第15話 街中デート(準備編)
この世界には日曜日という感覚が無い。毎日が平日である。一応宗教由来の曜日の様なものはあるが、日曜日のない曜日なんてただの記号でしかない。
何が言いたいかと言えば、私達は毎日休みなく働かさらているという事だ。端的に言って頭がおかしい。
ちなみに私たちの仕事は魔族国との戦争をするか、戦争に向けて訓練をするか。
私の場合は回復術の訓練と称して最近は王都にある診療所で怪我や病気を治している。
こっちに来た時は師匠から色んな術を教わったりもしていたが何年か前に「もう私から教える事は有りません。あとは現場での経験を通して技術の研鑽を積んで下さい。」と放り投げられてる。
とはいえもう5年以上戦場でエース級の働きをしている私達である。たまには休みたいと言えば休養日を取らせてもらえる程度の裁量は与えられていた。しかし休んだところでせいぜい王都の中央区を散策する程度でカフェもアパレルもない街を歩いてもテンションが上がらない。
そんなわけで私は積極的に休む事は無い。人を癒しているという事で役に立ててる実感も得られるし。
コウとユキは戦場から期間後は2日ほど身体を休めたり10日に一度ぐらい休んで街で遊んでいるらしい。
さらにカノンに至ってはここ数年、毎日が日曜日だ。というのも魔術師や呪術師は研究室にて既存の術の改良や新しい術の開発をするか戦闘訓練をするのが主な仕事になるが、術の開発には興味が全くなく…というか既にひとつ魔法を産み出してしまっているし、戦闘訓練にしてもその『紅蓮』の術が強すぎてカノンに訓練ができる様な相手が居ないのである。まああの子は遊び歩いているわけではなく、ひたすら図書室に篭っているのだが。
「という事でたまにはデートしねえ?」
コウから唐突に誘われる。
「どうしたのよ、藪から棒に。」
「俺達って恋人同士になって結構経つのにデートらしいデートってした事ないだろ。この間ユキと王都の城下町に遊びに行ったときカフェみたいな店を見つけたんだ。
アリナ、前に日本ではカフェ巡りが趣味って言ってたの思い出してな。折角だから一緒に行ってみないかって。」
「この世界にカフェなんてあるの?荒くれ者のいる酒場みたいなところはイヤよ。」
「そういうのじゃなかったな。まあ雑誌に載ってるようなオシャレカフェでも無かったけど…とりあえず行ってみようぜ。」
「いいわ。いつ行く?」
「俺はいつでも大丈夫だ。アリナに合わせる。」
「じゃあとりあえず3日後で。私用で診療所の訓練…もといお仕事を休むの初めてだからもしかするとダメかもしれないけど、聞いてみるわ。」
「よっしゃ!楽しみにしてるな!」
そんなわけで初めての休暇を要望してみた。診療所の所長は珍しい要求に目を丸くしていたがコウ…勇者と街を散策するつもりだと伝えると納得、快く認めてくれた。
「それで今日はうきうきしてるんだね。」
デート前日の夜、カノンに街に出る事を伝えるとしっかり目的を見破られてしまった。
「そんなに態度に出てるかしら?」
「出てなくても分かるよ。どれだけ一緒にいると思ってるんだよ。」
「ふふ、なんかカノンの方が恋人みたいな言い方ね。」
「私が女の子で良かったね。コウと恋のライバルに成らなくて済んだよ。それでどこに行くの?」
「なんか城下町にカフェがあるのを見つけたらしくて、そこに一緒に行こうって言われてる。」
「カフェ?この世界にもそんなのあるんだ。高いの?」
「さあ。この世界の相場も知らないし…ってああ!」
「どうしたの?」
「私、お金持ってない!」
そう。お城で暮らしている限り必要なものがあれば言えば準備して貰えるし、働いていると言いつつきちんと雇用契約があるわけでもない私達は王国から給料は支払われていない。つまり現金を持っていないのだ。
「コウが出してくれるんじゃ無いの?」
「コウだってお金は持ってないんじゃ無いの?」
「ちょいちょい街に遊びに行ってるんだから何かしらお小遣い稼ぎはしてると思うけど。」
「そうかしら…もし「俺は勇者だからタダにしろ」とか言い出したらどうしましょう。」
「言わないと思うけどなあ。心配ならちょっと持って行く?」
そう言ってカノンはよっと立ち上がり自分の机に向かう。引き出しを開けると布の袋を取り出した。
「はい。これ持って行くといいよ。」
「これってカノンのお金?どうしたの?」
「私も街に行くときに使うから。」
「え!?街に行く事あるの!?」
「そりゃ毎日が日曜日系女子だからたまには街に出る事あるよ。年に数回だけど。古書店に行ってお城の図書室に無い本を買ったり、魔道具作って売ってるお店を覗いてみたりだね。」
「知らなかったわ…。というか買った本ってどこに置いてるの?この部屋には無いわよね?」
「図書室に勝手に置いてる。禁書庫の一画に「カノンの私物コーナー」があるよ。」
そんなの作ってるんかーい。
「そもそもこのお金ってどうしたの?」
「前に王様から「紅蓮の魔女」の称号をもらった時にやたら豪華な宝石があしらわれた金の首飾り貰ったの覚えてる?」
「ああ、魔法使いの証とか言って渡されたやつね…え?それ売ったの!?」
「あんな趣味悪い首飾り着けないし。折角貰ったものだし有効活用したんだよ。王都で屋敷が建つぐらいのお金になったよ。どやっ!」
平然と言い放つカノン。
「まあお金のほとんどは売った宝飾店に預けてあるって事にして受け取ってないんだけどね。現金が必要になったら貰いに行く感じ。」
「それって借用書とか取り交わしてるの?」
「ううん。店主さんとの口約束。」
…王都に屋敷が建つほどのお金を口約束で預けてる神経に空いた口が塞がらない。
「それって大丈夫なの…?」
「一応歴史のある宝飾店だからね。「魔法使い」相手に悪いこともしないかなって。称号もらって唯一役に立ってる点だね。」
「はぁ…、私の知らないところで色々やってるのね。」
「だったらさ、アリナも今度からちょいちょい仕事休むなら私とも遊びに行こうよ。アリナが知らないカノンを見せてあげるよ。」
「考えておくわ。…それで、このお金は借りていいの?」
「あげるって言ってもアリナは嫌がりそうだね。うん、返してくれるのはいつでもいいよ。」
「ありがとう。これっていくら入ってるの?」
「どうだったかな。ちょっと出してみて?」
布袋の中身をテーブルにだす。
青銅のコイン…青銅貨が15枚ほど、銀貨が10枚ほど、金貨が3枚と、そして白く輝く金貨も1枚入っていた。
「思ったより入ってた。」
「物価を知らないからこれが多いのか少ないのか分からないわ。」
「えっとね、一番価値が低いのはここには無い鉄で出来た硬貨で日本円で百円くらいの感覚かな?街でパンがひとつ買えるくらい。それで次がこの青銅の硬貨で、鉄の10倍。銀貨がその10倍で、金貨がその10倍。この白い金貨はさらにその10倍だね。」
「じゃあ青銅貨で1万5千円分、銀貨が10万円分、金貨で30万円、白い金貨で100万円…141万5000円!?」
「うーん、高くなるほど日本と物価がズレていくからそういうものでも無いんだけどね。私が前に古書店で買った歴史の本はある白金貨1枚取られたし。」
「ひぃっ…。」
「城下町で食事をするなら多分、二人で青銅貨1枚とかでいいんじゃ無いかな?
カフェがどんなお店か知らないけど、高くても1人青銅貨1枚ぐらいかなって思うよ。まあ私は買い食いできないから他の物の物価から何となく計算してるだけだけどね。」
「なるほど、参考になるわ…。」
「あとどこで買い物してもお釣りは出ないから気を付けてね。余分に出した分はチップとして持ってかれちゃうから。」
「分かったわ。ねえカノン、流石にこれ全部は大金過ぎて要らないと思うんだけど。」
「でも何かあった時のために多めに持って行った方がいいよ。…まあカフェの代金はたぶんコウが払ってくれると思うけどなー。」
そう言えばそんな話だった。カノンが色々と規格外の事をしでかすせいで、当初の目的をすっかり忘れてしまっていた。
「じゃあありがたく借りて行くわね。」
「おっけー。良さげなお店だったら今度私も連れて行ってよ。」
「分かった。しっかりリサーチしておくわ。」
その後、翌日のデートに備えて早めに床に就いたものの結局中々寝付けなかった。遠足前日の子供のように、なんたかんだ私もデートを楽しみにしていた。




