魔法の大家で有名な令嬢を好きになったのでルーン魔術を極めて告白した結果
ここの王立学園は今の世代、有名な話がある。
それは魔法の大家で有名なヴァルレオン家のご令嬢が入学したからだ。
代々、魔法の才能に恵まれ、どんなレベルの高い魔法であっても習得してしまうほどの才能の塊。
そんなヴァルレオン家のご令嬢が同年代に存在していた。
名をルフィーラ・ヴァルレオンと言った。
彼女の魔法はもちろんのこと容姿でも同性異性問わず興味、惹かれるものだった。
水色の長髪と瞳、容姿端麗なのは間違いなく、誰もが憧れる存在だった。
もちろん僕、アウレリウスも彼女に憧れ、恋に落ちた。
だが落ちこぼれである自分が告白しても理想通りにいくわけがないということは重々、知っていることだ。
でも、この気持ちを無駄にすることは勿体ない気がした。
そもそも何もしないで彼女を諦めることなんてできなかった。
自分の気持ちを伝えないと何より自分自身が納得しない。
でも、直接伝えることなんてできない。
どうすれば……と考えていた時にルーン魔術の授業を受けていた。
その時、閃いた。
ルーン魔術は一つ一つに意味が込められているもの、ならば、それを文章に出来れば、と……。
そこからの僕は自分でも驚くほどルーン魔術に没頭した。文字を刻み、意味する物事を発現させるルーン魔術は誰にでも扱えるため、ランクは低位に定められている。
だが極めれば、奥深いことが分かってくる。
しかし今のルーン魔術に恋という意味をもったものがなかった。
でも、彼の発想はない、なら作ればいいという結論であった。
そうアウレリウスは新たなルーン文字の作成に勤しんだ。
その時点で彼に才能があることが証明された。
そしてそう時間もかからず、一年足らずで完成した。
自分は貴方に恋をしています、というルーン文字を紙に書き、意味を小さく記した。
ちょうど授業が終わり、それを手放す。
自分は貴方、というルーン文字の効果によってその手紙はルフィーラに流れていき、必然的に彼女の目にそれが映った。
ルフィーラがそれを手に取り、目を通したことを確認してからアウレリウスの鼓動は激しく揺れた。
自分の思いを記した紙をルフィーラは目を通してくれていること、少し気持ち悪いが今までの努力は彼女が目にしてくれただけで報われた。
そんな気がした。
ただ一方的でもいい、自分の気持ちが伝えられたなら……。対面していたら、答えを聞くことが出来ただろうが、自分自身でその答えを知っていた。
そう、叶うはずもない。
可能性は絶対零であり、変わることなんてない。
そもそも誰からも興味、好意を向けられているルフィーラ・ヴァルレオンだが、男関係の話など噂でも流れたことがなかったのだ。
そのことから彼女は恋に興味がないのか、ただ好きな人物がいないのか分からない。
だが男関係の話がないため、今まで告白されてきたも断っていたのだろう。
感動と同時に悲壮感を味わう。
元々分かっていたことだから、そこまで心は沈まず、逆にスッキリした後味だった。
そして授業が終わり、友人なんて一人もいないアウレリウスは大図書館へと向かった。魔法の才能なんて低レベルなため、せっかく努力を注いだルーン魔術を続けようと決めていた。
新たなルーン文字を開発する過程で大図書館にはお世話になり、大体のルーン魔術に関する本の位置は把握済みであるため、すぐさま奥へと入っていき、求めている本を手にする。
――ルーン魔術は簡単に行使できる。
これはこの世界の人間の共通認識であり、魔法より簡単だが使い手はあまり見ない理由として、ルーン魔術より魔法の方が画期的だからである。
今の時代で魔法を使用しないのは魔法すら使えない、即ち底辺であることの証明になってしまう。
でも、歴史的に見るとルーン魔術の起源は魔法よる古かった。
魔法というものは適正のある魔力を通して、その系統にある魔法を実現させる。
簡単に説明すると人間と世界を魔力で繋ぎ、力を行使する。単純な工程だが、実力差も激しい。
それに対してルーン魔術は炎という意味のルーン文字を刻み、魔力を通すことで炎が生まれる。簡単に説明すると人間と世界を照らし合わせて力を行使する。
一見、魔法と同じように見えるが、世界と接続する魔法とは違い、ルーン魔術は世界と接続せずに力を行使できる。
見かけは原始的なルーン魔術だが、接続されていないということである程度、自分の才能次第で左右されることはないというメリットが存在する。
自分と世界を繋ぐ工程のある魔法は些細なことでも技量などで差は開いてしまうが、ルーン魔術は扱いやすく文字を刻めば、絶対に炎を発現させることができるのだ。
だが、もうそんなメリットなどに目もくれずにただ才能がないだと決めつけている。
恐らくルーン魔術の授業でもここまで丁寧に教えることはない。
だからこの実体を殆どの人間はしないのだ。
「はぁ~……」
そう再確認すると同時に緊張が解けて静かにため息をつく。
そういえば、恋を意味するルーン文字、開発したのはいいもの正直な話、成功したのか怪しいものとなっている。恋や怒りなどの感情はルーン文字で完全に実現できない、というか形のない物を形にすることなんて魔法でも難しい。
だが悔いなんてない。
自分には魔法の才能はなかったが、ルーン魔術を努力して紛い物であったが、新たなルーン文字を開発したのだから、自信くらいもっていいだろう。
アウレリウスは自分自身を励まして、ルーン魔術の開発を続けようと他にも必要な本に手を伸ばした。
その時だった。
「――ねぇ、アウレリウス君、だっけ?」
少し冷たそうな声色だが、怒りなどそんな感情は感じられない。
いつも一人であったためか、咄嗟に話しかけられて全身がビクッと驚きながら、左を向いた。
「え……」
信じられなかった。予想もしていない出来事に声が詰まる。
隣にいたのは、恋心を抱き、その思いをさっき一方的に伝えた相手、魔法の大家の出身であるご令嬢ルフィーラ・ヴァルレオンだった。
「る、ルフィーラさん!?」
声を荒げて、後ずさる。
分からない、なんで僕なんかに、と慌てて思考を巡らすが、その答えは彼女が手にしているものですぐに理解した。
「これ、君でしょ?」
それはさっきの手紙。
「そ、それは……」
恥ずかしさのあまり、言い訳をしようとした。
でも、バレていたのかと納得してせめて悪い印象を与えないようにアウレリウスは振舞う。
「す、すみません。迷惑、でしたよね? ごめんなさい」
「え? いや、そうじゃないの」
潔く、謝ったが彼女の反応は違った。
「え……?」
と、アウレリウスは顔を上げる。
ルフィーラは急に謝られて、戸惑いながら、口を開く。
「君は渡しただけで満足だった?」
「え……それは……」
どこか責められているように感じた。
「私は凄い興味を惹かれた。こうゆう告白の仕方をした人はいなかったから」
「な、何で僕だと?」
彼女は笑顔を絶やさずに続ける。
「ん~、魔力を辿ったから。あの空間で再度、私に告白しようとして来る人はいないから初めての人だと思ったから――」
「――そして、君がルーン魔術を熱心に勉強していたから、かな?」
「え……」
僕は驚きで硬直する。意味が分からなかった。
一人たりとも友達なんて存在しないし、影なんて薄いはずなのに学園では有名な魔法の大家の令嬢ルフィーラ・ヴァルレオンが自分の事を知っているなんて……。
「な、なんで……僕のことを……」
「そうだね、純粋に気になったからかな? 一生懸命、ルーン魔術の勉強をしていたから。逆にそれが気になって」
それもいまいちわけが分からない。
ルフィーラ・ヴァルレオンを目に見た途端、誰もが憧れ、好意を目覚めるほどの人物が何で底辺である自分を気にかけていたのか、彼女が嘘を言っているのかと疑ってしまう。
だが彼女に意地悪な感情なんて微塵も感じないのだ。
「そ、そうですか……」
「それでこの手紙の事なんだけど?」
「は、はい」
自分が好きな人、今、眼前に存在する人に贈った人に書いた手紙を見せられ、緊張で身体が震える。
更に身体が硬直する僕に一歩近づいてきた。
彼女の顔は少し赤かった。
どうしたのだろうか……そう思った時、彼女は口を開いた。
「――いいよ。付き合おうよ」
それは羽根より軽く、日光より暖かく、今まで感じた以上の優しさだった。
「え……なにを」
「この手紙の答え。私、アウレリウス君のような情熱の人が好きなの」
「ッ――――」
その瞬間、アウレリウスは生涯で一番の衝撃を受けた。
今までに感じたことのない、全身を貫かれたような感覚が長い間、身体の隅々まで電撃が走っている。
あぁ……嘘、だろ……。
強い衝撃の後、忘れていた潤いが溢れ出してきた。
「うぅ……うぅ……」
心の底からの感動、自分でも信じられない量の涙が零れる。
あのルフィーラ・ヴァルレオンを好きになり、自分の気持ちを伝えるためにルーン魔術を極めて手紙を書いた苦労が、その気持ちが報われたようだ。
「あ、え……だ、だいじょうぶ……」
「うッ……うん。だいじょうぶ……あ、あ……」
夢みたいだ。本当に、夢みたいだ。
「だから、私はアウレリウス君と付き合いたい……」
「ルフィーラさん、ありがとう……僕で良いなら」
アウレリウスはルフィーラの気持ちに、彼女が示した優しさと同じように答えた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
気になってくれた方はぜひ他の作品も目を通してくれると嬉しいです。