第51話 ダリアの死
今回は久しぶりのデスペラード達視点です。
【ロェシー視点】
あのお方から告げられた言葉に、みな愕然とする。
ダリアが死んだ。
言葉が出ない。
確かに、アイツとは日々憎み合って憎まれあう、そんな関係だった。
でも、かつてボクらは同じ出身の者として心の底では通じ合っていた。
少なくとも、嫌いじゃなかった。
あのお方は、まだ現在の計画が準備段階だったころ自分の計画を進めるためにあちらこちらの世界からこっそりと人材を集めていた。
IFRTでも観測できない、世界に影響を与える事のない人材を。
それがボクたちのような孤児だった。
誰にも愛されず、誰にも好かれなかったボクらをあのお方は笑顔で出迎えてくれた。
温かかった。
それが例え作戦の為だとは言え、ボクらはきっとあのお方の為に生まれたのだと。
そう思えるほどにあのお方は愛情を注いでくれた。
ただ、ボクは違った。
ボクは、あのお方には愛されていたがその子供たちには歓迎されていなかった。
ボクにまだ家族が居た頃、ひょんな理由からボクは「ボク」として育てられた。
いわば、跡取りの為だ。
だから、女でありながら男であることを強制されていた。
そんな中で親が死に、親族も不気味がって近寄らなかったボクをあのお方が引き取ってくれた。
しかしそんなあのお方の家族は、やはりボクを気味悪がった。
女の癖に「ボク」なんて、気持ち悪いと。
ボクは助けて貰った引け目からあのお方に相談することが出来なかった。
そのままハブられて、数週間が経った時。
彼は来てくれた。
彼はダリアと名乗った。
ぶっきらぼうで、口の悪い少年だった。
最初は、誰よりもムカつく奴だと思っていた。
実際散々馬鹿にされたしね。
俺の方がこんな事が出来る、とか俺の方が愛されてる、とか。
でも、ボクのアイデンティティを壊すようなことは言わなかった。
そんな時、ボクに対し続く疎外。
誰も、ボクなんて相手にしてくれなかった。
ところがダリアは違った。
ボクを無視し自分を勧誘する彼らに対し、こう言ってくれた。
「おいおい、俺を入れる前に順序ってモンがあんだろ?ナァ?」
「え?何の事?」
「ロェシーも入れてやれよ。同じ施設の仲間だろ?」
「え、嫌だよ。あんな気持ち悪いやつ。」
正直、心は抉られた。
彼らに吹き込まれて欲しくなかったボクにとって、その言葉はかなり心にのしかかった。
すると彼は言った。
「気持ち悪い?どこがだよ。」
「あの喋り方といい、一人称といい、女の癖に男みたいでキモい。」
「はは、んな事でキモがってんのかよw......んったく、あのお方のお気に入りの筈なのに何でこんな事も分かんねえんだよ?」
「え、何?」
「いいか?お前らが見下してるアイツは、誰よりもあのお方の忠義に真っ直ぐだぜ。あのお方が言った協調も守れないお前らがよくもまあ気持ち悪いだのどうの言えたな。ケッ、人の振り見て我が振り直せたぁよく言ったもんだぜ。」
「何だと?!」「僕らをバカにしてんのか?!」
「馬鹿にする以外に何があるってんだよお前ら如きに。いいか?アイツは少なくともお前らより頭もいいし要領もいい。俺には勝てないが、少なくともお前らより有能だぜ。」
「...っふ。ははははは。笑えない冗談だね。アイツ如きに僕らが劣っているとでも?」
「そうとしか言えねえだろ?気持ち悪いのは救ってもらっておいてその主の想いに応えようとすら思ってねえお前らの方だよ。悔しかったら言い返してみろバーカ!!!」
言葉は乱暴だったが、彼の言葉はボクの心に刺さった。
彼は彼なりに、ボクを元気づけようとしてくれていた。
それがとても嬉しくて、つい笑ってしまった。
彼は気にするなよと笑っていた。
その後、お決まりかのように、
「ま、俺には勝てないけどな。お前みたいなクソ女は。大体悔しかったら言い返せよ。お前にはそれくらい出来んだろ!?ま、最も言い返しても俺には追いつけないけどな!!!」
「相変わらずムカつく。折角ちょっと感謝してたのに台無し。一言余計だよねダリアは、その性格だから前回の訓練失敗したんじゃない?」
「...やっぱお前はその憎まれ口が合ってるな。てかお前感謝してたの。かぁーやめてくれ、お前に感謝されるとか天変地異の前触れだぜ。」
「バカにしてんのか?殺すぞおい」
「殺してみろ雑魚。嘘だらけの女狐。」
罵詈雑言の嵐だったが、僕らにとってはこれが普通だった。
そう、普通だったのだ。
昨日までは。
呼び出しがあった時、ボクは呑気にも彼が前回の作戦に成功したんだと思った。
まあ、失敗の可能性もあったけど。
でも彼はきっとやると思ってた。
最近の彼は冴えていた。
こんな事でめげないしきっと見せてくれると。
席に着き、辺りを見回すが彼は来ない。
分かった。
きっとあのお方と共に現れるのだなと。
作戦が成功したからその功労者として一緒に出るのだと。
クソムカつく表情でみんなを煽りながら、どや顔で見下してくるんだろうと。
だったらこっちも、誉め言葉代わりの罵詈雑言のスタンガンを浴びせてやろうと。
そう思っていたのに。
「ダリアが死んだ。S-504の世界のマシンに敗北し、命を落とした。実に、実に悲しく痛い傷だ。」
あのお方はこう告げた。
みんな、絶句した。
あのショーキでさえ、思わずあのお方を見て愕然とした表情を浮かべている。
この中であまりダメージを受けていなそうなのはデーヴィとミダくらいか。
ミダは常に眠そうだし、デーヴィはにやにやしている。
他の面々は、未だショックを受けていた。
「ダリアの死は悲しいものだ。この死を悼もうにも、あまりに悲しくてどうすればいいのかもはや分からない。すまない、【無に帰す者】の諸君。私も、かなり心にダメージを刻まれた。」
あのお方が今までに無いほど心痛そうな面持ちをしている。
それもそのはず、あのお方にとってダリアは少なくともボクたちが知りえないような情報すら取引する仲だったのだ。
そのダリアが死んだ。
信じられない。
「その後の情報や後継者については追って連絡する。以上だ。」
それだけ言ってあのお方は立ち去った。
あまりに冷たいと思ったが、そうでもしないと自分を律せないのかもしれない。
あのお方もまた、悲しいのだろう。
そして皆が集まるこの場に、静寂が訪れていた。
ふと、ダリアの席を見る。
デーヴィに絡まれ嫌そうな顔をしながらも、ツィヒックと楽しそうに会話するダリアの姿が浮かぶ。
でも、そこにはもう誰も居なかった。
ダリアは死んだと、信じざるを得なかった。
途端に涙がこぼれる。
もう止まらない。
もう二度と、あのムカつく笑顔に会えないのだ。
そう思うと、涙が止まらない。
ボクのその姿を見てか、ツヴォサクが近寄ってきてボクの前に立った。
きっと、泣く姿を見せないようにしてくれているのだ。
彼の席に対して。
そして、ツィヒックがボクにコートを掛けてくれる。
ツィヒックもまた、顔が死んでいた。
もはや充電切れと言わんばかりの顔で必死に耐えていた。
ボクはそんな彼らの思いが重なり、更に泣いてしまった。
ボクは彼のことを救世主で、家族で、そして好きな人だと思っていたのだろう。
だが、一つも伝えられないまま彼は死んでしまった。
もうどうする事も出来ない。
それと同時に、沸々とした怒りが沸き上がる。
それは、ダリアを殺したS-504のマシンだった。
そしてそれをサポートした巫女にも。
許せない。
許せない許せない許せない許せない。
絶対に許さない。
ボクが去ろうとすると、ツィヒックとツヴォサクが話しかけてくる。
「怒ってる所悪いが、少し話がある。」
「悪いようにはせん。少しだけ我らの話を聞いてくれないか?」
さっきの事もある。
ボクは彼らに従い、部屋を出た。
スィゲロはトァネミと話していた。
「な、なあなあ。や、奴らも行ってしまったし。こ、今度そこの世界の管理は我々で行わないか?」
「よかろう。自分もそう考えていた。やはりダリアには荷が重かったのだ。」
あのお方が居ようものなら怒鳴られて居そうな発言だが、もはや彼らに黙ることなどできなかった。
「む、むしろ死んでくれて良かった。こ、ここ最近のアイツの進捗はとてもすごかった。だ、だからこそ次の活躍は我々が立てるのだ。」
「うむ、ダリアもよくそこまでやってくれた。褒めてやってもいいレベルだ。さて、それでは自分とスィゲロ殿で今度は異偶を召喚しS-504を管理してみせよう。」
「あ、ああ。こ、ここで誠意を見せられれば傷心中のあのお方も機嫌を取り戻される筈。そこで我々が伝説の獣の核も手に入れ、二兎を得てより信頼を得るのだ。」
2人とも欲に夢中の様だ。
もはや、ダリアの事など記憶には無い。
所詮、【無に帰す者】達の信頼などこの程度であった。
彼らは、そこから計画を立て、ダリアが出来なかったことを我らがと実行しだした。
ショーキが無言で去った。
その次に、スィゲロとトァネミも去った。
残ったのは俺とミダくらいか。
ミダは何考えてんのかよくわかんねえし、俺も帰ろっかな。
しっかし、あのダリアを倒せる強さの戦士か。
...気になるな。
俺は暇じゃない。
あのお方に速攻で認められて、世界を一つでもいいから頂きたい。
夢があるんだ。
諦められないね。
そんな夢をかなえる為にも伝説の獣のカケラは当然欲しい。
だが、あのダリアを殺した奴となると興味は湧く。
強いんだろうなぁ。
思わず笑みが零れる。
さてと、そんじゃこのデーヴィ様が直接確かめてみるとすっかな。
俺も席を立ち、帰っていった。
とある部屋にて、あのお方と呼ばれた男はとある人物たちを呼び寄せた。
そこには3人の影があった。
「ご苦労だったな。セイノとビミス。」
「勿体ない言葉にございます。」
「ううん、何ともないよー!!」
セイノとビミスは嬉しそうに答える。
「ダリアは少々問題が目立ち過ぎた。あんなカスはもういらなかったからな。丁度いい。それに、S-504への調査も早めにしたかったしな。」
「他の者どもがどんどん行くのが好都合と言う事ですね?」
「ああ。流石はビミス。棚から牡丹餅と言った感じだな。」
「滅相も無い。ただ、少し懸念点がございます。」
ビミスが顎に手をあて思念する。
「何だ?遠慮せず話せ。」
「では。もし、あの者たちがS-504のマシンの者と出会い、そこで事実を知って謀反した場合はどうなさるので?いくら貴方様とはいえ、急にそんな数が減るのは痛手でしょう。」
「確かに、減っちゃうもんねー。でも、主様ならきっと何か考えてるんでしょー?」
ぴょこぴょことぬいぐるみを動かし聞くセイノ。
「無論だ。まだ優秀な部下の種は施設に腐るほどある。それに、もし奴らが歯向かっても何も問題はない。」
「...理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ビミスは答えをわかっているとでも言いたげな顔で問う。
「ふっ、分かっているのだろう。お前たちとその他3人のonyxで奴ら以上の動きが出来るからな。奴らも昔は使えたが、今や能無しだ。お前たちが一番信頼でき、且つ優秀だ。ならば、お前たちが消してしまっても問題は無いという事だ。」
「お褒め頂き至極悦と存じます。精一杯行動に代えさせていただきます。」
「恐縮ーーっ!!頑張るねーーー!!!」
「ああ、精々私からの愛に答えて頑張ってくれ。お前たちを私は愛している。...もし謀反でもされたら、遠慮なくS-504の奴ら諸共屠ってやれ。お前たちに、期待している。」
そう言いあのお方は去った。
ゴスロリ少女と執事は満足げに頷き、そして何処かを目指し歩いていく。
誰も真実を知らないまま、ダリアの死は完全に迎えられた。




