プロローグ
バイトが終わり家に帰ってきた有里奈はスマホを確認する。次のシフトは2日後だ。シャワーを浴びて部屋着に着替える。コップに氷と麦茶を入れて机に向かう。来週までに提出する講義のレポートに手を付けようと思ったのだ。しばらくレポートに没頭する。気がつけば時計はもうすぐ日付が変わろうという時間を指していた。
あとは週末でいいか。付箋に次にやるべきと思ったことを軽くメモしてレポート用紙に挟む。
読みかけの文庫本を手に取り、ベッドに入った。ちなみにこの本は好きな作家のショートショートである。短編を1つ2つ読むといい感じに眠くなるのでいつまで経っても読み終わらないが、睡眠導入には丁度いいと思っている。
「メロンライスってどんな味なんだろう。今度レシピを調べてみよ…。」
そんなことを考えながら眠りにつく。
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目が覚めるとそこは有里奈の部屋ではなかった。
やたらと豪華な部屋…神殿のような雰囲気だろうか?足元には魔方陣のような幾何学模様が光っており、周りには同じように混乱した表情で様子を伺う男が2人と女の子が1人。しばらくすると足元の光が消えて周囲の様子が分かってきた。
無駄に偉そうに着飾る初老の男と、同じく着飾る女。その隣にはインテリな雰囲気の男が立っており、また魔方陣の周りには揃いのローブをきた男女が合わせて10人ほど佇んでいた。
「まさか異世界召喚…?」
隣で呆けていた男の片方…チャラい印象を受けた方なのでチャラ男と呼ぼう。チャラ男が呟く。
異世界召喚?
「ステータスオープン…。ダメか。」
チャラ男は何か言っている。こいつゲーム脳だろと思ったが、状況的には最近よくある異世界召喚と言われるとしっくりきてしまうのであながちチャラ男を馬鹿にもできない。
ふと気がつけば女の子はガタガタと震えていた。私も落ち着いているわけではないが、こう言う時はいっそ誰かに頼られた方が気持ちに余裕ができる。女の子は可愛らしいパジャマ姿だったので私が羽織っていた薄手のパーカーを肩にかけてあげる。
「あ、ありがとうございます…。」
「大丈夫?」
そんなわけないと思いつつ、ありきたりな声をかける。女の子はコクリと頷いた。
こちらの様子を伺っていた初老とインテリが何やら話している。インテリの言葉に初老は大層喜んだ表情をしてこちらに歩いてきて、話し始めた。
「○※☆□○△※! □×@・☆△!」
聞いたこともない言葉だった。少なくとも日本語英語中国語、フランス語ロシア語あたりではないことは明らかだった。
「え、異世界言語理解的なスキル無いの?クソゲーじゃね?」
チャラ男が言い放つ。
クソったれな状況であることなのは大いに同意だった。