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第6話 変わる距離

 初陣から数ヶ月。私たちはいくつかの戦いに駆り出された。小さな街だったり、堅牢な砦だったり。一つの戦場での戦いは早くて数日。長いと1ヶ月ほどの時間がかかる。


 一つの戦いが終わると数日から一か月程度の休養、訓練期間が設けられまた次の戦場に…というサイクルが出来上がっていた。


 つい先日も比較的大きな街での戦いを終え、私たちは次に向けての準備をしている。今度は10日後に今度は海沿いの砦を落とすとの事だ。



 そんなある日の夜。今日も4人揃って夕食をとっていた。


「次は砦だってな。街や村は比較的すぐ戦いが終わるけど砦は長期戦になりがちだからシンドいんだよなあ。」


「確かに、古い砦ほど相手は自分に有利な状況を作るのが上手い。屋内では緊張も途切れないし精神的にも辛いな。」


 コウが愚痴り、ユキが同意する。


「アリナはどうだ?」


「私はどっちが良いとかはないわね。運ばれてくるケガ人をただ治すだけだし。ただ、砦の方が私達のところに来るまでに命を落とす人は多いわね。」


 回復術は命を落としたものは救えない。死者蘇生の術は存在しないのだ。


「私は砦の方がまだマシかな。」


 カノンが呟く。


「そうなの?魔術・呪術部隊は街や村の方が開けている分攻撃しやすいと思ったけど。」


「やりやすさっていうか、攻撃する対象がね。敵の兵士とは基本的に騎士団が戦うでしょ?魔術や呪術の部隊が戦うのは民兵が多いんだよ。そういう人って大抵もともと街に住んでる人だからね。仕方ないとはいえそういう人を相手にするのは気が重くなるよ。その点砦は、まあ住んでる人はいるけど基本的にみんな兵士だからまだマシかなって。」


「…俺たちは敵軍や司令官と戦う事が殆どだが、やはり街での戦いは民間人が戦っていたりするのか?」


「バリバリの民間人だね。主戦力として駆り出される前に戦場をこっそり見て回ったけど、みんなその街に住む一般市民だよ。」


「ああ、前にフラッと戦場で出歩いてたアレね。何してたか聞くのすっかり忘れてたけど、そんな事してたんだ?」


「うん。あとは魔術師達が何するのか事前に見ておきたかったからその辺も確認してたんだ。幸い、略奪や火事場泥棒してる人はいなかったね。」


「あら、意外と品行方正。」


「師匠達が目を光らせてるっていうのと、あの人達ってお金はやたら持ってるから庶民から奪う意味が薄いのかもしれない。

 ちょっと話が逸れたけど、そんなわけで私は兵士だけを相手すればいい砦攻略の方がまだ、マシ。」


「まだマシ、か。…やっぱりカノンは戦いたくないんだな。」


「そりゃそうでしょ。ユキだって仕方なく戦ってるんじゃ無いの?」


「勿論だ。」


「まあこんな戦いは1日でも早く終わらせて元の世界に帰してもらわないとね。そのために頑張ってるんだし。」


「ああそうだな。誰1人欠ける事なく日本に帰ろう。」


 ユキがグッとサムズアップするとカノンもニッと笑って応える。この2人、最近なんか良い感じよね。


「…そうか、そうだよな…。」


「コウ?どうかした?」


「いや、何でもない。気にしないでくれ。」


「心配事があるなら相談に乗るわよ?」


「大丈夫だ。サンキューな。」


 コウは不器用に笑った。なんか隠してるなコイツ。分かりやすい。私はユキとカノンにアイコンタクトを送る。私が話を聞くから任せろと言う意味だ。

 

 戦場に行く時に心が不安定だと死に直結する。それは聖剣と持つコウとて例外では無い。だから不安の芽は早い段階で対処するに限る。

 


 その夜、ユキが私達の部屋を訪れる。


「コウは何か話した?」


「あのまま何も。」


「じゃあちょっと私行ってくるわ。」


「スマン、頼む。」


「いいのよ。カノンはあと数時間は図書室から戻らないと思うけど、ここで待っててもらって良い?」


「大丈夫だ。」


 入れ替わりで私がコウとユキの部屋に向かう。扉をノックするとコウが顔を出した。


「アリナ。どうした?ユキも珍しくこんな時間に部屋を出て行ったし。」


「あなたの様子が変だから私が話を聞きに来たのよ。ユキもカノンも心配してるわ。」


「ああ、さっきのか…なんかゴメンな。」


「何かあるなら吐き出しちゃいなさい。1人で抱えてても好転する事なんてこの世界ではあり得ないわよ。」


「そうか…確かにそうだな。ああ、入ってくれ。」


 コウに促されて部屋に入る。女子部屋と殆ど同じ構造だが、私達と違って自分でお茶を淹れる習慣が無さそうな辺り男子の部屋だなぁと感じる。そのままテーブルに腰掛けると向かいにコウが座った。


「さっき、夕食の時の話でさ。カノンが話してただろ。市民兵は出来るだけ殺したくないって。俺、そんな事考えた事も無くて。」


「騎士団は相手の精鋭達と戦うし、特にコウとユキはいつも相手の将軍とか最高戦力とぶつかるでしょ?

 市民兵とか意識する事がなくても仕方ないんじゃないかなあ。」


「でもさ、相手は兵士とはいえ当然家族とか居るんだよな。」


「それはそうね。ベタだけど「この戦いから帰ってきたら結婚しよう」なんて言ってる人も居るんじゃない?」


「今までそういう事って考えた事なくて。後に残された人ってどんな気持ちになるんだろうな。」


「それを考え出したら戦えなくなるからやめた方が良いわ。」


「…ホント戦争は地獄だな。」


 その元ネタはヘリから機関銃を撃ってる男なんだけど、それを指摘するのはカノンの仕事だから私はあえて黙っておく。とはいえあの男も戦争の被害者だと強く意識させるあの台詞はけだし名言だと思う。


「私達が手を下さなくてもこの国は止まらないからね。だったら逆に少しでも早く勝利できるようにっていうのがさっきユキとカノンが言ってた事じゃないの?」


「なるほどな。みんなそこまで考えてたんだ。俺はただ、目の前の敵を倒さないとって必死になるだけでガキみたいだな。」


「別にみんながみんなそこまで深く考える必要もないでしょ?私だってカノンに言われてああ、そう言う考え方もあるわねって思ったぐらいで。」


「なあ。俺ってサイコパスなのかな。戦場で人を斬ってもそれほど心が傷むわけじゃなくてさ。」


「剣と魔法の世界だからね。やっぱりちょっと現実感は湧き辛いのかも知れない。でもここで気付けて良かったじゃない。ポジティブに考えましょう。」


「ああ、そうだな。ありがとうアリナ。ちょっと心が晴れたわ。」


「フフ。コウのそういう単純だけど前向きなところ、私は好きよ。」


 特に意識する事なく、何の気無しに「好き」と口にしてしまった。もちろん人として…という意味だが、コウはビクリと反応して動かなくなってしまった。私もマズイと思ったが変に訂正するのもより空気がおかしくなりそうだったので気付かないふりをする。


「私達は変な死亡フラグを立てたりしないように気を付けましょうね。お互い残された側にもなりたくないし。」


「あ、ああ、そうだな。もちろん、4人の誰が欠けても嫌だしな!」


 コウがわざと明るく言い放つ。


「まあアリナは後方待機がほとんどだから死なないように気をつけるのは主に俺たちか。ユキは聖盾の力でほとんどの攻撃を弾いちまうし、ちょっとの怪我ならこれも聖盾の力で自然治癒する。必然的に一番危険なのは俺だもんな!」


「まあそうね。とはいえ後方待機が絶対安全ってわけでもないから私も気を付けないといけないけど。」


「そうなのか?…もしかして敵に襲われた事とかあるのな?」


「一度だけ。初陣の時に待機していたテントを襲われたわ。返り討ちにしたけどね。」


「なんだそれ!?初めて聞いたぞ!?」


「そうだったかしら。でも襲われたのはその1回だけよ。」


「1回だけだって、そういうの黙ってるのはやめろよ!アリナに何かあったら、俺はっ…。」


 そこまで言って黙り込んだコウは、何か決心したように私を見つめた。


「なあ、アリナ。俺はアリナが居なくなったら耐えられない。もちろんユキやカノンが居なくなっても嫌だけど、それ以上にアリナが居ないと困るんだ。」


「そんな事、急に言われても、なんて答えたらいいか分からないわ。」


「今すぐに返事をくれなくてもいい。ただ覚えておいて欲しい。俺にとってアリナは、特別な人なんだ。」


「…ありがとう。」


「ああ、こちらこそ今日はありがとう。じゃあまた明日からもよろしくな。」


「ええ、こちらこそよろしく。」



 コウの部屋を出た私は自分の部屋に戻る。その途中で図書室帰りのカノンと鉢合わせた。


「アリナ、お疲れ様。コウは大丈夫だった?」


「え、ええ。話したら元気になったわよ。私も今から部屋に戻るところ。」


「ふーん…。何かあった?」


「なんで?」


「コウの名前出したらなんか動揺したから。顔も紅くない?…ははーん、そういう事か。」


 ニヤニヤするカノン。


「今日はお赤飯だね!」


「そういう下ネタやめてよぉ!まだ何もないんだから!」


「まだ?」


「うっ…!」


「さて、部屋に戻って詳しい話を聞きたいな。初めての恋バナじゃない。」


 上機嫌に部屋に向かうカノン。私は顔を真っ赤にしてついて行く。


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