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四季彩

透明だった、僕らの逃避行

作者: 三枝 透華

どれかの続きみたいなものです。

 空調が効いた部屋のベッドで横になっていた。背後から浅田の寝息が聞こえてきて僕も眠気が強くなってくる。夏休み中の登校日で疲れたみたいだった。

 浅田の部屋は本の樹がそこらじゅうに生えていて床は定位置の座るスペースしかない。なので2人して横になる時は1つのベッドの両端を使うしかなかった。

 壁側に浅田が寝て、僕は落ちないようにして寝る。浅田は「もっと真ん中使って良いよ」なんて言ってるけど、一応高校生で男女なのでその誘いは乗らないでいる。浅田とは良き友人でありたい。

 背後の浅田からは爽やかさの中にねとっとした甘い匂いがした。シャンプーやボディソープは同じものを使っているのでその浅田からする匂いがより鮮明に感じられた。

 ウトウトとしていたら浅田が寝返りをして僕に近づく。そして左腕が首に巻かれた。背後からその香りが強くなる。何となく、浅田は起きていると思った。だから浅田が何か言うのを待っていた。時計の針が一周する。

「なに?」

「疲れた」

 聞き取れるくらい小さな声だった。背中に浅田が頭を押しつけてくる。

「これは?」

「どれ?」

 浅田の左手で紫陽花が揺れている。昨日より発色が落ち着いたように見える。

「いや、なんで抱きついてんの?」

 しばらく、返事が返ってこない。

「寂しいかなって思って」

 そう言ってまた寝返りをして壁際に戻る。

 その場で浅田の方に身体を向けると思ったより近かったと気がついた。浅田は僕が自分側に向いてくるのが分かっていたように右手で頭を支えて涅槃仏みたいな姿勢をしていた。

「なに?」

 今度は浅田から、楽しそうなのがちょっと隠しきれてない。言いたいことは他にあったけど、僕も誤魔化した。

「なんで、今日学校来たの?」

「え?なんでそれ聞くかな。言ったじゃん、ただの気まぐれだって」

 不登校の幼馴染はあまり本心を口にしない。

「ねぇ、名前呼んでよ」

「浅田」

「迷いないなぁ」

 冷香と呼べば今の関係が変わりそうな気がする。おそらく一気に僕が浅田側に行くことになる。それは困る。

「浅田」

「なんだよ、もういいよ」

 浅田は隠すこともなく楽しそうに笑う。微かに香る。

「出かけない?」

 浅田はうーとかあーとか言ってから起き上がりベッドに座る。

「暑いから、しばらくは外には出たくないな」

 学校の帰り道を思い出す。

「悔しいけど同感だわ」

 そう言って僕も起き上がる。

「じゃあ、なんで言ったんだよ」

 浅田の隣に、一人分の隙間を空けて座ると浅田がチラッと僕を見て勝ち誇ったように鼻を鳴らした。

「そうだな、ただの気まぐれ?」

「わたしと一緒じゃん」

 浅田は大きく伸びをして、間の隙間を詰めて座り直す。意識的に近さを感じる距離だった。

「ねぇ」

「なに?」

「いいね、こういうの」

 右肩に浅田の重みを感じる。

「君は、変わらないでいてよ」

「さぁ、どうだろ」

 少しだけ、僕も浅田に身体を預けた。浅田は「うん、そうだね」と小さく呟いた。

 そのあとは二人して何も言わない時間が流れた。そのうち浅田から寝息が聞こえてきて僕も眠くなってきた。

「冷香」

 試しに数年ぶりに言ってみる。何も変わらない。

「浅田、浅田。横になろう」

 そう言って軽く、脚を叩く。

 浅田はそのままずり落ちるようにして横になってもぞもぞと体勢を整えた。いつもより少し真ん中に寄っている気がした。

 僕は少し迷って、ほんの少し真ん中に寄って寝た。きっと真夏に冷房の効いた部屋で昼寝をするからだ。

連載設定って後から変更できないんですね。だからといって他の作品みたく未完にするのも悪いとは思うのです。君時雨と妹の出るやつは今年中にいくつか更新します。

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