間話 その頃、A-101では
という事で間話です。
今日も、昨日も、そのまた前も。
来る日も来る日も、ひたすら守り続けている。
あの子が帰る場所を守るために。
「遂に...防衛ゲート第1層が破られたか......」
彼は、私と私率いる東部門の兵を前にそう呟いた。
やはり重要なゲートは私たちに任せておくべきだったとでも言いたげな顔だった。
だが、もう遅いのだ。
あの異偶どもは、全てを蹂躙する為刻々と近づいてきている。
このA-101では、とある事件のせいで異偶と私たちが呼んでいる化け物たちがいる。
元々はいなかったが、その事件のせいで壊れてしまった次元干渉装置・IFRTの暴走により別世界の化け物が大量に現れた。
それは、元々化け物が居なかった他の世界にも惨劇を巻き起こし大変なことになっている。
私たちはそれを防ぐ為、とある兵器を開発し戦う事にした。
だが、残念ながらその兵器を使える人間が居なかったのだ。
あれは、なんというか不幸な事故だった。
ただ、間接的にだがその不幸な事故もあって様々な人が死んだ。
私の家族も、同僚もかなり殺された。
その日から私は修羅となり、こうして今日も異偶を殺し報告をしている。
兵器は結局元々私たちのリーダーであった少女が適任とされ、別世界にいる適合者に渡しに行っている。
ま、時空を飛び越える力は無いので恐らくその世界でエネルギーを補給できたとしても1年はかかるだろう。
更に、もしIFRTを破壊した奴らがいれば更に遅れる可能性もある。
困ったものだ。
それに気になることもある。
何故、別の世界の奴がわざわざ適合者になっているのだ。
適合者にする時、どうも他の世界の奴のデータがピンポイントで混ざったというのが違和感がある。
とはいえ実際になってしまっているので違和感もこうも無いのだが。
とにかく私はいつもの通り奴らを殺した。
殺しまくっていた。
部下も同じだ。
みな、怒りに燃えているのだ。
だがそんな私たちに怯える者もいた。
同じ世界で過ごす人間を殺す理由は無いのだが、修羅となった私たちを見境のない死神と勘違いしている人は多い。
そのせいで、毎回辺境の場所の異偶を殺す羽目になっている。
私たちはもっと、他の場所でも狩りたいというに。
近くにいると怖い、だそうだ。
正直、馬鹿かと思うが上層部の判断が一致したためやむを得ない。
私たちが守っているという事自体は忘れないで欲しいものだ。
命を差し出している我々に何たる不遇だ。
まぁ単純に西部門が成績もよく性格も狂ってはおらず冷静に処理出来ている、というのが正しいのかもしれないがな。
だが、そんな優秀な西部門がやらかした。
全滅、とまでは行かなかったようだがほぼ壊滅状態。
任されていた第一防衛ラインである第1層が壊されてしまった。
第2層までの間の区画に異偶どもが押し寄せ、現場は大混乱。
あちこちで虐殺が始まっているらしい。
私たちが呼ばれたのは、その混乱の尻ぬぐいだろう。
仕方あるまい、異偶を殺せるのなら問題はない。
「......リーパーはまだなのか?...」
またこの質問か。
確かにアレは格別の兵器だがすぐ帰っては来ない。
これは前回も説明したぞ。
いくら不安だからって先週聞いたことを聞いてくるな。
大体、お前たちが最初から私たちに任せておけばよかったことだ。
まあ事の発端をなぞればIFRTを壊した奴らが悪いのだが。
奴らさえいなければ、私の家族や友人は殺されなかったし、カーㇴが別世界に一人きりで行く事も無かった。
ましてや、こんな絶望にはなっていないのだ。
......無いものねだりをするのはやめよう。
虚しいだけだ。
「申し訳ありませんが、リーダーはまだ帰ってきておりません。もう少しの辛抱をお願い致します。」
「そうは言うがな、前だってそう言ったじゃぁないかぁっ!?いい加減にしてくれたまえ!」
そうは言われたって出来ないモンは出来ない。
我々がいい加減にすればカーㇴとリーパーが帰ってきてそのままこの戦いが終結するってんならいくらでも加減してやるさ。
「ですが、我々もこう答える他無いのです。全ては彼女を待つしか方法はありません。」
「だから嫌だったんだ!!!私は!大体、あの少女が逃げる可能性だってあるんだぞ!!!出来損ないの巫女だったんだからな!!!」
その発言に思わず拳が出そうだったが、すんでのところで抑える。
だが、自然と言葉に感情が乗ってしまった。
「ふざけてんじゃねえぞこのクソジジイが!!リーダーが、カーㇴが逃げるわけねえんだよ!!!!あの人は、あの少女は私たちより何倍も強くて優しい、誇れるリーダーなんだ!!そんなアノ人を侮辱するなら、お前も殺すぞ!!!!」
「ひぃ...ひぃ~~~~~~っ!!!!!横暴だ!!!!おい、コイツらを摘まみだせ!!!!」
私のいう事に大きく賛同するかのように頷き、コイツを睨む部下たち。
そして、守衛たちやこのジジイの部下たちも今回ばかりは何もせず、主の命令に逆らっている。
異常な光景だが、流石にこれは庇えないか。
「...な、なんだお前ら。打ち首にしたっていいんだぞ!?いいから奴らを...」
「...もう黙ってください。我々にとっても迷惑です。」
一人の若き兵士長が発言する。
凛々しい横顔に、静かな怒りが灯っている。
「な、なんだね、近寄るな!!!お前ごときが命令するな!!!私が一番なんだ!!!!私が助からなければ意味がないっ!!!!」
その言葉にため息を吐いたその兵士長はそのジジイのすぐ隣を槍で貫いた。
ジジイは息を呑む。
「黙ってくれと言いましたよね。黙ってください。それ以上は、この世界にとって迷惑なんです。」
ジジイも何も言い返せない。
ざまあねえな。
と、兵士長が私たちを見て腰を折る。
「申し訳ございません。ご迷惑をお掛けした上、とんでもない無礼を。お許しください。」
と謝ってきた。
「アンタのせいじゃないし、気になさんな。それより、第一ゲートに行かなくてもいいのか?」
彼らは是非行って欲しいと頼んできた。
私たちとしてもリーダーをコケにしたジジイは許せないが、この兵士長の面を持って許してやるとしよう。
あまりの恐怖で、価値観が壊れてしまったみたいだ。
かつては普通の部門リーダーだったが、この事件以降これだ。
ひょっとしたら、かつてからリーダーの事を出来損ないと呼んでいたのかもしれないので元からだった可能性もあるにはあるがな。
とにかく、今の状態はかなり悪い。
彼女の居場所を守ろうにも、その彼女に対する信頼が失われつつある。
だからこそ私たちは信じるんだ。
彼女の事を。
と、部屋の隅から12、3歳くらいの少女が出てくる。
「あの...」
この子は、あのジジイの娘だ。
コイツもきっとおかしくなったジジイに色々と苦労しているだろう。
可哀想だが、どうしようもない。
「どうしたんだ?」
「......ごめんなさい。ごめんなさい...ごめんなさい...」
頭を下げ、ずっとこうやって謝ってくる。
この異偶の事件が起こってからと言うもの何故かジジイの娘がやたらと謝ってくるのだ。
お前のせいではないと言っても聞かないし、ジジイの事もお前に責任は無いと言っているのだが。
「私がっ......私がっ.........」
「気にするな。何度も言うが、お前のせいじゃない。いいか、私たちが憎むのはあのバケモノとIFRTを壊した連中だけだ。お前に恨みも憎しみも無い。」
「でも、私が...」
コイツは毎回、私が、と言いかけ泣きじゃくってしまうため何を言いたいのかは分からない。
分からないが、きっとこの歳は多感な頃だろう。
自分でも分からないような感情なのかもしれないな。
ひとまず泣き止ませ、兵士長にあずかってもらう。
「それじゃ、私たちは行ってくるよ。」
そう言い敬礼と共に別れた。
第一ゲートは悲惨なものだった。
私たちが着いたころにはもはや人の影は無く、ただ異偶どもが消えた命を貪っていただけだった。
駆除できる数にも限りがあるが、とりあえず巨大な奴らは居ないらしい。
アイツらがいると地獄だ。
それこそ、マシンでも無ければ倒せないだろう。
ひとまず異偶どもを全員殲滅する。
我々は各自行動をとり、無事ダメージも無く、全員が再び戻った。
さあ帰ろう、とでもした時、ふと視線を感じた。
なんだろうと振り返ると石が顔に当たった。
その石には血が付着していた。
......私の血か。
周りの部下が怒るのを制し、その少年を見る。
少年は泣きながら怒っていた。
「お前ら、よくも、よくも遅れやがったな!!!もし、あと一秒早ければ、あと少しでも来てくれていれば、きっと婆ちゃんが死ぬことは無かったんだッ!!!ふざけるなぁ!!!!ふざけるなっっ!!!!!!」
彼は、必死でこちらを向いて怒っていた。
私は、何も言えなかった。
多分話した時間を含めなくとも、私たちが着くころにはもう死んでいただろう。
こういう事もよくある。
多分、あの彼も気づいてはいるのだろう。
心の整理がつかないだけなのだ。
私が無理に意見を変えさせることで、彼は余計現実を受け入れられなくなるだろう。
だから、踵を返し帰り出した。
部下たちも流石に驚いていたが、着いてくる。
彼は、再び叫んでいた。
「ふざけんなよ!!逃げる気かよぉ!!!!そんなんが許されると思ってんのか!?なんだよ、言い返せよ!!!!!!」
彼は、必死で泣き叫んでいたが、その内泣きながら膝から崩れ落ちた。
微かに、その音が聞こえ、そしてすすり泣くような声が、静寂に響き渡る。
「.........なんでだよ。どうして、どうして...。言い返せよ、言い返してくれよ...。婆ちゃん.........。」
その声に、息を詰まらせる部下が居た。
必死で声を押し殺す部下も居た。
私自体はもう修羅になったつもりなので何も感情はないが、それでも、思うものはある。
なあ、早く、早く帰ってきておくれよリーダー。
こんな地獄は、もうたくさんだ。
私たちは、いつ日の目が見れるんだ?
返事は当然のように無く、ただずっとさらさらという砂の音が聞こえるのみであった。
次回、遂に一章が始まります。




