第57話 それぞれの夜
一応最終章までのシナリオが整いました。
まだある程度調整は必要ですが、大体この流れで行こうというのは確定しました。
やったね!!
家に帰ってきた。
結局、俺はどうするべきだったんだろうか。
和磨には注意したものの、あまり強くは言えなかった。
当然か。
アイツも俺を思って言ってくれたんだからな。
実際確かに俺も軽率ではあった。
あの子たちが子供だからってそれを優遇するのも良くないしな。
それに、もし今回を受け入れたら面倒くさいクレーマーから全ての文句を受け入れる羽目になるかもしれないからな。
むしろ今俺がやるべきことは、ああいった子をこれ以上増やさない為に、被害者をなるべく減らして戦うことだ。
まあ口で言うだけなら簡単だけど、結構難しいんだよなこれが。
兎に角、彼らが次来たら今度こそ大人として諭してやらなきゃな。
カーㇴは家でシチューを作って待ってくれていた。
どうも彼女は前にカレーを作ってからああいうのにハマったように思える。
俺が最近忙しいのを見越してか、自分で買い物とかに行って買ってきてくれるんだよな。
今回は作ったみたいで、危なげなくできたか心配だったが杞憂だったようだ。
正直滅茶苦茶いい匂いがする。
早く頂きたいね。
シチューを食べながら今日の事を話す。
そもそも俺は今日病院で治してもらって帰ってくる最中だったんだ。
結構濃い一日になってしまったな。
まあいいさ。
兎に角、カーㇴの意見を聞きたかった。
「なるほど......。もぐっ。...はふはふ......。んっ、おえああんおおいえあえんえ。」
口の中の物を飲み込んでから喋って欲しい。
すぐ返事を返そうとしてくれるのは嬉しいが、だからといって飯と会話を両立させないでくれよ...。
「ごくん。......すみません、粗相をお見せして。それは何とも言えないですね...。正直に言えば、どちらの意見も分かります。」
「だよな、ぶっちゃけどっちも理解は出来るよな。」
「ええ、当然事実というか、正しさと言った意味では和磨様が正しいのかと思われます。...ですが、子供たちの悲しみ、怒りもまたひしひしと感じて、気の毒に思えてしまうのです。」
...やっぱカーㇴもそうなんだなぁ。
カーㇴは誰よりも優しい。
今回の事も、絶対そう言うとは思っていた。
「...勿論楼汰様を責めたい訳じゃありません。貴方に罪は何一つありません。...ですが、それで彼らは満足しませんよね...。確かに、話の通じない怪物より、話の通じる守護者を責めるというのは、形的には想像できる形ですし...。」
「大丈夫だ、気を遣ってくれなくても。俺も、罪とまでは思っちゃいないさ。...ただカーㇴ同様、彼らにどうやったら返せるかなって。俺の命とか肉体とか以外で。...金は命には代えられないし、俺が何かアドバイスでもしたら間違いなく反感食らうしな。」
「......あえて、突き放してみるのはいかがですか?少し、辛いかもしれませんが。」
...?!
今、何て言った??
「ですから、突き放してみてはと言ったんです。彼らにとって、それが意外と良いかもしれません。」
「...そんなことしたら、彼らは余計拗れるんじゃないか?これ以上彼らを苦しめるつもりは...」
「私も、正直苦肉の策ではあると思っています。ただ、これが一番合理的かと。」
「...そんなことをカーㇴが言うなんて珍しいな。理由を聞いてもいいか?」
「はい。
まず、第一に現時点で現実を見つめられずある意味現実から浮いてしまっている彼らを引き戻すチャンスになると思います。
現在彼らは貴方に怒りをぶつける事で何とかご両親の死から逃れようとしています。
ですが、これは彼らにとってもご両親にとっても悲劇。
ならば彼らにあえてこちらから冷たく当たる事で、自分たちが今置かれて居る現状と、どうやったら自分たちが立ち直れるかを見つめ直せる筈です。」
...そんな上手く行くだろうか。
彼らは俺に当たる事で初めて何とか立とうとしているに過ぎない。
そんな支柱のある状態から急に補助をとったら?
すぐに転んで動けなくなってしまうだろう。
そこのところはカーㇴはどう考えているのだろう。
「...ご安心を。
少なくとも話を聞く感じでは、お兄様は半分気づいているご様子です。
ただ、自分の体裁と誇りが邪魔をして引くに引けなくなっている。
幸い楼汰様には、言い方は悪いですが大儀があり、盾もあります。
少なくとも、彼らからの言い分で何一つ悪い事はありません。
彼らを悪者にするわけでもありません。
兎に角、彼らに目を覚ましてもらう。
それが目的ならば、乗り越えるだけのきっかけを与えるというのが大事です。
きっかけになるのは、自分が絶対に言い返されないと思っていた相手からの反撃。
これに尽きるかと。
少し楼汰様にとっても、彼らにとっても辛いと存じますが最善はこの一手かと思われます。」
...なるほど、ようやく理解した。
要するに、彼らは現状、言い返してこない俺と言う良いサンドバッグを手にしているだけなのだ。
だから彼らはあんな態度で動けているのだ。
そして、それは絶対だと信じている。
だから俺が急に冷たくあしらうことで言い返してこないサンドバッグを失い、更に本当に守ってくれる人を失う恐怖が出る。
そうなった時に改めて自分たちを見つめ直す事で、現状を理解するってことか。
流石に急に俺への敵意が無くなることは無いだろうが、それでも少しずつ対応は変わっていくだろう。
仮に彼らがそれで逆ギレしても、俺には大儀があると言えばそれまで。
結局、そこで俺が対応しなければ同じことだ。
かなりつらいな。
特に俺が。
可哀想だとどうしても思ってしまう。
だが、必要な事なんだろう。
今は良い。
だがいつか、ずっと恨んでいると、その恨んだ部分が心の一部になってしまい、元々心の一部だった何かが抜け落ちてしまう事になってしまう可能性がある。
ここは心を鬼にしてでも、彼らの未来を守らなくてはな。
そうしないと、彼らを庇ったご両親が何より浮かばれない。
俺が恨まれる対象になるのは構わないが、それで彼らが本来の心を失うのはもっと良くない。
俺みたいになって欲しくはない。
返せるものが何かと面と向かって言えるようなものはないが、代わりに彼らが将来困らない為の道を示そう。
身を亡ぼす程の悪意に蝕まれて、最終的に自分たちすら滅ぼしたんじゃ意味が無いからな。
俺は彼らの憎悪を受け止めた上で、修正しなくてはならない。
少しずつ、彼らをわかっていこう。
余談だが、シチュー自体は美味かったがニンジンのサイズがヤケにデカかった。
切り方が雑過ぎたので今度教えてあげようと思う。
因みに彼女は話を変える為に、他のルーで出来る系を聞いてきたためビーフシチューと答えておいた。
あの時の彼女の「え?それシチューちゃうん?」とでも言いたげな顔は忘れられない。
一方夜。
公園で二つの小さな影が休んでいた。
少年と少女。
2人はベンチに腰掛け、一つのジュースを回し飲みしていた。
兄である稔は、色々と思っていた。
【千嵜稔視点】
...やっぱ、ダメだった。
案の定うまく喋れず、不信感を与えた上に逃げてきてしまった。
あの搭乗者はやはり優しそうだった。
俺のあの怒りは本当だが、半分は嘘だ。
やるせない自分への怒りと怪物への怒りを正当化するために、彼に当たっているに過ぎないんだ。
俺は確かに彼と話すまでは、多少は恨んでいたかもしれない。
でも、彼と話し、会話をすることで本当に嫌な人じゃないと思ってしまった。
だからなのか、余計憎悪が燃えた。
なんで、どうして嫌な人じゃないんだと。
これが自分の事しか考えていないような奴だったら、簡単に恨めたのに。
今となっては失敗したと思う。
素直に話して、守ってもらえばよかったかもしれない。
俺の目的は復讐とかじゃない。
母の遺言である妹をしっかりと見るという、それだけだ。
妹が一人前になるまで見届けるんだ。
その為には、妹がしっかりと成長できるくらしが必要なんだ。
彼はきっと俺らが不満を言えばお金だって出してくれるだろう。
俺は少なくとも彼に対してそう思った。
だけど、何故かそれが出来ないんだ。
頼みたくないし、一生困らせたい。
そう思ってしまう。
これが何なのか自分でも分からない。
我ながら性格が悪いと思う。
だけど本当に分からないんだ。
自分が何をしたいのかが。
......あともう一つ、困っていることがある。
それは、妹だ。
魅羽は、あの時以来マシンの搭乗者である彼を本気で憎んでいる。
...魅羽は母が死ぬ所を見ていない。
俺は説明こそしたが、彼女は今更俺なんかを信じられなかったのか、怪物ではなくマシンのミスが母を殺したと勘違いし、しかもそれを現実だと信じて疑わない。
俺が何度訂正しても、ダメだった。
それどころか、母の死をごまかすなと怒られる始末。
彼女はもう、ダメなんだと悟った。
だから俺はせめて、彼女の為にも彼には悪魔になってもらおうと思った。
彼は優しすぎた。
さっき途中で出てきた「っす」と特徴的な喋り方のお兄さんの方が普通だ。
本来、俺らなんかの為にあんな工程は出来やしない。
本当に想ってくれている人の行動だった。
でも俺はそんな人にこれからも一生悪魔で居て貰わなければならない。
彼からすれば意味が分からないだろう。
それでも、僕はこれ以上何も失いたくないんだ。
妹がこれで現実を受け入れてしまったら、今度こそ壊れてしまう。
それを繋ぐのが、憎悪の対象なんだ。
だからあとちょっとだけ、少しでいいから耐えて欲しい。
俺も頑張るから。
妹が生きる理由が既におかしくなっているとしても、それを壊す理由は僕には無い。
立ち直れなくなった妹だって、見捨てるわけにはいかない。
それが僕と母の約束だから。
妹は、彼の話さえしなければ以前のままだ。
笑わないし、嬉しそうにこそしないが、会話とかはいつも通りだ。
だからこそ、俺はこれ以上妹をおかしくさせてはいけない。
一生妹の味方で、一生愚かな少年だ。
それで構わないから、どうか神様を......。
妹を見ると既にうとうととしていた。
「こんな所で寝ると風邪ひくぞ。ほら、立って。眠れる場所に行こう。」
「...うん。」
妹の手を引き、歩こうとすると。
「よお、ボクちゃん。こんな時間に何してんだ?」
前に、何やらいかにもヤバい雰囲気の男が現れた。
人身売買とかやってそうな見た目だ。
怖い。
一人しかいないみたいだが、こんな奴に妹を襲われたりでもしたらたまったもんじゃない。
急いで逃げようとしたが、肩を掴まれた。
「痛ってーーーな!!!何すんだよ!!!」
肘をぶつけて殴りつけたが効果は無く、逆に抑え込まれてしまった。
「お兄ちゃん!!」
「魅羽!!来るな!!!!」
「おうおう、見せつけてくれるねえ。...でもな、俺はお前らに今日は提案を持ってきたんだ。」
...提案、だって?
なんで、こんな奴が俺らに提案を?
「何だって顔してんなあ。...分からねえか?...俺もあの男が嫌いなんだよ。」
あの男???
......。
?!
まさか。
「そう、それだよ。あの搭乗者だ。アイツ、俺がバズらせてやったってのに感謝もねえどころかあちこちから注目されやがって。俺はむしろネットで炎上してあちこちで後ろ指を指される生活だってのに。クソっ!」
何か怒っているが、話を聞くと正直この人が悪い気がする。
...ただ、話自体は悪くない。
妹を守るためにも彼には悪者になってもらう予定だったし。
この人が信頼できるかはさておき、悪くない話だ。
「...お兄さんは何が目的なの?」
「あ?んなの当然、土下座だろ?そんで金と家貰って俺はアイツの金で一生を楽しく過ごすのさ。それくらいの事を俺はアイツにしてやったんだからな!!!アイツが何も返さないってんならな、こっちだって考えがあるってもんだぜ。」
「...外道???」
「あ?なんか言ったか?」
「空耳じゃない?それより、俺と組んで勝ち目はあるの?」
「アリもアリ。大アリだ。何ならお前らにも勝ったら金分けてやるよ。」
「いや要らないかな。...でも、復讐できるなら意味があるよ。」
この人と僕は根本的に違う。
でも、ある意味目的は一致している。
呉越同舟という奴だ。
僕は彼を信じる事に決めた。
信用できないけど、信じれば彼への憎悪が消えるかもしれない。
何より、それで妹の目が覚めるか、満足してくれれば万々歳だ。
僕は兎に角、妹が何とかなるならなんでもいい。
「へへへ、ガキ。お前中々見所があるな。気に入った。俺と協力してアイツを打ち負かしてやろうぜ!!」
「目的は一致しているから、やれることはやるさ。」
「お兄ちゃん!?本当にそんな人信頼するつもりなの?!」
あくまでも妹はあの人に対して憎悪が酷いだけで、他の人への対応は良くも悪くも普通なんだ。
だからか、不安そうに見つめてくる。
「大丈夫、目的が一致している以上そうカンタンには裏切れないよ。ね、そうでしょ?」
「ああ、勿論だぜ。アイツから全てをむしり取れるなら蚊とだって協力してやるぜ。」
「蚊扱い???...ともかく、魅羽だってあの人に復讐したいでしょ?」
「...それは、そうだけど。.........分かったよ、お兄ちゃん。」
ほらね、やっぱり協力してくれる。
妹の憎悪は明確にラインが引かれている。
...また、妹を利用してしまった。
しかも、あの人もまた利用した。
...もはや引き下がれない。
妹を戻す為に、俺は修羅になると決めたんだ。
こうなったら、あの人にはとことん苦しんでもらう。
それで魅羽の本来の姿が取り戻せるなら、安いもんだ。
「...それで、勝算はあるんだよね?」
「ああ、お前らは兎に角おれの言う通りにしろよ?良いな?作戦は決めてあるからよお。」
「.........ところで、貴方の名前は?」
「俺か、そうだな、ユウ兄貴って呼べや。」
「わかったよ、ユウ兄貴。」
ああ、母さんごめんね。
俺はもう、天国にはいけそうにないや。
でも約束は守るよ。
魅羽だけは絶対に元に戻して見せる。




