第2話 それぞれの覚醒
異世界生活が始まりはや数ヶ月。コウの予想通り、翌日から語学教習のような女性がやってきて毎日ガッツリ言葉の勉強をすることになった。語学留学とか軽く憧れはあったけど、こんな強制的に放り込まれるとは。
同郷の3人とは打ち解けてそれなりに個人的なことも話すようになってきた。
コウは見た目ほどチャラくなくて、意外と気遣いができる。あとお喋り。
ユキは反対にあまり無駄口は叩かないタイプだが思慮深いタイプ。
カノンは最初こそ引っ込み思案な子かと思ったが実はバリバリのオタクでいつもくだらないジョークを言うタイプで、気付けば4人の中のムードメーカーになっていた。
「それで、そろそろ俺たちがこの国に来た理由を教えて欲しいんだけど。」
日常会話くらいなら出来るようになったのでコウがクージンに問いかける。
「お前たちには○△※☆を持つものとしてこの国を救ってほしいんだ。」
「あー、何を持つって?」
クージンは紙にさらさらと文字を書く。私とカノンはそれを辞書で探して、書かれている説明を読む。
「んっとね…。生まれつき備わった力の原石。的な意味かな?」
「チートスキルか!?」
「コウには残念だけど、どっちかっていうと「潜在能力」か「才能」って意味合いが強そうね。」
「どう違うのそれ?」
「コウの言うところのチートスキルって努力しなくてもいきなりレベル500とかで俺TUEEE出来るやつでしょ?
私達のはレベル1から地道に上げる必要ありって事でこっちの人達と条件は同じみたい。」
「まじかよ。じゃあなんで俺たちが呼ばれたんだ?」
再びクージンに問いかけるコウ。
「我々はこの国の宝である「聖なる剣」と「聖なる盾」を扱える才能を持つものを召喚した。この才能を持つ者はこの世界には居ない。故に君達4人のうち誰かもしくは全員が、聖剣と聖盾を使う才能を持っているはずだ。」
「その才能の有無ってのはどうしたら分かるんだ?」
「実際に持ってみて貰えば、剣と盾の方から主人を選ぶとされている。…来たまえ。」
クージンに連れられて別室に案内される。数ヶ月生活している内に分かったけど、ここは王都と呼ばれるこの国最大の街のさらに中心にある大きな城であった。
そんな城の宝物庫的な部屋に案内されると、正面の壁に立派な剣と盾が飾ってあった。
「これが聖剣と聖盾だ。持ってみてくれ。」
コウが聖剣を持つと、聖剣は青く輝く。
「おお!これこそ聖剣に選ばれしものの証!」
その後私たちも順番に聖剣を持ったけれど、コウが持った時のような反応は起こらなかった。聖盾についてはユキが持った時に同様の反応が起きたため、コウとユキがそれぞれの持ち主ということになった。
じゃあ私とカノンは召喚された理由が分からないんですけど!という話になるのだが。
「俺たちだけだと心細いから、アリナとカノンが居てくれて助かってるぜ…?」
よくわからない慰めをするコウ。残念それは逆効果だ。
「心細さを埋めるだけなら私達である理由がないですけど。」
「…だよなぁ。」
「フム、ならばアリナとカノンは術を学んでみるか?」
「術?」
「魔術、呪術、回復術と呼ばれる、体内の魔力を操り現象を起こす技術だ。」
「私達にそれができると?」
「確証は無いが、聖剣と聖盾を扱えなかったということは術に高い適性があるのかもしれん。」
「…だってさ。どうする?」
一応、カノンに聞いてみる。
「習ってみようか。何の理由もなく呼び出されたよりはマシかなぁ。」
だよねぇ。
「よかろう。あとで基礎を教える事ができるものを講師として使わす。」
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「聖剣と聖盾、それに魔法か。いよいよ異世界ファンタジーになってきたな。」
「まだピンとこないんだけどね。」
「俺は盾だからまだいいが、コウは剣を使うんだろう。実際に他人を斬る覚悟はあるのか?」
「あるわけないだろー?正直ビビりまくりですよ。」
「コウもユキも明日から訓練なんでしょ?」
「ああ。聖剣と聖盾に選ばれたとはいえ、そもそも俺たちは剣術のスキルがからっきしだからな。明日から騎士団にしっかりしごかれるってよ。」
「ユキは高校生まで剣道やってたんだよね?ユキが聖剣なら良かったのにね。」
「いや、この世界の剣術がどういうものか分からない以上は下手に先入観のないコウが聖剣で良かったんじゃないかな。」
「なるほど、そういう考えもあるんだね。じゃあ頑張ってね!」
「ああ。カノンもな。」
ん?なんかこの2人、いい感じの空気を作ってないか?気のせいか?この狭いコミュニティでくっついたり離れたりは勘弁してくれよなー?
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翌日からコウとユキは剣術、私とカノンは魔法の練習となった。
この世界では魔力を使った術は魔術、呪術、回復術の3つに分けられており、魔力を持つ者はいずれか1つの系統に適性を持ち残りの2つは使えないらしい。
「カノンさ、魔術と回復術は分かるんだけど残りの1つを呪術って訳したのは何で?説明を聞いた感だと闇を祓うイメージじゃなかったんだけど。」
「ん?私が日本で好きだったゲームだと魔法と呪術と奇跡の3つだったからだよ。」
「なるほど。多分そのゲーム私もやったことあるわ。」
「本当!?じゃああとで語り合おう!」
さて、まずは自分の中の魔力を感じなさいとな?いきなり訳わからないことをさらりとぶっ込むのはやめて下さい。
「カノン、自分の中の魔力って感じる?」
「私が今感じているのは空腹感だけだよ。」
「それなら私も感じてる。」
2人で困っていると、講師が話してくる。
「上手い人があなた達に魔力を送り込んで強引に流れを知覚させるってやり方もあるんだけど、私だとそれが出来ないのよ。あと1ヶ月もすればできる人が帰ってくるから、それまでは瞑想しながら頑張って貰えるかしら。」
はいはい、最悪あと1ヶ月間この何も無い部屋で座禅を組む日々が続くって事ですね?それはしんどいな!…頑張ろう。
幸いにして、私もカノンも5日間ほど瞑想を続ける事で魔力を感じる事ができた。ちなみに空腹感とは全く別物だった。
魔力が知覚できたのでそのまま適正確認に入る。指先に魔力を集中する。この状態で指の周りが少し熱くなっていれば魔術の、指先が硬くなっていれば呪術の、どちらでもない場合は軽く傷をつけてそれに近づけて治れば回復術の適正となるらしい。
「どれにも当てはまらなかった場合はどうなります?」
「そういう人はこれまでいなかったから大丈夫よ。ただ、魔力の量が少なすぎると確認が出来ないって事はあるからその場合はまず魔力を増やす訓練をするしかないわね。」
「なるほど。じゃあ私からお願いします。」
ということで講師に診てもらう。特に熱くならず、硬くもなっておらず、それではということでナイフで反対の手の甲に1センチほどの切り傷を付けられる。指をその傷に近づけるとあっという間に血が止まり、傷が塞がり元通りになった。傷がみるみる塞がっていくのを間近でみるとちょっと気持ち悪いな。
「これは素晴らしい!アリナは回復術に高い適正があるわね。普通血が止まる程度で、才能があっても傷がちょっと小さくなる程度なの。ただ集めた魔力に晒しているだけだからね。
綺麗に元通りなんて聞いた事ないわ!きっとアリナは最高の回復術師になれるわよ!」
私はどうやら回復術にめちゃくちゃ適正があるということで講師が興奮している。みんなの傷を癒せるってのはありがたいかも。
「次はカノンね。さ、いらっしゃい。」
「私も回復術がいいなあ。」
そう言って指先に魔力を集中するカノン。講師はその指先を優しく摘む。
「あら、少し熱いけど指先も硬くなってるわね。どういうことかしら。」
そのまま反対の手の甲に傷を付けて近づけるが、血は止まらなかった。講師が手をかざし何やら集中すると、傷が治る。これが回復術か。
「残念ながら回復術ではなかったわ。ただ、魔術と呪術両方の特性がで出るのよね。普通はどちらか一方なのに…。ちょっと待っててね。」
そういうと講師は部屋を出ていく。
「残念、アリナとお揃いじゃなかったよ。」
「お揃いが良かったの?」
「べ、別にそういうわけじゃないんだから!勘違いしないでよね!
…冗談は置いといて、魔術も呪術も人を傷つける術が多いじゃない。私も人を癒す術が良かったよ。」
心底残念そうに落胆するカノン。
「…魔術や呪術にも人を守る術はあると思うわ。そういう術をたくさん覚えれば良いじゃない。」
「…うん、そだね。ありがと。」
その時講師が戻ってくる。ローブを着た偉そうな2人の男が一緒だ。
「彼女か?」
「はい。」
「うむ、では失礼。」
男の片方がカノンの前に立って手をかざす。
「これが見えるか?」
「…?手に文字が浮き出てますね。ハーデス?」
「私の名前だ。うむ、これが見えるなら魔術に適正で間違いないだろう。」
「あの、でも呪術の特性も出てるんですが。」
「気のせいだろう。魔術に適性があるなら呪術は使えない。」
「…念のため見ておくか。おい、これは見えるか?」
もう1人の男もカノンに手をかざす。
「えっと、サマル?これも名前ですか?」
「…信じられん。呪術に適性がなければこれは見えないはずだ。」
「なんということだ。信じられん。」
「…この娘は、史上初の呪術と魔術の両方に適性を持つ者だということだ。」
どうやらカノンはすごい子だったらしい。