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第8話 勝利に向けて

「オホン!」


 騎士団長が咳払いをする。私達は我に返り慌てて距離をとる。


「聖女殿よ、勇者を救ってくれて感謝する。」


 聖女?勇者?私が困惑しているとカノンが念話で伝えてくる。


(コウは聖剣を使いこなす勇の者として勇者って呼ばれてるんだよ。あくまで騎士団の中だけの愛称で、公にそう呼ばれてるってわけではなくね。)


 オーケーそれは分かった。だったら聖女って何よ!?


(さっきのコウの怪我を見たでしょ?あれって騎士団の人達的には致命傷だったんだよ。それで私がただ回復術師を連れてくるって言っても「どうせ治せないのに無駄なことはやめろ」って許可が降りなかったの。それで「勇者と対の者として召喚された「聖女」ならこの怪我を癒せるはずだ」って嘘八百並べて許可をもらったんだよ。だから騎士団の人にとってはアリナは聖女なの。)


 なんだそりゃ!聞いてないぞ!?思わずカノンを睨むとテヘペロって擬音が付きそうな顔でコチラを見ていた。私はため息をつくと、照れ隠しも含めて騎士団長に返す。


「他に怪我してる人はいませんか?魔力には余裕があるので今のうちに治療しちゃいましょう。」


「いいのか?では、怪我人をコチラに。」


 そう言うと数人の騎士が私の前に進み出る。「聖女様に治療していただけるとは光栄です!」とか言って喜んでる騎士を見るとそれカノンの嘘八百だからね!?と申し訳ない気持ちになるが、ここでそれを否定するとカノンの立場が悪くなるので黙って治療を続ける。


 その間、コウとユキは騎士団長と何か話していたようで、治療が終わると騎士団長が改めて声をかけてくる。


「聖女殿のおかげで隊を持ち直すことができた。我々が次にとる選択肢は2つ。帰還ルートを取り戻し撤退するか、このまま一気呵成に敵の本陣に攻め込むかだ。」


「攻め込む、ですか。」


「ああ。砦の総司令官までの道のりはこちらの魔女殿の働きにより判明している。であれば敵が密集している帰還ルートの奪還よりも攻め込んだ方が良いという考えもある。」


「私はどちらでも決定に従いますが…。」


 するとコウが割り込んできた。


「アリナをそこに同行させるのは俺は反対だ。アリナとカノンはここに来た道を逆走して砦の外に逃げるべきだ。」


「だから、あのルートはそろそろ見張り達の死体が見つかってるはずだし、余計に警戒されてるはずだから私はともかくアリナも通るのは無理だよ。大体さっき「ずっと一緒にいる…。」とか言って熱いキスを見せつけてくれちゃってるんだし、コウが責任持ってアリナを守ればいいって。」


「バカっ、それは別の話だろ!」


 騎士団長は半ば呆れたような表情で話してくる。


「ご覧のとおり、肝心の勇者と魔女殿で意見が割れている。すまないが勇者の説得をお願いできないだろうか。」


「…ちなみに騎士団としては進軍と撤退、どちらにするつもりですか?」


「聖女殿さえ宜しければ、進軍したい。この機に戦いを終わらせる。」


「わかりました。コウ、団長さんもこう言ってるわけだし一緒に行こうよ。」


 私が話しかけるとコウは反論する。

 

「攻め込む場合はカノンに先導して貰わないといけないからアリナに同行してもらうことになる。あんな危険な場所に同行させるのは反対だ!」


「だからー、もう侵入ルートでは帰れないから撤退する場合でもアリナはそこに同行してもらわないといけないって言ってるんだって。だったら先に総司令官を倒した方がまだ安全だって言ってるの。」


「そこはカノンが上手くやってくれよ。」


「私がアリナを連れて2人で脱出しようとしても危険度は変わらないって。だったらコウが守ってあげればいいじゃない!?」


 カノンも一歩も引かずに反論する。


「コウ、あなたのそれは我儘よ。私は大丈夫だから最善の選択肢を間違えないで。」


「アリナ…。」


「それに私だって自分の身を守れる程度には強いわよ?」


 身体強化を発動してコウの後ろに回って見せる。急に早く動いた事でコウは一瞬私を見失ない、後ろから肩を叩かれてびっくりする。


「ああ、わかったよ…。そうだな。前に進もう。」


------------------------------


 カノンの先導で総司令官がいるという部屋に向かう。


「その部屋はどこなんだ?」


 騎士団長が尋ねる。


「玉座…と言っていいのかわかりませんが、普通に最奥の謁見の間に居ます。現在敵軍は帰還ルートを取り戻そうとする我々の軍を迎え撃っているので、その総指揮にあたってるはずです。帰還ルートが潰された際に主力がこちら側に取り残されたのはある意味僥倖でしたね。一気に叩けます。」


「ああ。だが魔女殿と聖女殿が居らねばそれも成し得なかった。感謝するぞ。」


「そのお言葉は無事に勝利した後に頂きますね。」


「…そうだな!」


 そうしてしばらく走ると豪華な扉にたどり着く。「ここです。」とカノンが言うと、騎士団が整列する。騎士団長を先頭にコウとユキが並び、その後ろに実力者達が並ぶ。最後尾に私とカノンが続く。


「いくぞ!」


 騎士団長が扉を開き、中に雪崩れ込む。


「な、なんだ!?」


 敵の総司令官が慌てる。そのまま勢いで押し切ろうとした私達の前に、真っ白な鎧に身を包んだ1人の騎士が立ちはだかる。


「そちらの勇者は先程私が斬り捨てたはずだが、腕の良い回復術師がいるようだな。」


「今度は負けない!」


 コウが斬りかかる。他の騎士たちもそれぞれ部屋にいた兵士たちと交戦を開始する。ユキも1人の兵士と戦っている。


「アリナはこっちに。」


 カノンが私を庇うようにして部屋の隅に誘導する。なるほど、ここなら前だけに気をつければ良いので不意に攻撃される危険が少ない。


 私は周りに注意しつつコウの戦いを見る。コウは聖剣の力で身体能力が強化されており、すごい速さで動いている。だが相手の騎士はその動きを見切ったかのように冷静に攻撃を受け、躱し、反撃を繰り出している。


「さっきコウを斬ったって言ってたけど、やっぱり勝てないんじゃ…。」


 コウも善戦しているが、みたところ相手の騎士の方が実力は数段上に思える。コウは徐々に傷ついていくが相手の騎士は未だ無傷であった。


「あれは勝てないね。万全なら行けるかなとも思ったけど。」


「他の騎士の人はどうしてコウに任せっきりなの?」


 他の騎士達は既にそれぞれ対峙した兵士を討ち取り、コウと相手の騎士の戦いを見守っている。


「一応騎士道的なものがあって一対一の戦いに手を出すのは卑怯って考えがあるみたい。」


「じゃあこのままじゃ、やられちゃうじゃない!」


「このままじゃね。」


 そう言うとカノンは指を鉄砲の形にして相手の騎士に向ける。


 コウが聖剣を振りかぶり騎士に斬りかかる。騎士はそれを避ける。コウは上手く体勢を立て直し、返す刀で斬り上げようとする。しかしそれを読んでいた騎士はコウの攻撃に合わせるように剣を振った。やられる!そう思った瞬間、カノンが指から集束させた魔力を放った。指鉄砲から放たれた魔力の弾は騎士の剣を弾き飛ばす。剣を落とした騎士は、そのままコウの斬り上げをまともに受けた。


 聖剣は敵の鎧をまるで紙のように切り裂きその内側に致命的なダメージを与える。騎士はその場に膝から崩れ落ちた。予想だにしない展開に、味方の騎士も敵の総司令官も動きが止まる。


「…今だ!敵将を討ち取れ!」


 我に返った騎士団長が叫び、騎士達は敵の総司令官に襲い掛かる。総司令官も素人ではなかったようだが、精鋭の騎士達の手にかかってはひとたまりも無かったようで程なくして首が落とされる。


 騎士団長がその首を掴み松明を持ってバルコニーへ駆ける。腰につけた角笛を思い切り吹くと、総司令官の首を高々と掲げて松明で灯した。


 肩で息をするコウをユキが労っていた。私はコウに駆け寄り再び回復術をかける。


 今度は先程よりは傷も浅く、すぐに治療は終わった。


「アリナ、サンキュー。…相手の剣を弾き飛ばしたのはカノンか?」


「うん。あのままじゃまた負けそうだったからね。」


「…そうか。」


「魔女殿、よろしいですか?」


 騎士団長がカノンに話しかける。


「うん。」


「改めて、今回の助力感謝します。しかしそれはそれとして、神聖な戦いを汚した理由を教えて頂きたい。」


 神聖な戦いを汚したとは、つまりカノンが相手の騎士の剣を弾き飛ばした事だろう。この子は手を出すのは卑怯と私に教えてくれた直後にそれを実行したのだから。


 気が付くと周りの騎士達もこちらをじっと見ていた。カノンに対して卑怯者と言いたいのだろうが、騎士団長がはっきりと質問した事でその行方を見守る形になっているのだろう。カノンはそんな周りの様子を気にした風もなく答えた。


「そうしなければコウが負けていたから。それだけだよ。」


「しかし、騎士の戦いとは正々堂々として神聖なもの。それを汚す行為は敗北よりも恥ずべきものされております。」


「見解の相違だね。私にとって戦いに神聖なものなんてない。人の命を奪おうとしている時点で決闘も暗殺も等しく邪悪だと思っているよ。殺せる機会があるなら殺す。そこに綺麗も汚いも無い。」


「なっ…!」


 カノンの物言いに騎士達はざわめく。


「ただ、」


 カノンが続ける。騎士達はとりあえず黙ってカノンの次の言葉を待つ。


「あなた達の誇りを汚すつもりまでは無い。騎士団の強さはその穢れなき誇りの上に成り立っているもとだと理解しているから。

 

 だから私は本来あなた達と共に戦うべきじゃないんだよ。根っこの思想が違うから勝っても負けても互いに遺恨を残す。

 

 そうだね、今回は私の独断で神聖な戦いを汚した。あのタイミングでは勇者も剣を止められなかったし、彼は戦いを汚された被害者だ。そう報告してくれて構わない。


 だけどこの先も騎士の誇りを貫くなら、このヘナチョコ勇者はもう少しまともに戦えるように鍛えて貰わないと。これでも同郷の情はあるんだから。」


 そういってコウの頭をポンポン叩くカノン。


「…あなたは勇者を救った功績を求めるのでなく、騎士団の名誉のために汚名を被ろうというのですね…。」


 騎士団長が呟くと、カノンは肩をすくめた。


 騎士団長は騎士達に言い放つ。


「お前達!この戦いは勇者、聖女殿、魔女殿の活躍により見事我々の勝利となった!特に魔女殿においては怪我をした勇者を救うため単身敵陣を抜け聖女を連れてきたばかりでなく、敵司令部まで我々を導いてくれた!

 

 その多大な助力により我々誇り高き騎士団は見事、敵を撃ち倒すことができたのだ!今後魔女殿を讃えることはあれど、侮り蔑む事はあってはならない!良いな!」


 騎士団長の号令に、その場の騎士達は「はい!」と気持ちの良い返事をした。

 

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