第99話 とある政治家の欲
サブタイだけだと本編っぽくないな。
安心してください、ちゃんと本編です。
俺は厳格で聡明な父の元に生まれた。
俺の家は代々政治家一家で、政治家にならなかった奴は破門されるくらいずっと続いてきた。
そんな俺は4兄弟の次男として生まれ、いまいち才能の無かった長男に代わりずっと父と交流してきた。
父は厳しかったが、そんな父が俺は好きだった。
だが父はちょっとしたミスで政治家界から拒絶され、あらぬ罪を被せられ死んだ。
呆気なかった。
父はただ少しミスをしただけだった。
しかし実際に報道や調査された結果として出たのは、父が犯していない罪だった。
当然俺たち家族も黒く見られ、あちこちで俺たちを拒絶する奴らが現れた。
俺自身、周りにいた利用しようとする奴らがこぞっていなくなったのを覚えている。
そんな奴らはどうでもいいが、父の事は納得いかなかった。
全ての罪を被せられ亡くなった父。
俺はいつか必ず罪を被せやがった奴らを潰すと思い、この世界に入った。
それからは色々あった。
辛い事も嬉しい事も沢山。
妻が出来、子供も出来た。
だが気分が晴れる事は断じてなかっただろう。
そんな中、独自で調べてきた父の死の裏に外国の勢力が関係していると遂に判明した。
俺はその一筋の糸を手繰り寄せ事件の真相を暴いた。
だが、その結果は。
どうしようも無かった。
相手は日本より遥かに大きい国の、しかもトップの右腕とも言われていた奴らで。
俺みたいな所詮日本でしか生きる事が出来ないゴミなど相手にすらならなかった。
周りに話しても俺が消されるだけだと分かり、落胆したさ。
しかしそれでもと奴らの事を調べた。
だがそれは奴らもそうだったようで、俺は逆に調べている事を特定された。
政治家人生を終わらせることも家族を殺す事も出来ると告げられ、諦めざるを得なかった。
俺は人生のほぼ全てをこれにかけてきた。
だが俺はこれにかけたこと自体が無駄なんだとようやく気付いた。
そして、それと同時に分かってしまった。
所詮この世は力が全て。
力無き者は強き者に食われ、死ぬしかない。
或いは付き従うか。
俺はそれを深く深く感じ、そして抗うのをやめた。
結局のところ権力なのだと感じた俺はそれ以降ひたすら権力を持つ為やれる事は全てやった。
出来る事は全てこなし、時に汚い仕事にも手を付けた。
その甲斐あってかなんだかんだで重要なポストにも就けた。
だがまだ足りない。
全てを屈服させる力を持つためには、日本なんかで満足できる筈はない。
全ての国を屈服させ、滅ぼす力さえ手に入れば。
そうすれば、俺みたいな思いをする奴自体が居ない世界になる、と。
そう信じ戦い続けた。
...そんな中、奴らは現れた。
そいつらは突如強大な力を手にし、それを国を守る為に使用しだした。
最初は誰もが疑っていた。
まだ20そこらの男と10そこらのクソガキじゃ当然だ。
こんな奴らには何も出来っこないと誰もが信じていた。
だが奴らは実際に有言実行し世界を守った。
勿論犠牲も出ただろう。
しかしやるのとやらないのとでは結果は変わる。
少しずつだが奴らは信用され始めた。
そして環境が改善され、奴らは動けるようになった。
国のサポートで。
邪魔され、デマの動画を拡散された事もあった。
これで奴らも終わりだろうと思っていたが、なんと奴らの行動で改心したとかいう動画作成者のガキどもが出てきた。
更には周りもそれ以降疑う事もなく、奴らの事を信じている。
.........納得できるはずがなかった。
父は疑われ、最後には自死を選んだというのに。
奴は同じ状況でも周りに疑われず済んでいる。
やったことが違うのは当然そうだが、それにしたってこの周りの感想はおかしいと思った。
...現在ではあの大国と我が国は協定を結び平和条約だなんだと言っているが、所詮は金魚のフンだ。
もしあの大国がまたあの時のように何かをやらかしてきた時、日本自体が切り離されるだろう。
あるいはこちらのせいにされるか。
どちらにせよ、あんな何処の馬の骨か分からんような奴らは信じるべきじゃない。
それと同じで、あんな怪しげな機械の戦士でこの国を守る奴は信じるべきじゃないんだ。
自分たちで国を守らなければ、また壊される。
奴らが消えても俺は困らないし、きっと誰も困らない。
要は奴らの力が完全に日本のモノだと分かればいいんだ。
奴らの力よりも凄い力を作り、奴らの価値が無くなればまた国の信頼は回復する。
例えこの機械戦士という強大なる力を手にしても、あの大国の権益には勝てない。
むしろ警戒させ、あらぬ疑いを生む事もある。
だからこそ余計にあのガキ共には消えてもらわなければ困る。
まずは身の回りの怪しい奴らから消えて行ってもらう。
力こそ全てではある。
だからこそ、奴らにその力があると思い込んだ国民がまたあらぬ疑いをかけ、俺が追い詰められるなんてまっぴらごめんだ。
奴らのいう事も成す事もよく考えれば根拠なんて無いんだ。
あの怪物だってきっと奴らが出しているものだろう。
誰も他の世界のバケモノだと証明できる奴は居ない。
嘘つきと変わらない。
ましてやデマ映像を作っていた片割れが一緒に居たのを目撃した奴も居るらしい。
子供同士で嘘を吐きあうだけの悪質な悪戯だ。
奴らもまた、結局のところ権力を得たいだけなのだ。
その理由こそ知らんが、あんな全く正体不明のガキ共にこのままいい思いをされてたまるか。
この後痛い思いをするのは我々なんだ。
俺は力を手にする為どんな仕事でもやった。
だがアイツらは勝手に出てきて勝手に戦って勝手に偉くなった。
そんなのはズルだ。
それで俺よりもいい立場を手にしている。
アイツらは全て運だけで俺の力を抜いた。
納得なんて到底できないし、むしろ疑われて当然だろう。
あんなゴミガキに舐められ、またあの時のように辛酸をなめさせられるのは我慢ならん。
俺は、相対するガキどもにそう思った。
それと同時に思う。
この力を、この強大な機械戦士の力を、誰も彼もを超え、国を超え、世界も何もかも超えた力を手にし、その力で全てをねじ伏せる。
それが俺が今やりたいことだ。
だが、死んでしまっては意味が無い。
今までやってきた事は全て無駄になる。
それだけじゃない。
今、こうして考えながら逃げる全てが無駄になる。
まるで醜く争い合う我らが見苦しいとでも言わんばかりに現れた亀のような化け物は、風の様な速さであっという間に現実を地獄へと変えた。
幸い集まってきたカスの民衆についていったのでしばらく猶予はあった。
あのガキどものせいでロクにデータ収集は出来ちゃいない。
だが、今はあのガキはいない。
或いはいるのかもしれんがこちらに警戒の目は無い。
あのマシンはあの時の会議によると奴しか使えないとの事だった。
だがそんな訳が無いと思っている。
あれだけ強大な力、アイツの相棒の少女辺りもこれを使っていると推測できる。
だが我々が調べても分からず、まず調べる隙が無い為にずっと隠しおおせてきた。
絶対に見つけてやる、使えないなんて言うのは権力を握る為の口実なんだと俺は分かっている。
本当に世界を守る力なら、どんな時でも乗れる人が居ないとマズいだろう。
絶対に抜け道はある。
後はどうやって奴らから聞き出すかという一点だったが、この混乱に乗じてこっそり調べれば何も問題は無いだろう。
...奴らは完全に黒だろう。
使えないのが本当に嘘だった場合、権力を握りたいだけというのは確定になるだろう。
本当に使用できない場合も、それが本当かどうかを知るすべは我々に無い。
なんてあくどい奴らだ。
実質それが分からなければ何も出来ないのだ。
自分たちが現在進行形で握っている権力を逃したくないだけなのだ。
そして今、運命の女神は俺に微笑んだ。
誰も見ていない状況で、この機械に入る事が出来る。
何たる幸運か。
必ず証拠を見つけ、俺の力にしてやる。
そう思いコックピットを探すが、そんなものはなかった。
ならばどうやってあれに乗るのだ?
そう疑問に思っていた時、この機械戦士の頭の鉱石らしき物が光った。
なんだと思わず近づくと次の瞬間。
黒い視界に世界が沈んでいった。
気づけば私の周りは黒く染まっていて、何も光は見えなかった。
まさか罠、と警戒するも特に音も無く何も聞こえては来ない。
「......一体どうなっている?」
この声に反応するものでもあればよかったが、何も見えなければ何も分からない。
俺自身どうなっているのか全く見当もつかない。
「まさか、あの光は罠だったのか?」
そう思う以外に何もなかった。
と、その時。
〈適合者以外の搭乗を確認。ーーー適合者で無い方の搭乗は推奨されておりません。〉
突如音声が鳴り、少しだけ驚いたがすぐに平常心を取り戻した。
一体、何なんだコイツは。
適合者以外......?
奴の言っていた、使えないというのはこの事か?
だが俺は既に乗れている。
あとは起動するだけだ。
それに、今推奨されていないと言ったな。
という事は、おすすめはしないだけで乗れるという事だ。
恐らく奴はこれを隠していて、自分だけで権力を握ろうという腹積もりなのだろう。
だが、俺はそれを見破った。
残念だったなぁ、若造よ。
俺さえいなければこれを隠す事も出来ただろうになぁ。
ふん、いい気味だ。
さてと、ではあのバケモノを倒したら速攻でこれを国に報告し、晴れてそれを報告した俺がこの機械戦士を使って戦う戦士となるのだ。
そしていつか世界そのものを掌握する。
ふふ、ふふふふ、急に俺に運が向いてきたな。
苦節40年、色々あったが長くやればそれだけチャンスもあるという事よ。
この俺は遂に偉大なる力を手にし、そして世界をモノにする。
この俺の前に屈するがいい!!
ついに選ばれたこの俺は、いつになくいい気分だった。
〈適合者以外の方が搭乗しリーパーとして活動を開始した場合、いくつかのエラーが発生する場合があります。その場合、以下の要件をお守り頂けなかったときは怪我、病気、sy〉
「うるさい!!!いいから早くせんか!!!お前たちの魂胆は当に理解した。後は俺がやる!!!」
〈警告!警告!...本当に説明をスキップして、起動しますか?〉
「何ださっきから!!怪我がどうとか言ったが、これに乗る時点でそれくらいは理解している!!!そんな事より、とっとと俺に力を寄こせ!!!そんな事はどうでもいい!!!」
〈承知しました。......それでは、リーパーの再起動を開始します。〉
ふん、実にうるさいアナウンスだったがようやくこれで俺が力を得られる。
長かった。
しかし、最後のうるさいそれは何だったのだ。
奴が使えるならこの俺にだって使えるだろう。
それに適合者だどうだと言っているが、そもそもが俺の指紋も虹彩も一切検証していないではないか。
それでよくもまあ適合だのどうだと言えたものだ。
だがもはやどうでもいい。
遂に、俺はこの黒いマシンとして立ち上がった。
〈リーパー。Active Re:BOOT〉
遂にこの時が来た。
そう思い腕を振り脚を出す。
思ったように動く。
この力を待っていた。
さぁ、使わせてもらおうか。
そう思い、亀のバケモノへと向かう。
そうだ、どうせなら奴のように剣や銃を出してみるか。
「出てこい!!!俺の銃!剣!!」
..................。
何も出ては来ない。
こういった形ではなかったのか。
念じてもダメそうだ。
「ええい!!!おい、あのアナウンス!!!どうやって武器を出すのだ!!!」
〈主が決定された方法でしか取り出す事は出来ません。また、変更も出来ません。〉
「クソ!!!ならば、その方法を教えんか!?」
〈主が方法の公開を承諾に設定しておりません。その為、説明をすることは不可能となっております。〉
「な、何だと!?......ふざけおってぇ。この俺が今は操縦者だ!!!この俺に従え!!!!」
〈例外として、主が行方不明になる。または、主が逝去された場合により代行者を認めますが、これにも主の許可が必要です。〉
め、面倒な設定だ。
武器も出せない変更も無理。
挙句には操縦者は俺だが代行として主になる事は出来るらしい、とはいえこれも無理難題といった所だ。。
くそ、ではコイツを使うには主になっているあの男を殺すしかないという事か。
今の俺ならば面倒だが可能だろう。
だが、このバケモノが前にいる状況でそれはまず出来ない。
ここで逃げだせる訳が無い。
何も使えない俺にコイツが倒せるかは分からんが、少なくとも倒さなければならない。
こんな所で負けてしまえばあの大国には敵わないだろう。
それだけではない。
倒さなければそもそもこの国自体が終わってしまう可能性だってある。
むしろ本題はそこだ。
この俺が力を誇示する前にこの国が滅んでは本末転倒だ。
そうなる前にまずこやつを片付ける。
何、案ずることは無い。
俺にとっては通過儀礼だ。
行くぞ。
ゆっくりではあるが、少なくともそれは他のバケモノと比べたらであり大きさ的にはとんでもない速さでこちらに向かう亀のバケモノ。
それに近づき蹴りを放つ。
しかしバケモノは下に少しだけ首を下げ、甲羅でガードした。
俺はそのままふらつき尻もちをついた。
すると、奴が噛みついてくる。
すんでの所で避けると、奴が代わりに噛みついた民家が粉々になっていた。
冗談じゃない。
すぐに後ろに下がると、勢いよくジャンプする。
奴の後ろに着地できた。
そのまま奴の甲羅を掴み引っ張る。
だが、重すぎる。
全然持ち上がらん。
亀はひっくり返せば自力で戻れるのはある一定数だけだと言う。
大体は戻る前に殺されるか干からびる。
それをやればいいと思ったが、いかんせんデカすぎる。
これをやるにはあとこの機械戦士が3体は必要だ。
うんともすんとも言わない亀を怒りのままに踏みつけるが、奴は何てことは無いとでも言いたげに身体を振った。
思いっきり踏んづけていた脚をモロに滑らされた俺はこけた。
その次の瞬間、奴は思いもよらない速さでこちらを向き踏みつけてきた。
痛みは無いが、腕になんとも言えない重さがのしかかる。
無理やり解こうにもあまりにも強すぎてどうにもできない。
くっ、痛みこそないが苦しいな。
しかも奴は動けないこちらに向かい顔を近づけ齧ろうとしてくる。
幸い動きはとろい為避ける事は出来るがこれもじり貧だ。
このままでは動けないまま奴の攻撃を一生避け続け、ミスした瞬間に齧られて死ぬだろう。
なんとかこの状況を打破したかった俺はそのままあえて齧られてみる事にした。
奴の隙がつけるかもと思ったのだ。
避けない俺を不審がる事なく奴は俺の胸の装甲に噛みつく。
痛みはやはりない。
と、少しだけ脚にかかっていた力が弱まる気がした。
それもその筈だ。
俺に顔を近づけるという事は、甲羅から身体を出すにしろ少しは前に重心が傾くという事なのだから。
そのまま全ての力をかけて奴の腹を蹴り、横から這い出る。
奴はそのまま横にズレただけだが、俺に避けられた事にイラついたのか突如脚も頭も全てひっこめ、甲羅だけになった。
何だ?
まさか、拗ねたのか?
と近づくと突如奴は回転しそのまま突進してきた。
なんだその自然界と離れた動きは!?
昔子供の頃触った家族向けゲームコントローラでやった棒スクロールゲームの敵を思い出す。
あの亀もこうやって回ったな。
だがあの亀とは違い自分で回って自分で突進してくるのだからタチが悪い。
あれを蹴りで受け止めるのは分が悪いだろう。
そう思い避けてみるものの、こちらが避けたタイミングで甲羅も方向を変え襲い掛かってくる。
避け続けるも意味はなくそのままずっと襲われる。
ついに俺が一瞬の判断を誤り脚を捻らせたとき、奴は俺を容赦なく突き飛ばした。
俺は吹き飛び遠くの方の更地と化した街に落ちた。
がしゃんと機体にダメージの入ったような音が響く。
強い。
やはりバケモノ、人知ではどうにもできない壁があるようだ。
だがそれを幾度となく片づけてきたこのロボットならば何でも出来る筈だ。
それに奴にも何か弱点がある筈だ。
それを考えて.........。
と、奴の動きが止まった。
こちらが飛ばされた後、しばらくは動き回っていたがその後停止した。
ずっとあのあたりをグルグルしていた。
ひょっとすると、奴は何か近くのモノを当てる能力でもあるのではなかろうか。
そして今俺がその距離から外れてしまったため、その攻撃が当たらなかった。
その可能性は十分にある。
というか、頭を引っ込めているのにこちらを見れる訳が無い。
あちらも機械ならばありえん話でも無いのだろうが、奴は生物ではあるらしい。
ならば何かからくりがあるのだ。
それが何かは分からんが、試してみる価値はある。
そう思い再び奴と対峙する。
今度はハナから逃げる体勢を作る。
幸い、奴は先ほどの甲羅の突進が上手く行ったとは思っているらしく再びそれを仕掛けてきた。
回転しながら迫る奴を俺は兎に角走って逃げた。
奴は早いが、方向転換に若干のラグがあった。
それを使いそのラグの最中に更に別の方に逃げるというやり方をしたところ、上手く行ったようで奴は再び止まった。
これで確信した。
奴はどうやってか分からんがある程度の距離ならばそこにいる標的の位置を当てられるらしい。
だがあくまでも大体なようで反転に反転を重ねると判断が出来ず着いてこられなくなる。
これを使えば突進を喰らう事は無いだろう。
そして反撃だ。
これはいい案を思いついた。
何もできないと思っていたが、だからこそ周りのモノを使うのだ。
奴は回転しこちらに突進後、見つからなかったときしばらくその姿で留まる。
そこを狙う。
ようは奴は何らかの手段でこちらの場所を窺えているのだ。
だが、生物である以上流石にプログラムで何かを書いているなんて事は無いはずだ。
つまりどこかから情報を得ているという事。
あるいは当てずっぽうかもな。
だが、少なくとも自分が入る穴から情報を得る以外に情報が無いのだからそこしかないのだ。
幸いここはかつての戦地だ。
瓦礫なら山ほどある。
手ごろな大きさの瓦礫を掴み、構える。
奴は再び姿を甲羅だけにし、そのまま駆けてくる。
先ほどと同様2回反転して避け奴が俺を見失う。
今だ!!
奴の後ろから忍びより、そして甲羅を掴む。
奴も流石に気づいたようだがもう遅い。
そのまま奴が顔をだす穴にその瓦礫を突っ込む。
甲羅は硬く、どんな攻撃も通さない。
そしてその身も通常の殴りでは意味を成さなかった。
だが、流石に瓦礫ではどうか。
ましてや細い奴の首しか入らぬ穴であれば?
そのまま腕を突っ込んでいくと途中で柔らかい感触があった。
これが奴の顔だ。
ならば、やる事は一つだ。
そのまま腕を勢いよく突っ込んだ。
流石に柔らかい首に、瓦礫は効果てきめんだったようだ。
中で暴れる気配がする。
甲羅の中で藻掻いているようだ。
中にしまっていた脚を全て出しじたばたと藻掻いている。
だが無駄だ。
そのまま押し切ると、なんとも後味の悪い感覚が腕に伝わってくる。
おそらく奴の顔は今、誰にも見せられない惨劇の後のようになっているだろう。
そのまま押し込むと、ぶよぶよとした感覚と共に奴の感覚が伝わる。
そしてそこで腕を限界まで差し込むと奴は一回大きく跳ね、そしてだらんと脚を下げた。
完全に動きが止まった。
どうやら脳天に達したようだ。
呆気なく死んだようだ。
やはり、この力は素晴らしい。
こんなバケモノを片付けることが出来る。
更地となった街のど真ん中に佇んでいた俺は腕を引き抜く。
赤と緑の液体が付着した腕はとても醜く吐き気を催したが、なんとか耐えた。
これが勝ちの味というものか。
何とも形容しがたいな。
だが、これで俺はやはり納得する。
何が俺にしか使えんだ、確かに能力自体は奴にしか使いこなせんのかもしれないが十分戦える。
やはり奴は隠していただけなのだ。
自分だけの権力を手にするために。
だが、もうそんな事はさせん。
俺がこの力を使いこなすのだからな。
さぁて、これが済んだら次はどうしようか。
手始めにやはり主と呼ばれているあの男から秘密裏に処理するべきか。
そうすればこの機械の力は俺のモノにっ!
素晴らしい。
すぐにでも取り掛かりたいが、まずはここら辺の人も心配せねばな。
どうでもいいと言えばどうでもいいが、一応心配するふりでもしなければ奴らは「政治家が俺らを置いて逃げた!」なんていう妄言を吐き出しかねん。
さてと、では降りるか。
そう思い尋ねる。
「終わったぞ、この俺を下ろせ。」
......今思えば、俺は調子に乗り過ぎていた。
天狗になったのだ。
俺を止める者など誰も居らず、もはや全てが俺によって支配されるしかないと勝手に勘違いしたのだ。
それだけではない。
バケモノを倒した征服感もあり、無敵だと思ったのかもしれん。
よく考えれば、最初にこのアナウンスは言っていたのだ。
推奨するだとか、エラー発生時にルールを守らないとどうなるだとか。
それを目先の欲に思考を奪われてすっ飛ばしたのは俺だった。
気が付けば、俺は外に出れていた。
だが、何かがおかしい。
外に出たはいいが、何故か脚が進まない。
不思議に思い歩こうとするも歩けない。
思わず下を見た。
そこには。
ある筈の脚が、無かった。
「な、何ィ!!!????」
仰天する暇もなく、今度は腰、腕が消え始める。
俺の脚は完全に粒子となっていた。
一体、何が起きて...?
理由を理解する暇もなく、どんどんと身体が消えていく。
意味は分からなかった。
だが、焦りが身体を支配していく。
気づけば叫んでいた。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!!ここまで来たってのに、ようやくここまで来たのに!!!!!こんな、こんな所で死ぬなんて!!!!!嫌だぁ!!!!!!!!!畜生、畜生ッ!!!!!!!何故だ、何故だ何故だ何故だぁっ!!!!!!!!俺が、この選ばれた筈の俺が死ななければならないんだ!!!!!消えるべき奴はもっといる筈なのに!!!ふざけるな!!!!!!!俺は、俺はぁ...!!俺はもっと力が欲しい!!!!!...この世界も、ここの奴らも、何もかもを壊す力が!!!!!うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫で喉が割れ、痛みが訪れる。
だがそれを気にしている暇など無かった。
ついに腕も腰も完全に消え、俺は五体不満足の状態で地に落ちた。
どうしてこうなった?
俺が、力を望んだからか?
それとも話を聞かなかったからか?
訳が分からないが、俺は、死ぬべくして死ぬらしい。
こんな事で、死にたくなんて無かった。
俺はまだ何かをやり遂げる、そんな人生だった筈なのに。
クソ、許さない。
俺はこの世界も何もかも許さない。
クソ。
畜生、俺にもっと力があれば。
そうすれば、こんな思いをする必要なんてなかったのに。
その想いと同時に、完全に俺の意識は闇と同化した。
俺は消えた。
最期に見えたのは、見覚えのある少年と少女がこちらを見て何かを叫びながら走ってくるところだった。
消滅.........。




