第64話 絶対に見つける/来てはいけない
ちょっとだけ史実絡ませてるので嫌な人は閲覧注意です
カーㇴが連れ去られた。
それは俺にとって、約束が交わされた事件を思い出す最悪な狼煙だった。
俺にとって、アイツは相棒で良き理解者で友人だ。
言ってしまえば、アイツと重ねている節があるんだと思う。
アイツとは似ても似つかないのに、何故なんだろうな。
でも、何処かカーㇴを見ていると懐かしい気持ちが沸いてくるんだ。
店員からの証言を集めた結果、大体の事態は把握できた。
俺の頼んでいた飯を買おうとレジに並んだカーㇴを、謎の外国人二人組が襲った。
そいつらは店員とその時並んでいた客にチップを投げ、そして黙っているよう脅した。
その際、話したら殺すともいわれたらしい。
そこまでするなんて余程俺の事を知っているらしいな。
目的は何だろうか。
たまたま少女を誘拐したにしては壮大すぎる気がする。
ではカーㇴを狙うデスペラードの奴らか?
だがそれだったら奴らはこんな細々と隠れながらやらなくてもいい気がする。
この世界の人間じゃないから罪にも問えないしな。
だとしたら一体誰が...。
...............。
あ゛ぁーーーーッ!!!
考えても分からんが、兎に角マズい!!!!
カーㇴに何かあったらと考えると、それだけでイライラする。
思えば俺だって警戒すべきところはあった筈だ。
確かにカーㇴはあまり注目されていなかった。
でも、政府の人間や公安の人間、更にはダリアと戦ったときに一緒に居た奴らなど彼女を知る人物は意外といるという事実はあった。
誰がやったかは分からないが、少なくとも俺たちを知っていて何かを企てて居る奴らの犯行には違いない。
俺が行ったら確かにバレて大変な事になっていたかもしれない。
だが、カーㇴが行くことによる彼女が襲われる危険性を理解していなかった。
完全に俺のミスだ。
彼女が誘拐されて何をされてしまうのか、考えるだけでも悪寒が止まらない。
許せる行為じゃない。
もしデスペラードの奴らだったら、この世界に来た事を後悔するだけの絶望を与えてやる。
だがもし、この世界の奴らだったら.........。
いや、変わらない。
悪意には、悪意で返すだけだ。
少なくとも俺は今、腸が煮えくり返っている。
アイツに次いで、俺はまた大切に思った人を失うのか。
......そんなことはさせない。
俺から二度と信頼できる人を奪わせたりはしない。
今の俺はあのころとは違って、力がある。
あの頃と違って、大人になって得た知識と経験がある。
今の俺なら、社会に出て知った伝手がある。
カーㇴを攫った奴は断じて許さない。
生まれてきた事を後悔させてやる。
例え謝られても許してやるものか。
絶対に殺してやらない。
死なない程度にいたぶって、自分が何に手を出したのか分からせてやる。
俺からもう二度と何も奪わせたりはしない。
アイツのように、中途半端に救ってしまったなんて後悔はもうしない。
カーㇴは俺にとって希望になってくれるはずの子なんだ。
例え槍が振っても隕石が振っても、諦められない想いなんだ。
そして何より、俺自らも希望になると誓った相棒なんだ。
俺が絶対に助け出して見せる。
岩動 楼汰は気づいていなかった。
自身からにじみ出る闇を。
迸る狂気を。
彼自身は正常と信じたまま、攫った相手を全力で滅ぼそうとしていたが、カーㇴがそんな事で喜ぶのか。
それを理解できないまま、たった一人部屋で笑っていた。
彼の過去の闇が、現在の彼の姿を描いていた。
店員が言うには、カーㇴはその後トイレでデカいバッグに入れられた後バンに乗せられていたらしい。
そいつらなら俺も見ていた。
ナンバーは分からないが、少なくともどんな奴らだったかだけは覚えているし車の車種も分かる。
警察に連絡して......と思ったが、こんな事信じて貰えるか?
まず、俺とカーㇴの関係から話さなくてはならない。
正直に言えば俺は面倒くさい事になって助けに行けなくなるかもしれない。
だからと言って中途半端に話すとそれはそれで余計なところを突かれそうだ。
カーㇴを助けたいが、公的手段は使えないか。
自分で探すんじゃキリがない。
小沢くんや合田さんたちに手伝ってもらったとしても到底辿り着かないだろう。
忙しいだろうが、和磨にも手伝ってもらって...............あっ!!
そうだよ、和磨だ。
アイツはあれでのんびりしていそうな雰囲気だから忘れていたが、アイツ公安だ。
それなら任せられる。
下手に警察に任せるより早く情報が得られるだろう。
こういう時ばかりアイツに頼むのも都合が良いかもしれないが、今は許してほしい。
俺はすぐに和磨に連絡を取った。
和磨は驚き、滅茶苦茶心配していたが今はそれどころじゃない。
カーㇴの場所を探すよう頼むと、今やっている仕事をいったんストップしてやってくれると言ってくれた。
もし見つからないなら休暇も返上すると言った。
和磨にも感謝しなきゃな。
そこまでしてくれるんなら、俺ももう後戻りはできない。
和磨には本当に助けられた。
一連の事件が終わったら何か返してやりたいな。
...しかし、公安にこんな私的な事頼んでいいのか?とちょっと疑問に思っていたが、玲子から言われてしまった。
「いい?これはもう貴方だけの問題じゃないのよ。もしこれがその別の世界?の人の犯行ならともかく、もしこの世界の人間の犯行なら立派な事件よ。しかも、客人として扱っている人を誘拐したとんでもない事件ね。だから、貴方が気にすることは何一つ無いのよ。」
と言われて、確かにと納得するほかなかった。
もしこれがこの世界の奴らの犯行なら最悪の場合国際問題になる可能性すらあるわけだ。
...ならない事を祈るしかないな。
【カーㇴ視点】
何も分からない場所の分からない部屋の中で、窓の外の景色に驚いていると何やら声が。
振り返ると見張りの人が酷く驚いた表情で何かを言っています。
一体、何を言っているのか、全く分かりません。
そもそも、この世界の人たちと話す為に私たちは自動で翻訳してくれる変換機を耳に普段着けています。
この右耳のピアスがそれです。
これでこの世界の言葉が分かり、それによって私の言葉も変換されるのです。
ですので、世界言語で違う言葉の習得には若干時間がかかります。
このピアスのお陰で話す事が出来るので結構重宝しています。
そんなこんなで彼の言っている事が何となくわかってきました。
彼はどうも私が起きたことを報告しているだけだったようです。
と、スーツを着た知らない男の人が入ってきました。
その人は、とても高圧的に見えました。
彼は隣に女性を従え、私の前の椅子に腰かけました。
彼は私をじっと見つめていましたが、ちょっと経つと辞めてこう言いました。
「ふん、これがあのマシンを操る男の弱点と言う奴か。趣味が悪いな。」
......あのマシンを操る男とはやはり楼汰様の事でしょう。
趣味が悪いというのはイマイチ分かりませんが、要は私を指しているようです。
「...貴方たちはこんな事をして、何が目的なのですか?」
と聞いてみると、彼は驚きました。
「ほう、驚いたな。まさか我々の言葉を話せるとは思っていなかった。だが、よく見れば貴様はアジアの顔つきではないな。裏切り者め。」
裏切り者?
......確かに、この世界の人々の顔を見ていると若干国によって違いがある事は知っています。
私の顔は彼ら側という事なのでしょう。
「しかし、目的か。分かっていそうなものだがな。」
分かっていそうと言うと、やはりお金目的でしょうか。
あるいはあまり考えたくないですが楼汰様のいた日本という国の情報を狙っているのでしょうか。
.........最悪の想像はしましたが、まさか流石にないでしょうと思ったその時。
彼は私の思うに最悪の言葉を放ちました。
「当然、あのマシンだ。貴様はあのマシンの操縦者の家族の様なものなんだろう?この後あの国にメッセージを送る。お前を返してほしくば奴をよこせとな。」
......なんて、事でしょう。
まさかとは思っていましたが、当たってしまうとは。
流石に違って欲しかったです。
...私のせいで、とんでも無いことになってしまいました。
「...どうして、そんな事をするのですか?彼を手に入れても、彼が従うと思いますか?!今は国通しで争うべきでは!」
というや否や、彼は私の胸倉をつかみ怒鳴ってきました。
「貴様に何がわかる!?あの国はかつて様々な国を襲った野蛮な国だ。今は違うなんて言っている奴らもいるが幻想だ。あんな力を持って攻められたらたまったもんじゃない。その前に、力を削いでおく必要がある。」
...私は様々な書物から、かつては日本もまた低俗な事を行っていた国だと知りました。
戦争は良くない事です。
その中で、色々と殺戮行為を行い、そして最悪の形で終戦したことも知りました。
正直、気分は良くないモノでした。
ですが、だからこそ知ったものがあります。
今の人たちは、そんなことを望んではいないという事です。
他国を責めるだとか、そんな発想は持たずただ平和に、何も起きないよう祈りながら皆、生活しているのです。
勿論事件や犯罪、テロなどまだ悪しき習慣は残っています。
ですが、少なくとも今彼が言った事はきっと実現しない筈です。
現実になる筈がありません。
少なくとも、私がこの世界に来てから知った人たちは皆、そんなことを望んでいない人たちでした。
だから、彼に私は伝えることが出来ます。
「分かりません!!人は変わります。世代が変わり、時代が変わり、考え方も変わります。戦争を起こそうなんて考えている人はきっといない筈です。...貴方だって、本当は分かっているのではないですか?」
そう、伝えました。
ですが彼は顔色一つ変えず言いました。
「ほら見ろ!結局のところ"筈"では無いか!?そんな不確かなモノでは私を納得させることは出来ない!!舐めるのも大概にしておけよ。傲慢なのだ、貴様らは。軍事の為の力は持たないとか言いつつ、そのような力で他国を再び牽制する。やっている事はかつてと変わらんぞ!!」
「ですが、彼らは誰もどこも攻めてはいません!!」
「今はな。貴様は何もわかっていない。結局、力が全てだ!奴らは今こそバケモノ騒ぎでこちらに刃を向けることは無いが、もしそれが片付いたらきっと我々を滅ぼしに来る。それを防ぐためにもここで奴らを叩き潰す必要があったのだ。」
...どうして、なのでしょう。
考え方自体は間違っていない気がします。
かつての過ちをした相手が怖いから、先にその国から武器を奪っておく。
その国は反省して別人のようになったが、かつての姿にいつ戻るか分からないから許す事が出来ない。
これだけ見れば、きっと日本の方とも分かり合えるはずです。
歴史を見れば一目瞭然、日本だってずっと攻めていた訳じゃありませんからね。
攻めて攻められて、その鬩ぎあいの中で生まれた恐怖のループなのです。
みんながみんなかは分かりませんが、大多数は戦争をしたくてしていた訳では無いのです。
それが殺戮を許す盾になる事はありませんが、考えはどちらも同じはずでした。
それなのに、何故こうなってしまったのでしょうか。
「絶対に奴らはやる。だからこそ、ここで終わらせておくのだ。」
「...今じゃなくても良かったではありませんか?!今、あの国では異、いやバケモノが出ている最中なんですよ!」
「そんな事は知るか。私たちさえ安全になるならその後のそんな国の事など知らん。」
「そんな無責任な!彼が居なくなった後の世界で、地獄が待っているかもしれないんですよ。それに、貴方の言った力を防ぐことが出来なくなってしまうんですよ!!」
「おいおい、一々そんな事に責任が持てるか。私はあくまでこの国を守るだけだ。あんな野蛮な国など、潰れてしまえば良い。」
そんな.........。
この国を守る為ならば、日本なんて滅びてしまってもいいだなんて。
あまりに、酷すぎます。
それでは、貴方たちのいう「野蛮な国」とやっていることは同じではないでしょうか?
何故、そうやって奪い合うのです?
私は、とても悲しいです。
それに、そんな事をしていたら今度は貴方たちが滅ぼされる側になってしまうのでは?
「.........それに、そんなに日本が怖いなら、尚更やるべきではなかったでしょう。」
「...何?どういう意味だ?」
「そのままの意味です。仮に野蛮な国だと言うのなら、彼が怒ってこの国を亡ぼす事も視野に入れるべきでは?」
勿論楼汰様がそんな事をするとほ思いませんが、しかしそこまで怖いならこれを考えていない訳がありません。
すると彼は大笑いして言いました。
「バカか貴様は。そんなことをしたら全世界に脅威と見做され日本に様々な国からの軍隊が送り込まれ最悪の戦争となるだろう。我々が滅んだとしても、貴様らはどの道終わりになるんだ。そんな事をしても意味など無い。」
...確かに、それもそうですね。
もしそんな事をすれば楼汰様だけでなく、日本という国が大変な目に合う可能性があります。
それに、今まで黙秘されてきたリーパーそのものの情報が各国に正式に出てしまいます。
そんな事態には楼汰様がきっとさせないでしょう。
.........楼汰様なら、大丈夫な筈です。
あの人は、ちゃんと物事を見れる方ですから。
「ふん、黙ったか。もはや君が攫われた時点で詰んでいるのだよ。まあ精々嵐の前の静けさでも楽しむがいい。」
「......彼に、何をさせるつもりなんですか?」
結局はそこだ。
もし、所属する国が変わるだけで異偶を倒す日々になるのなら、最悪私たちは我慢しなくてはいけないかもしれません。
ですが、もし酷い条件だったら...。
「そんなもの、決まっているだろう。まずは国の護衛、そしてあのバケモノが何処かに出たらそれの始末だ。」
...良かった。
流石に、変な事をやらせるつもりh「ただし!」
「もう一つだけ大事な仕事がある。」
...大事な仕事?
「そうだ。とても重要だ。奴には.....................。」
一体、何をさせるつもりなのでしょうか。
「我々に今までタテついてきた羽虫どもを一掃してもらう。」
そういう彼の顔は歪んでいました。
「それでは、貴方の言う野蛮な国と変わらないのではないですか?」
「あんな奴らと一緒にするな。奴らと違って正当な理由だ。...多分なァ。」
彼はひどく嬉しそうに笑いました。
「...多分って......。散々あれだけ詰っておいて、自分たちはそれでいいんですか?!」
すると、彼は急に不機嫌になり私を睨んできました。
「黙れ。口答えするんじゃないぞゴミ風情が。お前は人質だ。俺に指図するな。羽虫どもを片付ければ俺たちは更に盤石だ。もはや誰も逆らえない。その上、あのマシンの力があれば世界統一だって夢じゃない!!......ふっ、ふふ、ふはははははははは!!!!!」
...どうして、こうなってしまったのでしょうか。
人が変わったかのように高笑いする彼をみて、思います。
結局、同じ穴のムジナだったという事なのでしょうか。
結局、彼らも先ほどまでの話はそう特別では無く、むしろ本心はこちらだったのではないでしょうか。
そしてそれを理由づける為だけにあんな事を口走ったのではないでしょうか。
彼らもまた、あの頃から抜け出せていないのです。
だから、成長できず成長した国を捉える事が出来ない。
きっと、やろうとしている事を正当化する為だけに先ほどまでああして日本という国を叩いていたにすぎないのです。
人々は繰り返してしまうのでしょうか。
.........。
.....................。
いえ、違います。
あの方なら、楼汰様ならばそんな事はしないしさせない筈です。
「楼汰様が、そんな事を言われて協力するとでも思いましたか!?絶対にそんな事はさせません。彼は少なくともそんな事は望まないしその指示に従ったりはしません!」
すると、彼は口の端を歪め、ニヒルに笑いました。
「はっはっは!させないって?指示を聞かないって?そりゃ無茶な話だ。」
「何故ですか?!」
「何故なら、従わなければ彼女を殺すというからなぁ。」
「!?」
「何でそんな驚いた顔をしている、当然だろう。何のためにお前を攫ったと思ってる。ただ交渉材料にするだけな訳ないだろう。奴にいう事を聴かせる、いわば制御装置なのだよ貴様は。分かったら口を慎め。」
...ようやく、今回の一連の流れで私が攫われたかが分かりました。
確かに彼は、土壇場でそう言われたら苦しみに苦しみ、そして頷いてしまいそうな感じがします。
私がきっと良いと言っても、聞かないでしょう。
助けるために一人で罪を背負おうとするでしょう。
そんな事、させてはいけない。
ですが、私には今、何もできる事がありません。
その上彼らは緻密に計画を練っていた様子。
どうしようもありません。
精々今の私は巫女として、祈るしか道は無いようです。
......楼汰様、お願いです。
どうか、来ないでください。
私の事など見捨ててください。
私の事は良いのです。
それより、この国に利用されないよう和磨さん達に協力して頂いて頑張ってください。
これから先は関われないかもしれませんが、応援しています。
...だから、どうか来ては、いけません。
............いけないのです。
彼が満足げに出て行った後、私の目を一滴の水滴が流れました。
それが脚に落ちた時、耐えられなかった私の瞳から、更にしずくが零れました。
来てはいけないと祈りながらも、この先が怖いと思ってしまいました。
私は、もし楼汰様が来なかったら、死ぬのでしょうか。
この世界に来てから、沢山の思い出が出来ました。
......だからこそ、心から、思ってしまうのです。
先ほどとは真逆の言葉が、溢れてしまいます。
「.........助けて、ください............」
人間の中には自分以外がやらかしたことに怒っても、それを自分がいざやる状況になったら言い訳して正当化する人もいるんです。
都合が良いって話なのですが、それが理解できない人も中々多いんですね、この世の中。




