死にかけ少年と不死身少女
俺の命は長くない。
それは子供のころから知らされてきた事実だ。
だから、なんで、とか、どうして、とか。
そういう感覚はなかった。
もうあと半年も経たないうちに、俺は命を落とすことになる。
それはわかる。これ以上ないくらいにわかっていたつもりだ。
なのに、それなのに――――。
いったいどうしてこんなことになった?
俺はこんなこと望んじゃいなかった。
せめて残された一年間、平穏につつましく暮らして、
ひっそりと死んでいければそれで満足だったのに。
神というのはつくづく理不尽らしい。
倒れている人をうっかり見つけてしまった俺の不運が悪いのか?
同情してその人に声をかけてしまった俺の迂闊さのせいか?
どちらにせよ、過去のことを嘆いていても仕方ない。
残念なことに、あの「不死身の少女」は、
これからも、俺の部屋に居座り続けるのだろうから。
「お、おかえり……アカツキ君……」
学校から帰って部屋に入ると、そこでは首を吊った少女が苦しそうに俺を出迎えた。もう一度言おう。「首を吊った少女が」だ。俺はすかさず後ろ手にドアを閉める。
「帰ってきてすぐで、も、申し訳ないんだけど……下ろしてもらってもいい……? さ、さっきから……くるし……くって……」
「はあ……苦しいなら首吊るなよ……」
どこから用意したのかと思うようなぶっとい縄を、なんとかはさみを使ってほどく。あいつがどさりと床に落ち、何か独り言をつぶやいている。
「あーあ……今回こそは死ねると思ったんだけどな。首吊りも駄目なんだね……」
「お前下ろしてもらっといて反省する気ゼロかよ……。帰ってくるたびに地獄絵図を見る羽目になる俺の身にもなれよな」
「……明日は焼死を試そうかな。跡形もなく消えれば、もしかしたら死ねるかもしれないし!」
ああ、ダメだ。こいつ、聴いちゃいない。せめて明日は、帰ってきた時、家が火事になっていないことを祈ろう。
「そんなことよりアカツキ君。お腹減ったよ。ご飯ちょうだいよ」
「……じゃ、買ってこい」
「でも……お金がないよ?」
「んじゃ、出てけ」
そう言うと、たいていこいつはすごく悲しそうな顔をする。
「……わかったよ。もう少ししたら晩飯もらってくるから、それまで待ってろ」
それを見てると、俺はなんとなく仕方がない気がして、今日もこいつを許してしまうのだった。