第93話 懺悔と赦し
稔視点からスタートです。
第一章はまだまだ続きます。
【稔視点】
魅羽とはぐれた俺は探しながらも逃げる道を見つけようとしていた。
しかし、魅羽は見つからないどころかあのバケモノ達が押し寄せてきていた。
また俺は家族を失うのか。
そんな事、絶対にさせたくなかった。
逃げ惑う人混みの中を逆流するように向かう。
当然みんなは俺の居る側に来たいのだから、俺は押し寄せる人の波を避けきれず押された。
そんな中、辛うじて開けた視界から魅羽が見えた。
だが、その身体は明らかに転んだとは違う飛び方で後ろへとつんのめった。
思わずその付近を見ると、明らかに後ろを見て魅羽に冷たい笑顔を向けるユウの姿があった。
あの野郎っ!!!!!
ムカついたが、まずは家族が先だ。
しかし、人混みで気づかなかった俺は唖然とした。
妹の目の前に、猫のバケモノが居たことに。
また失う。
その恐怖で、周りの人を跳ね除け一目散に妹へと駆けた。
途中誰かに脚を踏まれ靴が脱げた上に転んだ。
そのまま逃げる大人に踏まれる。
痛みに耐えながら、前を向くと。
そこには魅羽が、猫のバケモノに食われそうになっていた。
だが魅羽は逃げない。
いや、逃げられないのか。
なんでだ。
そんな、終わったって顔するなよ。
逃げてくれ。
まだ、まだ間に合うはずだから。
そんな、嫌だ。
また......。
また、失うのは............。
嫌だ!!!!!!!!
「魅羽ッ!!!!!!!!!」
その時だった。
突如、紅い閃光が弾けた。
何が起きているか分からず前を見るが、それは猫型も同じだったらしい。
バケモノもまた、何も分からなかったようだった。
そしてその直後、俺は安堵のあまり涙が出そうになった。
その閃光は、あの、お兄ちゃんが出したものだった。
前と違い黒くないし、姿も少し違うけれど、雰囲気がそうだ。
きっとお兄ちゃんに違いない。
そんな彼は、爪を振り上げる猫型を目撃するとそのまま回避。
しかもすれ違いざまにソイツを切り裂いた。
血飛沫と共に猫型のバケモノは倒れ、そのまま血ごと地面から空中へと霧散した。
......感動してる場合じゃない。
妹は!?
魅羽は、その喧噪のど真ん中に居た。
ぐったりとし動かない魅羽を心配していると、そこに彼が声を掛けてくる。
「落ち着けヨ。そいつ、気絶してるだけだぜ?俺様のレーダーには少年も少女もどちらもしっかり写っているからなァ。」
その言い方に思わず少し驚いてしまった。
この人、俺様とか言ったっけ?
少し、考え方を変えたとかなのかな?
......でも、嬉しかった。
やっぱり涙が出そうだった。
彼は、俺らを見捨てた訳では無かった。
何かしらの事情があって、戦う事が出来なかっただけなんだ。
彼には何度も救われている。
なのに、俺は、あんなに酷いことを。
みんなの前では懺悔したけれど、一番言うべきこの人には言えていない。
伝えたい。
懺悔と、後悔と、感謝を。
「あ、あの!!!」
少し緊張しつつ声を掛ける。
何か、言われるだろうか。
ひょっとしたら、性格が変わったのが俺のせいなのかもしれないけど。
と、彼は少し思案した後こう言った。
「悪ぃな。後にしてもらってもいいか?まだ、アイツらが残ってるんでね。」
言いつつ指をさす彼に、納得せざるを無かった。
その通りだった。
ただでさえ自分達の我儘でこんな事をしでかした可能性があるのに、またみんなを困らせる所だった。
......でも、今伝えたかったな。
今、最も盛り上がっている気持ちをこの人に伝えたかった。
でも仕方ないや。
まずは、みんなの命が最優先だから。
あれから数時間たった。
その間に、色々とあった。
まず、あのお兄さんの近くにいた事もあったお姉さんが合流してきた。
名前はカーㇴさんと言うらしい。
皆さんを安全な場所まで避難させますと言っていて、最初はみんなも胡乱げな目をしていたけれど結局彼女はそれを遂行した。
あの戦場から兎に角遠ざけるためにみんなを歩かせ、そしてこの施設で今の戦場から最も遠いらしい部屋で隠れる事になった。
カーㇴさんはあの人の相棒だと語った。
ならば、この人にも謝らなければならないんじゃないかと思ったんだ。
だからまだ気絶している魅羽を置いて、彼女の下へと行った。
俺は言った。
「ごめんなさい!!俺たちが、あんなひどい事を言って、しかもデタラメな映像を拡散して!!傷つけてしまって、ごめんなさい!!!!!」
本当に悪いと思ってる。
彼らには何一つ悪い事なんて無いんだから。
しかし、カーㇴさんは俺の腰を無理やりあげさせ言った。
「大丈夫です。...確かに、やった事は悪い事かもしれません。沢山の人に迷惑をかけたかもしれません。ですが、貴方たちはこうやって最後には大事な事に気づけた。もう、皆さんには事実を話して叱られたのでしょう?...そして、私にもこうして本心から謝れた。だったら、もう何もする必要なんてありません。何より、貴方たちもまた被害者なんですから。もうこれ以上、自らを責める必要は無いです。きっと、楼汰様も許してくださいます。大事な事は気づくこと。......もう、家族を責めないであげてくださいね。たった一人の肉親なのでしょう?私にはあまり深い事は分かりませんが、きっとお二人は強くなります。ですから、もう大丈夫と、自分を許してさしあげてください。」
また、涙が零れそうになった。
俺の周りは、想像以上に優しい人たちだらけだった。
そしてみんな、俺たちを想像以上に可愛がってくれていた。
俺は二度と、誰も傷つけたくない。
ここに居る人たちに、誰よりも感謝したい。
...そして次に、ユウが再び捕まった。
今度はここの人たちほぼ全員からどつかれていた。
滅茶苦茶怒られたみたいで、面倒臭そうにしていた。
まぁ、反省はしていない感じだったけれど。
あのカーㇴさんが、多分結構怒っていた。
「あれだけ迷惑をかけて、まだかけるおつもりですか!?」とか、「反省の意志が足りないようですね!!」とか「稔君は変わりました。......大人である貴方が、何故変わろうとしないのですか!?」とか。
でも彼は面倒臭そうな顔で色々と返していて、周りの大人が呆れていたっけ。
......魅羽は、あの時の恐怖からか疲れからか未だに目を覚まさない。
何かあったのかもしれないが、俺にはどうする事も出来ない。
お医者さんたちに診て貰ったが目立った外傷や異変は無いらしい。
俺に出来る事はただずっと魅羽の隣で、手を繋いでいる事だけだ。
更に少し経って、彼はこの部屋に姿を現した。
まぁ、服装はボロボロだし血は滲んでるしで最悪だったけど。
しかも隈も酷かった。
慌てて周りの人たちが手当しようとするのを押さえて俺の所まで来てくれた。
「何か、言いたいことがあるんだろ?...俺も言いたいことがあるから、おあいこだな。」
そう言って彼は笑った。
「...本当にごめんなさい。僕も、魅羽も迷惑をかけて。あのユウって奴と協力してお兄ちゃんのフェイクの動画を作った事。僕らだけが辛いと思って、沢山当たった事。酷い事言ったり、優しさに付けこもうとした事。...みんなに迷惑をかけました。本当に、本当にごめんなさい!」
震える手を押さえたら、声が震えてしまった。
もうお兄ちゃんの事は信頼できている筈だった。
なのに、何故だか震えが止まらなかった。
お兄ちゃんはそれをどう思ったのか分からないが、俺の目線まで腰を下ろすと、
「落ち着いていいって。...怖かったよな。ヤバい怪物が襲ってきて。一瞬でみんな居なくなって。ずっと、妹守ってきたんだろ?大変だったな。...震えてもいいよ、頑張ったんだから。こういう時くらい子供に戻ったって誰も何も言わねえよ。」
そう言って手を僕の頭の上に置いてきた。
その手の温もりが、頭から心に伝わって。
今度こそ僕はホントに、自然と涙が溢れてきてしまった。
本当は怖かった。
ずっとずっと怖かった。
何かに掴まりたくて、でも何処にも掴まれなくて。
気が付いたら優しいお兄ちゃんに付けこんでしまっていた。
酷い子供だと自分でも思ってる。
でも、本当に怖かったんだ。
だから、ありがとうって言いたい。
泣きながらありがとうを伝える僕に、彼はただ黙って撫でるだけにしてくれた。
僕はそのまま泣き続けた。
少し経って泣き止んだ俺に、彼、岩動さんは言った。
「俺からもな。...悪かった。俺は、俺の事を価値あるものと思い上がっていた。君らに、俺は何て言ったか覚えてるか?」
何だろう、もう覚えていないや。
でも、何か酷い事を言われた記憶はあまり無いなぁ。
「そっか、そうだよな。......俺は、あの時家族を失い絶望しながらも必死で生き抜く君達に対していくら求められたからって俺の命で良ければなんて言ったんだ。...本当に、今思うと何様なんだって話だよな。」
確かに、そんな事を言われたような気がする。
でも、あれは俺らが無理難題を吹っ掛けたからでお兄ちゃんは何も悪くは.....。
と言いかけた俺を制し、彼は続ける。
「しかも俺はその後、君達を拒絶した。君らの悲しみは計り知れないだろう。...大人ならば、子供に寄り添い話すのが当たり前だ。全部否定するだとか、逆に全ていう事を聞くだとか。そういう事にする前に、もっと出来る事があったんだ。なのに、それをしなかった。君らが悪いと思っている事があるように、俺も思ってるんだよ。」
そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
十分、寄り添ってくれていたけどなぁ。
変な事を言って困らせる僕らに対応を悩みながら、頑張って対応してくれていたし。
確かに拒絶された時はショックだったけれど、自分たちがさせたんだって思えたし。
彼が謝る理由は無い。
「...実はな、俺はここに来る前違う場所に行っていたんだ。そこで、危うくカーㇴを失いそうになった。...前にも感じた事のある、嫌な記憶がよみがえってさ。俺、過去にも同じような事があって、本来ならば君達の言いたいことは理解できる筈だったんだ。だが、俺はあの時の恐怖から記憶自体に蓋をしていた。だっせーな、俺。」
そんな事無い!
ダサいなんて、とても思えない。
むしろ当然とさえ思う。
俺だって未だに夢で魘される。
誰かが死ぬなんて、そんなの、思い出したい人はいない。
それを思い出すのは辛い。
彼は、むしろ賞賛されるべきで、責められるべきじゃない。
「俺は、今でもあの恐怖を忘れていないし、ずっと自分の罪だと思ってる。...君もそうなんじゃないかって、想像はついた筈だったんだけどな。」
罪、か。
俺はそうは思えない。
むしろ、忘れたいけれど、忘れてはいけない記憶だと思う。
でも、前までは罪だと、思っていた。
「いつまでも自分を赦せない。それって辛いよな。心が壊れたら、ずっとそのままなんだ。自然治癒するのは身体だけで、心までは元には戻らないんだ。だからその戻らない部分を如何に傷つかないようにするかが大事なんだって、俺は思った。そして、それを一番伝えるべき君達に、伝えていなかった。本当にすまない。俺は、自分勝手だ。」
「そんな事、ありませんよ!!俺らは、貴方に救われたんです!ずっと、ずっと!!だから、そんな事言わないで!!!」
彼は、今、その大事な言葉を俺に伝えてくれた。
それで十分だと思う。
十分すぎるくらいだ。
むしろ、俺は少し怒られるんじゃないかって思ってた。
だからこそ嬉しい。
俺は、十分恵まれていたんだなって、そう思えたから。
辛かったけれど、ようやく報われた気がした。
お兄ちゃんもまた、少し苦笑いしていたけれど、ほんの少しだけ嬉しそうだった。
その後、疲れていた彼を労う会が始まった。
ずっと連戦らしくお腹を空かせた彼に、いろんな人がご飯を上げていた。
俺は肩を揉みながら、一緒に話をした。
くだらない話も、大事な話も。
彼は時に笑い、時にふざけ、時に真剣な目で話してくれた。
俺は嬉しかった。
とりあえず、今日はこれでいいと思った。
明日からまた頑張ろって、そう思えた。
......でも、そうは問屋が卸さなかった。
突如、お兄ちゃんの目の色が変わり、俺と近くの人たちを突き飛ばす。
尻もちを搗きながら慌てて顔を上げると、その先には見知らぬ人が居た。
その人は、白い何かシスターみたいな服を着ていて、そして赤い仮面をしていた。
赤い仮面の男は、こちらを凝視しながらこう言った。
「...そこのソイツが、俺と同じ赤色の戦士って事ーーー???へへへ、一緒じゃーん!!!......っつー事でさぁ、俺と勝負しようぜ?」
その言葉が、再び彼を戦場へと連れ戻そうとしていた。
遂に出てきた赤仮面。
トァネミでは無く、出てきたのはデーヴィでした。
果たしてこの出会いが呼ぶのは不幸か、それとも?




