきたはいいがそれ考えてなかった。
頼む、せめて着いてくれ。
...しかし、このカーㇴを巡る事態の中で一つだけ、謝りたいなと思う事がある。
それは、あの兄妹だ。
不謹慎かもしれないが、カーㇴは既に殺されているかもしれない。
そうなったらきっと俺は誰の制止も聞かずあの国を破壊するだろう。
けれど、彼らは違った。
俺よりも子供なのに、2人の親の死を潜ったんだ。
勿論やり返す力が無かっただとか、そもそもどうしようもなかった為怒る相手が無かったとかもあるだろう。
だが彼らは現に二人っきりで生きている。
きっともう既に、どちらとも壊れていて惰性で動いているのかもしれない。
...俺は、そんな二人に何を言ってしまったか。
俺の命で良ければ...?
流石に命は懸けられないがそれ以外なら何だってする...?
挙句、カーㇴと共に考えた案だったとはいえ彼らに対し一度拒絶したんだ。
あの時はああするしかないと思っていた。
だが、今考えると違うな。
大人がすべきなのはまずは話を聞いて、そこからどう矯正するかを考える事だ。
最初から願いを聴いたり、あるいは全部否定するなんてもってのほかだった。
ましてや壊れていた可能性のあった二人だ。
俺の言葉で更になんてのも想像できる。
カーㇴを失いそうになり、ふと昔を思い出した。
アイツを失った際の記憶。
誰も責められない、俺が悪いと錯覚し続けたあの日。
否、今も俺は自分を悪いと常に思い続けている。
誰も俺を責めなくとも、俺自身が許せないんだ。
俺が俺の冤罪をでっち上げているんだ。
アイツが言った約束は、今でもしっかりと俺を縛り付けている。
これがあったのに、もう二度と同じことはさせないと誓ったのに。
カーㇴを守り切れないかもしれない。
そしてこの恐怖が分かった筈なのに、あの子たちに酷いことを言った。
彼らは怖かったはずだ。
誰かに、本当は自分たちだけじゃ処理できなかった想いを聞いて欲しかった筈なんだ。
それが出来なかったのは俺であり、周りの大人だ。
俺らに責任がある。
あの兄妹は被害者だ。
だったら、俺が救わなくちゃいけない。
カーㇴを連れて帰ったらまず最初はあの兄妹に謝らなきゃな。
例え否定され、傷つけられても、彼らの心が元に戻るまで。
多分彼らは昔の俺と一緒だ。
いつまでも自分を赦せなくて、必死に現実を生きながら自分の罪と向き合い続けてる。
俺がなんとかしなくちゃいけない。
あいつらに一番近かった俺が。
このままじゃ、最悪彼らもまたアイツと同じ道をたどる。
それだけはさせない。
二度と俺の前で自分を失わせたりしない。
壊れた心は二度と元には戻らない。
皿が欠けたら二度と同じ形にはならないのと一緒だ。
でも、その欠けた部分を磨いて、研いで、洗ったらきっと綺麗になる。
そこすら目立たなくなる。
彼らの心を研げるのは、今知り合ってる中じゃ俺だけだ。
あの兄妹が自分を許せるまでゆっくり支えよう。
どうせ知り合った仲だし、助けてみせよう。
海が日光に反射されて輝く。
その反射光と立ち昇る潮が虹となり、天高く消えていった。
楼汰がリーパーとなってから、様々な場所で色々な人が反応していた。
リーパーが飛んでいくのを目撃したとある男と、兄妹は。
「なんだか分からねえがとんでもねえスピードだったな!!撮っておけば後々何かに使えるんじゃねえか!?やっぱ俺って最高だな!!」
「本当にそうですね!!...お兄ちゃんもこっち来て一緒に撮ろ?」
「俺は、パスで。........まだあのバケモノは出ている訳じゃない。...じゃあ、何で?
...しかし、魅羽もこの男も何なんだ。
こんな映像、今の時代じゃみんな撮ってるだろうからなんの役にも立たんだろうに。」
男と少女は映像を撮り、その横でなんとも言えない微妙な目つきで少年が苦笑いしていた。
だが少年は安心した。
あのお兄さんが居なければ、ひとまず妹がおかしくなることは無いと踏んだからだ。
いつもの妹を見れる。
これが今の彼の、数少ない喜びとなっていた。
一方、路地裏。
白い装束を着て、青い仮面を着けた男がにちゃにちゃした笑い方で告げる。
「ふ、ふふふ、ようやく、よ、ようやくこの時が来たんだなぁ。
あ、あのマシンの居ない今が、ちょ、超チャンスだぁあ。
こ、この世界のカケラを見つける為には、と、とりあえず人間が邪魔なんだよなぁ。
一気に殲滅できるような、い、いひひ、異偶を選ばなきゃねえ!!!」
その男は笑い方こそ気色の悪さが出ていたが、今回ばかりはニヒルと呼んでもいいような顔つきで召喚を始めていた。
そしてその手には、かつてダリアと呼ばれた男が持っていたような装置が握られていた。
楼汰が動き出した瞬間から、既に運命の歯車は少しずつ動いている。
ということで、それぞれ動き出しましたね。
次回、楼汰異国へと出陣です。




