第31話 カーㇴの不安
今回は大分長くなってしまいました。
命からがら逃げだした俺たちは、何とか近くの草むらまでたどり着いた。
ここは元々空き地で、少年たちがゲームを持ち寄って遊んでいたりする。
が、生憎バケモンに滅ぼされてしまった為最早草むらとすら呼べない悲惨な状態になってしまっていた。
「はぁ...はぁ...。ここまで、来れば、大丈夫だろ。」
「ええ、とりあえず、追手の雰囲気は感じないです...。ふぅ...ふぅ...」
息も絶え絶えで、心もドキドキだ。
思わず倒れ込む俺とカーㇴ。
「はぁ...。ふーっ。.........また、助けられたな。ありがとな、カーㇴ。」
「...また、ですか?」
「ああ。今までも助けられたし、今回の戦いでもお前の声が聞こえたんだよ。...もしかして、違ったか?!俺の幻聴か?!」
幻聴だとするなら恥ずかしすぎる。
勝手に人の声を妄想して助けられたとか言ってるやべー奴だよ、俺。
まだそんな気がするとかなら良いかもしれないが、思いっきり聞こえたとか言っちまった。
これはドン引きされても文句は言えない。
しかし、彼女の反応は想像と違った。
「............ふふ、届いていたんですね。....良かった」
届いていたってことは、何処かしらで俺に対し本当に叫んでくれたって事か?
だとしたら、喜ぶしかないし彼女も喜んでくれているって事だよな。
良かった。ドン引きはされていない。
「ああ、しかもあのマシンに負けた後もこうして助けに来てくれた。何で、俺の場所が分かったんだ?いや、連絡先は教えたけどさ。」
「それはですね、テレビで確認しまして。画面に楼汰様が必死で異偶と戦う姿が見えたので、また戦闘後倒れられたら困ると思い参った次第です。」
「そっか、したらあのヤバすぎマシーンがいて、俺が叩きのめされている所を見ちまったと。」
「ええ.........。正直に申し上げますと、あの戦闘用兵器は一度も見たことがありません。完全に新兵器かと思われます。」
彼女は目を伏せた。自分が知らない事とは言え、それで迷惑をかけたとでも思ってるんじゃないか?
「気にすんなよ。知らない事は知らないんだから。」
「ですが!知らなかったでは済まないことがあるのです!!現に、貴方様は...!」
「いやいや、あんなん分からないって。まさか、リーパーではないロボットを作る技術を持つ奴が敵側にも居るなんて、普通思わないしな。それに、俺も考えが足りなかった。いくら異偶がしんどいからって安易にフルパワーで戦おうとしたのが悪かったんだ。」
「ですが...私が行かなければ貴方は死んでいたかもしれないじゃありませんか?!そんな状況を作ったのは、紛れもなく情報取得を怠った私です!」
なおも食い下がろうとする彼女に内心ため息が出そうだった。
何が彼女をここまで自己責任魔人にしてしまったのだろうか。
「いいか、俺はお前の責任だなんて微塵も思わない。そりゃさ、普段から自分の身の安全だけ考えてるやつだとか、何もしてないだとか、協力する気が無いだとか、色々と良くない所があれば俺だって言うよ。」
そう、流石に自意識過剰や自己中な奴なら注意したかもしれない。
でも彼女は違う。
ずっと自分の責任を追いかけ、自分だけが悪いと背負いこんでいる。
今回の事もそうだ。
あの仮面男への怒りの叫びを見る感じ、絶対に鬱憤は溜まっているんだ。
それを必死に我慢して、俺を支援して更に情報を集めたり色々家事をやっておいてくれたりするんだ。
多分、俺と同じで彼女も壊れているのだ。
俺の希望になると言ったとき、彼女の顔に変に慈愛の表情が見えたことも。
時折見せる嬉しそうな顔をすぐひっこめる所も。
俺に対しなんというかずっと礼儀正しく、いつだって頼れるサポーターでいようとする所も。
全て、彼女の下を隠そうとする行動なのだろう。
それが今、崩れて消えていく。
ならば、俺が出来る事は一つだ。
その綻びを、優しく繋げて希望を見せる事だ。
彼女の希望として、そんな彼女の世界を救うために戦う事だ。
「なあ、カーㇴ。俺はお前にそんな顔をずっとしていて欲しくてリーパーになった訳じゃないぜ。」
カーㇴは辛そうな顔を、笑顔で閉じ込めていた。
「ですが、ですが、私は...。今回も、楼汰様をお守り出来なかった。リーパーになれなくとも、出来る事はあるのに...。
ぐすっ、仮面の男に対し一矢報いる事すら出来ず逆上させて...。
あの男が突然止まったから助かりましたが、きっとアレが無ければ二人とも...。
うっ、うっ、そっぅ、それに、その前から...。
結局、希望になると言って私は何もできては居ないんです!!!うぅ...。
直接、未来を救うことなど何も.........ひっぐ...。
私では、力不足ですよね......。
故郷でも、私は能無しの、出来損ないの巫女でした。
今回、初めて力を使えましたがそれも、全く意味のないちっぽけな攻撃でした。
守ると言いながら、希望になると言いながら何もできない人間は、必要...ありませんよね?
私は、役に立っておりますか...?...楼汰、様。」
彼女は、泣きながらこちらを見て呟いた。
...ようやく、気づいた。
彼女が戦っているという事実に。
恐らく、一番最初にリーパーに搭乗しようとしたのは彼女なのだろう。
でも乗れず、結局は俺が乗ることになった。
だから他で何とか適合者をサポートしようとした。
だがそれも一筋縄ではいかず、彼女の中では空回りしたり、俺を邪魔したとでも言いたいような事ばかりしていると思っているのだろう。
自分に何が出来るのか、というのをずっと問いかけているのだ。自分自身に。
その答えが出せず、苦しんでいるのだ。
彼女には彼女なりの答えが必要で、それは俺でいう希望だったのだ。
彼女の過去を俺は知らない。
俺の過去を彼女が知らないように、きっと彼女にも何かしらの深いトラウマがあるのだ。
「出来損ないの巫女」というふざけたワードはきっと、その頃出たものなのだ。
俺の知る彼女は、「出来損ない」なんてワードからはかけ離れた、年齢にそぐわない能力を持つ一人の少女だ。
でも、彼女の中ではずっと、その頃から変わっていないんじゃなかろうか。
ずっと、「出来損ない」という呪いが、付きまとっているんじゃ。
今回、俺は良い方を見てきた。
彼女は俺の危機を察し、そしてその現場にたった一人で現れ、敵の幹部クラスを止めようと抗った。
ハプニングで助かったと言うが、確実に彼女の動きも貢献しただろう。
そして、ここまで逃げ今に至る。
こうして聞くと、いいように聞こえる。
だが、彼女の中のシナリオはこうだ。
俺を心配していったはいいが知らないマシンに襲われて瀕死の重傷を負うレベルの戦闘をさせた。
更に、自分一人で飛び出したは良いものの完全に相手のペースに吞まれ、最期は煽りに気を取られて隙がありまくりの技を発動し、挙句効かずにやられてしまいそうになった。
なんとか逃げてこれたが、自分は何も出来ていない。
こんな所か。
あまりにも、辛すぎる。
彼女が過去に何を言われてきたか、想像すら出来ない。
俺を助けようと一歩を踏み出せる時点で、人として強く、凄い人間なんだがな。
普通、たった一人で、自分より強い兵器を扱う味方を倒した奴の所になんか向かわないだろう。
例え頼れる人が居なくて、ここで俺を失うとマズかったとしても、その時の緊張と勇気は、流石に尊敬せざるを得ない。
そんな彼女が、俺を英雄と言って慕い、必死にサポートをし、ここまでやってくれたおかげで俺はこうして戦えているのだ。
世界が違うとはいえ、まだ二十歳にも満たない少女がだ。
俺は、世界を救うより先に、彼女を救いたい。
こんな年端もいかない少女が自分の力に絶望する世界なんて見たくはない。
「ああ、ああ、お前は.........カーㇴは、役に立ってるよ。
役に立つなんてモンじゃない。
きっと、勲章モンだぜ。
何せ、たった一人。いや、俺も含めりゃ二人で、世界を救おうってんだからな。
しかも、世界だけじゃない。
お前は、俺をも救ってくれた。
どん底で笑っていた俺の希望になると、重圧の中言ってくれた。
歪な信頼関係かもしれないし、あくまでも世界を守る中での協力関係というだけな関係だけど、俺は相棒がお前でよかったと思うよ。
誰かの為に今まで使えなかった力を解放出来る事。
自分が出来なかったことを反省できる事。ま、反省しすぎだけどな。
そして、誰かを笑顔にしたいと必死で行動できること。
今回俺は後先考えなしで、フルパワ―を出しちまったけどカーㇴはしっかりと後まで予想してやってたんだもんな。
力不足なんてとんでもねえよ。カーㇴが力不足なら、俺なんて力ゼロだぜ。」
その言葉に、真剣に聞いていた彼女がはにかんだ、少し嬉しそうで少し慌てた言葉で、
「そんな事ない!楼汰様は、精一杯努力しております!私なんかとは違って、ゼロなんてことはあり得ません!!」
と否定してきた。
だから、こう返せる。
「ははは、確かに言い過ぎたかもな。
でもさ、そうやって俺を褒めて、認めてくれるんだろ?
どうしてそれが自分に出来ないんだ?
自分を認める事は、難しいことだけど、褒めなくても自分は努力していて、凄い奴だと、たまには褒めてやるのも任務のうちだぞ。」
「......それは...」
「難しいよな、自分を認めるって。
でも、認められたら、もっとお前は強くなれる。
過去のトラウマってのはそう簡単には消せるモンじゃない。
俺が一番理解してるつもりだ。
けど、苦しみながらも、理解ってやろうぜ?醜くて誰より劣っていると勘違いしている、自分の事をな。
カーㇴ、お前はきっと、かつて何かとても嫌な事があってそれで、もう誰にも勝つことが出来ない、何もできない人間だと思ったんだろ?
この世界に来てもその考えは揺らがなかった。
でもさ、それが一番自分を苦しめるんだよ。
だから、もう自分を許してやろう。
自分自身が許さなかったら、二度と誰の言う心配や感謝や喜びを分かち合う事なんてできなくなっちまう。
お前が誰だろうと、何者であろうと、どんなに自分が何もできないと決めつけようと、それはここで終わり。
自分を許して、再スタートしてみろよ。
何を偉そうにって思うかもしれない。
けれど、俺から言えるのはそういう事なんだ。
俺がお前を必要としてんのは分かってんだろ?
大事なのは、自分を受け入れて、許す事だ。
俺が必要なのはお前だ。
なんてったって、お前は俺の”希望”なんだからな。
こんな所で、自身を打ち砕かれても困るんだよ。
だから、俺も約束する。
お前は、絶対に出来損ないなんかじゃない。
意味は違うかもしれないけど、俺にとっては絶対に未来を拓く「運命の巫女」だ。」
俺が言い切るより早いか遅いか、彼女はずっと涙を零していた。
泣きじゃくりながら、必死で自分と格闘していた。
あの仮面の男と、今回の戦いで過去のトラウマらしきものを急につつかれて、焦ってしまったんだろう。
だが、こんな調子で居られるとこちらもやりにくいし、何より心配だしな。
俺としても、色々と考える所はある。
色々と、話がしたくなった。
両袖で目を拭う彼女にハンカチを渡すと、ごしごしと目を擦る。
泣きはらした跡には、絶対的な安心と、少しの懐疑心があった。
「本当に、私は、必要なのでしょうか?」
それは、一種の確認事項のようなもんだった。
「お前がお前を受け入れられたのなら、もうそれが答えなんじゃないか?」
それを言うと、再び一筋の涙を流したが彼女にもう黒い影が映ることは無かった。
その後もすんすんとしている彼女の頭を抱え、適当に撫でまわし、子供扱いするなと怒られた。
よしよし、戻った戻った。
しかし、子供だろまだ17は。
戻ったのは嬉しいが、それで怒られるのは納得いかない。
17歳でそこまでやってる方が異常じゃい。
...安心すると身体が痛くなってきた。
やれやれ、とりあえず休むか。
...落ち着いたら、運命の巫女ってのがどんなものなのか、聞かせて貰おう。
今の俺にはやはり、知識が必要だからな。
さてと、どうしたもんかね。
とりあえずちょっと休憩したら、作戦でも立てますか。
そんな事を考えていると、不意に音がした。
!?
まさか、仮面の男か?!
慌てて立ち上がり、カーㇴを守るように前に立つと。
そこには、息を切らしてこちらを見る合田さんの姿があるのだった。




