242 秋です 8
ここは山の中腹にある陶芸工房です。
わたしが来たのは初めてです。
記憶にはありませんが、前世で利用していたようです。
私たちは、靴を脱いで板張りに座敷に上がりました。
座敷には、ローテーブルと囲炉裏があります。
囲炉裏の実物を見るのは初めてです。時代劇で見たことしかありません。
ローラ「日本の座敷は、床に直接座るのよね」
あ・・・
マオが土間から座敷に上がってきました。
しかし、足跡がかわいいので許します。
ローラ「マオちゃん、やるわね」
陽子さんがマオの足と床を魔法できれいにしてくれました。
陽子 「こちらを見てください。
この戸棚には、工房で作った焼き物が入っています」
ローラ「懐かしい」
戸棚の正面はガラス戸になっています。
中には、丸皿、角皿、大皿、ご飯茶碗、小鉢、湯飲み、花瓶などがあります。
蕎麦猪口がありました。いいですね。手作りの蕎麦猪口でソバを食べてみたいです。
ん? これは・・・
わたしは気になる器を手に取りました。
ローラ「ああ、それ安奈が落として、欠けてしまったのよね」
アンナ「これは確か・・・金継ぎ・・・ですよね」
陽子 「はい、金継ぎの方法も安奈様に教わりました」
ローラ「お気に入りは、割れても直して使う。
しかも割れたところは派手な金色。
日本人の考え方は面白いわ」
わたしは器を戸棚に戻しました。
陽子 「こちらは縁側になっています」
陽子さんが障子を開けました。
表には柿の木があります。
陽子 「柿の木は安奈様が植えたものです」
アンナ「やはりそうですか」
柿の木は、背景とのバランスを考えた場所にあります。
絵画を見ているようですね。
陽子 「あれは甘柿です。収穫しますか?」
アンナ「鳥や動物が食べるかもしれません。
今回はそのままにしておきます」
陽子 「わかりました」
ファームの蔵には、まだ柿がたくさんあります。独り占めは良くないと思います。
陽子 「工房の説明は以上です」
アンナ「外で見たいものがあります」
陽子 「はい」
私たちは外に出ました。マオも歩いてついてきます。
そして納屋の横に向かいます。
陽子 「そこは失敗した焼き物を捨てる穴です」
アンナ「これは図柄や色付けの参考になります」
とてもきれいです。わたしには宝物に見えます。
アンナ「他に何か見るものはありますか?」
陽子 「最後にお見せしたい場所があるので、ご案内します」
ローラ「あれね」
ローラは知っているようです。
わたしはマオをスリングに入れました。
私たちは雑草だらけの道を下って行きます。
途中に竹林がありました。
陽子 「この竹林では、春になるとたけのこが採れます」
ローラ「新鮮なたけのこは美味しいわね」
アンナ「わたしも好きです」
5分くらい歩きました。
けむり?・・・湯けむりです。
アンナ「温泉ですか?」
陽子 「はい、そうです」
着きました。
ローラ「ここいいわね」
アンナ「きれいなところですね」
陽子 「安奈様お気に入りの場所でした」
紅葉がとてもきれいです。
陽が傾いています。もうすぐ夕方です。
石材で造られた浴槽は結構広いです。
わたしはお湯に手をいれました。ちょうど良い湯加減です。
ローラ「温泉に入りましょう」
この付近に人家はなく、人もいません。
アンナ「そうですね。入りましょう」
でもその前に、浴槽の底にある枯れ葉や泥をきれいにします。
アンナ「クリーン」
私たちは服を脱いで温泉に入りました。もちろん陽子さんも一緒です。
陽子さんはオートマタですが、防水仕様なので問題ありません。
マオは・・・
私たちのことを心配そうに見ています。
ローラ「私たちは溺れたりしないから大丈夫よ」
マオ 「ミャー」
夕焼けがきれいです。
ローラ「温泉に入るのは久しぶりね。やっぱりいいわね。
最初は興味なかったけど、安奈にすすめられたら
すっかり気に入ってしまったわ」
アンナ「わたしは異世界初温泉です。感激です」
アンナ「陽子さん、工房と温泉の案内、ありがとうございます。
次回は陶芸の指導をよろしくお願いします」
陽子 「はい」
次回、ここに来るのが楽しみです。
ローラ「今日は楽しかったわ。
美味しいものもたくさん食べたわね」
アンナ「夕食、コテージで食べていきますか?」
ローラ「もちろんよ」
*
私たちはお湯から上がりました。いいお湯でした。
わたしは服を着て、マオをスリングに入れました。
ここはいいところです。気持ちのいい温泉、景色もきれいです。
わたしのお気に入りスポットがまた一つ増えました。
この温泉をツアーに利用することも考えてみましょう。
アンナ「それでは飛行島に戻ります」
アンナ「転移」