第66話 映像
まだまだ1章は続きます。
「やあ、日本に住む人々よ。私の名前はベーツ。とある一国を率いる長をやらせてもらっている。
今日は、君達に提案があるのだ。
恐らくそっちの国でも議論が重ねられているんじゃないかと思っているのだが、先日、たまたま私の国の大使館の人間がとある少女がフラフラしていたのを保護してね、今一時的に我が国で管理しているのだよ。
彼女に話を聞いたら何と驚いたことか、君達が最近新しく仕事と共に抱え込んだ青年の家族と言うじゃないか。
夢か真か、巨大なマシンを操る仕事だそうだね?
そんな凄い仕事をしている人間の家族とも呼べる人物を保護出来て良かったよ。
私たちが保護しなければ彼女は恐らく行方不明になっていた可能性もあるようだし、とにかく一安心だね。
その仕事をしている彼もまた、現在とても焦っている筈だ。
彼女は無事なのかと。
そこで提案だ。
実に恩着せがましいようで申し訳ないが、何分我々も保護している間の報酬は欲しくてね。
勿論、世界を救う力を持った君に直接何かを貰おうだなんて、そんな虫のいい話は言わないさ。
我々としても、少しの願いさえ聞いてくれればいい。
我々の願いはただ一つ。
...我が国へ来てくれないか?
我が国へ来れば勿論彼女の命も生活も保障するし、そちらの国よりももっといい生活が出来ると誓おう。
それに、更に少しいう事を聴いてさえくれれば更にその生活よりグレードアップした暮らしをする事が出来ると必ず誓う。
当然その間に日本にバケモノが出てきても向かっていい、命は大事だからなぁ......。
さあどうだい?
来る気にならないかい?
......ちなみに断っても私は仕方ないと思う。
急にこんな事を言われても信じられないと思うしね。
この話を無かったことにすれば、君たちの国とは金輪際関わることをやめるよ。
当然問題は無かったことにしておくからこっちの方で保護した少女も処分しておくね。
他の問題も気にしなくていい。
全てを無かったことにしてこちらも備えるから待っていればいい。
...ここまで勝手に色々と話してしまったが、あくまでもお願いだ。
そんな少女は知らんと言うならそれでも構わない。
だがもし知り合いならば一回来てくれると嬉しいな。
君たちが良い判断を下せることを、祈ってい」
......ここで映像は途切れていた。
何やら、無理やり切った感じがあった。
恐らくカーㇴか?
カーㇴが何かを言ってカットされたような形なんだろう。
......舐めやがって。
何が保護だ。
お前らがやったのは誘拐だ。
人の土地に入り込んで、一人で店に居たカーㇴを気絶させて運んで、そしてどういう手段かは知らないが自国まで持ち帰った。
悪魔以外の何物でもない。
最初から仕組まれていたメッセージで、奴らの求める正解は一つしかない。
それは.........。
「ここまで露骨にやってくれると、返って分かりにくいが恐らく岩動くんの力を求めてこんな事をしてきたのだろう。」
誰か席に居た議員がそう発言した。
その通りだ。
奴らが求めているのは俺の力で、恐らく二つの意味がある。
一つはそのままその通りの意味、自分たちが文字通り最強の軍部を持つ国になる為求めている。
二つ目は俺たち日本という今まで世界の軍事的な強さランキングでは上位には組み込まれなかった国が急に台頭する事への恐怖からだろう。
自分たちのヒエラルキーが侵されるのを恐れて、俺たちから力を奪うためにこんな大それたことしてきたんだろうと考えるのが正解だと思う。
正直に言えば、納得できない事も無い。
人類にとっては持て余すレベルの力なんだ。
それがもし自分たちに向いたらと思うと気が気で無いんだろう。
だが、誤算だったな。
自分たちに向かないと思っていたんじゃあないのか。
そうやって言いつつも、でも本当にそんな事やってしまったら国際問題だからしないと思ってたんだろ?
俺じゃなければそれで正解だ。
国に住めなくなるリスクを冒して世界を壊しに行くバカなんて存在しない。
だが、俺はそのバカの部類だ。
提案とは名ばかりで、本当はいう事を大人しく聞かせてそのまま俺を飼い殺しにしたい悪魔の陰謀が目の前にある。
何かを貰うのが虫のいい話と抜かしながらそれよりももっと価値のあるモンを要求する図太さもだ。
こんな悪意を目の当たりにして、逃げ出さず立ち向かおうと思えてしまうのだ。
許せない。
俺に対し舐めた事をしたことでも、日本という国を舐め腐った事もそうだが。
一番は、ここまでのくだらない状況をカーㇴを利用して生み出したことだ。
俺に直接言いに来るならむしろいい。
何よりも世界を救っている英雄に対しやってはいけない、いわばタブーのようなモノを犯して俺に言う事を聴かせようとしてきた所が納得いかないんだ。
結局、やっていることはお前らがビビッて動こうとした理由と何ら変わらない。
強い奴が勝手をするのが怖い。
それを、恐怖を抱いた側が何で抱かせた側にやっちまうんだよ。
もし日本が恐怖政治でも行っていたら間違いなく開戦だろ。
...命は大事、だとか処分しておくだとか、カーㇴの命を揶揄するような事まで抜かしやがって。
金輪際関わるのをやめるというのは旅行とか貿易、あとはその他産業の話なんかもそうなんだろう。
更に、全てを無かったことにしてこちらも備えると言っていた。
これは、いわばもし断ったら攻めてやるからなの意思表示だ。
随分やってくれるな。
ここで俺が出て言ったらお前らは終わりなんだぞ?
多分お前らは、そんな事をしたら他国からの信頼が崩れるから出来ないとでも思ってるんだろう?
日本がそういう目で見られて孤立するから出来ないとでも思ってるんだろ?
残念だが俺はそういう理屈は聞き飽きてるんだよ。
あの時、アイツを救えなかった時点で俺はもう救う力があるならやらない術は無くなってるんだ。
覚悟しろよ。
「映像をまとめると、かなり問題点がありますね。」
主宰がまとめていく。
「その少女を取り戻すためには岩動くんを実質渡さなければなるまいと。
だが、そんなことをすれば岩動くんは恐らく日本をすぐに助けには来られなくなる。
今のところ世界中を見てもあのバケモノが出ているのは日本のみだ。
映像では向かっていいなどと言っていたが、ああは言ったが実際それを受け入れたらその後行こうとしても何かで止められて助けに行けなくなることも想定される。
かといってここで彼がかの国に行かなければ戦争も辞さないと。
しかもその少女は代表となって殺害されてしまうのか.........。
頭を抱えたくなる話だ。」
男は、悩んだ末、一人で考え出した。
「......何としてでも命は救うべきだ。
戦争で失われる命があるくらいなら、国に貢献してくれる男の家族とも言える存在が殺されてしまうくらいなら、岩動さんを行かせる手しかないのではないか?
日本をすぐ助けられなくなると言うが、そこは我々が如何にして防衛できるかでは無いか?
それにあのバケモノたちだって毎日毎日来るわけでもないんだ。
失う可能性のある命より先に、確定で失われてしまうかもしれない命を優先するべきだ。」
一人の男性議員はそう語る。
理想論も混じっているが、あながち間違いでもない。
失われる命がどうせあるのなら、確定で消えてしまう方をとった方がいいだろうという意見自体は至極真っ当だ。
「...それは厳しいんじゃないでしょうか?
防衛できるかと言いますが、現状我々の国の防衛ラインでは持って30分が良い所です。
それ以上となると同じように多数の犠牲者が出ます。
戦争は上手く回避できるかも知れませんが、あのバケモノはそもそも話が通じません。
同じくらいどうしようも無い手立てなら、まだ話が通じる方をとった方が良くないでしょうか?
...岩動様には申し訳ないですが、あの少女は諦めて貰うのも......。」
女性議員がいう内容もまた、ある意味では理に適っていた。
実際、今の日本の軍部じゃ30分も持たないだろうと楼汰は思った。
話の通じない怪物を倒す話をするくらいなら、救世主には少女を諦めてもらおう、と人間としてはあるまじき話を続けていたが。
「お前、なんてことを言うんだ!
あの人に救ってもらっている立場で、その人が苦しんでいるのにその原因を諦めろで済ます気か?!
ふざけるのも大概にしろよババア!!
戦争もバケモノも欲を言えば全部駄目だ!!
だがな、少なくとも恩人の家族一人生き残らせられないような国家であれば存在する意味はない!!」
「お言葉ですが、貴方こそもう少し現実を見るべきでは?
戦争もバケモノもどちらもダメなんでしょう?
現実的に考えて、戦争とバケモノの被害とあの少女が1人死ぬことへの被害、どちらが大きいですか?
人の命は何物にも代えられませんが、比べる対象が命と命ならば数を数えた方がよろしいんじゃないでしょうか?
救って頂いておいてこういう事をいう事が人として最低で、倫理的にも最悪だという事は分かっております。
ですが、そういった汚い部分も含めてそれでも国を守るのが政府でしょう!」
話し合いはヒートアップし、互いに煽りや悪口を多少含めて言い合いになっていた。
止めようとしているモノも居るには居るが、どちらかと言うと皆が皆それぞれ言い合っている。
それぞれの考え方、全てに正義があり、恐らくここに居る全員がしっかりと日本のことを考えて反している筈だった。
交渉をするというのが一番多く出ていた意見だった。
実際、この場に居た者たちはそれに落ち着こうとしていた。
少なくとも、ただ一人を除いて。
やっぱ、そうなるとは思っていた。
コイツらは政府の人間。
国と自分の利権を守るためには動くが、それ以外となると動かない奴が大半だ。
カーㇴを犠牲にしようとでも話したそうな奴までいた。
クソババアめ。
ふざけんな、お前なんかがカーㇴを見捨てるような発言をすんな。
お前が見限られる側なんだ。
立場をはき違えんな。
話も終わらない。
誰も、本気でカーㇴを救おうとはしていないんだ。
所詮他人事。
正直にいわせれば、国の状況以外心底どうでもいいんだろう。
馬鹿正直に会議を聞いていた俺が虚しくなるよ。
話をしているソイツらの横を通り過ぎるも、誰も気づかない。
誰か一人ぐらいは気づくと思ったが、もはや自分のことで精一杯らしいな。
と、ドアを開け出ようとした俺の前に立ちふさがる奴が居た。
和磨だった。
「通してくれ。行かなきゃいけないとこがあるんだ。」
「申し訳ないっすけど、駄目っす!ここを通さないよう言われてるんす。」
......一応、和磨だって仕事してるんだよな。
でもな、悪い。
今更止まれない。
「悪いが和磨。俺は今、本気だ。止めようと思うんなら力ずくで来い。」
「......あまり手荒な真似はしたくないっす。どうか、会議が終わるまででいいので、待ってもらう事は出来ないっすか?」
...あんなのを待っていたら日が暮れる。
お前だって分かるだろ?
俺のイライラや、苦しさが。
カーㇴがもしひどい目に合わされていたらなんて考えるだけで、心が苦しい。
会議を待っている時間は200%無駄になる。
どうせあの分だと無難に交渉するとかになるだろう。
それじゃ無駄なんだ。
それじゃ結局助けられず、それどころか火に油を注ぐ形になりかねない。
向こうはハナからそんな交渉なんて望んじゃいないようだからな。
「待つなんて、出来るわけ無いだろ?......俺は、一刻も早くカーㇴを救いたいんだ。」
「自分だって、同じ気持ちっすよ!だからこそ、正式な許可が出るまで待ってくださいっす!!じゃなければ、最悪戻ってきたときに岩動さんが有罪になるかもっすよ!!」
「そんな事はどうでもいい。俺は、二度と地獄を経験したくないんだ。」
アイツを失って色を失った生活に。
戻りたくなんか、無い。
「...無駄みたいっすね。......申し訳ないっすけど、今回ばかりは手加減できないっす。怪我させたら申し訳ないんで、本当に辞めといた方がいいすよ!」
「それ、最終通告のつもりか?悪いが、俺は一歩も引かない。」
すると、和磨は構えをとった。
どうやら自己流らしいが、公安らしく鍛え抜かれた身体をスーツの上からでも分からせるいいポーズだった。
それに引き換え、俺は最近の不摂生や度重なる戦闘、あとは社会人だから運動する時間とか気力のなさでガリガリになっていた。
どう考えてもこちらが不利だ。
だが、引き下がるわけにはいかない。
ここで引き下がったら、カーㇴを救えない。
俺も構えをとった、その時。
「辞めなさい!!!」
声の先には、玲子が立っていた。
珍しく、少し焦った表情で。
最近戦闘描写を書いていませんね。
近々、お楽しみに。




