第28話 王城崩壊
「俺達3人だけ帰すってどういう事だ!?カノンも帰るんだろ!」
ユキが声を荒げてカノンに詰め寄った。
「もちろん私も帰るよ。3人を送るところに立ち会って術の発動を見れば私なら模倣できるし。今この状況で見張りもなくちゃんとやれって言っても信じられないから、仕方ないね。」
「だったら、俺も一緒に残る…。」
「気持ちは嬉しいけど、帰還の術に必要な魔力が分からないからね。私1人ならなんとかなっても2人は厳しいかもしれないし、ここは私が残るしか無いんだよ。」
ユキの手をとりニコリと笑うカノン。そして宰相の方を見ると改めて問いかける。
「そういうわけだけど、答えは?」
「…出来ない。」
宰相は絞り出すように呟いた。
「そっか。」
カノンは炎を操り、王と姫の周囲を囲んだ。
「さっき人質を取るとか言ってたね。良い案だと思うから私は採用させて貰うね。もう一度だけチャンスをあげる。どうする?」
「頼む!王と姫を離してくれ!」
「それはあなたの答え次第だって。」
「出来ないんだ!それは私の意思は関係なく!そもそも異世界から戦士を召喚する方法はあっても元の世界に帰す方法は無いんだ!」
事前に予想していた答えが返ってくる。予想通りとは言え私達にとっては絶望的な宣告に他ならない。
「…宰相はそう言ってるけど、本当?」
炎を徐々に近づけながら王と姫にも確認をとるカノン。
「た、確かに代々王家に伝わる秘術にはそなたらを元の世界に戻すものは無いっ!ただ秘術と共に伝わる伝承の中には「異世界の者たちはその使命を果たすと帰って行った」という一文があるから、むしろ其方達が自分から帰るものであるかと思っておった!」
「その伝承は私も知っています!宰相と父の言葉に嘘は有りません!」
必死に話す王と姫。
「そっか。」
カノンは表情を変えずに呟くと。そのまま王と姫を燃やし尽くした。
「なっ…!?」
「魔王との約束でね。私達を帰す気がない時は王国側にもきちんと後悔させないといけないんだ。」
「貴様、なんて事を!!」
怒りのあまり、カノンに飛び掛からんとする宰相。そんな彼も落ち着いて炎で燃やし尽くす。
あっというまに20人以上の魔術師、宰相、そして王と姫の焼死体が出来上がる。肉の焦げる臭いが鼻の奥に不快感をもたらした。
「…という事らしいけど、どうする?」
カノンが聞いて来た。
「とりあえず、俺たちだけで元の世界に帰る方法を探さないとな…。」
ユキの言葉に私達は頷いた。
「その前に、とりあえず私は今からこの城全体を燃やしちゃおうかと思ってるんだけど。」
「なんだって!?城の中にいる人はどうするんだ!?」
「皆殺しかな?まあ逃げる人はわざわざ追うつもりも無いけど。」
「そんな!?そんな事って許されるのか!?」
「理由を教えてもらっても良いかしら?」
コウはさっきからの急展開もあり若干ヒステリックなっている。私はカノンに城を燃やす意図を訊ねた。
「理由は大きく3つあって。ひとつはさっき言ったけど魔王と私の会話…みんな覚えてるかな?私は王国が私達を騙しているならその事を後悔させるって言って、魔王は期待してるって返したんだ。彼は敵だったけど少なくとも私達に対して誠実だった。だから私もあの時の言葉を真実にしようと思うし、彼の期待にも応えたい。
二つ目は今後のためだね。城にはこの部屋も含めて危なっかしい儀式の部屋が多いし、放っておいたらいつか私達以外の日本人が召喚されるかもしれないじゃない?こんな思いをするのは私達で最後にしたいから、儀式の間は壊しておきたい。ついでに図書室には召喚の儀式を記した本があったからそれも含めて全部の本を燃やそう。魔術と呪術の研究室も燃やしておいた方がいいかな。とか考えてたら取りこぼしがないように全部燃やした方が早いかなって。
最後の理由が一番大きいんだけど、単純に私の感情で。10年も騙し続けて来たんだもん、全力で恨みをぶつけないとみんなも納得できないでしょ?」
「なるほどね。…うん、分かった。」
「アリナまで!?罪の無い人を巻き込む事になるんだぞ!?」
「コウも今さらね。私達が今まで何人の罪の無い人を殺して来たと思ってるのよ。今さらこの城にいる人が増えても大差ないでしょ?」
「カノンにこれ以上人を殺させるっていうのか!?」
「そのカノンがしないと気が済まないって言ってるんだから仕方ないじゃ無い。私はコウよりカノンの味方よ?」
私とコウの間にバチバチと険悪な空気が生じる。
「アリナ、言い過ぎだ。…コウは帰れると思っていたのが裏切られてその混乱から立ち直れていないんだ。コウと俺はひとまず脱出する。コウには俺から話をしておくから後でどこかで落ち合おう。」
ユキが私とコウの間に入る。そうだ、私達はこの状況を予想はしていたがコウからすれば完全に不意打ちだったのだ。
「そうね。ありがとう、ユキ。私もちょっと血が上ってたわ。」
「じゃあ王都の南門に集合で。そのまま王都を出ちゃおう。」
「わかった。コウ、行くぞ。」
「ユキまで何でそんなに冷静なんだよ!?クソッ、クソッ!やっと帰れると思っていたのに!」
ユキがコウを引きずるように外に向かっていく。
「さて、じゃあやりますか。」
「カノン、魔力は大丈夫?」
「うん。細かい操作をせずに燃やせるだけ燃やすのは意外と魔力を消費しないんだ。でも魔力が減って来たらアリナが魔力補給してくれると助かるな。」
「私はモバイルバッテリーって事ね。わかったわ。行きましょう。」
私とカノンも儀式の間を出た。
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「カノン、どういうつもりだ?」
「師匠。」
城を燃やして回る私達の前に、カノンの魔術の師匠のシャルル師と、呪術の師のルナ師が現れた。
「この炎はお前の仕業だろう?こんな事をして許されると思っているのか?」
「一体なぜこんな事を?」
「師匠達は知っていたんでしょう?王が私達を殺すつもりだったって。」
「…お前達が出来もしない帰還を要求するからだ。」
「私も、カノンのその才能があればこの世界で生きていく分には一生困らないと言ったでしょう?強制は出来なくてもこの世界を好きになって貰えるよう語りかけていたつもりです。」
「この世界を好きになる?散々嫌がらせしておいて良く言うよ。他の奴らがしていた事を止めなかった時点で同罪だと私は思っているからね。」
「真実を知った上でここに居ると言うことは、お前まさか!?」
「ああ、偉い人たちはもうみんな居ないよ。」
「殺したのですか!?」
「そうしなければこっちが殺されて居たからね。師匠達はどうする?私の目的は研究室であって師匠達は逃げるなら見逃してあげてもいいけど。」
「研究室まで燃やすつもりだと!?あそこにはどれだけ貴重な資料が詰まっていると思っているんだ!?」
「だから燃やすんでしょ。二度と異世界から誰かを召喚したり出来ないように。」
「貴様っ!」
シャルル師が魔術を行使し、魔力の弾丸がマシンガンのように降り注ぎ私達を襲う。カノンは落ち着いて炎の壁でそれを防いだ。その隙にルナ師が音も無く近づきナイフをカノンに突き立てようとする。私は身体強化をしてその前に立ちはだかり、ルナ師の腕を掴む。
「…くっ!」
「ナイスアリナ。」
そういうとカノンはルナ師に片手をかざす。ルナ師は逃げようとしたがガッチリと掴んだ私の手を振り解けず、一瞬でカノンの炎に包み込まれた。
「ルナッ!」
叫ぶシャルル師の方へ向けて、カノンは魔術弾を防いだ炎の壁をそのまま押し出す。シャルル師は下がって距離を取ろうとしたが既に後方にもカノンの炎が迫っていた。左右は壁に挟まれ、前後から炎が迫る。どうしようも無い状況に追い込まれ、シャルル師は誰に共なく恨み言を言い放つ。
「だから私は初めから反対だったんだ!異世界の者に期待するなど!愛国心の無い者に力を持たせたら最期にはこうなる事は予想できた!
だと言うのに傲慢な者共はどうとでも制御しきれると言って聞かなかった!その結果がこれだっ!それみたことかっ!」
悪態をつくシャルル師はそのまま炎に焼かれていった。
「…この人がもっと強く反対してたら、私達は召喚されずに済んだのかしら?」
「どうだろうね。死に際に自分は悪くなかったって思いたかっただけじゃない?」
「それにしてもこの2人って王国最強の術の使い手でしょう?戦う事になったら苦戦は必至だと思ったけど、案外呆気なかったわね。」
「アリナが居てくれたからだよ。ルナ師匠を止めてくれたのは助かった。正直あれは全く反応出来てなかったから刺されてたと思う。」
「フフ、お役に立てて良かったわ。」
「シャルル師匠はまあ、術の腕は確かだけど研究者肌だからね。魔術での戦闘経験はあまり無かったんじゃないかな?正面から単純な砲撃するなんて魔術師の戦い方としては落第だよ。」
「そんなものかしらね。」
「とはいえこの2人が最大の障害だったのは間違いないね。無事に勝てた事だし、残りも燃やしていこうか。」
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その後数時間かけて王城全体を燃やし尽くした私とカノンは正門から堂々を城を出た。カノンは最後の仕上げとばかりに一気に炎の勢いを強める。
それまで紅い炎に包まれていた城は、この勢いで壁や柱が崩れ出し一気に崩壊した。崩れ落ちてくる瓦礫に当たらないように注意しつつ、王都に向けて歩いていると正面から私の回復術の師、メノア師匠がやってくる。
「アリナ、行くんですね。」
「師匠…。」
「行き先は決めているのですか?」
「…この国と魔族国には元の世界に帰る術は無かったからね。他の国に行ってその方法を探すよ。」
「そうですか。この国から見て西にある共和国には世界中から様々な人が集まると聞きます。世界中から情報が集まるそこなら、もしかすると貴方達が帰る方法があるかもしれません。」
「そう。ありがと。」
そう言って師匠の横を通り過ぎるカノン。私もカノンについていく。
「私は殺さないのですか?」
メノア師匠が問いかける。カノンは歩みを止めて振り返った。
「あなたは…あなただけはこの世界で唯一、純粋に私達の味方をしてくれた。以前私がソウルクラッシュした時もそうだし、それ以外でも常に私達を気にかけてくれていた。この国で人の心を持っていたのはメノア師匠、あなただけだったよ。
…もしもこの国の全員が貴女のような人だったら、私はこの国を好きになっていたと思うし元の世界への未練を断ち切れたんじゃ無いかな。
だから、貴女が真実を知っていたかどうかは今の私には関係無くて。私が好きな人だから殺したく無い。それだけだよ。」
カノンの言葉に目を丸くするメノア師匠。
彼女は常に私達に味方してくれて、そのせいで王国から煙たがられる事もあった。だが私達は彼女だけに心を開けたし、この国で唯一好きになれた人だった。
この国の人々は私達が元の世界に帰りたがる事を嫌い、報酬や待遇で引き留めようとしたが私達はそんなものに興味を持たなかった。逆に心から私達に寄り添ってくれて、帰りたいと言う願いに同調してくれたメノア師匠だけが、私達がこの国に残っても良いと思える唯一の理由だったのは皮肉な話である。
「許して頂けるのですか?」
「そもそもあなたに個人的な恨みは無いよ。」
「…ありがとうございます。」
そう言って頭を深く下げた師匠を見て、カノンは再び踵を返した。
「師匠、さようなら。今までありがとうございました。」
私は師匠に別れの言葉を告げ、カノンの隣に駆け寄った。




