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適合者はこの俺!!!!  作者: こしあん大福
第1章 真紅の雨
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【side episode】千嵜 稔の二度と忘れない1日と1日 後編

重いですか?

それは、どうもすみません。

父さんを失い、意気消沈した僕。


妹もまた悲しみから立ち直れず、苦しんでいた。


特に妹は自分のせいで父がという自責に駆られていて、何度母さんが抱き締めていたか分からない。


......本当は僕もそうしてほしかったのかもしれない。


でも、変な意地を張ってしまったせいで、僕は二度と母の抱擁を受ける事は無かった。













母さんと妹と、避難所で暮らし始めてからどれくらい経ったのだろう。


日を数えていないから正確な日時は分からないが、きっと五日は経ったと思う。


廃人直前まで行きそうな妹と、イマイチ母さんとぎくしゃくする僕と、逆にこちらを心配そうにしながらもあまり話しかけてこない母さん。


正直、何度も謝ろうと思った。


でも...。


あの時、父さんが一緒に謝ろうと言ってくれた。


あれが忘れられなくて、もしここで謝ったら僕が余計なことを母さんに言ってなければこんな事にはなってなかったかもしれないと認めざるを得なくて、それが異常に堪えて僕は黙ってしまっていた。


僕はズルいんだと思う。


母さんは、立場上誰の性にもできない。


喧嘩したせいで家族団欒が出来ず連携がうまく取れないまま逃げたという僕の原因。


こけたせいで直接的に父さんが犠牲になってしまった原因。


本当は僕らを怒鳴り散らしたいだろう。


お前らのせいだと、問い詰めたいだろう。


でも僕らを、僕らを愛してくれているから言えない。


僕はそれを逆手にとって、自分から言い出せなかった。


本当にカッコ悪いと思う。


でも、怖かった。


本気じゃない喧嘩で、自分の今までの母さんと父さんへの想いが壊れるのは。


だから言い出せなかった。


否、言い出さなかった。

















暫く経って、少し慣れてきたころ。


妹が話しかけてきた。


「...お兄ちゃんはさ、お母さんに謝らないの?」


......。


正直、妹にも申し訳が立たなかった。


だけど、どうしてだろう。


申し訳ないと思っている筈なのに、こうやって詰められるとムカついてしまうのは。


何故だか、僕が悪いのに、怒りが沸いてきてしまった。


どうして僕がこんなに考えて、苦しんでいるのに誰も助けてはくれないのだと。


そう、感じてしまっていた。


妹は母に頼れる。


でも、僕はそれが出来なかった。


だから.........。


「うるさい!お前に関係ないだろ!!!黙ってろよ。」


と言ってしまった。


予想以上に大きな声が出て、周りの人も思わずこちらを向く。


日和そうになった。


大多数にこちらを見つめられて、まるで悪いのは全部お前だと言われているような気がして。


と、妹は涙目になってこちらを見ていた。


「...そんな言い方無いじゃない。私は、ただ、お兄ちゃんを心配して......。」


ここで謝れたらどんなに気持ちが良いだろう。


僕は、今更ながらそう思う。


でもこの時の、世界で一番ダサい僕は、()()()()()()()()()()()()を口にしていた。


「心配?お前に心配なんかされたくない。良かったな、母さんだけでも残って。


 これで父さんだけじゃなく母さんも死んでしまったら、僕は」






言い終わらなかった。


頭が熱でぼうっとしていて、足音なんて聞いちゃいなかった。


気が付いたら僕は、頬を誰かに叩かれていて。


その方角を向くと、母さんが僕を、涙目で見つめていて。


その手は、まるで誰かを叩いたかのように赤くなっていた。


やってしまったと思った。


僕は、なんてことをと。


きっと、もう許されないだろうって理解した。


妹は、まるで崩壊したダムのように号泣していた。


母さんは僕なんていなかったように妹を抱き締めた。


周りの大人がひそひそしているのが見える。


......あぁ、そうか。


...............












()()()()()()()()()()()()()()













その夜、僕は避難所から抜け出した。


もう僕は、父さんを失ったあの日から、いや。


母さんを怒らせてしまったあの日から、いや。


...生まれてきたその日から、間違いだったんだと。


僕みたいなのは、きっと生きていてはいけない。


生きていたら、今度は母さんを失い、妹を手にかけ、それで牢獄の中で言い訳をするのだと。


そう思った。


辛かったよ。


でも、それ以上に、僕がこんなに醜悪だと気づいてしまったのがしんどかった。


どうして、どうしてこんな事に。


何度も自問したけど、答えは出なくてさ。


きっとこんな事があるのは、世界でも僕らぐらいさ。


だからか、諦めもついた。


僕がいたから、こんな事になったのだと。


















暫く歩いていたら、不意に地面が揺れた。


そこには、コウモリとパンダのような異形の化け物が居てさ。


あぁ、きっとこれは僕に神が出した罰なのだと。


僕はこのまま死ぬと、そう思った。


でもね。


あのマシンが、現れたんだ。


その黒いマシンはコウモリのような奴を目掛け太腿の部分の砲台から弾を撃ち込んでいた。


勿論飛ぶコウモリには当たらず、彼は苦戦しているように見受けた。


でも、どうでもよかった。


だって、どうせアレが勝とうが負けようが僕はここで死ぬと思ったから。


僕が死ねば二度と、妹も母さんも辛い過去を思い出さなくていい。


そう、本当に信じたんだ。













だから、だからこそ。


信じられなかった。


目の前で起きた、本当の地獄を。














あのマシンがパンダのような化け物に蹴り飛ばされ、ビルに突っ込む。


ビルにめり込み、そのビルの上部分が粉々になって落ちていく。


そして、僕の方へも真っ逆さまに子供一人くらいの瓦礫が落ちてきていた。


良かった、このまま死ねる。


安心して、立ち止まった。


次の瞬間.........。





















「稔ゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1」















グチャッ。






















一瞬だけ、母さんの声が聞こえた。


ひょっとして、俗にいう走馬灯かな。


いや、走馬音?


兎に角、僕はそのまま目を瞑り死を待った。


...でも、いつまでたっても僕には何も起きなかった。


ふと、目を開けると。


そこには、瓦礫に脚を潰され苦しみながらも、こちらを見て微笑む母さんの姿があった。


瞬間。


涙が、零れた。

















「母あああああああああさああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」














とめどなく涙がこぼれる。


どうして、何で!?と何度念じても、誰も何も答えてはくれない。


母さんは、こちらを、微笑んでみていた。


慌てて駆け寄り、母さんを潰していた石をどかそうと頑張るが、ダメだった。


泣きながら駆け寄る。


「ど、どうして!!どうして僕なんかを!!!!!母さん、何で!!!僕が、僕が死ぬべきだったのに!!!!!」


と、半ば半狂乱で叫ぶ僕を、母さんは、優しい声色で。


頭を撫でてきた。


血まみれの、手で。


「違うわ...。死ぬべき人なんていない。貴方は、尚更よ。何処にも居ないと思ったら、こんな所にいて...。全く、何をやってるのよ。」


まるでいつもの会話のように、母さんはふるまった。


きっと、僕を安心させようとしているのだろう。


だが、僕は震えが止まらなかった。


「母さん、母さん!!!!尚更って、何で!!!僕なんか、僕なんか助けて死んじゃだめだ!!!!母さん!!!!!!」


すると、少し悲しそうな顔をして母さんは言った。


「...私は、ここまで息子を追い詰めていたのね。子育ては失敗続きとはいえ、それで許されないような思いをさせてしまったわ。」


「違う、違う。僕が...。僕がァ!!!!」


「違わないわ。稔は、いい子だもの。少し勉強をしないくらいで、怒り過ぎてしまったかもね。ごめんね、稔。」


「なんで、何で母さんが謝るの!!!!僕は、僕がいけなかったのに!!!!ごめん、ごめん母さん。何も言わなくて。何も謝らなくて。妹にも酷いこと言って。父さんにも顔向けできないような子として。ごめん、ごめんなさい......!」


母さんはずっと優しい顔で聞いてくれていた。


「妹の事は、妹に謝りなさい。私は、大丈夫だから。...本当に、貴方は死ぬべき人なんかじゃないわ。だから、そんなこと言っちゃだめよ。」


「...どうして、そんな。僕なんかが、僕は...」


何を言いたいのかもよくわからず、ロクに謝る事すら出来ないぼくに、母さんは。


「だって、貴方は私とあの人の子供だから。魅羽だってそうよ。貴方たちは特別な子だから。だから、簡単に死ぬなんて言わないで。」


「......ごめん、ごめんなさい......。ごめんなさい......。」


何も許されなくても、謝り続ける。


「...もう謝らなくていいから、早く逃げなさい。私はもう長くはない。だから、逃げるのよ。...魅羽を、宜しくね。今は言われたくないかもしれないけれど、貴方はお兄ちゃんだから。」


それを聞いて、はっきりと意志が戻ってきた気がした。


「...うん...うん、うん!うん!!必ず、魅羽は、僕が守るよ。...母さんは此処で待っていて。必ず、人を呼んでくるから!!」


...母さんはそれを聞いて満足げに笑った。


と、同時に急に顔色が悪くなっていった。


みれば、我慢していたのか、どんどん出血していく。


ああ、そんな、どうして。


どうして、こんな事に。


頼む、お願いします、神様。


僕はどうなってもいい、どの道母さんが助けてくれなければ死ぬつもりだった。


だから、母さんだけは。


父さんを奪われた今、母さんだけは。


奪わないで。


これ以上、僕から何も奪わないで。


必死に祈る。


僕は手を握っていた。


すると、その手を弱弱しい力で振り払おうとしてくる。


口には、(逃げなさい)という言葉が浮かんでいた。


もう話せないのに、息も絶え絶えなのに、こうして伝えてくる。


どうして、僕が生き延びて、こんなに真剣だった母さんが死ななければいけないんだ!!


父さんだってそうだ。


何で、僕らだけがこんな思いをしなくてはならないんだ。


母さんは生きろと言ったけれど、僕はもう生きていける気がしない。


きっと、何処かで今日を思い出して死ぬだろう。


母さん、ごめん。


約束は守れないかもしれない。


けど、安心して。


妹だけは、妹だけは必ず守るから。


立派になるまで、絶対に。


泥水を啜ったとしても。


絶対に。


そう誓ったところで、完全に母さんの腕から力が消えた。


寝たとか、気絶した、とか。


そんなレベルじゃなく、ふっと何も残らないように、消滅した。


僕の手を握る手に、力はもう無い。



母さんは。




いや、母さんも。






















この日、父さんに続けて、母さんも失った。













「...ああ...」















「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」















涙が止まるのに、ハンカチでは足りなかった。



















重い足取りで、避難所まで戻った。


妹は、どうやら母さんに言いつけられたか、ここで待っていた。


僕.........いや、俺は。


妹に全てを話した。


全て包み隠さず、解き放つように。


恨んでいい、殴っていい。


一生かけて嫌ってくれて、憎んでいいから。


だから、守らせてほしかった。


もう、お前しか残っていない、たった一人の肉親を。


...意外なことに、妹は何もしなかった。


ただ、あまりの衝撃で俺を殴るのも、睨むのも忘れて、涙を流した。


たった一筋の、小さな涙だった。


そのまま、俺の胸あたりに顔を埋め、泣いていた。


俺は、一生、この日を忘れないだろう。


妹は、絶対に俺を恨みたいはずだ。


けれど本当は妹も、俺を家族だと、思う以外になかったみたいだ。


結局妹は俺を殴ることも罵倒する事も無かった。


悲しげな顔で、俺が話す全てを受け止めただけだった。


そして翌日以降、俺らは笑わなくなった。


ただ、無表情で、過ごした。












その日、ひとしきり泣いた妹は、せめて自分たちの手で墓くらいは作りたいと言った。


了承した。


本当なら、母の言いつけを守るべきなんだろう。


妹を守るのなら、まだ戦闘をしているであろうあの場所に連れて行くべきじゃない。


でも、いまやそんなコトは言ってはいられなかった。


妹の覚悟を、無駄にする気はなかった。


その場に言った妹は、やはりまた泣いた。


俺に何か言いたげにしながらも、唯一の肉親だと、何も言わず苦しみながら。


こと切れた母さんは軽くて、そしてずっと冷たかった。


温かさの消えた身体を二人で抱き締め、墓を作った。


と同時に、母さんが死ぬとき思い出したどす黒い感情が再び芽を出した。


どうして、どうして母さんが死ななければいけなかった!?


父さんもだ、どうして、どうして!!


俺が怒らせたから?


それとも、妹が転んだから?


俺が自暴自棄になった死にに行ったから?


きっと全て本当に原因だろう。


でも.........。


でも、きっと、本当の原因は。


()()マシン(リーパー)だ。


あのマシンが、もっと早く化け物を退治してくれていたら。


もっというなら、早くその原因を特定してくれていたら。


そうしたら、俺の家族は苦しまずに済んだかもしれない。


結果論だけれど、壊れそうな俺と、妹はこの考えに乗るよりほかはなかった。


勿論、濡れ衣みたいなものだと思っても居る。


でも、それでも。


少しでもそのせいに出来そうなものにしがみ付くほか、生きていられる考えはなかった。


あのマシンが全て悪いんだ。


アイツが、もっと早く敵を倒してくれていれば。


妹も復唱した。


アイツが、アイツが私たちを救ってくれていれば。


アイツが、アイツが。


あのマシンに乗っている搭乗者が。


全て、悪いんだ。

















あのマシンが消えた後、一筋の光が地面に落ちた。


その場所まで走ると、救急車に一人の男が乗せられていた。


その男は既にボロボロだったが、俺は確信した。


アイツがあのマシンの搭乗者だと。


怪我していた場所が、戦いで付いた傷の場所と酷似していたから。


傍から見れば、悪いのは当然俺だろう。


だけど、もう止まれなかった。


許せなくなった。


2人で睨みつける。














あの黒いマシンの搭乗者の男を。

次回から本編に戻ります。

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